飲食店をはじめるとき、多くの経営者は、「儲けたい」と考えていたと思います。しかし、他の飲食店経営者がどれくらいの収入を得ているのか、具体的な金額を耳にすることはないのが実情。

もちろん、飲食店経営とひとくちに言ってもさまざまな人がいて、法人化している人もいれば、個人事業主もいます。羽振りがよい人もいれば、毎月の支払に追われて苦しい人もいます。果たして、その平均はどれくらいなんだろうか、と考えたことはありませんか?

そこで今回は、飲食店経営者の年収について、いくつかの事例を紹介します。また、収入アップを目指す方法も探っていきます。

飲食店経営者の平均年収は631万円

どんな数値にしろ標準値、つまり平均を知ることが一歩目だと考えるのは筆者だけではないはずです。

飲食店経営者の年収については、『日経レストラン』が調査しています。それによれば平均年収は627万円。

また、個人経営の飲食店のうち、黒字を出している経営者の平均年収は631万円。同じ店舗で配偶者や子どもが働いている人の合計世帯年収は895万円だそうです。

この数字を見て、どのような感想をもたれたでしょうか?

ちなみに、国税庁が発表した「令和4年分民間給与実態統計調査」では、給与所得者の一人当たりの平均年収は458万円でした。この数字と比べれば、飲食店経営者はかなり高い数字だと言えます。

とはいえ、飲食店のすべてが黒字を出しているわけではありません。赤字店の場合、当然ながら収入は激減。平均データはないものの、筆者の知るだけでも、「店が終わってからアルバイトをしている」という人や、「副業をしている」という人を知っています。

彼らは、「サラリーマンは安定していてうらやましい」と言っていることから、おそらく年収は、給与所得者の平均より下。恐らく200万円から300万円台で、もしかすると、100万円台か、もっと低いのかもと思う人もいます。こうなると、店をたたむなり売るなりして、早く新しい道を探した方が賢明です。

業態による年収の差

次に考えたいのは、業態による差はあるのか、という点です。

飲食店と一口に言ってもさまざまな業態があり、その中でも、規模によって収益も違うはずです。この点を覗いてみます。

ちなみに、これは正式に発表されているデータではなく、筆者が飲食店経営者のセミナーで知り合った方々やコンサルをする中で聞いた実例です。

飲食店の中で、一番年収差があったのは居酒屋。私の知る限り、最も年収が高かった人は2千万円を超える年収を得ていました。複数店舗経営者ですが、ビッグチェーンではありません。

その一方で、1店舗しか経営しておらず、なおかつ赤字店だという方は、年収にすると100万円程度と言っていました。ただし、店舗が赤字で個人事業主であることを考えると、その金額も得てないのではないかと思いました。つまり、「自称年収100万円」です。

続いて多かったのが ラーメン店。5店舗を経営している方が約1千万円の年収だと言っていました。また多くの方が500万円以上の年収を得ていて、複数店舗であれば800万円程度の年収でした。あまり儲かる業態ではないと思っていたので、意外だと思ったことを覚えています。

また、最高年収が1千万円を超えていたのが、カフェのオーナー。この業態は居酒屋同様に差が激しく、最も稼いでいる人は1千万円と言っていましたが、多くの方は300万円程度。ちなみに、1千万円の人は、 純粋なカフェではなく、夜はお酒も出す、いわゆるカフェバー経営者でした。

では、バーは儲かるかと言うと、筆者の知る限りではそうとは言えず、500万円、300万円、250万円でした。バーは3名しか聞いておらず、たまたま低めの人が集まった可能性もあります。ですが、カフェバーに比べると営業時間が短く、食事を頼まないため、客単価が上がりません。それでいて、内装をしっかりと作り込まなくてはならないことも、収入の少なさに関係しているのではないかと思っています。

飲食店経営者の年収を上げるには?

