シカゴにセカンドキッチン(2nd Kitchen)というフードテック・スタートアップ企業がある。セカンドキッチンは、厨房施設のないバーや酒屋に近隣の飲食店の料理を配達するというユニークなビジネスを展開している。

 

セカンドキッチンというシカゴのスタートアップ企業

アメリカへ行かれたことがある人の中には、アメリカの多くバーが料理を提供しないことに気づかれた方もおられるだろう。アメリカのバーの多くは、ビール、ワイン、カクテルなどのドリンク類だけを提供し、食べ物はポテトチップスやプレッツェルなどの袋入りのスナックしか提供していない。アメリカのバーとは純粋にアルコール類を楽しむ場所であり、食事はその前後に別のところでとるのが一般的なのだ。

セカンドキッチンQRコード注文例
セカンドキッチンQRコード注文例

そうしたアメリカのバーの「常識」にチャレンジしたのがセカンドキッチンだ。セカンドキッチンの創業者は、バーに近隣の飲食店の料理を提供することで、バーの客の滞在時間を増加させ、バーにエクストラの売上をもたらすことができると考えた。さらには、料理を提供する飲食店にもエクストラの売上をもたらすことができる。いうなれば、厨房施設を持つ店と持たない店をマッチングし、両者にシェアリングエコノミーから生じるプラスのベネフィットをもたらすことができると考えたのだ。

 

キッチンのないバーに飲食店の料理を提供

セカンドキッチン専用のキオスク端末
セカンドキッチン専用のキオスク端末と客の席に置くカード

セカンドキッチンの仕組みは極めてシンプルだ。バーの客はバーに設置された専用のキオスク端末か、スマートフォンにインストールした専用アプリから注文する。なお、キオスク端末は無料でバーに設置される。

料理が注文されると、その情報が飲食店に伝えられる。料理は飲食店のスタッフか、セカンドキッチンの「パートナーネットワーク」に加盟している配達スタッフが、徒歩か自転車で配達する(多くが徒歩による配達だそうだ)。支払いはクレジットカードで、セカンドスタッフが決済する。料理は、注文した客の席に置かれたカードを目印に直接配達される。

他のフードデリバリーサービスとの違い、利用料金は?

ところで、セカンドキッチンのビジネスモデルは、Uber Eats(ウーバー・イーツ)やグラブハブなどの他のフードデリバリーサービスとどう違うのだろうか。まずはデリバリーする先だ。Uber Eatsなどのフードデリバリーサービスは、基本的には注文者の家か職場などに配達する。一方、セカンドキッチンのデリバリー先は、基本的にはバーなどの「キッチンを持たない施設」の客の席だ。

また、デリバリーの時間と距離も違う。Uber Eatsなどが比較的長距離を一定の時間をかけてデリバリーするのに対し、セカンドキッチンは基本的には「バーの近隣エリア」内でデリバリーする。極端に言うと、バーの「徒歩圏内」にある近隣飲食店からデリバリーする。アメリカのバーの多くは、飲食店が連なるエリアに位置しているので、そうしたデリバリーが可能なのだ。

気になる利用料金だが、料理をデリバリーしてもらうバーや客には費用はかからず、セカンドキッチンは料理を提供する飲食店から「一定のコミッション」を徴収する。コミッションの具体的な数字は明らかにされていないが、セカンドキッチンの創業者によると、Uber Eatsなどの他のフードデリバリーサービスのコミッションよりも「大幅に低い」そうだ。

 

ホテル、病院、大学などにもサービス範囲を拡大

セカンドキッチンのサービスは、バーに加え、アルコール類を販売して店内で飲酒をさせる酒屋(日本の「角打ち」のような酒屋がアメリカには少なからず存在する)や、ビール醸造場(アメリカでは現在、ローカルのクラフトビールが大ブームになっている)などでも使われ始めている。セカンドキッチンは今後、サービス範囲をホテル、病院、大学などにも拡大してゆくとしている。

ところで、セカンドキッチンのサービスがユニークなのは、他のフードデリバリーサービスと違い、飲食店の忙しい時間滞に追加の注文を与えない点だという。セカンドキッチンの創業者によると、セカンドキッチンの繁忙時間帯は「午後4時から6時の間と、午後10時以降」で、多くの飲食店にとって忙しくない時間帯なのだという。飲食店が暇な時間滞に「エクストラの売上」をもたらす点が、セカンドキッチンが飲食店に支持される理由のひとつだろう。

セカンドキッチンのビジネスモデルは、ベンチャー投資家の関心も集めている。同社は最近、フードテック・スタートアップ企業としては異例の435万ドル(約4億7千万円)もの資金を調達し、話題となった。調達した資金をビジネス拡大に使うとした創業者の言葉通り、潤沢な資本とともに同社のビジネスはシカゴ地区を中心に順調に拡大している。

セカンドキッチンの台頭は、アメリカの飲食業界において「協業」がひとつのトレンドになりつつあることを示している。そして、その「協業」のトレンドは、いずれ海を越えて日本にやってくることは間違いないだろう。日本にも、スナックやクラブなどの「キッチンを持たない施設」が多数存在している。

 

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参考URL:
https://thespoon.tech/2ndkitchen-completes-4-35m-seed-round-so-places-like-bars-can-serve-food-from-nearby-restaurants/
https://www.chicagobusiness.com/restaurants/delivery-service-bars-dont-serve-food-raises-135-million


ライタープロフィール:
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。