近年、ニーズが高まっていることの1つに、ベジタリアン(菜食主義者)への対応があります。コロナ前までもニーズはありましたが、「扱っていない」といえば受け入れられていました。

ところが最近では、ベジタリアン対応メニューのニーズは上がっていると感じています。なぜなら、インバウンドの増加に加え、日本人の中にもベジタリアンが増えているからです。とはいえ、メニュー全体をベジタリアンに対応するのは大変です。

そこで今回は、既存のメニューに一手間加えることでベジタリアン対応メニューに変える方法を考えます。

ベジタリアンとは?

まず、ベジタリアンの定義を明確にします。細かい分類を覚える必要はありませんが、ベジタリアンといってもいろいろな種類があることは知っておいた方がよいからです。

ベジタリアンは、1840年頃にイギリスのマンチェスターで始まったと言われてます。元々は宗教的教義や生命の尊厳に基づいたライフスタイル運動だったようです。語源は、「健全な、新鮮な、元気のある」という意味のラテン語「vegetus」です。

基本的にベジタリアンは、肉や魚などの動物性食品を取らず、豆類や野菜、穀物などの植物性食品だけを摂取する人のことを指します。「当たり前では?」と感じたかと思いますが、実は一口にベジタリアンと言っても、さまざまなものに分類されるのです。

例えば、卵や乳製品も取らない、ある意味、ピュアなベジタリアンを「ヴィーガン」と呼びます。ヴィーガンもベジタリアンの一種であるということに意外性を感じる方もいるでしょう。

世間を騒がすことの多いヴィーガンは、肉・魚介類・卵・乳製品を一切口にしないことはもちろん、動物の搾取につながることはしないという考えがベースになっています。つまり、蜂蜜も摂取しませんし、革製品やシルク、ウール、ゼラチンなどの動物性の製品を身につけることも禁じています。

中でも厳格なのが「フルータリアン」です。彼らは植物性食品でも、その植物自体を殺さない食品しか摂取しません。例えば、トマトやリンゴなど木になる果実は、それを食べても木自体に影響がないので食べても問題ありません。ただし、人参などは果実を食べることで植物自体を殺すことになるため、食べてはいけないというものです。こうなると制約が多すぎて、何を食べるのも大変そうです。

一方、ベジタリアンであっても乳製品は口にしてよいという人を「ラクト・ベジタリアン」。乳製品はもちろん、卵もOKという人を「オボ・ベジタリアン」と呼びます。

ちなみに、ベジタリアンに似たものに「マクロビアン(マクロビオティック)」があります。これは動物性タンパク質を避けて、玄米菜食の食生活を送る人々のことを指します。厳密に言えば違いますが、使っている食材から見ると似ている部分が多くあります。

なぜベジタリアンなのか?

では、なぜベジタリアンになることを選択しているのでしょうか?

代表的なのは、宗教上の理由です。例えばヒンドゥー教では、牛は神聖な生き物であるため牛肉を食べることはできません。ただし、牛乳は飲んでも牛を殺さないため問題ないとされています。一方で豚は不浄な生き物とされています。そのため豚も口にしません。イスラム教でも、豚肉は「ハラーム」、つまり禁忌の食品であり食べることはできません。ほかにも、ジャイナ教は生き物を殺すことが認められておらず、植物性食品しか食べられません。

もう一つが健康上の理由です。菜食中心の食事は飽和脂肪酸やコレステロールの摂取が少ない一方、食物繊維やビタミンなどの摂取が多くなるため、特定のがんや肥満などの慢性疾患を発症するリスクが抑えられると言われています。とはいえ万能ではなく、必須アミノ酸やビタミンB群、鉄分は不足しやすくもあります。そのため、穀物、豆類、種子類、ナッツ、野菜などさまざまな食品をバランスよく食べることが必要とされています。

この他にも、倫理観をベースにした主義主張としてヴィーガンを選んでいる人もいます。例えば、畜産動物が劣悪な環境下に置かれていることを問題視したり、環境問題に起因するもの。家畜を育てるために本来は人が食べる穀物や大豆を大量に使い、それが食料不足を助長しているといったものなどがあります。

