飲食店は、客商売です。故に、お客の言うことを聞くのは当然です。しかし、その一方で、お客の言い分を聞きすぎたばかりに振り回されてしまい、あるべき姿からブレてしまったり、最悪の場合、閉店に追い込まれたりする店があるのも事実です。
今回は、お客の「いいなり」と「声を聞く」ことの違いを踏まえながら、WEBのレビューやお客様アンケート結果をどう店作りに活かしていくのかを深掘りしていきます。

 

 

お客の声を聞くのは重要だが・・・

「飲食店なのだからお客の言うことを聞くのは当然」という考え方は、とてもまっとうで、当たり前のことです。飲食店はお客の声を聞き、それにダイレクトに応えることによって店舗運営が成り立っています。
また実際、「店舗での接客が楽しい」と答える人の中には、このダイレクトさに面白みを感じている人が多いのも事実です。

しかし、その一方で、日本の飲食店はチェーン店を中心に、「お客の言うことを聞きすぎる」とも言われています。「お客のためにできることは全てする」ということが美徳とされる中、それがちょっとした判断を狂わせ、店舗運営にマイナスとなっていることもあるのです。特に個人店や小規模な飲食店でこれをやってしまうのは非常に危険です。
ある事例を見てみましょう。

ある焼き鳥店がお客様アンケートを見て下した決断

ある焼鳥のチェーン店の例です。その店は甘めのタレと濃いめの塩が人気の炭焼き店で、全国展開を目指し、すでに数店舗をオープンさせていました。そして、さらに店舗を増やそうと思った矢先、時代の変化もあり、売り上げが落ち始めました。

そんなとき、経営者がある決断をします。それが「お客さまの言うことに耳を傾けてみよう」ということでした。もちろん、それまでもお客を無視してきたわけではありません。ただ、より多くのお客の意見を聞いてみたいと思い、店舗にアンケートを置き、積極的に声を集めてみることにしたのです。

その中に、以下のようなことが書かれていました。
・焼き鳥のタレの味が甘い。
・焼き鳥のタレの味が濃い。
・焼き鳥をもっとよく焼いて欲しかった。
・焼き鳥をもっとレア気味に焼いてくれる方がよかった。

これを見た経営者は、「焼き鳥のタレのレパートリーを増やそう」と考え、同時に「焼き鳥の焼き加減を聞こう」という風に考えました。

その結果が招いた経営の危機

さて、この焼き鳥の焼き加減を聞き、タレのレパートリーを増やしたことによって、遠のいていた客足は伸びたでしょうか?
答えは、ノーです。
その理由を探って行きましょう。

焼き鳥まず、その焼き鳥店は甘めのタレによる個性的な味をウリにしていました。開発に2年を要したというタレは、個性的でクセになるという人と同時に、アンチと呼ばれる人も多く存在していました。そんな人たちを巻き込むため、薄味で甘みを抑えさっぱりとした味のタレを投入したのです。ところがこのタレは渾身の・・・というのには程遠く、一般的な味わいでしかありませんでした。その一方で、お客の多くは、「一般的な味わい」と書かれた新たなタレの方を好んでオーダーし、結果的に「どこにでもありそうな焼鳥屋」という位置づけになってしまったのです。

さらに、焼き加減を聞いたことにより、オペレーションが混乱します。「この焼き鳥は従来のタレをつかってよく焼く」「こっちは塩で焼きを甘く」という指示も混乱。さらに、それを聞くためにオーダーを取るのにも時間がかかり、「あの店は焼き鳥が出てくるのが遅い」と評判になってしまいました。結果的に、客足はますます遠のき、チェーン展開はおろか既存店の存続まで危ぶまれてしまったのです。

これを見て、似たような経験があると感じる店舗も多いと思います。
アンケートや口頭でお客の声を聞き、よかれと思って変更をしたのに、それによってオペレーションが混乱したり、客足が遠のいたり・・・。「お客の声を聞いたのに、なぜだ?」と疑問を感じている方も多いことでしょう。

二郎系ラーメンとスタバのフラペチーノは、なぜか流行る

そもそもお客の声というのは、非常に重要なものである一方、偏ったものでもあります。例えば、今の世の中は健康ブームです。「どんなメニューがあるといいですか?」と聞くと、多くのお客からは「健康的なもの」などという答えが返ってきます。

その一方で、二郎系ラーメンは非常に流行っています。二郎系ラーメンのカロリーは、普通のラーメンで約1400キロカロリー。大盛りは、2200キロカロリーです。「健康的なメニュー」とはほど遠いものですが、どの店も行列ができています。

Frappechino「二郎ラーメンを食べる人にヘルシーなものが好きな人はいないでしょう」という方のために、スターバックスの例も上げてみましょう。スターバックスでは、以前は夏場にしかなかったフラペチーノ系のメニューが冬場でも人気になっています。特に人気の季節限定ものの場合、500kcal近くある(トールサイズ)ことも珍しくありません。女性の1日の栄養摂取量は1800~2000kcal。ここで500キロカロリーを消費してしまっては、残りは非常に少なくなってしまいますが、それでもこぞってオーダーするのです。

