サンフランシスコに拠点を置くフードテック企業のローカルキッチンズが注目を集めている。同社は、都会で評判の飲食店のメニューを店舗を超えて一度に注文できる「バーチャルフードコート」を展開している。「バーチャルフードコート」の仕組みはどうなっているのか、ゴーストキッチンとどう違うのか、ビジネスモデルと併せてご紹介する。

ローカルキッチンズというフードテック企業

サンフランシスコにローカルキッチンズというスタートアップ企業がある。ローカルキッチンズ(Local Kitchens)は、2020年にフードデリバリー大手ドアダッシュの元従業員三人が設立したフードテック企業だ。同社は、都会で評判の飲食店のメニューを店舗を超えて一度に注文できる「バーチャルフードコート」を展開している。同社のバーチャルフードコートを利用すれば、注文一回で複数の店舗の品物を同時にオーダーできるというわけだ。

ローカルキッチンズは現在、サンフランシスコ近郊の街クパチーノ、メンローパーク、サンノゼ、ラファイエットの四拠点でバーチャルフードコートを展開している。いずれもサンフランシスコから車で1時間程度のところにある街だ。

創業からわずか一年で2800万ドルの資金を調達

そのローカルキッチンズだが、創業からわずか一年で2800万ドル(約30億8000万円)もの資金を調達して話題になっている。フードテック企業が調達した金額としても大きいが、社歴一年のスタートアップ企業が集めたというのだから驚きだ。

なお、出資したのはヒューマンキャピタル、ペアー・ベンチャーキャピタル、フィフスウォールキャピタル、ペニージャーキャピタルなどのベンチャーキャピタルだ。バリュエーション(株の評価額)などの投資の詳細は明らかにされていないが、シリーズA投資と言う文字通り第一回目の投資で2800万ドルを投じたのだから、ローカルキッチンズの想定時価総額がそれなりの数字であったことは間違いない。

バーチャルフードコートの仕組み

では、ここでバーチャルフードコートの仕組みを説明しよう。バーチャルフードコートは、一般的なゴーストキッチンと同様、店内での料理提供をしないデリバリーとテイクアウト専門の「飲食店」だ。また、これも一般的なゴーストキッチンと同様に、バーチャルフードコートにも複数の飲食店が「入居」している。

例えば、ローカルキッチンズ・クパチーノ店には、アジア料理店「ソーシーエイジアン」、ブリトー専門店「セニョールシシグズメニュー」、カレー専門店「カリーアップナウ」、コンテンポラリー日本料理店「サジ」、フライドチキン店「プロポジションチキン」など、13の飲食店が入居している。

しかし、一般的なゴーストキッチンでは入居した飲食店のスタッフが料理をするのに対し、バーチャルフードコートでは、ローカルキッチンズの社員が各店の品を料理するのが大きな違いだ。いわばローカルキッチンズの社員が、各飲食店のシェフの代わりとなり、一人で何品もの料理をしているのだ。

各飲食店とライセンス契約を締結

では、ローカルキッチンズと「入居」する飲食店とは、どのような関係なのだろうか。一般的なゴーストキッチンの場合、通常はゴーストキッチンの大家と入居する飲食店が賃貸借契約や施設利用契約を締結する。いわば大家と店子、または大家と利用者の関係になる。

しかし、バーチャルフードコートの場合、ローカルキッチンズと飲食店はライセンス契約を締結する。ライセンス契約に基づき、飲食店はローカルキッチンズに自らのブランドと料理の「利用許諾」を与え、料理のレシピと調理方法を伝授する。さらにローカルキッチンズの社員に「トレーニング」を施し、自らの品を正しく料理できるよう指導する。これに対し、ローカルキッチンズは売上から一定の「ライセンス料」を飲食店へ支払う。これにより、飲食店は1ドルの投資をすることなく、新たな売上を手にすることができる。

ローカルキッチンズのジョン・ゴールドスミスCEOによると、ローカルキッチンズは設立以来、パートナーの飲食店に「何百万ドルもの新たな売上」を与えてきたという。確かに、このビジネスモデルであれば飲食店にとってはノーリスクだ。


都会の名店の味を「近郊の街」で提供

また、ローカルキッチンズの各店は、サンフランシスコから車で1時間くらいの近郊の街で営業していると書いた。実はそれには理由がある。ローカルキッチンズとライセンス契約を締結している各飲食店は、いずれもサンフランシスコで評判の人気店ばかりなのだ。つまりローカルキッチンズは、サンフランシスコという都会の人気店の味を、近郊の街で提供するという戦略を採っているのだ。これを日本で例えるならば、東京六本木で評判のメキシコ料理店のブリトーを、近郊の川崎、船橋、あるいは大宮で提供するといったイメージに近いだろう。要するに都会でなければ食べられない味を、近郊のベッドタウンで提供しているのだ。

これは、ローカルキッチンズのパートナー飲食店にとっても、近郊の街の住民にとってもメリットだ。パートナー飲食店にとっては、ローカルキッチンズの売上が増えれば自らの収入が増え、近郊の街の住民にとっては、わざわざ都会へ出なくても評判店の料理を味わうことが出来る。ビジネスモデル的には、一種のコロンブスの卵のような仕組みと言っていいだろう。

日本に進出の可能性は?

ローカルキッチンズは現在、サンフランシスコベイエリアでのさらなる出店を計画しているほか、ロサンゼルスなどの他のエリアへの出店も計画している。また、現在のパートナー飲食店以外のパートナー飲食店の開拓も行うとしている。

ところで、ローカルキッチンズのバーチャルフードコートのビジネスモデルが、日本に進出してくる可能性はあるだろうか。筆者は、間違いなくあると考えている。バーチャルフードコートのビジネスモデルは、飲食店経営者、消費者、ローカルキッチンズの、すべてに対してメリットを与え、シンプルでわかりやすいからだ。特に飲食店経営者にとっては魅力的で、否定的に捉える人は少ないだろう。

最近、日本でもドアダッシュが営業を開始し、業界の話題となっている。奇しくもアメリカではドアダッシュ出身の三人が新たなビジネスを立ち上げ、ブレークさせ始めている。ドアダッシュ繋がりのローカルキッチンズが、ドアダッシュに続けて日本にやってくるのは、それほど遠い先ではないかも知れない。

参照サイト
https://www.localkitchens.co/
https://www.restaurantbusinessonline.com/technology/local-kitchens-raises-25m-expand-its-digital-food-halls

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