オープンから2年以内に潰れる飲食店の確率をご存知でしょうか?なんと6割にも上ると言われています。
10年生き残れる飲食店は1割以下とも言われており、逆に言えば9割は潰れるということです。では、その生き残れる1割に残るためにはどうすればよいのでしょうか。
飲食店経営に失敗しないために、経営者が意識すべきことをまとめてみます。

飲食店の出店にはコストがかかる

飲食店はスタートするのに大きな費用がかかる業種です。店舗取得費は地域によってかなりの差がありますが、都内などでは小規模な店舗でも数千万円かかるところもあるほどです。

また店舗造作にもお金をかけなければなりません。こうなると、開業したからには何としても失敗はしたくないと考えるのは当然です。それでも失敗している店舗が多いのですから、いかに飲食店経営が難しいのかがお分かりいただけるでしょう。

特に、近年のアルバイト人件費の値上がりは雇用側から見れば異常とも言え、多くの飲食店が様々な工夫をしなければ生き残れなくなっています。これも大きな問題であり、これから先、5年、10年と店舗を経営していくには、なんとかしなければなりません。

そこでもっとも重要となるのは経営者の意識と行動です。以下に特に意識すべきことをまとめました。

その1.高騰する人件費の対応策を考える

経営には徹底してコストの無駄を省くことが重要です。しかし、上昇を避けられないものがあります。それが最低時給です。

10年前(2011年)の最低賃金の全国平均は737円でした。それが2021年には930円にまで上がっています。実に約1.26倍です。

店舗の売り上げや原価率が変わらなくても人件費がこれだけ上がれば、経営はうまくいかなくなって当然です。逆に言えば、10年間経営を続けてきた飲食店は、この人件費高騰問題を何とかしてクリアしてきたわけです。

商品単価を上げる一方、原価を下げることにも取り組んできたことでしょう。ですが、あまり高くしすぎたのでは店舗の利用頻度が落ちるため、逆に売り上げを確保するのが難しくなります。このさじ加減は難しいポイントとなります。

関西で居酒屋を13店舗経営するオーナーの話によると、「生き残っている最大のポイントは人件費をどうやって有効に使うかだ」とのこと。

オープン前に何人もの料理人が来て仕込みをするのでは人件費がかかりすぎて、時代にそぐわない。店舗の営業時間が17時から24時までなら、それだけで拘束時間は7時間となります。1時間の休憩をいれると、店舗に拘束しておけるのは9時間まで。こうなると仕込みに回せる時間はわずかになります。

一方、店舗はずっと忙しいわけではなく、暇な時間や暇な曜日があります。事前に来て集中的に仕込みをするのではなく、店舗営業をやりながら仕込みを同時に行うスタイルに変えなければ人材を効率的に使うことはできません

「一部の生鮮食材を除き、翌日に使う食材を前日のうちに仕込んでいます。煮込み料理などは早上がりの料理人が一人だけ早入りして煮込みはじめ、後の人はオープンの1時間前に来るようにしています」(飲食店オーナー)

この仕組みにするために、それまで日曜祝日定休だったのを年末年始を除き年中無休としました。これにより、それまで出店の中心だったオフィス街ではなく、住宅地と駅前立地の中間地点を主な出店地候補としているそうです。

「一部の店舗では、昼から居酒屋営業をしています。ランチ営業ではなく、夜とほぼ同じ営業スタイルです。仕込みの効率化を考えて昼営業をしてみたのですが、予想に反して売れています。コロナ前から好評だったのですが、コロナ禍ではお酒の提供が認められている期間は営業し、さらに集客できました」(飲食店オーナー)

人件費はこれからも高騰するのは間違いありません。打てる手はいろいろ考えられますが、早めの対策が功を奏しそうです。

その2.どこでもスピーディに数値が把握できる体制を整える

今は小規模店舗でもPOSレジを入れるところが多くなっています。ですが、POSレジによって機能が大きく違い、店舗に行かなければ数値を見れないものもあります。

経営者によってはそれでも問題ないと考える方もいますが、スピード重視の今は、その考えが判断のスピードを鈍らせているかもしれません。

ここでもある店舗の実話を紹介します。

この店舗は30代のご夫婦がはじめた飲食店で、1号店が思いのほか売れたので、早々に2号店をオープンしました。こちらの店長は奥さまです。

オーナーは2店舗の売り上げをタイムリーに把握したいものの、POSレジに店外から数字を把握する機能はありませんでした。そこで奥さまに、「毎日、必要な数字をLINEで送るように」と指示します。

ところが、この「必要な数字」が日に日に増え、レジ締め作業後の報告作業が膨大になります。そこで奥さまは、新たにクラウドでの管理機能がついたPOSレジの導入を提案したのですが、ご主人は「必要ない」と一蹴。

その後、2号店の売り上げは順調に伸びるものの、商品切れやスタッフ不足でチャンスロスが目立つようになります。店舗運営に慣れていない奥さまは常に疲れ、夫婦でのもめごとが多くなります。

ご主人としては、数字がなければアドバイスができないと主張し、最終的には「そんなに好きにやりたいなら私は店長を辞めます」と奥さまが店に出ることを拒否。やむなく2号店を閉めることとなりました。

これは極端な例ですが、似たような事例はたくさんあり、決してめずらしいものではありません。店長に日計表を毎日書かせFAXで送らせているところもあり、その分の人件費がかかっていることに気づいていないオーナーもいるほどです。

これはパソコンで管理できる機能があれば事足りること。今の効率経営にクラウドでの管理機が付いたPOSレジは欠かせません。必要な機能がないなら替えた方がよいと言えるでしょう


