物価高対策として長く議論されてきた「食料品の消費税減税」が、いよいよ具体的な形になりました。
2026年8月5日、政府は2027年4月から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品の消費税率を現在の8%から1%に引き下げる基本方針を閣議決定しました。中低所得者への給付も組み合わせ、実質的な負担をゼロに近づける考えです。
当初議論されていた「0%」ではありませんが、飲食店にとって安心できる話になったわけではありません。店内飲食が10%のままであれば、テイクアウトとの税率差は現在の2%から9%へ広がることになります。
では、この変更は飲食店の利益や価格設定、POSレジの運用にどのような影響を与えるのでしょうか。最新の政府方針を踏まえながら、飲食店経営者が今から確認しておきたいポイントを整理します。
食料品の消費税は「0%」ではなく「1%」へ
まず押さえておきたいのは、今回決まったのは「食料品の消費税0%」ではないということです。
政府は2026年8月5日、2027年4月1日から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品の消費税率を1%とする基本方針を閣議決定しました。これは給付付き税額控除が本格導入されるまでの「つなぎ」と位置づけられています。
なお、1%案が検討された背景には、0%よりもレジや基幹システムの改修期間を短縮しやすいという事情もありました。2026年6月の国民会議では、0%より1%の方がシステム対応を早められることが説明されています。
食料品が1%になると飲食店の納税額はどう変わる?
「仕入れの税率が下がれば仕入れ価格が下がるのに、経営面でリスクがあるのはなぜ?」と思われるかもしれません。それを理解するために、まずは消費税の基本構造を簡単におさらいします。
多くの経営者の方はご存知でしょうが、消費税はお客からいただいた分すべてを国に納めるわけではありません。商品を売ったときにお客が払った消費税額から、仕入や経費で支払った消費税額の「実額」を差し引いて納税額を算出します。
- 預かった消費税: 現行制度では、お客の飲食代金に含まれる10%(テイクアウトは8%)
- 支払い済みの消費税:食材の仕入れ、家賃、光熱費、システム利用料などに含まれる消費税
例をあげてみます。店内飲食のみの店舗です。
- 年間売上が1,000万円(税抜き)
- 預かった消費税 100万円(10%分)
- 食材や家賃などに消費税を70万円支払っている
この場合、国に納める消費税は【100万円 - 70万円 = 30万円】となります。
この納税時にすでに支払った分を差し引く仕組みを「仕入税額控除」と言います。
飲食店にはさまざまな経費が必要ですが、最も大きいのが食材の仕入れです。一般的には4割程度とも言われています。「仕入税額控除」が、店舗の税負担を和らげるクッションの役割を果たしていると考えると、飲食店では食材仕入れの割合が大きいため、食材にかかる消費税は仕入税額控除にも大きく関係します。
簡易課税制度とみなし仕入率
簡易課税制度とは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下などの条件を満たす事業者が選択できる制度で、実際に仕入れや経費で支払った消費税額ではなく、業種ごとに決められた「みなし仕入率」を使って納税額を計算します。詳しくは国税庁の「簡易課税制度」でも確認できます。
飲食店業は原則として第4種事業に該当し、みなし仕入率は60%です。例えば、売上にかかる消費税が100万円の場合、60万円を仕入れにかかった消費税とみなし、残りの40万円が納付税額の計算上の基礎となります。
ここで注意したいのは、簡易課税制度を利用している場合、実際に食材仕入れで支払った消費税額を使って仕入税額控除を計算するわけではないという点です。
したがって、食料品の税率が8%から1%へ変わった際の影響は、原則課税の事業者と簡易課税の事業者で同じではありません。
食料品が1%になると飲食店の【納税額】はどう変わる?
