トランプ政権による不法移民取締強化によりアメリカの飲食業界が大きなダメージを受けている。
ワシントンポストの報道によると、アメリカの飲食店の半数以上がキッチンスタッフへの応募件数が激減したと訴えており、実際に多くの店が深刻な人材不足に直面している。アメリカの飲食店の人材不足は現場にどのような影響を与えているのか。
最近外国人の就業制限が課せられた日本の現状と照らし合わせて現状をお伝えする。
不法移民取締厳格化による影響を受けるアメリカ飲食業界
アメリカの飲食業界がトランプ政権による不法移民取締強化による大きな影響を受けている。

多くの移民が暮らすアメリカ最大都市ニューヨーク市でも、飲食店から移民労働者がいなくなるケースが続出している。
地元紙Documentedの報道によると、不法移民取締が強化され始めた昨年2025年3月から今日までに、4,800人の移民労働者がニューヨーク市から「姿を消した」という。
ニューヨークタイムズによると、2024年12月から2025年12月までの一年間で飲食業を含むホスピタリティ業界全体で9万8000人の労働力が失われた。
その大半は不法移民であると見られており、取締の厳格化が続くと予想される今後、当面は状況が反転しない可能性が高い。
アメリカの飲食業界を支えてきた移民労働者
アメリカの飲食業界は伝統的に移民労働者に支えられ、現在もなお支えられている。
特に就労ビザを持たない不法移民に支えられてきたのが実情だ。不法移民は、飲食業の仕事の中でも汚れ仕事とされる皿洗いやバスボーイ(お客が食べ終わった料理の食器を片付けるスタッフ)などを率先して引き受け、低賃金に甘んじながら縁の下の力持ちとして存在してきた。

皿洗いもバスボーイも、フロアの最前線で働くウェイターやウェイトレスのように客からチップを受け取ることもなく、最低賃金だけを受け取って生活の資としてきた。
飲食店にとって不法移民は汚れ仕事を安く引き受けてくれる貴重な労働力であり、無くてはならない存在となっていた。それが、時の政権によって取締が厳格化され、そのポジションから追われている。飲食店にとっても不法移民にとっても、「Lose-loseのシチュエーション」を迎えているのだ。
サービスは低下、メニュー価格は上昇
不法移民を含む移民労働者の減少は、直接飲食店の経営に影響を与えている。まず、これまで不法移民が担ってきた皿洗いやバスボーイなどのスタッフがいなくなった多くの店でアメリカ人または合法市民による代替が進まず、欠員が生じるケースが増えている。また、補充するために賃上げをする飲食店も少なくなく、労働コストの上昇に見舞われている。
労働コストの上昇は、そのままメニュー価格の上昇へ直結する。

大手メキシカンレストランチェーンのチポトレ・メキシカングリル(Chipotle Mexican grill)は、労働力不足とそれに伴う賃金上昇などの影響により、カリフォルニア州内の全店舗のメニュー価格を6%程度値上げせざるを得なくなった。
全米で1,900店舗を運営するブレックファストレストランチェーンのワッフルハウス(Waffle House)も、労働力不足と賃金上昇の理由に加え、持続的な卵価格の上昇などによりメニュー価格を値上げしたが、値上率は前年比で42%に達したという。
ユタ州ソルトレークシティ市を対象にしたある調査によると、市内のハンバーガー店のメニュー価格の直近平均値上率は72%に、ドーナッツ店は65%に、それぞれ達したと言う。
メニュー価格の上昇はアメリカ人の国民食にも及んでおり、問題は業界を越えてアメリカ社会全体へと広がりつつある。
AIやロボットの導入を急ぐ飲食店も
深刻な労働力不足に対応するため、AIやロボットの導入を急ぐ飲食店も出てきている。
上述のチポトレ・メキシカングリルは、各種の料理に使うアボカドの加工ロボット「オートカド」(Autocado)と、トルティーヤチップ製造ロボット「チッピー」(Chippy)を試験的に導入し、複数店舗へ投入している。

