日本在住の英国人ジャーナリストのエリサ・パーハド氏が、日本の駅弁についての好意的な記事をBBCのウェブサイトに投稿している。東京駅の広大な構内を歩いていると、まるで聖地をさまよう巡礼者のような気分になるという彼女によると、日本の鉄道旅行に駅弁は絶対に欠かせない必須のアイテムなのだという。

 

世界的に稀有な日本の駅弁文化

東京駅内 駅弁屋まつり
東京駅内 駅弁屋まつり

駅弁とは「駅」と「弁当」を組み合わせて作られた造語であると説明した後、日本では通勤列車などの短距離鉄道内での飲食が恐ろしく忌避されている一方で、新幹線などの長距離鉄道では駅弁を持ち込み、車内で自由に食べることが認められているとしている。まさしく駅弁は、日本の鉄道旅行では必ず体験しなければならないものなのだ。



地域ごとに固有の日本の食文化、駅弁にも反映

西へ向かう新幹線に乗り込む前に駅弁屋に飛び込んだ彼女は、何よりも売られている駅弁の種類の多さと、それぞれの個性の豊かさに圧倒されている。東京駅では、全国各地の名物の駅弁が数多く売られているが、基本的には、日本では地方ごとに固有の駅弁があり、それぞれの特色や個性が活かされているとしている。日本では、「地域ごとに、さらには駅ごとに、それぞれ独自の個性を持った駅弁が売られている」のだそうだ。

E7新幹線弁当
E7 新幹線弁当

筆者は以前アメリカに住んでいたが、アメリカのように広大な国土を持つ国が、地域ごとの文化的特性や差異をあまり持たないのに拍子抜けしたことを覚えている。アメリカでは、人種や宗教などによる文化的差異は存在するが、地域による文化的差異は基本的にそれほど存在しない。ましてや、地域ごとの名物料理といったものはほとんど存在していない。

日本では、例えば広島であればお好み焼き、香川あればうどん、仙台であれば牛タンといったように、地域ごとに地域を象徴する名物料理が存在する。ところが、アメリカにはそのようなものはほとんどない。例えば、サンフランシスコ市民やロサンゼルス市民に、それぞれの名物料理は何かとたずねても返答に窮されるだろう(なお、当然ながら例外はある。シカゴの名物料理シカゴピザなどはその例)。そもそも、地域ごとの名物料理といったコンセプトそのものが希薄なのだ。

アメリカの旧宗主国であるイギリスも、事情は似たようなものだろう。イギリスはフィッシュアンドチップスが名物料理だが、イギリスの特定の地方の名物料理というわけではない。ビールやウィスキーに若干の地域性があるといえばあるが、日本ほど強烈に打ち出していない。一方、日本では地域ごとの強烈な地域性が、駅弁という小さな箱に凝縮して詰め込まれている。青い目のジャーナリストには、駅弁が持つそうした日本固有の文化が魅力的に映るのだろう。

 

季節を反映する日本の駅弁

また、日本全国には2,000種類以上の駅弁が存在すると説明する彼女は、続いて日本の駅弁が季節を映し出す装置として機能していると解説している。ペンシルバニア州バックネル大学のポール・ノグチ教授の言葉を引用し、次のように綴っている。

秋田「鶏めし弁当」
秋田「鶏めし弁当」

「駅弁に特定の野菜を入れたり入れなかったりし、または特定の種類の魚を入れたりすることで、日本の駅弁業者は季節を表現するのです。駅弁は地域の文化をアピールするとともに、駅弁を食べる人に今の季節を感じさせ、旅行そのものを意識させ、旅の記憶として残させるのです」

日本も昔ほど食べ物の旬にこだわらなくなったと言われるが、それでも季節ごとの旬のものを楽しむ文化は残っている。「多くの駅弁業者が四季に合わせて内容を変えてくる」というパーハド氏も、駅弁が表現する日本の四季を堪能していることは間違いなさそうだ。

 

海外にも進出する日本の駅弁

ひっぱりだこ飯
ひっぱりだこ飯

結局のところ、多くの外国人にとって駅弁が魅力的なのは、それぞれの駅弁に日本の地域性や日本の四季が、さらに言えば日本の文化そのものが凝縮されているからだろう。さらに、駅弁の繊細な盛り付けやラッピング、ユニークなデザインなどに魅了される人も少なくないだろう。駅弁とは、100年以上の長い歴史を持つ、日本独自の進化を遂げた極めて日本的な食べ物であるといっていいだろう。

昨年11月、パリのリヨン駅で日本の駅弁が販売されたというニュースが報道された。秋田の「鶏めし弁当」、「岩手の「シャロレー牛あぶり焼き弁当」、兵庫の「ひっぱりだこ飯」、東京の「菜食弁当」、JR東日本が開発した「E7新幹線弁当」などの7種類の駅弁が販売され、最高15ユーロ(約2,000円)という値段にもかかわらず、いずれも売れ行き好調だったという。

ところで、100種類以上の選択肢の中から最終的にハローキティのサムライ弁当を選んだというパーハド氏は、今後も長距離鉄道に乗車するごとにそれぞれの地域の、各種の駅弁を満喫することだろう。そして筆者が知る限り、パーハド氏のような外国人の日本の駅弁マニアは確実に増えている。駅弁がインバウンド客を引っ張る隠れた観光資源になる可能性は低くはないと思われる。日本の駅弁は、外国人にとってそれほど多くの魅力にあふれているのだ。


参照:
http://www.bbc.com/travel/story/20181009-japans-special-take-on-a-packed-lunch
https://tokuhain.arukikata.co.jp/paris/2018/10/post_518.html


ライタープロフィール:
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。