飲食店にとって新規客の確保は重要なこと。しかし、なかなか上手くいかないことも多く、行き詰まりを感じるという店舗が多くなります。

そこで提案です。新たなターゲットをと考えるなら、年齢層を上げ、高齢者を狙っていくのはいかがでしょうか?

仮に、「高齢者が来る雰囲気の店ではない」と考えているなら、そもそもの高齢者のイメージが間違っているかもしれません。今回対象にするのは比較的裕福な前期高齢者です。

店舗の雰囲気を変えず、高齢者を取り込む方法とメリットについて考えます。

パワーあふれる高齢者

なぜ高齢者を狙うことが有利に働くのか?
それは絶対数が多いから。そして時代の移り変わりと共に、高齢者側の感覚が変わってきているからです。

「高齢者」と聞いて、どのような人を思い浮かべるでしょうか?

物忘れが激しく、気力がない。その割には口うるさくて頑固。年金暮らしで経済的余裕がないなどマイナスなイメージを浮かべる人もいるでしょう。こうなると飲食店が狙うべきターゲットではありません。

一方、経済的な余裕があり柔和。社会との関わりを持とうしている、など真逆なイメージを思い浮かべる人もいます。

今回のテーマを高齢者を新規顧客に狙うとしたのも、まさにここがポイントなのです。

平均寿命が世界一と言われる日本では、高齢者は大きく2つに分けられます。

高齢者は65歳以上ですが、そのうち65~74歳を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と分けています。若者からすると65歳も75歳も変わりはないかもしれませんが、よく見れば大きな違いがあることが分かります。

例えば65歳といえば、定年後の再雇用も終わったタイミング。そこから余生を楽しむ人もいれば、もっと社会とのつながりを持ちたいと考え、パートタイマーでの働き口を探す人もいます。新しい趣味を見つける人も少なくありません。いずれにせよ、家にこもって時間の流れに身をまかすような印象ではない人が多いのです。

また経済面でも十分に蓄えがあったり、年金受給額が多かったりして、余裕がある人も多くいます。

もちろん、後期高齢者になっても元気な方はいるのですが、そういったパワーあふれる高齢者を狙っていくのです。

ターゲットにしたい高齢者像

経営者や店長に「どんな人をターゲットにしているか?」と聞くと、「20~30代の女性で、近隣の会社に勤め、仕事帰りに気の合う仲間と気軽に利用する」など、具体的な回答が来ます。

ところが、「高齢者をターゲットにする場合」とすると、続くイメージがでてこない人が多いのです。20~30代の女性なら会社勤めの人もいれば主婦、子育て中の人などさまざまなケースがあり、どの層をターゲットにするかは浮かぶのに、高齢者というだけで、そこから全く進んでいかない。これは面白い現象で、だからこそ開拓する余地があると感じています。

イメージがわかない理由は、近くに高齢者がいない、自分の両親しかいないなどが関係しているのかもしれません。

また、マスコミの影響も大きいでしょう。視聴者にうけるのは、年金暮らしで苦労している高齢者の話。日本のマスコミは不安感をあおることが正解と考えるむきがあるのでしょうがないのかもしれません。

しかし一方で、 高齢者は貯蓄があり豊かで、孫や子どもに高額なプレゼントをしている人がいるのも分かっているはずです。高齢者の医療費負担が話題になることがありますが、それをみても現役世代と変わらない収入を得ている高齢者が一定数いることが分かります。

高齢者と言われて対象とする層がイメージできないのなら、身近な一人をベースに考えるとよいかも知れません。一人ぐらいはいるはずです。

ちなみに、筆者がおすすめする高齢者の顧客像は以下。

• 社会とのつながりを持つために週に2~3回の仕事をしている。
• 収入をえることが第一目的ではない。
• 趣味のサークルなどに通い、人との関わりがある。
• 生活に余裕があり、心にも余裕がある。

高齢者を取り込むメリット

では、高齢者を取り込むメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。

グループ利用が見込める

最近はお一人様がブームになっていますが、高齢者の多くは、一人でレストランや居酒屋に入る習慣がありません。そのため、グループで利用することが多くなり、売り上げアップが見込めます。女性の場合、「私が紹介した」ということが自慢になることが強い傾向にあります。幹事さんの気分がよくなる演出や声かけをしてあげると喜ばれます。

