世界最大のNFTマーケットプレースのOpenSeaで、世界初のNFTレストランのメンバーシップの販売が開始されて話題になっている。2023年のオープンを目指すフライフィッシュクラブ(Flyfish club)は、2種類のメンバーシップを用意し、NFT(非代替性トークン)として販売している。フライフィッシュクラブの戦略について、他の飲食店の動向などとともに解説する。

フライフィッシュクラブについて

フライフィッシュクラブ(Flyfish club)は、ベラルーシ出身のアメリカ人起業家ゲイリー・ヴェイナーチャック氏が考案した、現在ニューヨーク・マンハッタンで建設中の世界初の「NFTレストラン」だ。NFT(非代替性トークン)については後に説明するが、ヴェイナーチャック氏の発表によると、フライフィッシュクラブはカクテルラウンジ、メインダイニングルーム、「おまかせ」カウンターの三つのエリアで構成される、完全会員制のレストランだ。カクテルラウンジは予約なしで利用できるが、メインダイニングルームと「おまかせ」カウンターの利用には予約が必要だ。広さはメインダイニングルームが150席、「おまかせ」カウンターが14席となっている。

メニューは寿司を中心としたシーフードだ。フライフィッシュクラブのウェブサイトによると、寿司ネタは新鮮なものを毎日日本から空輸して入手するそうだ。また、寿司以外にもオイスターなどの新鮮な魚介類を世界中から入手するとしている。シーフードに目がないセレブリティの客層をターゲットにしているのは明白だ。

<フライフィッシュクラブ紹介動画>

そもそもNFTとは何か?

さて、ここでNFTについて簡単に説明しておきたい。NFTはNon-Fungible Tokenの略で、「非代替性トークン」と訳される。NFTをひとことで言うと、「価値が保証されたデジタル資産」になるだろう。これまでは、画像や動画などのデジタルデータは簡単にコピーされてしまうので、単体でコンテンツとしての価値を持たせることが困難だった。

一方、NFTはブロックチェーン技術を使ってそれぞれのコンテンツを「唯一無二の存在」にし、価値を持たせている。それゆえ、アーチストは自分の作品をNFTにして、OpenSeaなどのマーケットプレースを通じて販売することができるのだ。アメリカのアーチストのBeepleが自分の作品をNFTにして販売したところ、6900億ドル(約79億3500万円)の値が付いたというニュースをお聞きになった人も少なくないだろう。そして、上述のフライフィッシュクラブは、メンバーシップつまり「会員証」をNFTにして販売しているのだ。

メンバーシップをNFTとして販売する理由

では、フライフィッシュクラブは、なぜメンバーシップをNFTにして販売しているのだろうか。その最大の理由は資金調達だ。フライフィッシュクラブのメンバーシップは、「フライフィッシュ」(FF)と「フライフィッシュ・おまかせ」(FFO)の二種類があり、いずれもNFTマーケットプレースのOpenSeaで販売されている。「フライフィッシュ・おまかせ」のメンバーは、「おまかせ」カウンターを利用することができる。

フライフィッシュクラブ
フライフィッシュクラブ 2つのメンバーシップ

OpenSeaでは、NFTを仮想通貨のイーサリアムで購入するのだが、「フライフィッシュ」メンバーシップのイニシャル価格が2.5イーサリアム(約94万4547円)、「フライフィッシュ・おまかせ」メンバーシップのイニシャル価格が4.25イーサリアム(約160万5730円)となっている。一般への販売は2022年1月7日から始まったのだが、これまでにすでに1400万ドル(約16億1000万円)分も販売したという。

また、メンバーシップをNFTで保有することはメンバーにとってもメリットになる。メンバーシップはNFTとして価値が保証されているので、メンバーにとっては資産になる。また、NFTは売買することができるので、現金が必要になったら現金化すればいい。単にデジタルの「会員証」を受け取るというだけの話ではないというわけだ

バーガーキングもNFTをマーケティングに活用

なお、NFTを資金調達手段として活用することに加え、マーケティングに活用するケースも出始めている。ハンバーガーチェーン大手のバーガーキングは、ハンバーガーのパッケージにQRコードを印刷し、お客がスキャンしてポイントを獲得できるキャンペーンを開始している。ポイントが一定数貯まると、人気タレントのサイン入りのデジタルブロマイドや、オリジナルゲームなどのNFTがもらえる仕組みだ。NFTは三種類あり、全部そろえるとハンバーガーが無料になるという特典も用意されている。

複数のNFTを集めるという楽しみに加え、希少性のあるNFTを長期で保有して値上がりを待つといった楽しみ方もできる。新たなマーケティングの手段として、効果が期待できそうだ。

シェフのレシピもNFTで販売

また、シェフのレシピをNFTとして販売するプロジェクトも立ち上がっている。グルメNFTドットコム(https://www.gourmetnft.com)は、すでに世界中の多くのシェフのレシピをNFT化し、販売している。同社によると、これまでにミシュランスターシェフや料理コンテストの入賞者、または有名なセレブリティシェフなどのレシピをNFT化したという。レシピはテキストデータのほかに、画像や動画などでも提供され、それぞれNFT化されている。シェフにとっては、通常の業務に加えてNFTの販売からも収益が得られるので、ありがたい仕組みだろう。また、特にミシュランシェフのレシピなどが欲しい購入者にとっても、実際にレシピが購入できるのだから大きなメリットだ。

いずれにせよ、現在のアメリカの飲食業界においてはNFTがひとつの大きなバズワードになりつつある。特に資金調達手段としてのNFTは、今後のアメリカの飲食業界において速いペースで普及が進むと予想する。そして、現在進行中のアメリカのこのトレンドは、間違いなく近い将来に日本にもやってくると予想する。ゴーストキッチンやドアダッシュなどのフードデリバリーサービスがアメリカから数年遅れて日本で普及し始めたように、NFTも同様に数年遅れて普及し始めるだろう。コロナで疲弊している日本の飲食業界において、NFTがひとつの強力な業界活性化のドライビングフォースとなることを期待したい。

参照URL:
https://thespoon.tech/here-are-the-details-about-flyfish-club-gary-vaynerchuks-nft-restaurant-opening-in-2023/
https://www.flyfishclub.com/
https://cloud-ace.jp/column/detail230/
https://www.gourmetnft.com/