アメリカの飲食店においてセルフレジの導入が進んでいる。セルフレジ、アメリカではセルフチェックアウト(Self-Checkout)またはキオスク(Kiosk)などと呼ばれているが、アメリカの市場調査会社フォーチュン・ビジネスインサイトによると、2023年末時点で17億1000万ドル(約2565億円)規模と推定される北米全体のセルフレジ市場は、今後年率15.1%の成長率で成長を続け、2032年に180億ドル(約2兆7000億円)規模に拡大するという。拡大を続けるアメリカのセルフレジ市場と、飲食店への影響などについて考察する。

アメリカのファストフードレストランで定着しつつある「セルフレジ」

アメリカの飲食店の中でも、もっとも急速にセルフレジの普及が進んでいるのがファストフードレストランだ。世界最大のハンバーガーレストランチェーンのマクドナルドは1999年に初めてセルフレジを導入し、2015年から本格的に導入を進めている。同社はこれまでに全米1万4千店のほぼすべてにセルフレジを導入し、アメリカにおけるセルフレジ導入レストランのリーディングカンパニーとなっている。

マクドナルド以外にも、マクドナルドのライバルのバーガーキングやシェイクシャック、メキシカンファストフードチェーンのタコベルやエル・ポヨ・ロコ、サブマリンサンドのサブウェイやケンタッキー・フライド・チキンなどでもセルフレジの導入が進んでいる。

飲食店にセルフレジが導入されるに際しては、現金以外に支払手段がない社会的弱者が排除されるなどの批判もあったが、最近までにほとんどのセルフレジが現金の支払いも可能になっている。アメリカのファストフードレストランにおけるセルフレジは、「導入期」から「普及期」のフェーズに完全に移行したと見ていいだろう。

「セルフレジ」の導入により変化した「人間スタッフの仕事」

セルフレジの導入に際しては当初、「セルフレジの導入によりキャッシャーなどの人間スタッフが職を失う」という懸念も聞かれた。しかし、セルフレジの「クロスセル機能」(例えばハンバーガーを注文したお客にポテトやドリンクなどの関連商品をレコメンドする機能)やアップセル機能(例えばハンバーガーを注文したお客にプレミアムバーガーなどの高額商品をレコメンドする機能)などによりキッチンスタッフの業務量が増加し、キャッシャーなどのフロアスタッフがキッチン業務やピックアップの対応といった「より人間的な仕事」を行うようになったという。

実際にマクドナルドでは、セルフレジの利用者が操作などで困った際にアシストする「ゲストエクスペリエンス係」といった新たなポジションが用意され、人間のスタッフが仕事をこなしているという。セルフレジの導入と普及は利用者のみならず、飲食店のスタッフの働き方や仕事に対する価値観や考え方も大きく変化させつつあるようだ。

「飲食店が「セルフレジ」を導入するメリット

ところで、飲食店がセルフレジを導入するメリットは何だろうか。メリットはいくつもあるが、大きなもののひとつが「現金を扱わなくて済む」ことだ。アメリカでは、未だ多くの飲食店が現金での支払いをメインにしているが、それぞれの飲食店においては日々「相当額の現金」が取り扱われている。そうした現金を狙った盗難や横領などの犯罪のリスクは高く、飲食店経営者の悩みの種となっている。セルフレジを導入することで現金の管理を必要最低限にし、従業員などによる管理から脱却することが可能になる。

セルフレジを導入することで、スタッフの仕事の内容や価値観が変わることも大きなメリットだ。上述したように、ほぼすべての店舗にセルフレジを導入したマクドナルドでは、それまでキャッシャーの仕事をしていたスタッフの仕事の内容が変わり、仕事に対する価値観まで変わったことをお伝えした。また、「より人間的な仕事へシフトできる」とともに、「より効率的な仕事へシフト」出来るのもメリットとなる。より良い商品やサービスの開発、接客技術の向上、顧客データやPOSデータなどをベースにしたマーケティング活動の展開等々、経営効率そのものを向上させる仕事にシフトすることが可能になる。セルフレジの導入により業務が電子化されるだけでなく、より経済合理的になるのは大きなメリットだと言えるだろう。

「セルフレジ」はどこまで普及する?

上述の通り、アメリカの飲食業界においては今後、ファストフードレストランを中心にセルフレジの導入がさらに進むことは間違いない。筆者は、アメリカではファストフードレストランのほぼすべての店舗で、そしてほとんどのファミリーレストランにおいてセルフレジの導入が進み、今後五年以内にセルフレジがあるのが「当たり前の状態」になっていると予想する。

一方で、個人経営の飲食店や小規模なバーなどにおいては、セルフレジの導入はファストフードレストランのようには進まないと予想する。特に現金による支払いをメインとしている個人経営の飲食店などでは、各種の理由によりセルフレジの導入が進まないだろう。個人経営の小規模飲食店などにおいては、いきなりセルフレジが導入されるのではなく、先にお客のスマホを注文端末にして注文を受け付ける「モバイルオーダー」が先行して導入・普及が進むと予想する。

「モバイルオーダー」であればセルフレジのような一定額の設備投資が必要なく、必要最小限の投資で導入が可能だ。また、「モバイルオーダー」の導入により、人間の業務を会計対応などから接客などの「より人間らしい」業務へシフトすることも可能になり、セルフレジを導入するのとほぼ同様の効果が期待できる。

アメリカでも、ピックアップやデリバリーなどの需要拡大に応じるかたちでモバイルオーダーの導入が進んでおり、そのトレンドが今後さらに広がることが確実視されている。ファストフードレストランではセルフレジが、小規模飲食店ではモバイルオーダーが一般的になっているのがアメリカや日本の近未来像になる可能性が高いだろう。
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【参考サイト】

Technology adoption and jobs: The effects of self-service kiosks in restaurants on labor outcomes/Chungeun Yoon

McDonald’s touchscreen kiosks were feared as job killers. Instead, something surprising happened/Nathaniel Meyersohn

Self checkout boasts ‘record’ year: report/Tatiana Walk-Morris