平均値や業態の特徴がわかったところで、次のテーマは、年収を上げるにはどうしたらよいか、です。

当然ながら飲食店経営者の年収は、店舗の売上、あるいは収益と連動しています。つまり売上、または収益が上がれば経営者の年収も上げることが可能ということです。

数年前であれば、「店舗の売上が上がれば経営者の年収を上げることが可能だ」とシンプルに書いたでしょう。しかし近年は、飲食店の経営に難しい部分が多くなり、「売上が上がっても収益が下がる」という例が多く出ています。

しかし、逆の見方をすれば、規模拡大によらなくても年収を上げることが可能なわけで、これが飲食店の醍醐味とも言えます。

このことを踏まえると、飲食店経営者の収入を上げるには、2つのことが重要だと言えます。

1つは売上を上げること。もう1つは経費を圧縮すること。
非常にシンプルです。

飲食店経営者が年収1千万円を超えるには?

では、年収1千万円を超えるには、どうすればよいでしょうか?

経営者の給料の算出方法はさまざまですが、ここでは売上から、原価と販売管理費を控除した営業利益を経営者の給料と考えてみます。また、営業利益率もさまざまですが、ここでは仮に「10%」とします。これは、飲食店の平均値よりも低い数値です。

営業利益率10%で1千万円を得るには、年商1億円が必要となります。これを12か月で割ると、約835万円。これだけの売り上げを1店舗であげられるのは比較的大きな店舗で、小規模の店舗ではむずかしくなります。

もちろん営業時間がよほど長かったり、昼と夜で違う店舗になったり、あるいは開店している間中、ずっと行列ができる店など、例外がないとは言いませんが・・・・・・

売り上げを上げる方法としては、あと少しで月商835万円になるという場合を除き、今ある店舗を大型店舗に替えるか、複数店舗にするかの二択となります。

どちらの方がリスクが少ないかと言えば、複数店舗にすること。なぜなら、1店舗では、経営が立ちゆかなくなったときに逃げ場がないからです。

複数店舗にすると、1店舗めで自分が働いていた分を、店長など他のスタッフにまかせることになるので、営業利益率10%は難しくなるかもしれません。仮に2%減って8%になったとしても、月商500万円、年商6千万円の店舗を2つ持っていれば、480万円が2店舗分で、1000万円近い年収となります。

複数店舗経営のポイント

では、複数店舗経営をするためにはどうすればよいのでしょうか?
これには2つのポイントがあります。

一つ目は、複数店舗経営に向いている業態を選ぶこと。
なぜなら、1店舗目で蓄積したノウハウを活かせるからです。

たとえば、1店舗めでハンバーガーショップをオープンした人が、2店舗目として寿司屋を出そうと思うとどうでしょうか?
まったくノウハウを生かせず、イチからはじめなければなりません。

また、複数店舗展開を考えるなら、職人の料理技術に頼るような業態は向いていません。究極を言えば、アルバイトでも提供できる料理の方がよく、そうしても料理のクオリティが下がらない方法を考える方が賢明です。

よく耳にする話として、「複数店舗経営をしている〇〇さんは、全部違うタイプの店をやっている」というものがあります。でも実際に店舗を見てみると、雰囲気や扱っているメニューは違っても、「レストラン経営としては似ている部分が多く、お客をもてなす流れが一緒」とか、「店舗には半調理品が納品され、仕上げをして盛り付ける作業は同じ」など、店舗経営としては似ているケースがあります。

つまり、複数店舗経営に向いている業態を選ぶとは、まったく同じ店舗をつくるという意味ではないと言うことです。

もうひとつのポイントは、人材の育成。ここで言う人材とはアルバイトではなく、店舗を任せられる人材ということです。

複数店舗を経営する場合、オーナーの目は届きません。そのため、不足部分を補足してくれる店長クラスの人材を育成する必要があります。単に店舗運営ができるだけでなく、経営者の考えを理解し、後身を教育し、育てていけることが必要となります。つまり、経営者の分身となる人を育てることがポイントとなるのです。

経費を下げる方法

では、年収を上げるもう一つの方法。経費を下げることについてはどうでしょうか?

