飲食店では、特に気をつけなければならない食中毒。すべての飲食店が対策をとっているはずですが、厚生労働省が把握しているだけでも年間2万人程度が食中毒になっています。ひとたび発生すれば、閉店を余儀なくされることもあり、チェーン展開していればすべての店舗に影響が出ます。
そのようなことにならないために、食中毒の落とし穴となる5つのパターンと対策を考えていきます。

 

夏場だけのものではなくなった食中毒

以前は食中毒と言えば、春から夏の気温の高い時期に多く発生するという考えが主流でした。今でもそう思っているとすれば、それは大きな落とし穴です。食中毒は、季節を問わず発生しています。

食中毒の月別発生状況
出典:厚生労働省「平成29年食中毒発生状況」

上記は厚生労働省が発表した食中毒の月別発生状況です。
これを見れば分かるように、夏場よりも冬場の方が多くの患者が出ています。事件数で見ても、平成27年度は、1月、3月が突出して多いことがお分かりいただけるでしょう。

これは、食中毒の発生原因が多岐にわたるようになったために起こっている現象です。例えば、手指の化膿創で繁殖する黄色ブドウ球菌や、加熱不十分なことが問題となる病原性大腸菌は季節を問わず発生します。また、二枚貝で多く発生すると言われてきたノロウイルスは冬場の方が多いことが知られています。つまり、「冬場だから食中毒が起こりにくい」という考えは甘いのです。

 

食中毒の発生施設は、飲食店が半数を占める

飲食店には「食品衛生責任者」をおき、お客から見える場所に掲示しなければならないと決められています。また、家庭内に比べると格段に徹底された衛生管理をしていると感じる人も多く、「自分の店は食中毒とは関係が薄い」と思っている人が多いようです。ところが、それは大きな落とし穴と言えるでしょう。

ここに示すのは、食中毒発生の原因施設別患者数のグラフです。

食中毒施設別患者数
食中毒発生の原因施設別患者数のグラフ
出典:厚生労働省 平成29年食中毒発生状況

これを見ると、飲食店が約半数を占めることが分かります。家庭に比べ、1件あたりの患者数が多いことを差し引いても、全体の半数を占めるのは問題です。食中毒は決して遠い存在ではないと言うことです。

 

消毒や手洗いだけでは食中毒は排除できない

食中毒を防止するために手洗いと消毒を徹底しているという店舗もあるでしょう。ところが、それだけでは防止できないのが食中毒です。これも落とし穴のひとつです。

以下は、食中毒の病因物質別の発生状況を示したグラフです。

 

食中毒物質別発生状況
食中毒の病因物質別の発生状況
出典:厚生労働省 平成29年食中毒発生状況

 

これを見ると、ノロウイルスが51.6%と際立って高いことが分かります。平成29年はノロウイルスによる食中毒発生は少なかったと言われていますが、それでもこれだけ発生しているのです。そして、ノロウイルスは、食品の中に存在するウイルスを原因として発症します。そのため、手洗いや食品表面の消毒を行ってもウイルスがなくなることはないのです。

食中毒を予防するには、ひとつにことを徹底しても意味がありません。できること、すべてを徹底しなければならないので注意してください。

 

ノロウイルスに関しては、お客様の管理も徹底しなければならない

ノロウイルスについては、さらに注意しなければならないことがあります。それは、お客様がウイルスを持ち込み、広がる可能性があると言うことです。これは最大の落とし穴とも言えるでしょう。

ノロウイルスの潜伏期間は24~48時間。「ちょっと体調が悪い」程度で飲食店に出かけ、急速に症状が進むこともあります。その結果、嘔吐をしてしまうと、それを原因として二次感染を引き起こすのです。たとえ原因が、店外でノロウイルスに感染したお客でも、店員が掃除をしたことで食品に感染し、そこから食中毒が起これば、お店がノロウイルスを広めたことになってしまいます。

これを防ぐために、「嘔吐物処理セット」を常設する飲食店が増えています。内容はセットによって若干違いますが、嘔吐の処理に必要なものが一式入っています。使い捨てのサロンと手袋、処理のためのペーパーやそれを集めるためのちりとり、殺菌のための薬剤などが専用バケツに入っており、処理をしたらそのまま廃棄します。

酒類を提供するお店では飲み過ぎか食中毒かが分からないこともありますが、「嘔吐はすべて処理セットを使う」としているところも少なくありません。コストはかかりますが、リスク回避には欠かせないということです。

また、意外に盲点になるのが、従業員の靴底。嘔吐物は想像以上に広範囲に飛沫が広がります。また、それを踏んだお客が店内を歩き回っていることも考えられます。それを従業員が踏み、厨房内の持ち込んでしまうケースがあるのです。ウイルスを厨房内に持ち込まないためには、薬剤で靴底を消毒することを徹底する必要があるでしょう。

 

うっかりミスが原因となる化学性食中毒

化学性食中毒の発生も、落とし穴と言えます。
飲食店では食材を殺菌するのに、薬剤を使うケースがよくあります。例えば生野菜。これは加熱処理することはできません。その一方で、畑で栽培しているため大腸菌が付着しており、流水洗浄だけではゼロにすることはできません。そのため、次亜塩素酸ナトリウムなどの薬剤を使った殺菌を行っているところがあるのです。

