イギリスの飲食業界が苦境に喘いでいる。業績悪化から閉鎖する飲食店が増え、その波が大手の飲食店チェーンにも及んでいる。昨年だけでも人気イタリア料理店チェーンのジェイミーズ・イタリアンが全英37店舗のうち12店舗を閉鎖し、ハンバーガーチェーンのバイロンズも、全店舗の三分の一にあたる20店舗を閉鎖したという。閉鎖する飲食店の数は対前年比で5%増加し、今後さらに増える可能性があるという。

 

苦境が続くイギリスの飲食業界

苦境の原因は明白だ。法律改正による労働者の最低賃金の上昇、人手不足、イギリス通貨ポンドの下落による食材コストの上昇だ。また、近年のブレクジットの混乱による消費者支出の低迷も追い打ちをかけている。飲食店の経営に詳しいジェレミー・ウィルモント弁護士は、「(イギリスの)飲食店の経営は今日、かつてないほど難しくなっています。人件費は高騰し、ロンドンなどの都市部では競争が激化しています。厳しいプレッシャーが、繁華街の著名なレストランをも危機にさらしています」とコメントしている。

 

出店が相次ぐ「ダークキッチン」

ファシリティ
ファシリティと呼ばれる調理施設

そうした中、イギリスで出店が相次いているのが「ダークキッチン」だ。ダークキッチン(Dark kitchen)はゴーストレストラン(Ghost restaurant)とも呼ばれる、配達専門の飲食店だ。前に紹介したアメリカの「クラウドキッチン」と同じようなものだ。クラウドキッチンよりも物理的に見えにくく、まるでゴーストのように存在しているのかどうかわかりにくいのが特徴だ。ゴーストキッチンには店舗がなく、接客用の椅子やテーブルもない。注文はネットかモバイルアプリで行う。調理はファシリティと呼ばれる施設で行う。

経営環境が厳しさを増す中、高い家賃や人件費を払う必要がないダークキッチンに多くの飲食店経営者が飛びついている。また、消費者のフードデリバリー志向とも相まって、ダークキッチンへの需要が増えている。イギリスのある調査会社によると、イギリスのフードデリバリー市場は、通常の外食市場よりも10倍の成長率で成長しているという。特にミレニアル世代(現在18歳から34歳までの世代)と呼ばれる若い世代によるフードデリバリーの利用が急増している。

 

「家で外食」を求める新たな消費者ニーズ

Deliverooアプリ
Deliverooアプリ

同調査はまた、ミレニアル世代がフードデリバリーを志向する理由として、彼らのスマートフォン文化が背景にあると指摘している。スマートフォンを手放さないミレニアル世代は、各種のフードデリバリーアプリを愛用し、気軽にフードデリバリーを注文する。夕食のみならず、昼食や朝食もフードデリバリーで調達する。ダークキッチンやフードデリバリーを行う飲食店が増加し、彼らの選択肢がどんどん増える。フードデリバリーの利用もさらに増え、一種の好循環が発生する。

ミレニアル世代によるフードデリバリー利用についてイギリスのある専門家は、「(ミレニアル世代にとっては)フードデリバリーは、彼らにとっての新たな「外食」なのです。少し前の時代では、フードデリバリーとはピザなどに限定されたものでした。しかし、今日のフードデリバリーは選択肢が増え、高級レストランですらフードデリバリーを行います。しかも、スマートフォンをタップするだけで注文できてしまいます。お店にいくまでの時間もセーブでき、好きなものをいつでも注文できる。フードデリバリーは、自分のこだわりや時間を大事にするミレニアル世代のライフスタイルと、極めて良くマッチしているのです」と説明している。

 

他店舗同士でコラボレーションも

フードデリバリー専門飲食店のDeliverooは、2017年5月にDeliveroo Editionsというダークキッチンを立ち上げた。Deliveroo Editionsのコンセプトは、既存の飲食店とコラボレートし、共同でダークキッチンを運営するというものだ。各種の飲食店とコラボレートすることで、提供できる料理の種類を増やし、消費者の選択肢を増やす戦略だ。キッチンは各飲食店でシェアし、固定費を最小限に抑えられる。食材の仕入れもダークキッチンが行うので、仕入れのスケールメリットも享受できる。Deliveroo Editionsのビジネスモデルは、ダークキッチン、既存の飲食店、利用者の三者すべてにとってWin winであるように見える。

現在までに全英で16施設を運営するまでに成長したDeliveroo Editionsのダークキッチンだが、今後もさらなる成長が期待される。Deliveroo Editionsのダークキッチンを利用しているあるレストランオーナーは、「設備投資やリースなどを負担せずに、大都市マンチェスターのど真ん中にデリバリーの拠点を持つことができます。ダークキッチンへ行ってただ料理すればよく、オペレーションも極めてシンプルです」と絶賛している。

経済的な苦境から誕生したイギリスのダークキッチンだが、フードデリバリービジネスの成長と相まって確実にそのポジションを固めている。人件費高騰や人手不足というイギリスと同じ悩みを抱える日本の飲食業界にとって、ダークキッチンが救世主となる日が来るのも、そう遠くないかもしれない。


参考URL:
https://disruptionhub.com/rise-of-the-dark-kitchen/
https://www.theguardian.com/business/2018/feb/19/number-of-uk-restaurants-going-bust-up-by-a-fifth-in-2017


ライタープロフィール:
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。