アメリカで飲食店のクラウドファンディング利用が進んでいる。クラウドファンディングサイト大手のキックスターターによると、飲食店によるキックスターターでのクラウドファンディングプロジェクト件数は、20214月までの一年間で3800件に達したという。今も勢いが衰えない状況が続いているようだが、飲食店がクラウドファンディングを利用した例をみてみよう。 

 

ブルックリンの名店「ゲージ・アンド・トールナー」  

 ニューヨーク・ブルックリンにはかつて、地元民に愛され続けていた伝統の名門レストランが存在していた。1879年設立の「ゲージ・アンド・トールナー」Gage and Tollnerという名のその名店は、ニューヨーク住民が誕生日や結婚記念日などの特別の日に利用する、地元の宝のような店だった。しかし、経営難によりその店は、2004年に惜しまれながら閉店した。その後、TGIフライデーなどのチェーン店がテナントとして入居したが、2016年にはTGIフライデーも撤退し、完全に空室の状態となった。

一方、ブルックリンでバーを営むセントジョン・フライゼルとベン・シュナイダーは、新たにブルックリン内でカクテルバーを開店しようと候補地を探していた。いくつもの店舗スペースを見て歩くうちに、訪れた店舗スペースの一つに、かつて120年以上の歴史を誇る名門レストランが入居していたことを知った。ブルックリンの飲食店経営者である二人は当然「ゲージ・アンド・トールナー」について知っていて、当時多くの飲食店経営者が使い始めていたクラウドファンディングで資金を集め、「ゲージ・アンド・トールナー」を復活させるというアイデアを思い付いた。 

伝統の名店をクラウドファンディングで復活 

フライゼルとシュナイダー、そしてその妻でシェフのソフイ・キムは直ちに行動を起こし、クラウドファンディングサイトのウィファンダー(WefunderWefunder Logo「ゲージ・アンド・トールナー」復活のための資金調達を開始した。三人は当初、SBA(米国中小企業庁)ローンや個人投資家からの資金調達を模索していたが、埒が明かず、試行錯誤の末、クラウドファンディングによる資金調達に切り替えたという。 

フライゼルは、「私たちは当初、一人か二人くらいの個人投資家からの資金調達を想定していました。しかし、ニューヨークの金融関係者は飲食業への投資にほとんど関心がありませんでした。私たちは次に、もっと若い世代のベンチャーキャピタリストへ接触しましたが、ベンチャーキャピタリストが求める投資リターンは想像以上に大きく、これもマッチしませんでした。そこで私たちが着目したのがクラウドファンディングでした。クラウドファンディングであれば複数の投資家から資金を調達することが可能で、しかも返済する必要もありません。収益還元などのリターンを提供する必要はありますが、それは当たり前のことです。我々は、一口1000ドル(約13万円)の投資に対し、売上の4%を還元するというリターンを提供しましたその結果、335人の投資家からの48万4091ドル(約6293万円)の資金調達に成功したのです」と説明している。 

クラウドファンディングの成功でSBAローンも獲得 

クラウドファンディングの成功により、三人はSBAローンの獲得にも成功している。SBAクラウドファンディングで調達した資金が実質的な「資本」であると見なされ、さらに消費者の支持をも集めていると認識され、一定の金額を貸付けてもリスクが低いと判断されたのだろう。クラウドファンディングで調達した資金とは別に、三人はSBAローンで150万ドル(約19500万円)の借入れに成功している。 

総額で200万ドル(約26000万円)もの資金を集めた「ゲージ・アンド・トールナー」復活プロジェクトはコロナ禍の中で着実に歩みを進め、昨年20212月に「ゲージ・アンド・トールナー」は見事に復活を遂げた。アメリカが新型コロナウィルスのパンデミックから再開しつつある中、「ゲージ・アンド・トールナー」は、そぞろにかつての賑わいを取り戻しつつある。フライゼルは、「335人の投資家の援助がなければ、ゲージ・アンド・トールナーを復活させることはできなかったでしょう。営業を再開した今、彼・彼女らはゲージ・アンド・トールナーに出資してくれているのみならず、知人や友人たちにゲージ・アンド・トールナーを利用するように促してくれています。彼・彼女らは我々のスポンサーであるとともに、集客のためのマーケッターでもあるのです」と説明している。 

開業資金はリスクキャピタル 

ゲージ・アンド・トールナーの復活プロジェクトが示す通り、飲食店の開業資金を銀行などからの融資で調達することは、アメリカであれ日本であれ、いずれにせよ難しい。アメリカにおいても、SBAなどによる信用保証があったとしても、開業資金を借入れることのハードルは相当に高いとせざるを得ないであろう。一般的にアメリカでは開業資金を調達することが日本よりも簡単であると認識されがちであるが、現実はそうではないのだ。アメリカにおいても、特に飲食業という業界に対しては、開業資金はリスクキャピタルであるという認識が金融機関において一般的なのだ 

 

それゆえ、クラウドファンディングという、実質的な資本投資というべき資金調達手法がアメリカの飲食店において多用され始めているのであろう。クラウドファンディングであれば、出資構成を分散化でき、特定の投資家に経営権を握られることもない。また、一般的には担保も保証人も要求されず、資金返済の必要もない。クラウドファンディングにおいては、飲食店と投資家は、ゲージ・アンド・トールナーの復活プロジェクトのように、共通の目的やコンセプトを共有しており、それを実現するためのプロジェクトメンバーとして機能しているのだ。 

 

共通の目的やコンセプトが魅力的であればあるほど、飲食店がクラウドファンディングで資金を調達できる可能性が高まるだろう。日本においても、人々を魅了しワクワクさせるようなプロジェクトであれば、クラウドファンディングで資金を調達できる可能性が高まることは間違いないだろう。日本の飲食店経営者も、資金調達手段としてクラウドファンディングにもっと注目すべきだ。 

 

(参照サイト) 

https://pos.toasttab.com/blog/crowdfunding-restaurant#:~:text=What%20is%20crowdfunding%3F,get%20into%20a%20little%20later

https://www.gageandtollner.com/history/ 

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