飲食店では、薬剤を一斗缶で購入するケースがありますが、これを食品が入っていた空き容器に移し替えて使用しているケースがあり、誤用が発生します。明らかな人為的ミスですが、アルバイトが気づかずに使用したり、急いだためにうっかり間違ってしまったりするようです。毎年のように報告されている例ですので、薬剤を食品が入っていた容器や似た容器に入れないことを徹底することが最大の防御策となります。

 

食中毒を起こすとどうなるか

食中毒を起こしてしまい、保健所に原因を特定されると営業停止処分を受けることになります。こうなると、その期間の売り上げがなくなります。この期間は3日程度。ただし、その影響はそれだけではありません。

ひとたび食中毒を起こしてしまうと、近隣には「あのお店は食中毒を出した」という噂が広まります。一度広まった噂は尾ひれがついて、さらに拡散されることもあるでしょう。こうなると営業を継続するには相当な努力が必要となります。これまでに食中毒を起こした飲食店や食料品店が閉店を余儀なくされたことを見ても、信用回復が一筋縄ではいかないことは容易に想定できるはずです。飲食チェーンの場合、影響があるのは1店舗だけでは収まらないことも覚悟しなければなりません。

さらに、食中毒を発症したお客には損害賠償を支払うこととなります。あるレストランの事例では、20名のお客に対し600万円の賠償金を支払っています。これには、飲食代のほか治療費や慰謝料、また仕事ができなかった期間の休業補償などが含まれます。他にも、大規模なものでは数千万にも及んだという事例もあります。

 

食中毒の基礎知識

では、飲食店で食中毒を起こさないためには、どうすればよいのでしょうか。その対策を考えていきましょう。

食中毒菌は外部から持ち込まれ、それが時間の経過とともに増殖し、体内に入ることで発症するのが基本です。そこで「食中毒予防の3原則」を守ることが重要となります。

食中毒予防の3原則
①菌をつけない(清潔)
②菌を増やさない(迅速)
③菌を殺す(冷却・過熱)

それぞれについて見ていきましょう。

 

菌をつけない(清潔)

店舗は常に清潔にし、整理整頓を心がけます。また、従業員の手洗いを徹底するだけでなく、アルコール殺菌を心がけます。食品に触っていなくても、1時間に1回は手洗いをするのが基本です。
また、食肉や魚介類、野菜はそれぞれ容器に分けて保管し「相互汚染」を防ぎます。冷蔵庫内のストック場所も明確にし、洗っていない野菜と加工した食品をわけて保存することも大切です。場所がないときは袋に入れて際下段に入れます。

さらに、調理加工で使用するまな板などの調理器具も用途に合わせてわけ、二次汚染の防止に努めることも重要です。

 

菌を増やさない(迅速)

食中毒菌の中には、最初から食材中に含まれているものもあり、それらを増殖させないことが重要です。冷蔵冷凍庫の温度管理を徹底し、仕込みなどの作業は迅速に行います。

冷蔵庫: 庫内温度 5℃以下
冷凍庫: 庫内温度 -18℃以下

また、庫内の温度計は冷風が回ることで一定に保たれます。そのため、庫内に食材が詰め込まれすぎた状態では、場所により温度が下がりませんので、適量を心がけます。また、仕込んだ食材は、製造時間や賞味期限などを分かりやすく書くようにすることも重要です。

 

菌を殺す(冷却・過熱)

食材は十分な冷却と加熱を行うことで死滅させます。加熱処理の場合、食品の中心部温度を75℃で1分以上加熱すれば、ほとんどの細菌は死滅します(ノロウイルスは85℃、1分以上)。
ただし、中心温度が規定の状態にならなければ意味がありません。表面が焦げるほど熱くても、中心温が上がっていなければ殺菌効果がないことを十分理解しておく必要があるでしょう。専用の温度計を使い、調理時間が十分か、火加減は適切かを定期的に計測するようにします。このとき、揚げ物や焼き物は食材の中央部を、煮物や炒め物は最も熱が通りにくい食材の中心温度を測定するのがポイントです。

 

万が一に備えて、保険に入ることも重要

飲食店にはさまざまな保険がありますが、食中毒を扱った保険に加入しておくことも重要です。そのひとつが「食品営業賠償共済」。食品衛生協会会員のための共済保険で、保障限度額5千万円コースと1億円のコースがあります。訴訟となったときの費用を負担してくれるのも特徴ですので、万が一に備えるなら検討してみるとよいでしょう。

ほかにも、各保険会社が用意している「店舗総合保険」というものがあります(名前が違うものもあります)。火災や天災で機器が破損したときに修理代を補填してくれる「店舗への保障」の他、食中毒を出してしまったときの「お客への保障」を行うのが特徴です。また、営業停止になったときの営業補償がついているものもあります。具体的な保障内容は各社により違いがありますので、契約の際にはよく調べるようにしてください。

 

まとめ

細心の注意を払っているつもりでも、いつ発生するとも限らない食中毒。予防のためには、正しい知識と具体的な行動を全スタッフに周知徹底することで、店舗を守っていくしかありません。それでも、思わぬところからほころびが生じることもあります。食中毒菌は目に見えません。だからこそ整理整頓など目に見えることから徹底することが重要と言えるのです。

 


参考

グラフは以下に実数が掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000197212.pdf

 


ライタープロフィール
原田 園子

兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。