ベジタリアンにもいろいろな人がいることをお分かりいただけたかと思います。

飲食店におけるベジタリアン対応の必要性

店舗としてベジタリアンメニューを揃えているところや、マクロビオティックを特徴にしているところがあります。それは素晴らしい取り組みですが、多くの飲食店ではベジタリアン対応メニューがなく、対応に苦労するという例がたくさんあります。

筆者がベジタリアンのインバウンドと食事に行ったとき、レストランに入ってからベジタリアンであることを知りました。そこで、サラダなら食べられるだろうとシーザーサラダを頼んだところ、たっぷりのチーズと卵が入っていたことで気まずい雰囲気になりました。

これはありがちなミス。ここは細やかな確認が必要となります。

飲食チェーンのベジタリアン向けメニュー

前置きが長くなりましたが、飲食店が対応するベジタリアンの事例を紹介します。

飲食チェーンでもベジタリアン対応メニューを置いているところは増えてきました。

有名なのは IKEA。ミートボールをプラントベースのタンパク質でつくった「プラントボール」として提供しています。これは黄エンドウ豆由来のタンパク質やオーツ麦、ジャガイモ、タマネギ、リンゴから作られているそうです。また、プラントカツカレー、プラントベースソフトクリームなど、食事メニューからスイーツまでプラントベースの選択肢を提供しています。

日本企業にもベジタリアン対応メニューがあります。例えば、CoCo壱番屋の「ココイチベジカレー」は動物由来の原材料を使用していないカレーです。また、モスバーガーの「グリーンバーガー〈テリヤキ〉」は主要原材料に動物性食材を使用せず、野菜と穀物を主原料にしたテリヤキバーガーです。ドトールの「全粒粉サンド大豆のミート  豆と野菜のトマト煮込み」は、大豆ミートを使いながら肉の食感に近づけるよう改良し、スライストマトと、豆や野菜をトマトで煮込んだソースを使ったメニューです。

面白いのはデニーズで、追加料金を払うことでハンバーグメニューを大豆ミートハンバーグに変更できるシステムを採用しています。

一手間でベジタリアンメニューに変更する

前出の飲食チェーンのように、ベジタリアン向けのメニューを開発するのも有効ですが、一般的な飲食店では難しいでしょう。それならデニーズ方式で、ニーズにあわせて食材を変えてしまうのはどうかというのが今回のテーマです。

実は日本には豆を使った料理が多くあり、ベジタリアン対応メニューに変更することはそれほど難しいことではありません。また、ベジタリアンメニューのニーズの高まりから、一般的なスーパーでも入手できる食材が増えています。

では紹介していきます。

肉の代替品

まずは、肉の代替品です。

日本には木綿豆腐や高野豆腐、厚揚げと言うベジタリアンにぴったりな食材があります。例えばハンバーグの場合、木綿豆腐と厚揚げをミンチの代わりにつかうことで似たメニューとなりますし、肉っぽさを追加したいなら、缶入りなどのミンチ肉があります。これをプラスすることで食感もでてきます。

缶入りや冷凍の肉の代替品をオムニミートと呼びます。えんどう豆や大豆などの豆類のほか、穀物から取れるたんぱく質をブレンドして作られています。うま味をプラスするために椎茸などを使っているものもあります。

本物のひき肉よりも栄養価が高いものも多く、環境にも優しいのが特徴です。オムニミートは餃子やタコスなどにも使えます。あらかじめいくつか作って冷凍ストックしておくのもよいでしょう。

もっと気軽に入手したい場合、マルコメの「 ダイズラボ 大豆のお肉」シリーズが便利です。大型スーパーでも販売されていて、乾燥タイプはミンチ、スライス、ブロックの3タイプあり、レトルトがブロックとミンチの2タイプとなります。当然ながら動物性原料不使用。

使用方法も簡単で、レトルトタイプは湯戻しや水切りなしで野菜炒めや回鍋肉などにそのまま使えます。乾燥タイプはお湯にひたすだけで2.5倍から4倍に膨らむので、水気をよく切って使います。