飲食店を経営する上で、代表的な経費は3つと言われています。これを下げることで営業利益を上げることができます。

家賃

1つ目は家賃です。
店舗を借りていれば、売上が高かろうが低かろうが、一定額がかかるのが家賃です。固定費の代表でもあり、高額になりがちです。立地条件が悪ければ、家賃は安くなりますが、お客が来る見込みは減ります。かと言って、お客がどんどん来るような店舗は家賃が高くなります。多くの経営者が最も頭を痛める部分ではないでしょうか。

これについては、居酒屋の経営者が面白いことを言っていました。先の事例で話した、2千万円の年収を得ている方です。

「うちが出店するときに、まず優先するのは家賃。ターミナル駅の駅前や繁華街は家賃が高く、後々ずっと苦しむことになるから、絶対に出さない。どんな立地でも周りに住んでいる人はいて、その人にあった 品揃えと接客をすれば売上は立つし、常連になってくれる。周りに飲食店がないから悪い立地ではなく、 むしろ競合店がいないから有利に働くと考えるべきだ。家賃にあった売上を上げるという点から言えば、 ある程度、安い物件を借りる方か簡単だし、賢いと考えている

実際に経営して、成功している人の言葉なので、重みがあるのではないでしょうか?

FLコスト

次の経費はFLコストです。
「F」はフード、つまり食材費のことで、「L」はレイバー、つまり人件費のことです。

物価高で食材費は高騰し、人材を確保し続けるには、それなりのコストをかけることが必要です。これは、これからの飲食店が抱える大きなテーマでしょう。

では、解決方法がないのかといえば、そんなことはありません。食材費が高騰しても、ちょっとした工夫で原価の安い商品を作ることもできますし、もっと簡単な方法なら、盛り付けを変えるだけでも原材料を減らすことは可能で、お客も損をしたと感じないメニューを作ることができます。

また人件費に関しても、お客様にスマートフォンから注文してもらうモバイルオーダーで注文を取る人手を、配膳ロボットを使って配膳する人を減らす方法が一般的に行われています。「ロボットは高い」と感じる人もいるようですが、助成金を使えば、価格の1/5 や1/3程度で導入可能で、決して高い投資ではないはずです。興味のある方は一度、調べてみることをおすすめします。

人件費については、アルバイトだけでなく、正社員にも配慮することが必要です。例えば、レジ締め時に現金を計算し、レジの残高と同じかを計算しているスタッフを見かけます。

問題がなければ5分程度で終わる作業ですが、誤差がでた場合、何度も計算をし直したり、データを見返したりして、原因を調べなければなりません。

誤差は現金が多いほど発生する確率が高くなるため、クレジットカードや交通系、QRコード決済などは積極的に導入し、現金の量を減らすことが重要となります。

このような工夫はいたるところででき、可能な限り、無用な負担を減らすべきです。

広告宣伝費

店舗にもよりますが、ポータルサイトやクーポン雑誌に掲載している場合、掲載料がかかります。リピート客と新規客を比較した場合、獲得料はリピート客の方が低く、1/5程度の価格で集客できると言われていますが、これらのサイトなどは新規客に偏りがちです。なぜなら、不特定多数の人にアピールすることを得意としているからです。

また、常連よりも新規客の方が安い、またはお得だとなれば、常連客は決して面白くありません。この辺りはバランスが非常に重要となりますが、ポータルサイトにかけていたお金を、LINEを利用したクーポン提供で常連客のリピート回数を上げる方にシフトする方が賢明かもしれません。つまり、これまで週に1回、月に4回来ていたお客を、月に5回に増やす施策にする方が、 経営効率はよくなります。

以上の3つ以外にも、光熱費も無駄を省けるかもしれません。これは無駄な水を流さないとか、無用な電気を消すというような小さなことではありません。送電事業者を変えることで、毎月数千円の経費を削減することができることがあります。ガス会社も似たサービスがあります。

これは地域や条件にもよりますので、一度調べてみることをおすすめします。

まとめ

今回は、飲食店経営者の収入を上げる方法を探ってみました。

基本は売り上げ規模を上げ、経費を減らすこと。もっともなことですが、実践するのが難しい面もあります。ただ、具体的な方法はひとつではありません。ご自身でできそうなことからはじめ、徐々に拡大し、いずれは1千万円、またはそれ以上の年収を目指すのはいかがでしょうか。

飲食店経営は夢のある仕事です。せっかくスタートしたのですから、当初の思いを再確認しつつ、その実現のために何をするべきかを考えてみてください。