ここからが本題です。政府の方針どおり、飲食料品の消費税率が現在の8%から1%へ引き下げられた場合、飲食店の会計にはどのような影響があるのでしょうか。
スーパーや食料品店だけでなく、卸業者から仕入れる野菜や肉などの食材も、軽減税率の対象であれば1%になります。「それなら仕入れ時に払う消費税が減る。利益が増えるのでは?」と思うかもしれません。しかし、そう単純な話ではありません。
なぜなら、食材の仕入れ時に支払う消費税が減れば、先ほど説明した「仕入税額控除」で差し引ける金額も小さくなるからです。
実際に、売上時に受け取る消費税が100万円の場合で考えてみましょう。実際には皿などの備品、水道光熱費、家賃などにも消費税がかかりますが、ここでは分かりやすくするため、食材仕入れにかかった消費税だけを計算します。
※以下は、実際に支払った消費税額をもとに仕入税額控除を計算する「原則課税」の場合を単純化した例です。
【現状|食材に軽減税率8%がかかる場合】
- 売上時に受け取る消費税:100万円
- 食材仕入れで支払う消費税:約32万円(食材原価400万円×8%で単純計算)
- 差し引き後:約68万円
(実際の納税額は、その他の仕入税額控除などによって異なります)
【食料品の消費税率が1%になった場合】
- 売上時に受け取る消費税:100万円(店内飲食が10%のままと仮定)
- 食材仕入れで支払う消費税:約4万円(食材原価400万円×1%で単純計算)
- 差し引き後:約96万円
(実際の納税額は、その他の仕入税額控除などによって異なります)
お分かりでしょうか。
食材仕入れ時に支払う消費税は32万円から4万円へ減ります。しかし、その一方で、納税時に差し引ける仕入税額控除も同じだけ小さくなります。
つまり、「食料品の消費税率が下がれば、その分だけ飲食店の利益が増える」と単純に考えることはできないのです。
なお、簡易課税制度を利用している事業者の場合は、実際に支払った食材の消費税額ではなく「みなし仕入率」を使って税額を計算するため、影響の出方は異なります。
納税資金の管理にはこれまで以上に注意
もうひとつ注意したいのが、日々の資金繰りです。
食材仕入れ時に支払う消費税が減れば、その分だけ日々の支出は小さくなり、銀行口座には以前よりお金が残っているように見えるかもしれません。
しかし、店内飲食の税率が10%のままであれば、売上時に受け取る消費税と、食材仕入れ時に支払う消費税との差は現在よりも大きくなります。
口座に残った資金をすべて「自由に使える利益」と考え、仕入れや人件費、設備投資などに回してしまえば、いざ消費税を納める段階で資金が足りなくなる可能性もあります。
利益が出ていても納税資金を確保できず、手元資金が不足することは避けなければなりません。消費税分を別口座で管理するなど、日々の運転資金と納税資金を分けて考えることが、これまで以上に重要になるでしょう。
また、2023年10月に始まったインボイス制度では、適格請求書発行事業者以外からの仕入れについて、仕入税額控除に一定の制限があります。税率変更後の納税額や資金繰りを考える際には、こうした制度の影響もあわせて確認しておく必要があります。
仕入税額控除やインボイス制度について詳しく知りたい方は、「飲食店が理解しておくべきインボイス制度の基本と対策」もあわせて確認しておくとよいでしょう。
店内10%・持ち帰り1%。現場の運用はどう変わる?
今回の税率変更で、飲食店の現場にもっとも大きな影響が出る可能性があるのが、店内飲食とテイクアウトの税率差です。
現在は、店内飲食が10%、テイクアウトが8%。その差は2ポイントです。これが政府の方針どおり、軽減税率の対象となる飲食料品が1%になれば、店内飲食10%に対してテイクアウトは1%。税率差は一気に9ポイントまで広がることになります。
例えば、税抜1,000円の商品で考えてみましょう。
- 店内飲食:1,100円
- テイクアウト:1,010円
- 差額:90円
税抜5,000円なら差額は450円、1万円なら900円です。
現在の2ポイント差であれば、それほど大きく意識しなかったお客でも、9ポイント差となれば「持ち帰った方が安い」と感じる場面は増えるかもしれません。
もちろん、外食には料理だけでなく、接客や空間、出来たてをその場で味わう体験といった価値があります。税率差だけで一斉にテイクアウトへ流れるとは言い切れません。
ただし、価格を重視するお客にとっては、同じ商品でも「店内で食べるか、持ち帰るか」で支払額が大きく変わることになります。これは、飲食店側にもこれまで以上に分かりやすい価格表示と運用が求められるということです。
食料品1%で「内食・中食」を選ぶ人は増える?
