2021年の2月、料理宅配サービス大手のドアダッシュが、サラダロボット開発のチャウボティクスを買収したというニュースがアメリカから入ってきた。昨年2020年12月にニューヨーク証券取引所にIPOを果たし、600億ドル(約6兆3000億円)もの巨額の時価総額を付けたドアダッシュが、チャウボティクスを買収した理由は何だろうか。

チャウボティクスというスタートアップ企業

チャウボティックス(Chowbotics)は2014年設立の、カリフォルニア州ヘイワードに拠点を置くスタートアップ企業だ。チャウ(Chow)とは、「食べ物」を意味する英語の古いスラングで、チャウボティックスはチャウ(Chow)とロボティクス(Robotics)を組み合わせた造語だ。

サラダロボット「サリー」(Sally)
サラダロボット「サリー」(Sally)

チャウボティックスのミッションは、社名の通り料理ロボットの製造だ。創業当初はカレーのスパイスを調合するロボットを開発していたが(同社の創業者はインド人エンジニア)、やがてサラダロボットの開発へ方針転換し、2017年にサラダロボット「サリー」(Sally)を完成させた

サリーは、高さ194㎝、幅78㎝、奥行96㎝のサイズの箱型ロボットだ。ロボットというよりも「自動販売機」と言った方が実態に近いかも知れない。操作は簡単で、受取皿を所定場所に設置してタッチパネルで注文するだけ。ドレッシングやトッピングなどのオプションも指定できる。注文を受けるとAIが調理し、60秒で完成する。

サリーは22種類のレシピに対応し、サラダ以外にも朝食メニュー、スナック、インド料理、地中海料理なども提供できるという。サリーは全米各地の大学、病院、企業の社員食堂、スーパーマーケットなどに設置され、これまでに350台以上が出荷されたという。なお、サリーの価格は1台3万ドル(約315万円)からとなっている。

IPOでキャッシュリッチなドアダッシュ

一方のドアダッシュだが、上述の通り昨年12月にIPOを果たし、33億7000万ドル(約3500億円)のキャッシュを獲得している。IPO価格は一株102ドルで、初日の取引で一時195.50ドルまで値上がりした。時価総額は600億ドル(約6兆3000億円)、完全希薄化ベースでは713億ドル(約7兆4865億円)に達している。

ところで、ドアダッシュは孫正義氏率いるソフトバンクグループが傘下のビジョンファンドを通じて投資し、筆頭株主であることで知られる。ソフトバンクグループは、ドアダッシュに三回のラウンドで合計6億8000万ドル(約714億円)を投資し、今回のIPOにより112億ドル(約1兆1760億円)もの巨額の含み益を獲得している。

IPOで得た潤沢なキャッシュをもとに今回の買収が行われたわけだが、買収価格などの詳細は明らかにされていない。チャウボティクスは、これまでに複数のラウンドで総額2080万ドル(約21億8400万円)の資金をベンチャーキャピタルから調達しており、それ以上の価格で買収されたのは間違いない。あるベンチャーキャピタルは、チャウボティックスの評価額を5000万ドル(約52億5000万円)から1億ドル(約105億円)と見積もっているが、たぶんその辺の価格で買収されたと予想する。

ドアダッシュがチャウボティクスを買収した理由

ところで、ドアダッシュがチャウボティクスを買収した理由は何だろうか。ドアダッシュの共同創業者のスタンレー・タン氏はプレスリリースで、「チャウボティックスのテクノロジーをドアダッシュのプラットフォームに持ち込むことで、ドアダッシュを利用してくださるレストランオーナーに新しいメニューと新しいマーケットをご提供することができます。地元経済を活性化することが、ドアダッシュのレストランオーナーに対する基本アプローチなのです」と説明している。つまり、サリーをレストランオーナーに利用してもらい、新たな売り上げをあげてもらおうというのだ。

意外なことに、サリーはこれまでに多くの大学や病院などに設置されてきたが、レストランなどの飲食店に導入されたことはないそうだ。サリーはもともと、創業者ディーパック・セカー氏が友人の看護師から、「夜勤で夜中の2時にサラダが食べたくなったりするけれど、カフェテリアは閉まっている。ジャンクフードの自販機しかないので困っている」と相談されて開発を始めたという経緯があるそうだ。サリーは元来、飲食店用ロボットとしてではなく、カフェテリア用ロボットとして開発されたのだ。


ドアダッシュのアプリやウェブサイトからサリーを直接操作

現在のところ、ドアダッシュはサリーを飲食店に何らかの形で「提供」し、飲食店はサラダバーの代わりとして使ったり、「サラダシェフ」として使ったりすることが想定されているという。また、ドアダッシュの宅配サービスを実際に利用している飲食店については、ユーザーがドアダッシュのアプリやウェブサイトからサリーを直接操作し、デリバリー出来るようにする計画もあるようだ。

さらに、ドアダッシュが運営しているゴーストキッチン「ドアダッシュキッチンズ」にサリーを設置し、シェフたちに解放する計画などもあるようだ。いずれにせよ、サリーを飲食店でどう活用するかについては、「各種のパイロットプログラム」が行われるとしている。何にせよ、筆者は、サリーは使った分に応じて課金される従量課金制で飲食店に提供されると予想する。

日本への進出も表明したドアダッシュ

doordashの配達員
doordashの配達員「ダッシャー」

ところで、ドアダッシュに関しては別のニュースも入ってきている。ドアダッシュが、いよいよ日本へ進出するというのだ。NASDAQのウェブサイトによると、ドアダッシュは2021年1月に日本市場のジェネラルマネージャーの求人を開始し、2021年春からのオペレーション開始に向けて準備を始めたという。求人票には、日本市場のジェネラルマネージャーは「日本におけるドアダッシュのビジネスをリードし、全面的な成功の責任を負う」と記されているそうだ。

なお、ジェネラルマネージャーの募集に続き、先月からは配達員(「ダッシャー」と呼ばれている)の募集も始まっている。本記事執筆時点(2020年4月15日)までに、東京、大阪、京都、名古屋、札幌、仙台、鹿児島の7都市での募集が確認されている。アメリカで42%という大きなシェアを持つドアダッシュだが、Uber Eatsが先行する日本市場でどうビジネスを展開してゆくのか。アメリカでの展開と合わせて同時に注目してゆきたい。

参考URL:
https://www.chowbotics.com/
https://www.businessinsider.com/doordash-buys-chowbotics-acquisition-salad-making-robot-food-delivery-restaurant-2021-2