どちらも、お客の「健康的なもの」という要望からはかけ離れていますが、圧倒的に支持を得ているのです。

お客の声を丸飲みしたのでは、よいところが失われる

上記の例は極端なものですが、洋食の店で「和を意識したものが食べたい」と言ったり、肉ばかりの店で「たまには魚が食べたい」と言ったりするものがあります。また、カロリー控えめなメニューを取りそろえる店で、「質よりも量重視で」などといったものもあります。

では、お客がそのように言ったからといって、それを全部聞き入れることが正しいのでしょうか。

大手チェーンと同じことをしなくてよい

例えば、回転寿司のチェーン店では、糖質オフの食事をしたいという人用のメニューがあったり、お寿司を食べたくないという人のためにラーメンやカレーを用意したりといったことがあります。もちろん、大型チェーンでは、これらは多くのお客を囲い込んで商売をするため必要なことだと考えられます。

しかし、多くの店舗ではこれらは必要ではなく、差別化戦略をとらなければなりません。つまり、より美味しい寿司屋であることが求められているのであって、例え、変わり種の寿司を出すことがあっても、ラーメンやカレーを出すことが求められているわけではないのです。実際、自分が足を運ぶ際も、ラーメンを食べに寿司屋には行かないのではないでしょうか?

お客はアンケートに、思ったままの要望を書きます。しかし、経営的な立場からの意見を求めている訳ではないので、その要望を全て聞き入れたからと言って、お客満足があがるとは限りません。また、「カロリーが低いものを食べたい」と書いたとしても、本当は「美味しいものならばカロリーが高くても気にしない」のかもしれません。そのジャッジは、経営者が行わなければならないのです。

要望の中から実現できることを見つけ出すことの大切さ

お客様アンケートによって、より多くの声を聞こうという姿勢は非常に素晴らしいことです。しかし、肝心なのは、その中からどんな声を拾い上げるかという点です。

まず、「トイレが汚い」とか、「掃除が行き届いていない」などという基本的なことは、すべて聞き入れなければなりません。これは当然です。お客が飲食店に求めることができていないのならば、お客の満足が向上するはずはありません。ここは無条件に改善しなければならないといってよいでしょう。

次に、要望についてです。これは、あくまでも要望であり、必ずしも実現しなければいけないわけではありません。例えば、二郎系ラーメンでヘルシーな商品が欲しいと書かれていたとしても、そもそもヘルシーメニューを求める人は二郎系ラーメンに行きませんので、揃える必要はありません。その一方で、「あまり量は食べられないけれど、二郎ラーメンは好き」という人のために、量が少ないラーメンを提供する方法はあります。

要望はひとつの意見として聞きつつ、それをヒントに自分たちでやれることが何なのか、また、その要望を満たす、自分たちなりの考え方はどんなものなのかということを考えることが大切なのです。

声が大きい人ほど、よく聞こえるのがお客様アンケートの難点

アンケートやWEBのレビューは、声の大きい人の要望ほど大きく聞こえ、心に残るという特徴があります。例えば、食べログに残ったレビューなどは、「美味しかった」という声よりも、「期待を裏切られた」というほうが大きく、インパクトがあります。もちろん、これらの声に対する対処はしなければならないのですが、かといって、それに捕らわれる必要はありません。

特に最近は、炎上を恐れて無難な店作りをする傾向もあり、過剰にお客の声を聞こうとする傾向があります。そんなことではマイナスもない分、プラスもないという「可もなく不可もない」店になってしまいますので注意が必要です。しかも、「炎上している」と言われているサイトを見ても、実際は擁護する意見の方が多い例もたくさんあります。ここは冷静に、正しい目を養うようにしましょう。

ラーメン屋にはラーメン屋の、焼鳥屋には焼鳥屋の守るべきものがあり、それに付け加えるべきものがあるはずです。今一度、自分の店のウリを見いだした上で、お客の要望をどう聞いていくべきなのかを考えるようにしてください。弱い時ほど、ウリを前面に出さなければいけません。強い心で、鈍感力を身につけなければならない面もあるということです。

まとめ

飲食店では、お客の声を聞こうということに注意が向きがちです。もちろん、それは非常に重要なことですが、聞いた結果をそのまま行動に移したのでは、帰って店のよさまで失ってしまいます。特に店の状態が傾いてきた時にはそのようなことが起こりがちです。

店舗にとってプラスなことは何なのか、忘れてはならないことは何なのかを考えながら、そのときにできることのベストを実践することが大切。お客のいいなりになることと、声を聞くことの間には、大きな違いがあります。苦しいときや、大きくステップを踏み出したいときこそ、正しくお客の要望をくみ取るようにしてください。


 

ライタープロフィール
原田 園子

兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。