新型コロナウィルスのパンデミックにより、アメリカの多くの州で飲食店が営業休止や営業制限を余儀なくされている。先の見えない状況が続く中、苦境にあえぐ飲食店を救うべく、ある著名レストラン経営者が「レストラン・リカバリー」プロジェクトを立ち上げた。「レストラン・リカバリー」プロジェクトとは何か、どのように飲食店を救うのか、概要をまとめてみた。

 

未だに広がるパンデミック、全米の飲食店の経営を圧迫

アメリカで新型コロナウィルスの感染拡大が止まらない。本記事執筆時点(2020年7月20日)でのアメリカの新型コロナウィルス感染者数は389万6855人、死者数は14万3269人に達している。多くの州は経済再開を目指し今日までにロックダウンを解除するなどしたが、それが裏目に出たのか感染拡大がぶり返し、カリフォルニア州、アリゾナ州、テキサス州、フロリダ州などで連日新規感染者数の記録を更新し続けている。新規感染者が増加しているカリフォルニア州では、ロサンゼルスなどの主要エリアでの飲食店の営業制限が新たに課せられている。
そうした厳しい状況にある飲食店を救うべく、「レストラン・リカバリー」プロジェクトが立ち上げられた。プロジェクトを立ち上げたのは、著名レストラン経営者のトッド・グレーブズ氏だ。

 

著名レストラン経営者トッド・グレーブズ氏

レイジング・ケーンズ・チキンフィンガーズ
レイジング・ケーンズ・チキンフィンガーズ公式サイト

トッド・グレーブズ(Todd Graves)氏は、ニューオーリンズ州出身の起業家だ。ルイジアナ州立大学在籍時に友人とともに鶏肉の手羽先専門フライドチキンレストランのビジネスアイデアを思いつき、ビジネスプランをしたためた。ところが、教授による評価はCマイナス(五点満点中三点以下)で、銀行からの創業融資もすべて断られた。しかし、学業の傍ら鉄工所などで働いて創業資金を貯め、1996年に大学のすぐそばに一号店をオープンさせた。レイジング・ケーンズ・チキンフィンガーズ(Raising Cane’s Chicken Fingers )と名付けられた店はただちに大ヒットし、今日までに全米324店、売上7億ドル(約756億円)の規模にまで成長している。
現在、アメリカでもっとも注目されているレストラン経営者の一人とされるグレーブズ氏は、著名テレビプロヂューサーのカプリ・マヘンドラ氏らと共同で「レストラン・リカバリー」プロジェクトを立ち上げた。その「レストラン・リカバリー」プロジェクトとは何だろうか。

 

「レストラン・リカバリー」というテレビドキュメンタリー

「レストラン・リカバリー」は、ニューヨーク、ロサンゼルス、ボストン、ダラス、アトランタ、ラスベガスなどの全米主要20都市の苦境にあるレストランをトッド氏が訪問し、共に再生を目指す過程を描くテレビドキュメンタリーだ。トッド氏のレストランの主要スタッフに加え、マーケティング、ファイナンス、フードエキスパートなどの専門家もチームに合流し、新型コロナウィルスのパンデミックという厳しい局面を乗り越えるプロジェクトを展開する。

「レストラン・リカバリー」プロジェクト
「レストラン・リカバリー」プロジェクト

プロジェクトでは、地元コミュニティと連携した、パンデミック時代における飲食店の新たな業態転換を図るという。具体的には、各店の個性や地元の特性に合わせた、ファイナンスを含めた包括的な事業再生プランを策定し、実際の再生を目指すという。
20話で構成される番組では、各種のレストランに加え、バー、地ビールレストラン、ベーカリーなどの各種の飲食店の再生物語が描かれる。いずれもグレーブズ氏による10万ドル(約1,080万円)の再生資金が投じられ、事業の本格的な再生を目指す
グレーブズ氏は、「単なる再生を目指すのではなく、より強くよみがえるための再生を目指します。次の新たなパンデミックであろうが、竜巻やハリケーンであろうが、どんな状況でも生き延びることを目指します。現在、アメリカの多くの飲食店は非常に厳しい状況にありますが、そうした飲食店に対する希望の光になるように努力します」とコメントしている。
ハリケーン・カトリーナなどの数々の災害を自ら生き延びてきたグレーブズ氏は、パンデミックを生き延びる何らかのノウハウを持っているのだろう。今年8月から撮影が開始される予定のドキュメンタリーは、まずはグレーブズ氏の地元ニューオーリンズを舞台にするそうだ。



アメリカの飲食業界は再生できるか?

ある調査によると、新型コロナウィルスのパンデミックにより、最悪のケースで全米の飲食店の75%が今後閉鎖を余儀なくされるという。また、現実にアメリカの飲食店労働者の半分にあたる1500万人が今日までに職を失っている。飲食店の閉鎖に伴い、飲食店に食材を提供している卸業者、酒販業者、リネン業者、清掃業者なども売上を大きく減らしている。パンデミックによる飲食業界の崩壊は、関連事業を含んだカタストロフィーと呼ぶべき状況に至っている。
「飲食店の経営を続けてゆくことの難しさを、私は誰よりも知っています。『レストラン・リカバリー』という番組の中で、皆さんは様々な飲食店の再生へ向けた取り組みをご覧になることになるでしょう。あるお店は家族経営のレストランであったり、小さなベーカリーであったり、地元民が集まるバーだったりします。しかし、いずれも地元のコミュニティを構成する大事な要素なのです。我々は、こうした飲食店を守ってゆかなければならないのです。」
新型コロナウィルスのパンデミックが引き起こした飲食店のカタストロフィーは、アメリカのみならず日本を含む世界的な課題となっている。アメリカの飲食店は果たして再生できるのか、グレーブ氏とそのチームの働きを全世界が注目している。

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参考URL:
https://www.restaurantnews.com/raising-canes-founder-and-calabassas-films-announce-new-tv-docuseries-restaurant-recovery-to-provide-relief-for-struggling-restaurants-across-america-062320/