出典:「オートカド」Chipotle Mexican Grill, Inc.
カジュアルレストランチェーンのスイートグリーン(Sweet Green)も自動サラダアセンブリロボット「インフィニット・キッチン」(Infinite Kitchen)を導入し、パイロット運用を開始している。
AIやロボットの導入は主に大手レストランチェーンなどにおいて進んでいるが、個人経営などの小規模飲食店では状況がかなり異なっている。特にロボットの導入は全くと言っていいほど進んでいない。
多くのアメリカの小規模飲食店では、直近の人手不足の影響を受けているものの、具体的な対応策を必ずしも打ち出せてなく、現状に甘んじているか、営業時間の縮小やメニューアイテムのスクラップといった現実的な対応をしているに過ぎないようだ。
日本の現状は?
ところで、日本の現状はどうだろうか。
日本でも今年2026年に外国人在留資格の特定技能1号が上限5万人に達する見込みとなり、2026年4月13日以降の新規受け入れが停止された。これによる飲食店への影響は大きく、ただでさえ人材不足に苦しんでいる飲食業界を、さらに苦しい状況に陥らせる可能性が高いとされている。

特定技能1号で働く外国人の多くは即戦力であり、欠員が続くと直ちに飲食店の経営に悪影響が出る。そして、アメリカと同様に、欠員が常態化すると賃金コストが上昇し、ひいてはメニュー価格の上昇を招くことになる可能性が高い。
当座の対応策として、特定技能1号ではなく特定技能2号で採用するか、または特定技能1号で雇用している外国人を特定技能2号へ移行させることなどが検討されている。しかし、特定技能2号の対象者はマネージャーなどの管理職であり、現場の最前線スタッフではない。また、認定のハードルも相応に高く、結果的に採用コストや教育コストも高くつくという声も少なからず聞かれる。
日本も、現在アメリカで進行中の移民労働者減少による人材不足の恒常化と賃上げ圧力の増加、そしてメニュー価格の上昇というサイクルに突入しつつあるのは明らかだ。アメリカのように不法移民が働くという前提はないとしても、外国人労働者をいかに上手に使うかが事業継続の必要条件になるのは日本も同様だ。日本の飲食業においても抜本的な対策が求められていることは間違いない。
また、日本の飲食業界では、人手不足が深刻化しているにもかかわらず、新規求人が減少するという一見矛盾した現象も見られる。厚生労働省のデータによると、2026年時点でも有効求人倍率は1倍を上回る水準で、求人数が求職者数を上回る状態が続いている。
人材不足が常態化している一方で、飲食業を含む分野では新規求人数が14.7%減少(令和8年2月時点)しているが、単純に「人手不足が解消した」とは言えない状況である。背景には、採用コストや人件費の上昇、応募不足などにより、企業側が採用に慎重になっていることも考えられる。

前述したように、アメリカで起きている人材不足とコスト上昇の連鎖は、日本でもすでに始まっている。
この流れに対して、単なる採用強化だけで乗り切るのは現実的ではないだろう。
これからの飲食店経営では、「人を増やす」ではなく「業務を減らす」発想で、注文や会計といった業務をデジタル化し、オペレーション全体を効率化することで、少人数でも回せる店舗づくりが今後の経営における鍵となる。
参考データ・出典
- Pechman Law Group:移民規制と飲食業の人材危機
https://pechmanlaw.com/immigration-crackdowns-are-creating-a-restaurant-labor-crisis - Documented:ニューヨーク飲食業の離職・離脱
https://documentedny.com/2025/10/29/trump-immigration-immigrant-workers-restaurant-impact - One Fair Wage:移民依存構造と強制送還の影響
https://drive.google.com/file/d/1qwJpqCAveykKN9TUyk9DVU6xkcbnOwwx/view - Washington Post:ワシントンD.C.飲食店の人員減少
https://www.washingtonpost.com/food/2026/03/02/dc-restaurant-workers-immigration-dhs/ - The U.S. Sun:チェーンレストランの値上げ事例
https://www.the-sun.com/money/13818708/waffle-house-chain-restaurant-raised-prices-inflation - 厚生労働省:一般職業紹介状況(令和8年2月分)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71946.html
大学卒業後渡米し、ロサンゼルスで飲食ビジネスを立ち上げる。帰国後複数の企業の起業や経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。新規事業立上げ、マーケティング、アメリカ市場進出のコンサルティングを行っている。米国のベストセラー『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