また、この層は時間に余裕のある人が多く、サラリーマンのランチタイムとかぶらないようにできます。 この点でもメリットと言えるでしょう。

長く愛用してくれる

高齢者は新しい情報が入りにくいため、気に入った店は長く愛用する傾向もあります。例えば習い事の帰りに行く店の場合、メンバーが変わっても長く利用される傾向にあります。

飲食店が安定した経営をするためには 新規顧客を取り入れることも大切ですが、それ以上にリピーターに長く利用されることが重要です。その点において、高齢者はニーズにぴったりと合致していることになります。

横のつながりが大きい

若い世代以上に横のつながりが強いのが高齢者です。仕事が一段落し、社会とのつながりが希薄になっていくことに一抹の寂しさを感じているが故に、横とのつながりが重要視されるのかもしれません。

一人が気に入ったことで、周りの人が巻き込まれるというリアルな口コミ力は、若い人以上に大きいのが特徴のひとつです。

高齢者はネットの口コミは気にしない

高齢者の特徴に、ネット上の口コミを気にしないことが上げられます。たとえ批判的なことが書かれていると聞いても、「そんなことはない」と否定してくれます。逆に気に入らないことがあったからと、ネットに書き込むこともありません。

口コミ評価に悩む飲食店は多いもの。この点は大きいと言えるでしょう。

高齢者を取り込むポイント① メニュー

ではここから、高齢者を取り込むポイントについて考えます。まずは必要なメニューです。

とはいえ、後期高齢者を狙うのであればやわらかいものなどといった制約がでてきますが、前述の層を狙うのであれば特別な配慮は不要でしょう。また、前期高齢者は幼い頃から洋食があふれていた世代でもあります。高齢者だから和食が好まれるという固定観念も必要ありません。

ただし、健康への気遣いをする人が増えるので、食材へのこだわりは必要です。さらに、それを正しく伝えることも大切です。若い世代に比べ、情報を得ることが少ないため、発信を積極的に行うことが重要です。できれば、QRコードを使ってサイトにアクセスするのではなく、プリントアウトした紙での情報発信の方が好まれます。当然ですが、文字は大きめに。

また、売り上げの面から考えるなら、食事の量が減っている人が多いので、注文数は減る傾向にあります。高齢者側から言えば、注文はできないけれどいろいろなものを食べたいという欲求があるので、少量ずつ盛り合わせたプレートなどが喜ばれます。

高齢者を取り込むポイント② 店舗設備

次に、必要な設備を考えます。

高齢者を迎え入れると言うと、「バリアフリーが必要」という人がいます。もちろんバリアフリーは障がい者の受け入れの観点からも必要ですが、実際に取り入れるには大掛かりな工事が必要です。

今回ターゲットとして狙っているのは経済的余裕のある高齢者層であり、スポーツジムに通うなどアクティブな方も多く、バリアフリーでなければ利用できないとは考えにくいです。ゆえに、バリアフリー化できないから高齢者を狙えないという発想は捨ててよいでしょう。

ただし、店内に段差がある場合は注意が必要です。高齢者になると見た目は健康的でも、瞬発力は鈍ってきます。もちろん店内に段差がないことが理想的ですが、ある場合は、そこに段差があるということを分かりやすく表示すること。3段以上の段差(階段)があるなら、手すりなどをつけるのが理想的です。

また店内が広い場合、トイレが遠いというのは難点となります。だからといって、配慮のつもりでトイレの前の席に案内したのに、差別されていると感じられたのでは悲劇です。そこで、快適に過ごせる雰囲気を作った上で、トイレに近い席に案内することが重要かもしれません。

高齢者を取り込むポイント③ 接客スタイル

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余裕のある高齢者は若い世代との交流を楽しみます。中には「若い人と話すだけで元気が出る」という人もいるほどです。また、従業員で気に入った人がいれば、ますます通ってくれるようになります。

スタッフのパーソナリティにもよりますが、ドライな接客ではなく、フレンドリーな接客を心がけ、「店を盛り立ててくれて感謝しています」というようなスタンスを大げさに表現するくらいが気に入られるでしょう。

ただし、中には図に乗ってしまう高齢者もいます。ごく一部であり、同世代の人も迷惑な行動だと感じているのですが、昭和のコンプライアンスの中で生きているかのような感覚のズレがある人がいるのも事実。ズレを感じたら、早めに対処することも大切です。

