旅行先で「その土地ならではの料理を食べたい」と考える人は少なくありません。近年は、地域の食文化そのものを旅の目的にする「ガストロノミーツーリズム」への注目も高まっています。
観光庁では、地域の食材や気候風土、歴史、文化などから生まれた食を楽しむ「ガストロノミーツーリズム」を推進しており、2026年には実践ガイドも公開しています。また、2025年の日本人国内旅行消費額は26兆7,845億円と過去最高を更新しました。訪日外国人旅行消費額も9兆4,549億円に達し、そのうち飲食費は21.9%を占めています。(国土交通省観光庁)
こうした中、飲食店にとって「ご当地料理」は、地域の魅力を伝えながら他店との差別化につなげられるテーマのひとつです。
ただし、ご当地料理は、その地域で提供する場合と、別の地域で提供する場合とで売り方が変わります。本記事では、ご当地料理・郷土料理を集客につなげる方法を、「ご当地」と「ご当地以外」の2つに分けて解説します。
ご当地料理とは郷土料理?ご当地グルメ?
ご当地料理と聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。
郷土料理をイメージする人もいれば、最近になって流行りだしたご当地グルメをイメージする人もいるでしょう。
今回のテーマではこれらを明確に分けるものではありませんが、一般的に、郷土料理は特定の地域に伝統的に伝わるもので、風土に根ざした調理法や食材を使用するもの。またご当地グルメは近年になって、例えばB級グルメなどとして注目を集めたことをきっかけに、特定の地域に定着したものを指します。
農林水産省の「うちの郷土料理」では、郷土料理について、地域で入手できる食材を使い、歴史・文化・風習や気候・風土を背景に、家庭や地域で作られ継承されてきた料理を中心に選定しています。現在、47都道府県の郷土料理1,365種類がデータベース化されています。
ご当地料理のメニュー化を考える際には、こうした公的データベースを参考に、料理の背景や歴史まで確認しておくとよいでしょう。
なお、「郷土料理」と「ご当地グルメ」には明確に線引きできないものもあります。長く地域で食べられ、郷土料理として紹介されている一方で、観光や地域振興を通じて「ご当地グルメ」として広く知られるようになった料理もあります。以下は、それぞれの特徴をイメージしやすくするための代表例です。
郷土料理
秋田県 きりたんぽ
山形県 芋煮
茨城県 そぼろ納豆
長野県 おやき
和歌山県 めはりずし
兵庫県 ぼっかけ(すじこん)
香川県 讃岐うどん
広島県 牡蠣の土手鍋
宮崎県 冷や汁
鹿児島県 さつま汁
ご当地グルメ
北海道 スープカレー
新潟県 イタリアン
静岡県 静岡おでん
愛知県 あんかけスパゲッティ
広島県 尾道ラーメン
宮崎県 チキン南蛮
長崎県 佐世保バーガー
ここに書いたのは極一部。日本全国には実に様々なものがあります。
他にも、同じ名前でありながら、内容が違うものもあります。例えば、お正月に食べる雑煮。基本的に関東は角餅(切り餅)、関西は丸餅を使用します。
味付けにも違いがあり、東日本は醤油ベースのすまし汁、西日本は味噌ベースが多いようです。
具材も様々で、その理由は冬場に各地域で用意できる食材を使用したからです。意外な例では、宮城県の焼きハゼ、広島県の牡蠣、新潟県のいくらや鮭、長崎県のブリなど、海の幸を使用する地域があること。餅も香川県ではあんこ餅を入れるなど、まさに郷土の味というわけです。
ご当地料理をその地域で提供するコツ
では、ご当地料理を飲食店で売る場合、どのようにすればよいのでしょうか。当然ながら、ご当地で売る場合と、それ以外の地域で売る場合で、まったく違った施策が必要となります。
まずは、ご当地料理をご当地で売るケースから考えます。
ご当地料理は、他の地域から見れば珍しくても、その地域に行くと同じ料理を提供する店舗が多くあり、お客としてはどのお店を選べば美味しいものが食べられるのかが分かりません。
例えば、「仙台に行って牛タンを食べたい」と現地に行くと、
専門店がたくさんあり、迷ってしまうというのが観光客の本音でしょう。
では、自分の店舗が選ばれるためには、どうしたらよいのでしょうか。
美味しい商品を出すことは当然ですが、それだけでは集客にはつながりにくいものです。
お客に知ってもらうには3つのポイントがあります。
1. 地域の観光マップや雑誌など印刷物に載せてもらう
2. インターネットを活用する
3. 個性があり、入りやすい店舗を作る
