多くの飲食店経営者にとって在庫管理は面倒で、出来ればあまりやりたくない仕事のひとつだろう。
しかし、在庫管理を適切に行うことは店の経営状況を正しく把握する上で、さらには経営効率を追求する上で必須だ。そんな中、アメリカで大手チェーンを筆頭に在庫管理をAIで行い、大きなメリットを享受するケースが出始めている。アメリカの飲食店におけるAIによる在庫管理システムの最新事例を中心に現況をご紹介する。
飲食店にとって面倒な「在庫管理」

飲食店の経営においてやっかいな仕事はいくつも存在するが、在庫管理がその中に含まれることに異を唱える人は少ないだろう。
業態や形態によって多少の違いはあるが、在庫管理はやっかいな仕事である一方、経営実態を正確に把握するために、さらに経営効率を追求するために必要不可欠なタスクである。一般的には、人間のスタッフが目視で棚卸を行い、帳簿上のデータと照合して記録するなどしてきた。
ところが、最近はこの面倒な在庫管理をAIにやらせ、人間を現場から解放する機運が高まっているという。
スターバックスが導入したAI在庫管理システム
ところで、一般的なAIによる在庫管理システムが提供する機能として、主に「需要予測」「自動発注」「画像認識による棚卸」「廃棄ロス削減」などが挙げられる。
多くのケースではそれらの機能をマルチで提供しており、人間の熟練在庫管理者を超越するパフォーマンスを提供している。
大手コーヒーチェーンのスターバックスコーヒーが昨年から導入を始めたAI在庫管理システムは、そのシンボリックな一例と言えるだろう。
スタートアップ企業のノマドGO社と開発したシステムは、コンピュータービジョン、3D空間認識インテリジェンス、AR技術などで構成されるAIシステムだ。タブレット端末から棚の商品や食材をスキャンしてカウントし、リアルタイムで棚卸を行う。在庫状況が常にアップデートされているので、欠品の可能性などが生じるとアラートして発注を促す。
スターバックスコーヒーによると、これまで人間の手で数時間かけて行っていた作業が、わずか数分で終わるまでに短縮されたという。
参考:Starbucks Coffee YouTube公式チャンネル
人間のスタッフが紙の「在庫チェック表」をプリントアウトして棚の在庫を目視でカウントして数量を記入、それを在庫管理システムにパソコンから手入力していたことを考えると雲泥の差だ。
欠品防止など在庫適正化のメリットを享受
スターバックスコーヒーのチーフ・テクノロジー・オフィサーのデブ・ホール・ルフィーヴァ氏は、自らのブログに次の様に投稿している。
「これまでにこのイノベーションを1,000店以上のお店に導入しましたが、そのインパクトは明確です。在庫の棚卸はこれまでの8倍以上の頻度で行われるようになり、在庫状況をリアルタイムで把握できるようにもなり、在庫の出し入れもこれまで以上に迅速かつ正確に行われるようになりました」

AI在庫管理システムの導入により「需要予測」の精度が上がった結果、定常的に発生していた一部商品の欠品を、かなりの程度にまで低減することができたという。
さらに、目視による棚卸カウントとパソコンへの手入力で忙殺されていた人間のスタッフが解放されたことで、これまで以上に丁寧な接客が可能になるなどの副次的なメリットも享受できているようだ。
関連記事:在庫管理とは何か?基本から適正在庫までを解説|在庫管理110番
AI在庫管理システムが向いている店舗とは?
ところで、一般的に飲食店がAI在庫管理システム導入を検討するに際し、AI管理システムが向いている店舗はどのような店舗だろうか。
まず挙げられるのは、比較的欠品が生じやすい業態の店舗だ。
具体的には、QSRなどのファストフードレストランが挙げられる。特に販売アイテム数が少なく、需給バランスによって頻繁に欠品が生じているといった店舗の場合、AI在庫管理システム導入による欠品防止のメリットは非常に大きい。特に「需要予測」機能が強いAI在庫管理システムを導入することで、AIが販売予測を行って在庫水準を最適化してくれる。欠品が売上に大きな影響を与えるケースでは非常に重要なテーマだろう。

また、比較的消費期限が短いメニューアイテムを扱う店舗でも導入のメリットは大きい。
ベーカリーや菓子店、寿司店などが例として挙げられるが、在庫の一定量が廃棄ロスの可能性にさらされていて、実際に廃棄ロスにより経営に少なからぬ影響を受ける業態だ。AI在庫管理システムを導入して廃棄ロスの発生を最小化し、経営効率を向上させることが期待できる。
また、AIによる「需要予測」の機能とセットで運用することにより、売上と利益の最適化を実現することが期待できる。

ほかにも、複数店舗を運営しているケース、仕入の価格が大きく変動するケース、在庫管理の対象アイテム数が相応に多いケースなども、AI在庫管理システムが向いている店舗であると言えるだろう。
日本での展開は?
日本においても飲食店のAI在庫管理システム導入の機運は高まりつつある。
ロイヤルホールディングスは、「ロイヤルホスト」と「天丼てんや」の326店舗に飲食店向けシステム「HANZO自動発注」を導入、運用を開始している。「HANZO自動発注」は、AIが食材などを自動発注して最適在庫水準を確保、過剰在庫や廃棄ロスの削減を実現するシステムだ。
日本の飲食店の現場においては、AI在庫管理システムは上述のスターバックスコーヒーのケースのように、外資ファストフードレストランなどから徐々に導入が進み、他業態の飲食店へペネトレート(浸透)してゆくと予想する。現段階では、普及に向けた種が発芽した段階に過ぎないが、いずれ成長の速度を速めて一定の水準まで段階的に普及が進むと予想する。

飲食店専門人材サイト運営の飲食店ドットコムが実施した調査によると、2023年時点の日本の飲食店におけるPOSシステム普及率は44%となっている。AI在庫管理システムの普及率も、相応の時間はかかるものの、将来的にはそれに近い水準に達する可能性があると考える。
なお、POSシステムの導入に際しては、本ブログを主宰している株式会社フォウカスの「poscube」を第一に検討されることをおすすめしたい。
参考データ・出典
- Restaurant Business:スターバックスのAI在庫管理導入に関する報道
https://www.restaurantbusinessonline.com/technology/starbucks-managers-can-now-count-inventory-using-ai - FoodChain Magazine:ファストフード業界におけるAI活用
https://foodchainmagazine.com/fast-food-chains-leverage-ai-to-reduce-waste-and-boost-profits/
- Nomad Go:在庫管理AI
https://www.nomad-go.com/
- ZDNET Japan:飲食店向けサービス「HANZO 自動発注」
https://japan.zdnet.com/article/35230161/
- 飲食店ドットコム:飲食店におけるPOSレジ利用率
https://www.inshokuten.com/foodist/article/7128/
大学卒業後渡米し、ロサンゼルスで飲食ビジネスを立ち上げる。帰国後複数の企業の起業や経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。新規事業立上げ、マーケティング、アメリカ市場進出のコンサルティングを行っている。米国のベストセラー『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。