やるべき施策

ではここから、高齢者に愛される店舗になるために導入することを挙げます。

モバイルオーダー

スマホでできるモバイルオーダーが高齢者に喜ばれることについては、意外だと感じる方もいるかもしれません。ですが、高齢者を確保するのに強いツールです。

まず誤解を解くべきなのは、高齢者はガジェットが苦手という点。特に前期高齢者は、スマホを使うことに全く抵抗がありません。また新しいことに挑戦することも好みます。最近は増えてきたモバイルオーダーですが、まだ新しいという感覚が強いため、楽しみながらオーダーしてくれる可能性が高いわけです。

先日行ったレストランでは4人組のご婦人のグループが、「今日は私がやる番よね」「次回は私だわ、楽しみ」という会話をしていました。

もちろん慣れるまでは時間がかかるかもしれません。また、どうしても苦手な人がいるのも事実です。不親切な店と思われないためには、最初にしっかりと説明をすることと、戸惑っていたら適切にフォローすることが重要です。

スタンプカード

スタンプカードは好まれる販促ツールです。財布に入れておくことで何度も目にし、来店回数を増やす効果もあります。

比較的裕福な層を狙うなら、「10回来たら500円割引」ではなく、「20回で1回サービス」とか「ポイントがたまったらオリジナルグッズをプレゼント」の方が受け入れられやすい傾向にあります。

テイクアウト

気に入った店の商品は、家でも食べたいと思うもの。また、旦那と一緒に行く気はないけれど、食べさせたいという微妙な要望に応えたり、足腰が弱って来店できなくなった時にも食べたいといったニーズに応えるためにも、テイクアウトを積極的に導入することをおすすめします。

手間がかかるなら、事前の予約を受けた時だけテイクアウトを用意するというスタイルにすれば特別感も増します。パーティ需要にも対応すると売り上げも上がります。

電話予約

予約はモバイルでなく、電話で受け付けることが重要です。なぜなら、高齢者はあっちもこっちもと店舗を比較して決めるのではなく、最初から決め打ちするため、わざわざ検索することがないからです。つまり、電話帳に登録されれば成功というわけです。

また、モバイルで予約をして返信を待つということも苦手なため、その場ですぐに予約が完了できる電話予約があっています。
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高齢者を取り込む際に気をつけること

高齢者を取り込むとき、失敗することはないのでしょうか。

残念ながら方向性を間違えると、一般のお客さんは来ず、売上も下がってしまうので注意が必要です。

ターゲット外の層を見過ぎない

前述の通り、高齢者には色々な人がいます。経済的に豊かな人は店の民度を上げてくれますが、そうではないこともあります。

最近注目されているものとして「シニアカフェ」があります。独居老人が安い価格で利用でき、外部との交流を図る目的のもので、時間帯を区切って実施しているところもあります。

もちろん全面的に高齢者を受け入れるのであれば素晴らしい取り組みですが、今回ターゲットにするような裕福な高齢者の多くは、これらの場所を利用していませんので注意が必要です。

ステレオタイプに「年金暮らしは経済的に厳しい」と考えると、割引が効果を出すと考えがちです。しかし、高齢者だけが優遇される店は若い人が面白くないでしょうし、裕福な高齢者の足も遠のきます。

あくまでも、新しいターゲットとして高齢者「も」取り入れるのであれば、過剰に高齢者に目を向けるのは間違いです。

必要以上に長居させない

高齢者はグループで来ることが多いのですが、慣れてくるとわがままを言う傾向があります。また日中など、とりあえず行けば誰かがいるという雰囲気になると、常に高齢者であふれかえってしまいます。なぜなら、高齢者は時間があるからです。

そうなってもよいなら別ですが、そうでない場合、時間制限を設け、一定の時間で席を空けてもらうなどの工夫が必要です。

まとめ

今回は、裕福な高齢者を新しい客のターゲットにするというテーマで進めてきました。

もうお分かりかと思いますが、高齢者にもいろいろな人がいます。すべての高齢者を取り入れようとすると方向を見誤るので、ターゲットの特性を見極めた上で対策を立てることが重要です。まずは固定的なイメージをすてること。さらに若い人も離れないためには、店舗のコンセプトを崩さないことも重要です。

高齢者の対策が若い層にとってもメリットとなることが理想です。改めてしっかりとターゲット像をたて、客数アップ、売り上げアップを狙うようにしてください。