順番に見ていきましょう。
地域の観光マップや雑誌など印刷物に乗せてもらう
地方を紹介する全国区の雑誌もありますが、ここに掲載されるには運か、多額のお金が必要になるので、あまりおすすめはしていません。
一方、多くの地域で観光協会などが「観光マップ」を用意しています。これは地域振興の目的で作成されるもので、その中に飲食店紹介も載っていることが多くなります。観光協会や自治体が発行する観光マップ、地域の飲食店ガイドなどに掲載されれば、観光客に店舗を知ってもらう接点を増やせます。
特に、ご当地料理を目的に訪れる人にとっては、「どこで食べられるのか」が分かる情報が重要です。掲載の可否や費用、配布場所などは地域によって異なるため、地元の観光協会や商工会などに確認してみるとよいでしょう。
これらの印刷物を参考にするのは、年齢が高い層が多いと言われています。有名な観光地を効果的に回りながら、美味しいものを食べたい。この欲求を表したのが観光マップというわけです。
地域によりますが、このマップに有料広告を掲載することで、地図上に乗せてもらえたり、大きく表示してもらえたりするケースがあります。もちろん費用対効果は十分に考慮しなければなりませんが、一考の価値はあります。
また、自分で紹介マップを作ってしまうという方法もあります。筆者の知り合いは、「できるだけ安く効果的な宣伝をしたい」と考え、自分で賛同者を集め、近隣情報に特化した観光マップを作りました。
アイデアはいろいろあるはずです。一見さんの「どの店に入ったらいいのかわからない」を解消するためには、まずは露出することが大切なことを考えてください。
Web検索・AI検索で「ご当地料理+地域名」に見つけてもらう

観光客は、旅行前だけでなく現地に到着してからスマートフォンで飲食店を探します。近年はGoogle検索やGoogleマップ、グルメサイト、SNSだけでなく、AI検索を使って「この地域でおすすめの郷土料理は?」「近くで牛タンが食べられる店は?」と探すケースも増えています。
そのため、自社サイトだけでなく、Googleマップやグルメサイト、SNSなど複数の場所で店舗情報を確認できる状態にしておくことが重要です。
特にご当地料理の場合は、
「仙台 牛タン」
「香川 讃岐うどん」
「沖縄 郷土料理」
のように、地域名と料理名を組み合わせて探されることを意識した情報発信が必要になります。
さらにAI検索では、単にキーワードを入れておくだけでなく、どんな料理を提供している店なのか、どの地域の料理なのか、価格帯、営業時間、予約方法、どんな人に向いている店なのかといった情報が分かりやすく整理されていることも重要です。自社サイトやGoogleビジネスプロフィール、グルメサイトなどで情報が一致していれば、検索エンジンだけでなくAIにも店舗の特徴を理解してもらいやすくなります。料理写真やメニュー説明、店舗情報はできるだけ最新の状態に保ちましょう。
また、訪日外国人旅行者の利用を想定する店舗では、多言語メニューや料理写真を用意しておくことも有効です。2025年の訪日外国人旅行者数は4,268万人となり、過去最高を更新しています。
今後は「検索結果の上位に表示されること」だけでなく、AIに店舗の特徴を正しく理解してもらい、候補のひとつとして紹介されやすい情報設計も意識しておきたいところです。
関連記事:SNS活用できていない飲食店が知っておくべき10のコツ/飲食店でのインバウンドの対策
個性があり、入りやすい店舗を作る
観光客は計画的にどの店に行くかを決めず、「その地域に行って気に入った店を利用しよう」と考えている人も多くいます。
このようなお客を取り込むには、店舗の雰囲気づくりが最重要です。
コストをかけて、絢爛豪華な店が必ずしも求められるわけではありません。清潔感はもちろんですが、そのメニューと店の雰囲気があっていることが重要で、入りやすい雰囲気も大切です。
また、店頭にメニューブックを置くなど、コスト感がつかめると安心して利用してもらえます。
さらに言えば、店舗で働く従業員の接客態度も重要なポイント。旅行中に再び訪れたいと思ってもらえるからです。
筆者の例を紹介します。仙台に行ったとき、繁華街から少し離れた牛タン専門店に入りました。最初に接客してくれた女性従業員のほっこりとした雰囲気が気に入り、料理も美味しかったために翌日の夜も訪れ、最終日の昼にランチを食べに行きました。さらには合計5万円分のお土産を各所に発送してもらったことがあります。
