新型コロナウイルスの影響で減少した売り上げを補おうと、移動販売をはじめる飲食店が増えています。中には予想以上の売り上げを確保でき、今後の経営の柱にしようとしているところもあるほどです。
この記事では移動販売の可能性をお伝えしたうえで、移動販売をはじめるメリットなどについて解説していきます。



移動販売の売り上げ実例

移動販売のスタイルにはいくつかあります。もっとも一般的なのは、キッチンカーと呼ばれる車を利用したもの。オフィス街やイベント会場などお客の集まる所に出向き、車内に設置したコンパクトな厨房設備で、調理をしたり、盛り付けをしたりして調理品を販売します。

キッチンカーの営業場所はさまざまですし、キッチンカーのサイズや設備によっても売り上げは違ってきます。ここでは筆者の知る中で、特徴的な売り上げを記録した3店舗をご紹介します。

2時間半で11万円売った弁当屋

ひとつめは、オフィス街への出店の例です。アジア料理を日替わりで5種類ほど用意し、お客がその中から2つを選び、ご飯と一緒に提供する弁当スタイルです。価格は1つ1000円。営業時間は平日の11時から14時までの3時間。完売したら終了となります。

使用車両は軽自動車で、車に乗り込むスタッフは2人。この条件で1日あたりの最高売上は11万円でした。しかも、1時半には完売して終了したため、実質的な営業時間は2時半です。

飲食店であれば3時間で11万円という売り上げは決して珍しい数字ではないのかもしれません。しかし、スタッフ2人で売り上げた金額としては驚きの数字ではないでしょうか?

イベント会場で1日50万円を売るカレー屋

続いてはイベントに出店した例です。使用車両はアーバンサポーター(クロネコヤマトの宅急便でよく見かける車両の後継車)とサポートカー1台。運営人数は車内に調理担当として1人、車外に接客担当が1人、サポートに1人の計3人が基本です。他に店舗で仕込みをするスタッフがいます。

個性あふれるカレーライスを一食あたり1000円で販売。営業時間は10時から19時までで、1日あたりの売り上げはおよそ50万円でした(ドリンク含む)。

この店舗では1日あたり400杯ほどのカレーが出るため、仕込み場で仕込んだ食材をサポートカーで運び、キッチンカーで温めて出すというスタイルで営業しています。ちなみに、1日50万円は決して珍しい数字ではなく、イベントによっては、もっと売っている店舗もあります。

プールに出店し完全に1人営業で月間350万円の売り上げ

最後は、某遊園地内のプールへの出店例です。使用車両は軽自動車(ハイゼットカーゴ)。シーズン中は車を敷地内に常設するスタイルで、単品商品(フランクフルト)を販売しました。この店舗は完全に1人で運営されており、食材業者が運び込んだ食材を車内調理して販売します。1か月(8月)の売り上げは350万円。1人営業だと考えると移動販売でしか実現できない金額です。

いかがだったでしょうか?
イメージしていた移動販売よりも高い売り上げだと感じたのではないでしょうか?

飲食店にはない移動販売の魅力

移動販売の魅力は、お客のいるところに出向いていけるという点です。しかも、イベントごとに場所を変えて出店することも可能となります。

また、営業時に出店料を払う必要があるものの、営業していなくても必ず発生する家賃のような固定費はありません(駐車場代は必要)。坪単価1万円で10坪の店を借りれば、営業できない月でも毎月10万円の家賃が必要となりますが、キッチンカーではこれが必要ありません。今回のコロナ禍のようなとき、負担となるのは固定費だったことを考えれば、これは大きな魅力です。

さらに、初期投資が少ない特徴もあります。設備によってさまざまで、車両によっては数百万円かかるものもありますが、前例のフランクフルト屋で使用した車は内装付きで30万円。店舗を構えるのに比較すると、圧倒的な安さです。

移動販売をはじめるために必要なこと

移動販売とは店舗を構えずに営業を行うスタイルで、広くは竿竹売りや移動スーパー、リヤカーを引いて売る行商なども含まれます。また、食品を販売する場合も、営業許可がいくつかに分かれますが、ここではキッチンカーを使ったものを解説します。

申請は各自治体の保健所に届け出ることになり、許可条件などは自治体により若干変わります(この記事では東京都を例に紹介)。

なお、飲食店の営業許可申請・営業届出に関しては、2021年6月1日に施行された食品衛生法により内容が変更になっています。簡単に言えば厳しくなっているので、十分にチェックしてください。

移動販売をするには仕込み場所が必要

まず重要なのは、移動販売をはじめるには、仕込み場所(営業許可書が発行された店舗)が必要だということです。この記事は飲食店経営をされている方が対象ですので、この部分の説明は省きますが、キッチンカーさえ準備すれば移動販売をはじめられるわけではありません。逆に、店舗があればキッチンカーの許可が要らないわけでもありません。

