サントリーの「山崎」「響」、ニッカウヰスキーの「竹鶴」などが代表するジャパニーズウイスキーが世界的に人気だ。
今年2026年6月に著名オークションハウスの香港ボナムズで開催されたオークションで、サントリーの「山崎50年」が市場最高値となる105万ドル(約1億6590万円)の高値を付け、関係者の話題と注目を集めた。
ジャパニーズウイスキーの人気の理由は何か、飲食店はそれから何を学べるのか、考察してみた。
世界的な人気を博すジャパニーズウイスキー
香港ボナムズで105万ドルの値を付けたサントリーの「山崎50年」は、2005年、2007年、2011年に、合わせて250本のみ限定リリースされた超プレミアムウイスキーだ。販売価格は1本100万円だが、転売などの二次流通市場での実勢価格は7000万円以上となっている。
「山崎50年」は、世界中で250本しか流通していないレアウイスキーであり、投資・転売目的で入手しようとする人が後を絶たない特異なアイテムだが、それほどレアでないジャパニーズウイスキーについても、相応のプレミアム価格で取引されている。
例えば、「山崎25年」4000ドル(約63万2000円)、「響30年」5000ドル(約79万円)といった感じだ。

出典:日刊工業新聞「山崎50年」
ジャパニーズウイスキーは、インバンド客にとっても日本で買いたいお土産のひとつとなっている。
インバウンド客が多く利用するディスカウント店ドン・キホーテは、2025年でもっともヒットした商品としてサントリーの「角瓶」を選出した。インバウンド客が日本のお土産として買うケースが激増している状況を表わした結果だ。
ジャパニーズウイスキー人気の理由
そんなジャパニーズウイスキーだが、人気の理由は何だろうか。
第一に挙げるべきは言うまでもなくクオリティの高さだ。
特に専門家の多くが指摘するのが原酒造りとブレンド技術の高さだ。特にブレンド技術の高さは定評で、日本人ブレンダーが持つバランス感と味わいのチューニングの絶妙さが各国の専門家から高い評価を得ている。
またスコットランドの蒸留所のほとんどが互いに原酒を融通し合ってブレンドしているのに対し、日本の蒸留所は内製された原酒だけを使ってブレンドし、独特のテイストハーモニーを実現している。
原酒造りの技術も高く評価されている。
日本の蒸留所の多くは日本の軟水を使い、日本固有のミズナラの樽で熟成させるなどして独自の香りとフレーバーを生み出している。特に日本の軟水はまろやかで、本場スコットランドウイスキーのスモーキーフレーバーとは一線を画す独特の「繊細な味」を生み出している。
日本の主な蒸留所が良質な水源のそばに建設されていることは単なる偶然ではない。

出典:嘉之助蒸溜所
「こだわり」がジャパニーズウイスキーの神髄
とどのつまり、「こだわり」がジャパニーズウイスキーの神髄であることには間違いはあるまい。
原酒へのこだわり、水へのこだわり、蒸留カットのこだわり、カスクマネジメントのこだわり、ブレンドのこだわり。ウイスキーづくりの最初から最後まで一貫して貫かれている各部の「こだわり」が、最終製品としてのジャパニーズウイスキーの超絶的なハイクオリティをつくり上げている。
ジャパニーズウイスキーの父とされるニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝とその妻リタの生涯は、過去にNHKの朝の連続テレビ小説「マッサン」でも取り上げられた。番組の中で主人公は、「本物のウイスキーづくり」を目指す、ストイックで一途な醸造技術者として描かれていた。

出典:The Whisky Exchange – 竹鶴政孝・リタ
細部にこだわり真摯に品質を追求する姿勢は、その後のニッカウヰスキーのみならず、日本の多くの蒸留所に受け継がれている。現在のジャパニーズウイスキー人気は、そうした先人達が残した相続財産とすべき部分が大きいだろう。
飲食店にも求められる「こだわり」
では、ジャパニーズウイスキー人気から飲食店は何を学べるだろうか。
それはやはり「こだわり」の追及だ。
日本人は伝統的にこだわりを求める民族だ。飲食店に対しても、「食材へのこだわり」「調理法のこだわり」「メニューのこだわり」「専門性へのこだわり」「コンセプトのこだわり」「サービスのこだわり」等々、様々なこだわりを意識的・無意識的に求めている。
それらが顧客に伝わって、はじめて店の強みとして十分に機能する。
飲食店は、そうしたお客の期待に応えるのみならず、それを超越するようなこだわりを自ら追求してゆく必要がある。
そして、徹底的にこだわらねばならない。徹底的にこだわり続けることで、お店のプレミアムが形成されてゆく。ジャパニーズウイスキーが各部にこだわり、時間をかけてプレミアムを形成していったように。