地域ならではの言葉遣いで心和ませてくれる接客は、それだけで感動を与えられます。
ご当地以外でご当地メニューを出すコツ
次に、ご当地料理を別の地域で提供する方法です。実は、これがご当地以上に売れる店になることもあります。
例えば、誰もが知ってる「たこ焼き」。
筆者は関西出身なので、至る所でたこ焼きを買っていました。もちろんスーパーのフードコートでもたこ焼き屋は必ずあります。
しかし5年ほど前に帰省したとき、近所のスーパーのフードコートに行って驚きました。「銀だこ」があったのです。これまでご当地のたこ焼き屋さんがあった場所に・・・。
銀だこの正式名称は「築地銀だこ」。1997年に群馬県のスーパー内のテナントとして創業し、翌年東京に進出。東京では あっという間に、「たこ焼きといえば銀だこ」となり、今や関西にも進出するほどになりました。
ここにはご当地メニューゆえに、現地では個人店レベルで味を競い合い、チェーン店化しないという背景があります。
これは、丸亀製麺も同じ理屈です。丸亀市は讃岐うどんの本場、香川県にあります。しかし、丸亀製麺は兵庫県加古川市が一号店であり、今でも丸亀市には出店していません。創業者が丸亀市出身というわけでもありません。
もちろん、出店地域だけが成長の理由ではありませんが、ご当地料理を本場以外の地域へ持ち込み、広い市場に展開した代表例のひとつとして見ることはできるでしょう。
では、ご当地以外の場でご当地メニューを出し、成功するコツは何でしょうか。ここでも3つにまとめてみました。
1. 味を知り、極める
2. 独自のアレンジを加える
3. 料理と合致する店作り
味を知り、極める
ご当地メニューとして出すわけですから、ご当地で出している味、食材の特徴、その料理を作った文化などを正しく理解する必要があります。
「ご当地ではこのような食材を使っているんですよ」
「この料理の始まりは江戸時代で・・・」
などのうんちく話は、料理の深みとして歓迎されます。
また、食材は現地のものを使った方が、味が増すことが多くあります。現地の漁港に水揚げされる鮮魚を仕入れたいからと、毎日何時間もかけて現地に行く人がいます。それが無理でも、現地の漁師と組んで、毎日配送してもらっている飲食店もあります。
やり方はいろいろあります。ご当地の味をできる限り再現できるよう、工夫を考えてみてください。
ご当地料理は、味だけでなく、その土地の気候や食材、歴史、文化と結びついていることも少なくありません。農林水産省でも、郷土料理について、料理のレシピだけでなく「いわれ・歴史」や地域の背景まで紹介しています。
メニューとして取り入れる際には、料理名だけを借りるのではなく、こうした背景まで理解しておくことで、お客に料理の魅力を説明しやすくなります。
独自のアレンジを加える
味を加えることが重要な場合もあります。
中には、「現地の味は個性的すぎるからアレンジするので、本場の味は知らなくても平気」と考える人がいますが、それは土台をしっかりしていないところに家を建てるようなもの。
アレンジを加えるにしても、まずはベースをしっかりと知ったうえで、正しいアレンジを加えてください。
またアレンジをするならば、 販売する地域にあった味付けに寄せることがヒットのコツかもしれません。例えば、東北では醤油の味が濃かったり、関西では出汁の味が好まれたり。それぞれの地域には、それぞれが慣れ親しんだ味わいがあります。それに合わせるのもおもしろいものです。
料理と合致する店作り
店舗の内外装や雰囲気作りは、ご当地をイメージできることが基本です。もちろん、その料理を出していることを分かりやすく伝える必要があります。なぜなら、それが一番の差別化になるからです。
ここでも例を挙げます。
以前、沖縄料理を出す店舗をサポートさせていただいたことがあります。その店舗はショッピングモールの最上階にある飲食店街に出店していたのですが、ターゲット客にあわせ、オシャレな雰囲気の店舗づくりをしていました。店主の話では、「沖縄のリゾートホテルをイメージした」との話でした。
しかし、客足は今ひとつ。そこでリニューアルすることになります。
観察していると、多くのお客が店頭に置かれたショーケースを見て、「沖縄料理の店なんだ」と言い、去っていました。つまり沖縄料理を出す店に見えなかったのです。
そこで、沖縄っぽさを出すために内装を変更。費用はあまりかけられなかったので、沖縄の古民家をイメージできるよう、シーサーの大きめのオブジェを店頭に設置し、店内と店頭の壁の一角に赤瓦を置きました。また、ショーケースにもイメージしやすいように変更しました。
