サンフランシスコに拠点を置くスタートアップ企業のドロップが注目を集めている。ドロップは、一般家庭のキッチンをインターネットに接続し、調理器などをスマート化する「キッチンOS(キッチン用オペレーティングシステム)」を開発している。キッチンOSとは何か、スマートアプライアンスとは何か、飲食店への影響などについて諸々解説する。

 

ドロップというスタートアップ企業

ドロップ アプリ
ドロップ アプリ

サンフランシスコにドロップ(Drop)というスタートアップ企業がある。ドロップは、一般家庭のキッチンをインターネットに接続し、調理器などをスマート化する「キッチンOS(キッチン用オペレーティングシステム)」を開発している。そのドロップが先日、有力ベンチャーキャピタルのアルファ・エジソンなどから1330万ドル(約14億3640万円)の資金を調達し、話題を集めた。アルファ・エジソンは、グーグルでAndroid OSの開発を率いた伝説のソフトウェアエンジニア、スティーブ・ホロヴィッツ氏がパートナーを務めるベンチャーキャピタルだ。

ドロップへの投資に加え、ホロヴィッツ氏は同時にドロップの取締役会のメンバーに就任した。Android OSの開発を指揮した人物がドロップの取締役会に加わったことで、関係者はドロップのキッチンOSの開発が、いよいよ佳境を迎えるのではないかと噂している。

 

キッチンOSとは何か?

では、ドロップが開発しているキッチンOSとは何だろうか。キッチンOSとは、一言でいうとキッチンで使われる様々なアプライアンスに搭載されるAndroid OSのようなものだ。ご存知の通り、今日のキッチンでは各種のアプライアンスが使われている。電子レンジ、オーブン、冷蔵庫、フードプレッサー、コーヒーメーカー、ジュースミキサー等々、枚挙にいとまがない。

ホロヴィッツ氏は、「Androidがスマートフォンの世界を大きく変えたように、ドロップのキッチンOSは、キッチンで使われるテクノロジーを根本的に変えてしまうでしょう。一人ひとりのキッチンでの体験が、他の多くの人のベネフィットとなり、キッチンそのものに劇的な変化をもたらすでしょう」と説明している。

【動画|ドロップアプリと調理機器との連携】



GE、ボッシュ、ケンウッドなどの企業が参入

では、現在どのメーカーが、どのアプライアンスにドロップのキッチンOSを搭載し、何を消費者に提供しようとしているのだろうか。ドロップによると、同社のキッチンOSはGE、ボッシュ、ケンウッドなどの大手メーカーに採用され、100種類以上のアプライアンスに搭載されているという。日本のメーカーでは、パナソニックがドロップのキッチンOSを採用している。

ドロップとボッシュ調理器具との連携
ドロップとボッシュ製調理機との連携

例えば、ボッシュはインターネットに接続されたスマートオーブンを開発している。同社のスマートオーブンはスマートフォンと連動し、素材やレシピごとに温度調整や時間管理をしながら様々な料理を最適に提供する「ソルーション」を提供している。スマートフォンで料理を選択し、画面の指示に従えば、「最適化」された料理を再現できる。

パナソニックもまた、ドロップのキッチンOSを搭載した「コネクテッド電子レンジ」を開発している。コネクテッド電子レンジは、ボッシュのスマートオーブンと同様に料理の最適化機能を提供するとともに、ユーザー一人ひとりに合わせてカスタマイズする機能を提供する。

現在のところ、多くのメーカーがこうしたスマートオーブンやスマート電子レンジを開発している。そして、それらのほとんどすべてが、ドロップのキッチンOSを使って料理の最適化機能を提供しようとしている。料理の最適化機能こそ、ドロップのキッチンOSが提供する初期のキラーコンテンツとなる可能性がある。

 

著名シェフもプロジェクトに参加

なお、ドロップのキッチンOS開発プロジェクトには、ミシュランスターレストランであるチャプターワンのオーナーでヘッドシェフのロス・ルイス氏も参加している。ルイス氏は、キッチンOSの温度管理や計量管理などについて助言をしたり、スマートオーブンなどによる料理のプロセスそのものをアドバイスしているという。また、ドロップが提供している料理のレシピについても情報提供しているものと見られる。

つまり、ドロップが提供するレシピや料理方法をロス氏が監修し、場合によってはロス氏のレシピや料理方法そのものを提供する可能性がある。ドロップのキッチンOSを搭載したスマートオーブンを使えば、一般家庭においてロス氏の料理を確実に再現することが可能になる。

 

飲食店への影響は、ビジネス上のつながりは?

とどのつまり、ドロップはミシュランスターシェフの料理をコンテンツとして提供し、ユーザーを広げる戦略を採っている可能性が高い。Android OSを搭載したスマートフォンが、各種のアプリというコンテンツとともに指数関数的に普及したように、キッチンOSを搭載したスマートアプライアンスを、各種のレシピというコンテンツとともに指数関数的に普及させようとしている。

既存の飲食店にとってその影響は小さくないと思われる。著名シェフや著名店の料理が自宅で再現できるとなると、わざわざ外食する必要がなくなるし、デリバリーやテイクアウトを利用する必要もなくなる。

ドロップアプリのレシピ選択画面
ドロップアプリのレシピ選択画面

そうなると、飲食店の売上にも影響が出てくるだろう。その場合、飲食店が採りうる対策としては、積極的にキッチンOSのエコシステムに参加するのも考えられる。自らレシピと料理方法をコンテンツとしてキッチンOSのエコシステムに提供するのだ。つまり、スマートフォンのアプリ作者がダウンロード課金や広告料で利益を得るように、レシピと料理方法というコンテンツのダウンロード課金や広告でお金を稼ぐのだ

これは決して荒唐無稽な話ではない。スマートフォンが登場する前と後で世界は一変した。それと同じような変化が飲食の世界で起きる可能性は、決して低くないのだ。

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参考URL:
https://getdrop.com/
https://thespoon.tech/drop-kitchen-nabs-8-million-in-funding-as-kitchen-tech-investment-heats-up/