ネットスーパービジネスが急成長しているアメリカで、Uberの新しいCEOによるUber Eats近隣ビジネスに関する発言が関心を集めている。

 

ある経済会議でのコスロワシャヒCEOの発言

最近開催されたある経済会議で、新たにUberのCEOに就任したダラ・コスロワシャヒ氏が、次の発言をして会衆の関心を集めた。

「Uber Eatsの事業を立ち上げたことで、我々は食べ物を運ぶビジネスに参入しました。ハイグレードな食べ物を注文から30分以内に届けることはマジカルなことです。そして、同様に生鮮食料品を届けることも基本的には同じです。生鮮食料品配達ビジネスは、完全にUber Eatsの近隣ビジネスです

実際のところ、ネットで生鮮食料品を注文して配達してもらうネットスーパーのビジネスがアメリカで急成長している。ある調査会社によると、アメリカのネットスーパーの市場規模は2022年までに1,000億ドル(約11兆2千億円)規模に拡大するという。

コスロワシャヒ氏はまた、Uberがネットスーパー事業に参入するにはフォーカスする領域と適切なパートナーを確保する必要があるともしている。ネットスーパー事業には、すでにAmazonなども参入していて、市場はある種の混戦模様を呈し始めている。Uberのネットスーパー事業は、どのような戦略を採ろうとしているのだろうか。


かつてはウォルマートと提携も

Walmartところで、Uberはかつて世界最大のリテールチェーンのウォルマートとネットスーパー事業で提携しかけたことがある。交渉は結局まとまらず、最終的に物別れになったが、Uberがウォルマートと組んでいたら業界における相当のシェアを確保できていた可能性が高い。

なお、ウォルマートはその後、UberではなくUber Eatsのライバル企業のドアダッシュや、Deliv、ポストメイツなどの企業と提携し、ネットスーパー事業を展開している。ウォルマートはまた、スパーク・デリバリーという独自の配達サービスも開始している。

いうなればウォルマートはリテール主導でネットスーパー事業を展開しているわけだが、Uberの立ち位置からすると真逆にいることになる。一方で、Uberからすれば、物流のいわゆる「ラストマイル」(最終ハブから最終消費者までの物流のこと)を担う自分たちこそ、ネットスーパー事業の主導権を握れるとしているのだろう。この構図はAmazonと物流業者との関係と構造的に似ている。今後は両者が相互に刺激しながら業界全体を盛り上げてゆくことになるだろう。

Amazonはホールフーズ・マーケットからの宅配を開始

amazonところで、ネットスーパー事業におけるUberのもう一つの仮想敵であるAmazonは、すでに昨年買収したホールフーズ・マーケットを拠点にしたネットスーパー事業を展開している。Amazonプライムの会員であれば送料無料で、注文から最短2時間以内に配達されるという。Amazonは現在ニューヨークやシアトルなど、全米の48都市で同事業を展開しており、今後さらに他の都市へ拡大させてゆくとしている。

また、ウォルマートのライバルのターゲットも、スタートアップ企業のShiptと提携してネットスーパー事業に参入している。ウォルマートの別のライバルのアルバートソンズも、デリバリーサービス大手のインスタカートと提携してネットスーパー事業を展開しているアルバートソンズは通常のネットスーパー事業に加え、カーシェアリング大手のNuroと共同で自動運転車を使った配達サービスのパイロットプログラムも開始している。

以上のように、アメリカのネットスーパー市場は、大手リテールやAmazonなどを巻き込んだ全面戦争の様相を呈している。後発者としてこれから参入するUberの勝算は、Uberが抱えるドライバーと車両という既存のリソースをどれだけ上手に活用できるかにかかっているだろう。また、Uberのドライバーにとっても、Uber Eatsに続く「別の稼ぐ手段」が提供されれば、それなりのインセンティブになるだろう。

「食」の消費地が外から家へ、飲食業界にも同じトレンドが

ところで、アメリカのネットスーパー市場が拡大していることの背景には何があるのだろうか。筆者は、アメリカの「食」の消費地が、広い意味で外から家へシフトしていることが大きく関係していると考える。アメリカでも一定の速度で高齢化が進んでおり、高齢者層を中心に生鮮食料品を配達してほしいというニーズが相応に高まってきている。さらにアメリカのネットスーパーではパスタやサンドイッチといった料理も配達されるので、アメリカ人の「内食」傾向がいずれにせよ強まってくるのは間違いない。

そして、アメリカ人の「内食」傾向は、今後飲食業界にも影響を与えるのは間違いない。すでにUber Eatsやドアダッシュの業績が相応に伸びているが、レストランなどで外食するのではなく、レストランの料理を配達してもらって「内食」するというトレンドが、今後さらに強まるだろう。アメリカ人の内食傾向が強まるにつれ、別の記事(Uber元CEOのカラニック氏が、クラウドキッチンビジネスに参入するワケとは?)で紹介したクラウドキッチンのような仕組みを使って料理を提供するケースもさらに増えてくるだろう。

現在のアメリカには66万店の飲食店が存在し、年間総売上は7,987億ドル(約89兆4,544億円)に達する。この売上の数パーセントが「内食」にシフトするとすれば、それなりのインパクトがあるだろう。日本の飲食店経営者を含むすべての業界関係者は、今後もこのトレンドを注視する必要がある。

 


参照:
https://thespoon.tech/uber-eyes-grocery-delivery-but-is-it-too-late-maybe-not-think-jump/


ライタープロフィール:
前田健二

東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。