飲食店が防犯カメラを取り付けるケースは以前からありました。最近は、カメラ技術が進化し、マーケティングへの活用や、サービスレベルの向上のために活用できるようになってきました。
新たなカメラはどのようなことができるのか?
それにより、どのようなメリットがあるのか?
現状を探ってみたいと思います。

 

 

 

これまでのカメラの使われ方

まずは、これまでのカメラの使われ方を整理しておきましょう。主に、以下のように分類できます。

① 状況をリアルタイムに確認するカメラ
② トラブルの防止や、トラブル発生時の原因を追及するカメラ
③ 遠隔地から状況を把握しリアルタイムに指示をするほか、改善に役立てるカメラ

では、それぞれについて見ていきましょう。

 

①状況をリアルタイムに確認するカメラ

多くの人が飲食店に取り付けるカメラといってイメージするのは、この「①状況をリアルタイムに確認するカメラ」でしょう。例えば、2階建て、3階建てのファストフード店など、お客が自ら席を選んで利用する店舗などで活用されています。カメラは客席全体が見えるように配置され、映像はお客も見ることもできます。また、このシステムを使用し、キッチンや事務所からも混雑状況を把握し、指示を出せるようにしているケースもあります。録画機能は持っていないことがほとんどで、あくまでも、そのときの状況を確認することに重きが置かれているのが特徴といえるでしょう。



②トラブルを防止や、トラブル発生時の原因を追及するカメラ

いわゆる「防犯カメラ」と呼ばれるもので、コンビニなどに取り付けられているものと同じ機能を果たします。飲食店では主に、レジ付近や券売機など金銭を扱う部分を映しているほか、店外の専用階段や駐車場などに設置されています。トラブル発生後の原因究明に使用されることを主な目的としており、最近では、渋谷の繁華街の店舗が券売機に水をかけて故障させられた際、映像によって犯人を特定し、賠償をさせたのがニュースになりました。

厨房イメージまた、このカメラの撮影対象となるのはお客だけでなく、従業員であるケースもあります。厨房を撮影して食の安全性を確保したり、スタッフによる金銭トラブルを確認したりといった内部不正の防止に役立てます。

トラブル防止のために活用するカメラ設置では、「カメラがあること自体が抑止力になる」との考えから、ダミーのカメラを設置しているケースも多くあります。10年くらい前まで、「それなりに知識のある人なら、一目見れば偽物と分かる」という程度のものが多かったのですが、最近は1千円~5千円程度と非常に安価でありながら、いかにも録画しているようにライトがつくなど、本物と見分けがつかないものも多く販売されるようになりました。

 

③遠隔地から状況を把握し、リアルタイムに指示をするほか、改善に役立てるカメラ

例えば、複数店を経営するオーナーが各店舗の状況をまとめて把握するためのもので、スマホやパソコンから確認できるようになっています。リアルタイムに状況を把握するほか、録画機能を使って問題点を確認、分析し、改善に役立てる目的で使用されます。
また、マーケティングに必要な分析のための状況把握ツールとして活用しているケースもあります。

上記のように、これまでのカメラはさまざまな用途に使用されてきました。より正確な状況を把握するために、カメラ自体は高解像度になりました。長時間録画をするケースでは、その容量を減らすために色を落としてモノクロに近い状態にしながらも、細部まで把握できるようになっています。

 

新しいカメラの使われ方

カメラはさまざまな進化を遂げていますが、近年ではさらに用途に合わせた機能を付加する動きがあります。

映像だけでなく、音も一緒に保管できるカメラでトラブルを防ぐ
これまでの防犯カメラは、映像だけを残すものがほとんどでした。ところが、飲食店では、「言った、言わない」といったことがよく発生し、そこから大きなトラブルになってしまうケースがあります。
また、お酒を扱う飲食店では、従業員に対する言葉の威嚇なども発生し、映像だけでは不十分と考えるケースもあります。

そこで、集音マイクとあわせてカメラを設置し、トラブル対策を行うシステムが登場しています。

 

顔認識を活用し、即座にVIPや要注意人物に対応する

接客イメージ最近はAIを活用することにより、顔認識をかなり正確に行えるようになりました。
お客の中には、VIPとして対応をすべき人やグループがあります。ところが、アルバイトや経験の浅い社員は、それらの人を認識できず、時として失礼な態度をとってしまうのです。そこで、入り口に顔認識ができるカメラを設置しておき、VIPを識別するケースがあります。識別した情報は店長やオーナーのスマホなどに連絡が行くようにも設定でき、適切な指示を出せるというわけです。

また、この顔認識機能は、逆の使用もできます。例えば、店内の物品を破損した過去があるなど迷惑行為をした要注意人物の来客をいち早く把握することで、新たな被害を防いだり、時には利用自体を拒んだりすることにつなげます。