いずれの商品も、家庭用なのでパックが手頃なサイズであることに加え、調理に時間がかからないのが特徴です。

他にも、「おから蒟蒻」という商品も面白いです。いくつかのメーカーからでていますが、いわゆる蒟蒻のように板状で販売されています。焼いたり、揚げたりすると、肉の食感が再現できると言われていて、用途に合わせて切って使います。唐揚げや焼肉風、チンジャオロースなどの中華にも使えます。

また、マクロビオティックでよく使用される「テンペ」も肉の代替品です。これはインドネシア発祥の、大豆などをテンペ菌で発酵させた食品。ブロック状になっていて、外側には白くて細かい毛状の菌糸が生えています。味は淡白ですが、商品によっては納豆やチーズに似た風味があるものもあります。

牛乳の代替品

牛乳の代替品の代表といえば豆乳です。商品によっては牛乳とまったく同じように使用でき、ホワイトソースやシチューも作れます。他にも、アーモンドミルクやオーツミルクなどもあります。

個人的には味的にも価格的にも豆乳が使いやすいかと思いますが、アーモンドミルクやオーツミルクは女性の注目度も高いので、そこを狙っていくのもよいかもしれません。

マヨネーズの代替品

マヨネーズは、卵・酢・油・塩・砂糖・香辛料で作られています。ベジタリアンは卵がNGとなりますので使えません。この代わりとして、「豆乳マヨ」があります。意外とコクがありコレステロールゼロなので、健康を意識する人にもアピールできるかも知れません。当然ながら一般的なマヨネーズよりは高価ですので、追加料金は必須かもしれません。

バターの代替品

バターの主原料は乳ですから、乳製品をNGとしている人は食べられません。それならマーガリンを、と考える方もいそうですが、一般的なマーガリンは原材料に発酵乳や全粉乳、生クリームを使用していることが多く、これもおすすめできません。

そこで「ヴィーガンバター」や「ヴィーガンスプレッド」と呼ばれる商品を使います。これは乳製品や動物性の食材を一切使わずに作られるプラントベースの商品です。ただし、商品によって食感も香りもかなり異なるので、メニューにあっているか、味わいが変化しすぎないかをあらかじめ確認しておく必要があります。

焼き菓子に使う卵の代替品

焼き菓子に欠かせない卵は、生地のつなぎや膨脹剤としての役割を果たします。バナナピューレなどで代替できるメニューもありますが、すべてがバナナ風味になってしまっては問題ありです。そこで、エッグリプレイサーを使います。

これはグルテンフリーで、じゃがいも澱粉、タピオカ粉、重曹、オオバコ殻繊維などからできています。クイックブレッド、クッキー、ケーキ、マフィン、ブラウニー、パンケーキなどを作るのに最適ですが、メレンゲは作ることができません。

メレンゲが必要なときは、アクアファバと呼ばれるヒヨコマメなどの缶の中に入っている液体を使います。この煮汁は粘性があり、メレンゲのほか、パンケーキやヌガーなどを作るのに使えます。乾燥豆をゆでて、自分で作ることも可能で、冷凍ストックもできます。

ヒヨコマメ以外の豆の煮汁でも使えるものがありますが、クセの強さがでてくるので、一般的な使用にはヒヨコマメが一番だと言われています。メニューにあわせて、あえてクセのあるものを探しても面白いかもしれません。

代替品をつかうときのポイント

代替品の中には手間がかからないものや、原価的が安くなるものもあります。筆者はそれでも追加の料金をもらうべきだと考えます。理由は特別扱いであるから。たとえ原価が安いとしても、商品開発や味の調整という手間はかかっています。また、安いからという理由でベジタリアンメニューに変更する人が増えると本末転倒だからです。

また、筆者の考えですが、ベジタリアンは追加料金を払うことで特別感を買っています。追加料金を払って、納得できるクオリティの商品がでてくるほうが喜ばしいとの声も耳にします。そのため、とにかく肉を野菜に変えるという簡単な発想ではなく、メニューにあう食材をしっかりと探し、調理方法を考えて提供することが大切だと考えます。

もちろんこれがすべてではありませんが、一度考えてみてはいかがでしょうか?