ジャパニーズウイスキーが、原酒、熟成、ブレンド、水、樽といった背景まで含めて価値を形成しているように、飲食店も自店のこだわりを「伝わる言葉」に変えていく必要がある。
飲食店がこだわりを価値として伝えるためには、まずメニューや接客での表現を見直したい。
第一に、メニューには「何を使っているか」だけでなく、「なぜそれを使っているのか」を書くことが大切だ。
産地、旬、調理法、仕込みの手間などを短く添えるだけでも、顧客の受け取り方は変わる。
第二に、スタッフが短く説明できる言葉に落とし込むことも重要である。
どれほど店主が強いこだわりを持っていても、現場のスタッフが説明できなければ、顧客には伝わらない。
「この料理は仕込みに2日かけています」「この食材は今の時期だけ味が濃くなります」といった一言が、注文の後押しになる。
第三に、高単価メニューほど価格の理由を見える化する必要がある。
希少な食材を使っているのか、仕入れに手間がかかるのか、熟成や仕込みに時間がかかるのか。
価格の背景が伝われば、顧客は単に「高い」と感じるのではなく、「一度食べてみたい」と受け止めやすくなる。

こだわりを持つことと、こだわりが伝わることは別である。
飲食店に求められるのは、その差を埋める工夫だ。こだわりは、店側の自己満足で終わらせるのではなく、顧客にとっての注文理由、再来店理由になるように表現していくことが重要だ。
インバウンド客も求めている飲食店の「こだわり」
増加を続けるインバウンド客も、日本の飲食店に「こだわり」を求めている。
日本という異国での食体験はそれ自体が強烈な文化体験となり、旅行の貴重な思い出になる。今日のインバウンド客は従来型の寿司や天ぷらと言ったステレオタイプの和食のカテゴリーを超越して、それぞれの「こだわり」を求めて店を選んでいる。

筆者のあるアメリカ人の友人は、これまでに10回以上来日した親日インバウンド客だ。
初めて来日した10数年前に利用していた飲食店と、来日10回目を迎えての利用する飲食店とでは大きな違いがある。当然ながら、10回の来日を数えての飲食店選びの方が要求する「こだわり」が数多く、そして深い。
直近で一緒に食事した際の彼の希望は「下関産の天然トラフグの白子」だった。日本のフグ料理に興味を持った彼の関心は、今や「トラフグの卵巣のぬか漬け」にも及んでいる。
日本のインバウンド客の多くはリピーターであるとされているが、そうしたリピーターが飲食店に求めるこだわりは斯様に徹底している。
彼らを迎い入れる飲食店の側も、相応にその期待に応える必要がある。何らかのこだわりを追求し、それを愚直に継続してゆく。ジャパンプレミアムのレベルが上昇を続ける中、選ばれる飲食店になるにはそうした努力が求められている。
インバウンド対応というと、多言語化や決済対応に目が向きがちだが、それだけでは不十分である。
料理の価値を外国語でも伝えられる状態をつくることが、客単価や満足度の向上につながる。


参考データ・出典
- The Whisky Exchange – World of Fine Spirits:日本のウイスキーガイド:歴史、人気ブランド、スタイル
https://www.thewhiskyexchange.com/inspiration/article/17606/japanese-whisky-history-distilleries-the-whisky-exchange - The Whiskey Reserve:日本のウイスキーの歴史
https://thewhiskeyreserve.com/blogs/the-whiskey-reserve-blog/the-history-of-japanese-whiskey?srsltid=AfmBOorvJA-YzdYFOVuHKaNu5Uxw4UIo2g0pEDdy4HMDKEE898K6Rvqd - 日本経済新聞:ドンキ、売れ筋大賞にウイスキー「角瓶」 訪日客が購入
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0851N0Y5A400C2000000/
大学卒業後渡米し、ロサンゼルスで飲食ビジネスを立ち上げる。帰国後複数の企業の起業や経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。新規事業立上げ、マーケティング、アメリカ市場進出のコンサルティングを行っている。米国のベストセラー『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。