マクロな視点で見ても、外食産業全体への逆風は避けられません。
食料品1%の最大の恩恵を受けるのは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの「中食(お惣菜やお弁当)」、そして家庭での「内食」です。
消費者は「外食は高いから、スーパーでお惣菜を買って家で食べよう」と変化することは避けられません。同じ「食」を提供しているのに、税率というルールによって外食産業だけが不利な戦いを強いられるのです。
これに対し、「うちも価格を下げて対抗しよう」という安易な値下げ戦略は命取りになります。ただでさえ食材費や人件費が高騰している中で、スーパーの巨大な資本と価格競争をして勝てる個人店・中小飲食店はなかなか存在しません。
飲食店が2027年4月までに確認しておきたい3つのこと
政府の基本方針では、飲食料品の消費税率を1%に引き下げるのは2027年4月からとされています。
制度の詳細設計や法案成立はこれからですが、飲食店にとっては、実施直前になって慌てるよりも、今のうちから影響を確認しておくことが大切です。財務省も、2027年4月1日から2年間の経過措置として、軽減税率対象の飲食料品を1%とする方針を示しています。
①:POSレジ・会計システムの税率対応を確認する
まず確認しておきたいのが、現在使っているPOSレジや会計システムが新しい税率に対応できるかどうかです。
店内飲食が10%、テイクアウトが1%となれば、同じ商品でも利用方法によって異なる税率を正しく処理する必要があります。レシートやインボイスへの税率表示、売上集計なども含め、システム側で対応できるかを事前に確認しておいた方がよいでしょう。
経済産業省は2026年6月、税率0%について、既存システムの中には「0」を税率として入力できないものや、0%課税と非課税を区別できないものがあると指摘しています。また、システムメーカーへの聞き取りでは、0%対応には制度詳細の決定後おおむね1年、1%であればおおむね半年以内で対応できるとの見解も示されています。
1%になったからといって、すべてのPOSレジが自動的に対応できるとは限りません。利用中のシステムについて、税率変更の対応時期やアップデート方法、追加費用の有無まで確認しておくと安心です。
②:店内飲食とテイクアウトの価格設定を見直す
次に考えておきたいのが、価格設定です。
店内飲食10%、テイクアウト1%となれば、税抜価格が同じでも税込価格には9ポイントの差が生まれます。現在の2ポイント差と比べると、消費者にとっても価格差を意識しやすくなるでしょう。
ここで店舗側は、単純に税率の違いをそのまま税込価格へ反映するのか、それとも商品価格そのものを見直すのかを考える必要があります。
例えば、店内飲食には接客や空間、出来たてを提供する価値があります。一方、テイクアウトには容器代や包装資材、持ち帰り対応の手間も発生します。
「税率が低いからテイクアウトの方を安くする」と単純に決めるのではなく、それぞれの提供方法にかかるコストと、お客が感じる価値を含めて価格を考える必要があるということです。
価格を変更する場合は、メニュー表や店頭表示、モバイルオーダー、Webサイトなどの表示価格もあわせて見直しておきましょう。
関連記事:【飲食店実務完全ガイド】パッケージ・容器選びで売上と利益が変わる!
③:税率変更後の利益とキャッシュフローを試算する
そして、最も重要なのが、税率変更後に実際にどれだけ利益が残るのかを数字で確認することです。
食材の消費税率が8%から1%へ下がれば、仕入れ時に支払う消費税は減ります。しかし、原則課税の場合は、その分だけ仕入税額控除として差し引ける金額も小さくなります。
さらに、店内飲食とテイクアウトの売上構成が変われば、店舗全体で受け取る消費税額も変わります。食材費だけでなく、人件費、家賃、水道光熱費、包装資材、デリバリー関連費用なども含めて考えなければ、実際の利益への影響は見えてきません。
そこで、現在の売上や原価率を使って、
- 店内飲食とテイクアウトの売上比率
- 税率変更後の仕入れ額
- 粗利
- 消費税の納税見込み額
- 手元に残る資金
を一度試算してみることをおすすめします。
特に注意したいのがキャッシュフローです。仕入れ時に支払う消費税が減ることで、銀行口座には以前より資金が残っているように見える可能性があります。しかし、そのすべてが自由に使える利益とは限りません。
利益だけでなく、「いつ、いくら現金が出ていくのか」まで確認しておくことが、2027年4月に向けた重要な準備になるでしょう。
関連記事:
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税率変更をきっかけに、店舗運営全体を見直す
今回の飲食料品1%への引き下げは、単に「仕入れ時の税率が変わる」という話ではありません。
店内飲食とテイクアウトの税率差が広がれば、価格設定や会計方法、POSレジの設定、レシート表示、スタッフの運用など、店舗のさまざまな部分に影響が及ぶ可能性があります。
これまで見てきたように、飲食店側で確認しておきたいのは、
- POSレジ・会計システムが新しい税率に対応できるか
- 店内飲食とテイクアウトの価格差をどう設計するか
- 税率変更によって利益や資金繰りにどのような影響が出るか
といった点です。
制度の詳細は今後詰められていきますが、実施直前になってから対応を始めるよりも、今のうちに現在の運用を確認しておく方が負担は小さくなります。
特に、複数税率を扱う店舗では、注文から会計、売上集計までを正しく処理できる仕組みが整っているかを一度見直しておきたいところです。
POSレジも、単に会計を行うためだけのものではありません。日々の売上や商品別の販売状況を確認しながら、価格やメニュー、店舗運営の改善につなげるための基盤として活用できます。