この顔認識の技術は時に大きく注目を浴びており、今後活用が広がっていく分野として注目を集めています。

 

マーケティングデータを取得する

前者は、過去の利用歴によって個別に顔認証を行うものですが、個人を特定せず、属性判断のみを行うカメラも設置されています。

例えば、飲食店の場合、POSレジに人数を入力しているケースがあります。これをさらに詳細に分析できるシステムと言えばわかりやすいかもしれません。何人が何時に来店し、それぞれがどのような属性で、どういった注文をし、滞在時間がどれくらいだったかといった詳細なデータを取得します。これにより得られたデータをマーケティングに活かしていきます。

小売業などでは、顧客の動きを温度変化で把握するヒートマップカメラや、年齢や性別を判別するカメラ、店内POPを見る目の動きを測るカメラなどを設置しているところも出てきました。これにより、実際の購買がどのような流れで行われているのかや、複数のマーケティング施策の比較を行ったりするのです。マーケティングをデータで行う時代になったと言われて久しいですが、そのデータはより詳細になっており、そこにはカメラ技術が大いに活用されているわけです。飲食店にもこの技術が応用される日は違いことでしょう。

 

お客を撮影する際の注意

店内外に向けたカメラで撮影する映像が個人識別可能な場合、「個人情報の取得」にあたります。そのため、次のようなことを明示しておかなければなりません。

  1. 設置管理者や保存データに関する責任主体
  2. 相談や質問を受け付ける連絡先
  3. 撮影することによって客が得られるメリット

これらは、ポスターの掲示のほか、サイトへの掲載などで告知する方法がとられています。
また、6 ヵ月を超えてデータを保存する場合は「保有個人データ」に該当します。この場合、開示請求に対応する必要が出てきますので十分に注意しましょう。詳細については、総務省と経済産業省が発表している「カメラ画像利活用ガイドブック」などを参照することをおすすめします。
http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180330005/20180330005-1.pdf

 

従業員の作業効率を上げ、トラブルを防ぐ

接客イメージ従業員を監視するという目的のカメラにもAIが搭載されるケースが増え、めざましく進化しています。
店内に多くの従業員がいる場合、それぞれの作業状況を把握することは難しくなります。効率的な人員配置とムダを省く目的でカメラを設置するケースがあるのはこれまでにもありました。最近は、そこにAIを活用し、作業風景を撮影して動線分析をし、効率的な作業が可能な厨房内に改善したり、客席を配置換えしたりするケースがあります。こうすることにより、ムダのない作業が可能となります。

 

従業員の怪しい動きを監視する

レジ操作イメージレジ付近を中心に撮影し、従業員による内部不正を発見することに注目したシステムも開発が進んでいます。AIに怪しい動きを学習させ、類似した不審行動をした場合、アラート表示したり、店長のスマートフォンに警告を出したりといったものです。

残念ながら内部不正は決して珍しいできごとではありません。それが発生した際、全員を疑うことで人間関係がギクシャクしてしまいます。また、これまでの監視カメラは、不正のシーンを探し出すのに時間がかかりました。こういったシステムを活用することで、内部不正があったときに対応できるほか、不正の発生そのものを防ぐ役割も果たせることは大きな役割となります。



従業員を撮影する際の注意

従業員を撮影する場合は、お客を撮影する場合とは違い、周知がしやすく、法的な問題のクリアも容易です。設置する際には、以下を明確にしておきます。

・利用目的を明確にし、全従業員に告知する
・カメラ設置の責任者と権限の範囲を明確にする
・社内規定を策定し、事前に徹底しておく
・利用状況について、第三者がチェックする

ただし、上記を明示したからといって、何でも録画して良いと言うことにはなりません。例えば、更衣室の撮影には十分な配慮が必要でしょうし、メールの内容を見るなどの行為は個人情報の保護に関する権利を侵害していることになります。やり過ぎた監視は、従業員のストレスにもなりますので、最善の注意を払うとともに、質問されたときや疑問を呈された場合には、十分な説明を行うなど、真摯に対応する必要があります。

 

まとめ

カメラの設置は、監視や防犯と言ったイメージが定着しており、決してプラスイメージが高くはありません。ですが、カメラの機能が上がったことで従業員の身を守るだけでなく、マーケティングに応用したり、接客レベルを向上させたりといった新たな可能性も出てきています。今後は、そういったプラス要素を多く含んだ使われ方が増えていくでしょう。

今回は、店内に設置するカメラについて説明しましたが、タブレット端末に設置したカメラを使って属性に合わせたサジェストを行うなど、これからの飲食店にはカメラはなくてはならない存在になっていきます。効率的でレベルの高い接客の実現のために、最新の技術を自社にも採用してはいかがでしょうか?

 


ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。