ちなみに食品衛生法上の仕込み場所とは、以下の行為を行う場所と定められています。

● 食品の調理包装などを行う
● 器具などの洗浄や消毒を行う
● 給水タンクへの給水を行う
● 食品や食品包装などの補完をする

営業車の設備

飲食店を作るときに厨房にさまざまな設備ルールが設けられているように、キッチンカーにも備えるべき設備ルールがあります。これまでは自治体により設備要件が違ったのですが、今回の食品衛生法改正により全国統一になりました。

自動車関係営業許可申請などの手引きより
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kyokatodokede/files/jidousha_tebiki2021.pdf

特に気をつける点として、手洗い設備の基準が厳格化され、水栓は洗浄後の手指の再汚染が防止できなければなりません。自動水栓やレバーなど、ハンドル部を触らない仕様にする必要があります。

また、給水タンクの容量には注意が必要です。簡単な調理や単一商品のみを扱う場合は、約40リットルのタンクでよいのですが、複数の工程の調理をする場合は約200リットルが必要となります。また給水だけでなく、排水を保管することができる設備も必要です。

筆者は、給水タンクは18リットルのポリタンクを複数載せて保健所に持って行きました。また排水も同じタンクを載せ、「給水と同じタイミングで排水タンクを変える」と説明して許可を得ました。しかし、仲間の中には、給水はポリタンクでよくても、排水は40リットル以上のものを取付なくてはならないと言われた人がいました。

実際には、キッチンカーで水を大量に使うことはほとんどありません。殺菌はアルコールでまかないますし、調理道具の洗浄は店舗に戻った後に行うのが一般的です。ルールなので許可を得るときにはタンクを持っていきますが、営業するときには食材を持っていくスペースに変えていました。

食品衛生法は2021年6月に改正されたように、これからも改正され、設備基準は厳しくなります。車内設備を作ってくれる業者も増えていますが、最新のルールを把握していないところもあり、後から対応できない構造にすると後悔することになります。事前に保健所に相談に行き、最新の情報を得ることをおすすめします。



営業場所の決め方

キッチンカーの営業許可が下りれば、次は営業場所の確保となります。

営業場所の確保の仕方については、2つのパターンがあります。出店場所を斡旋してくれる業者を利用する方法と、自分で開拓する方法です。

斡旋業者に販売スペースを紹介してもらう

移動販売スペースの斡旋業者には、以下のようなところがあります。

Mellow(メロー)
ネオ屋台村
自由市場

業者を使う最大のメリットは、個人では出店できないような大型イベントや、売上が確実に見込めるオフィス街などに出店できることです。
その一方で、場所代が発生します。この額はさまざまですが、売上を案分する場合、15%前後のところが多いようです。

営業場所を自分で探す

自分で出店場所を確保する場合、毎日行き当たりばったりで場所を探すのでは不安です。場所を決めてチラシを配り、固定客がつくような営業スタイルを目指します。

日中空いている車庫や月極駐車場を借りるのが一般的ですが、キッチンカーでの営業を認めていないところもあるので注意が必要です。

一か所に毎日出店する方法もありますが、他の移動販売車と協力して、日替わりで移動販売車が来る場所とする方法もあります。この場合、駐車場代は出店者で分担します。

キッチンカーではデータが命!

キッチンカーを利用した営業は作業スペースが限られるため、いかにむだをなくし、売れる商品を車内に持ち込むかがキーとなります。

こうなるとデータが重要。最近はポケットwi-fiなどを使って、POSレジを活用するケースも増えています。

POSレジから得られたデータをもとに、売れ筋商品を具体的な数字で把握。サポートカーで食材を運ぶ場合でも、何時に何をどれぐらい仕込んで運ぶのかを知ることが可能になります。

POSシステム最初に紹介したカレー屋の場合、基本的には車内で無洗米を炊くのですが、限られた電力の中では炊飯器を複数利用することはできません。このため、ピーク時は仕込み場所で米を炊いて運びます。その時、「タイムリーに数字を見れるPOSレジがあれば、キッチンカーからの指示がなくても仕込みができるので、必須アイテムのひとつです」と話していました。

また、売り上げによって場所代を決めている場合、POSレジの導入を必須としているところもあります。さらに、POSレジを使えばキャッシュレス決済も可能になり、現金を用意する量が減ります。これであれば、お客にとっても店舗にとっても利便性が上がります。


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まとめ

移動販売は人出の多いところに積極的に売りに出られることから、固定店舗とは違う戦略が必要になります。しかし、イニシャルコストと固定費が低く抑えられ、コロナ禍に限らず、今後も積極的に活用しようとしているところが多くあります。
今ならキッチンカー製造にかかる費用などを助成金でまかなえるケースもあります。興味のある方は、この機会に調べてみてはいかがでしょうか。

 

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