その3.課題を見極める力と柔軟性を持つ

店舗のコンセプトやメインのターゲット層はオープン時にしっかりと立てたはずです。それなら事業計画や経営戦略を実行することが大前提となります。もし達成できないなら、課題がどこにあるのかを冷静に見つけ、対処できるようにしなければなりません。

ディナー高級感を店舗コンセプトにしたはずなのに、ファミリー客が欲しくなり、突然安い皿で家庭的な料理を提供したのでは何がやりたい店なのかわからなくなります。こうなるとどちらのお客もこなくなります。

しかし、オープンしてから、「これは違った」と感じることがあるかもしれません。また市場やターゲットのニーズが変化することもあるでしょう。こうなると柔軟に対応する力も必要になります

よくあるのは営業時間の変更です。23時にクローズしようと考えていたのに、思った以上に終電後のニーズが高く、深夜1時まで営業したほうがよい場合がでてきます。

この場合、単純に「遅い時間に売れそうだから、営業時間を延ばそう」と簡単に考えてはいけません。深夜の時間帯のスタッフを増やせば人件費はかさみます。それが残業代と重なれば、通常時の1.5倍以上の時給を払うことになります。

また1時まで営業すれば、帰れない従業員がでてきます。こうなると1時ではなく、始発を考えた営業時間にした方がよいかもしれません。

このように経営者として考えなければならないことは多くありますので、決断力と実行力も重要となります。

その4.コストマネジメントを徹底する

飲食店は日銭を得る商売です。毎日入金があると気が大きくなり、金銭管理が甘くなる人がでてきます。しかし、日銭は入ってきても、まとまったお金が入ってくることはありません。この恐ろしさを知らなければ、成功することはないでしょう。

金額が大きいものの代表は家賃。また飲食店の仕入れは業者を使っていることが多く、翌月にまとめて払うのが一般的です。つまり1年で一番忙しい12月の仕入れと人件費を、売り上げが少ない1月に払うわけです。

また年間を通してみれば税金も払わなければならず、日銭だからこその難しさを感じるはず。経営者は日々の売り上げを見るのではなく、店舗の売り上げと経費を把握し、利益を計算した上で、毎月の支払から納税までをマネジメントする力を身に付けなければなりません

その5.マーケティングと売り上げのバランス感覚を磨く

売り上げを追うあまり、マーケティングにお金を払いすぎるケースもあるので要注意です。

コロナ前の事例ですが、都内のターミナル駅近くにあった居酒屋は、駅階段への看板掲示、ポータルサイトへの宣伝広告と有料メール配信等のマーケティングを積極的に行っていました。しかも有料メールで配信していたのは割引クーポンです。

最初は売り上げに対して宣伝広告費は何パーセントと決めていたのですが、いつの間にかオーバーするようになります。気付けば、売り上げが振るわないとポータルサイトから有料メールを配信するようになりますが、そこで宣伝するのは割引コース。

結果は利益がなく、売り上げが上がるほど赤字が膨らむ結果となりました。コロナ禍になり、早々に閉店したのは言うまでもありません。

マーケティングに力を入れたい気持ちは分かりますし、マーケティング会社の話は魅力的で妄信しがちなのも分かりますが、すべての責任は経営者にあります。冷静な目を持つべきであり、時には減収増益を目指すべきかもしれません

その6.スタッフと対話し、物事を確実に伝える

飲食クラウドファンディング職人の「背中を見て学べ」という体質は時代遅れだと言われますが、これは経営者にも言えること。「これくらいは分かってくれているはず」「わざわざ言う必要はない」「1回言ったから伝わっているはず」という考えは間違っています。

特に飲食店はアルバイトが多く、人の入れ替わりが激しい業態です。1回言ってすべてのスタッフが理解できるほど簡単な世界ではありません。

同じことを何度もいい、伝わっているか確認し、忘れていないか定期的に再確認する。それをすべての人に行うくらいのマメさが必要なのです。

特に全スタッフが共有するべき目標や方向性は繰り返す習慣をつけるべきです

その7.人を育て夢を与えることで組織を強化する

飲食店を経営する人の多くは多店舗化を計画しています。その際、外部から優秀な人材を連れてくるのもよいですが、強固なチーム作りをするには、スタッフを育成し、その中から要職につく人を見つけるのが賢明です。

多くの成功している飲食店では、アルバイトから店長となった人がいます。その中から複数の店舗を管理する人、会社の役職者になった人もいます。経営者の手で育てたからこそポリシーを理解し、意に沿った行動をしてくれるわけです。

また、スタッフの側も、「がんばれば明るい未来が待っている」と考えるようになり、やる気になる人がでてきます。今は上昇志向が少ない若者が多いと言われていますが、それを仕切るリーダーは今も変わらず上を目指す人であることは変わりません。

もし人材育成が得意でない経営者だと自覚するなら、まずは片腕となる人を育て、役割分担をするとよいでしょう。強固な組織は業績も伸びやすいものです

まとめ

飲食店経営は決して簡単なものではありません。ですが、売り上げを伸ばして利益を上げ、多店舗化すれば多くの雇用を生み出せ、社会的な意義も大きくなるビジネスです。何より自分の意思を理解し、協力してくれる仲間と力を合わせられる素晴らしい仕事でもあります。

これからは人件費も上がり、ますます難しい舵取りをする必要がありますが、効率的な賢い経営を目指し、成功をてにしてください。

《関連記事》

70%の飲食店は3年で閉店する。その理由と経営感覚を身につける方法