税制変更は店舗側でコントロールできません。しかし、制度が変わったときにどれだけスムーズに対応できるかは、事前の準備で大きく変わります。
2027年4月に向けて、税率対応だけを見るのではなく、この機会に店舗全体の会計・価格・オペレーションを見直しておくことが、今後の安定した経営につながるでしょう。
参考:FAQ
Q. 食料品の消費税は0%になるのですか?
A. いいえ。政府は2026年8月5日、2027年4月1日から2年間、軽減税率の対象となる飲食料品の消費税率を現在の8%から1%へ引き下げる基本方針を閣議決定しました。あわせて所得に応じた給付を行い、全体として飲食料品の消費税負担を実質ゼロにする方針です。ただし、制度の詳細設計や法整備は今後進められます。
Q. 飲食店の店内飲食も消費税1%になりますか?
A. 現行制度では、外食は軽減税率の対象外で10%、テイクアウトは軽減税率の対象で8%です。今回の基本方針は軽減税率対象の飲食料品を1%とするものなので、制度化された場合は、店内飲食10%、テイクアウト1%となることが想定されます。
Q. 食料品が1%になると、飲食店の納税額は増えるのですか?
A. 原則課税の場合、食材仕入れ時に支払う消費税が減る一方で、仕入税額控除として差し引ける金額も小さくなります。そのため、食料品の税率が下がった分だけ飲食店の利益が増えるとは限りません。実際の納税額は家賃や光熱費など他の経費、課税方式によっても異なります。国税庁は、課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除する仕組みを「仕入税額控除」としています。
Q. 簡易課税制度を利用している飲食店にも同じ影響がありますか?
A. 同じではありません。簡易課税制度では、実際に仕入れで支払った消費税額ではなく、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使って納税額を計算します。飲食店業は原則として第4種事業に該当し、みなし仕入率は60%です。そのため、食料品の税率変更による影響は、原則課税の事業者とは異なります。
Q. なぜ消費税0%ではなく1%になったのですか?
A. 理由のひとつとして、POSレジや基幹システムの改修負担が挙げられています。政府の検討資料では、0%はシステム上特殊な扱いとなり、0%を税率として入力できないシステムや、0%課税と非課税を区別できないシステムがあることが指摘されています。また、1%の方が0%より短期間でシステム対応しやすいとの事業者ヒアリング結果も示されています。
Q. 飲食店は2027年4月までに何を確認しておけばよいですか?
A. POSレジ・会計システムが1%税率に対応できるか、店内飲食とテイクアウトの価格設定をどうするか、税率変更後の利益や消費税納税額、キャッシュフローにどのような影響が出るかを確認しておくことが重要です。特に店内飲食とテイクアウトの両方を扱う店舗では、注文から会計、レシート表示、売上集計まで正しく処理できるかを事前に確認しておくとよいでしょう。
参考データ・出典
- 国税庁 No.6451 仕入税額控除の対象となるもの
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6451.htm
- 国税庁 No.6505 簡易課税制度
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm 財務省「片山財務大臣兼内閣府特命担当大臣臨時閣議後記者会見の概要(令和8年8月5日)」
https://www.mof.go.jp/public_relations/conference/my20260805.html内閣官房・経済産業省「社会保障国民会議 参考資料(2026年6月3日)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokuminkaigi/contents/20260603/04_siryou4.pdf内閣官房「社会保障国民会議 第13回実務者会議 議事要旨(2026年6月3日)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokuminkaigi/contents/20260603/minutes.pdf国税庁「消費税の軽減税率制度」
https://www.keisan.nta.go.jp/r7yokuaru/shohizei/sonota/cid571.html
ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。
株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。 https://radasono.wixsite.com/portfolio