料理は沖縄出身の料理長が担当していたので味は文句なし。ただオシャレなイメージを追求しすぎていたので、少し庶民的な雰囲気に修正してもらいました。
その結果、売り上げは前年対比で120%以上を約2年に渡ってキープし、その後も安定した経営を継続しました。残念ながらコロナ禍で、ショッピングモール全体が苦戦することとなりテナントを撤退しましたが、新しい店舗は一層、沖縄の古民家をイメージできるようにして、経営は順調のようです。
※筆者が支援した店舗の事例
もちろん、斬新な雰囲気の店舗は絶対にうまくいかないとは言いませんが、かなり難しいと考えた方がよいでしょう。
ご当地メニューは「売れ筋」をデータで確認する

ご当地料理を別の地域で販売した場合、本場で人気の料理がそのまま売れ筋になるとは限りません。
そこで重要なのが、実際の販売データを確認することです。
POSレジなどを使えば、「どの商品が何食売れたか」だけでなく、商品別や時間帯別などで売上を確認できます。感覚だけで「この料理が人気のはず」と判断するのではなく、実際の数字を見ながらメニュー構成を調整する方がよいでしょう。
特にご当地メニューは、季節や観光シーズンによって売れ方が変わる可能性があります。一定期間ごとにデータを確認し、継続する商品、伸ばしたい商品、見直す商品を判断していくことが大切です。
メニューごとの売上を分析する方法については、「飲食店経営者のためのABC分析の基本」でも詳しく解説しています。
まとめ
ご当地料理を飲食店の集客に活かす場合、大切なのは「その料理を出せばお客が来る」と考えないことです。
本場で提供するなら、同じ料理を扱う店の中から選んでもらうための情報発信や店づくりが必要です。一方、本場以外で提供するなら、料理の背景や本来の味を理解したうえで、その地域のお客にどう受け入れてもらうかを考える必要があります。
また、どちらの場合も、実際に何が売れているのかを数字で確認することが欠かせません。
ご当地料理が持つ歴史や地域性をきちんと伝えながら、店頭、Web、接客、メニューを通じてその魅力を分かりやすく届ける。そこに販売データを組み合わせて改善していくことで、ご当地料理を一時的な話題ではなく、店舗の強みに育てていけるでしょう。
参考:FAQ
Q. ご当地料理と郷土料理の違いは何ですか?
A. 郷土料理は、地域の食材や気候、歴史、文化などを背景に受け継がれてきた料理を指します。ご当地料理・ご当地グルメは、より広く地域を代表する料理として使われることがあります。農林水産省では47都道府県の郷土料理をデータベース化しています。
Q. ご当地料理は飲食店の集客に活用できますか?
A. 活用できます。ただし、本場では競合との差別化、本場以外では料理の背景や味を伝える工夫が必要です。
Q. 観光客にご当地料理を知ってもらうにはどうすればいいですか?
A. Googleマップや自社サイト、グルメサイト、SNS、観光マップなど複数の接点で、料理名、写真、価格、営業時間などを分かりやすく発信することが重要です。
Q. ご当地料理は本場の味をそのまま再現した方がいいですか?
A. 必ずしもそのままである必要はありませんが、まず料理の由来や本来の味、食材などを理解したうえでアレンジすることが大切です。
Q. ご当地メニューの売れ筋はどう確認すればいいですか?
A. POSレジなどを使い、商品別や時間帯別の売上を確認する方法があります。ABC分析などを使えば、売れ筋商品と見直すべき商品を整理しやすくなります。
出典・参考データ
農林水産省「うちの郷土料理~次世代に伝えたい大切な味~」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/
農林水産省「うちの郷土料理 SEARCH&MENU」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/
観光庁「旅行・観光消費動向調査 2025年年間値」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics02_00028.html
観光庁「ガストロノミーツーリズムの推進」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/inbound_kaifuku/shohikakudai/shokuzai/gastronomy.html
