現地時間の2021年8月17日、ニューヨーク市で全米初となる飲食店に対する「ワクチン接種義務」を課す市長令が発せられた。飲食店の店内での飲食を希望する客にワクチン接種の証明を求める新たなルールは、コロナのパンデミックから立ち直りつつあるアメリカの飲食店を復活させる救世主となるのだろうか。現地の報道をお伝えする。

ニューヨーク市で始まった飲食店のワクチン接種義務化

ニューヨーク市で始まった飲食店のワクチン接種義務化は、飲食店の店内での飲食を希望する客にワクチン接種の証明を求めるとともに、飲食店で働くすべての人にもワクチン接種を求めている。現在は「移行期間」であり、罰則などは適用されないが、翌9月13日からは本格施行となり、罰則が適用されるようになる。飲食店の従業員が客のワクチン接種証明を確認しなかった場合、飲食店に最大5000ドル(約55万円)の罰金が課せられる。

確認の仕方だが、ワクチン接種の日付や種類が記載されたワクチン接種記録と、それに記されている住所が一致する運転免許証などの身分証明書を照らし合わせて行う。単にワクチン接種記録を持っているだけでは駄目だというわけだ。なお、ニューヨーク市は市内に監視員を派遣して、各店が正しくチェックを行っているか監視するとしている。

映画館、カジノ、ダンススタジオなどにも同様に適用

ところで、今回のワクチン接種義務化の対象は飲食店にとどまらない。ニューヨーク市によると、対象は映画館、カジノ、庭園の店舗スペース、大人向けエンターテインメント施設、コマーシャルイベント会場、パーティー会場、博物館、水族館、動物園、スポーツアリーナ、屋内スタジアム、コンベンションセンター、展示会場、ボーリング場、ゲームセンター、屋内遊戯施設、ビリヤード場、すべての飲食店の店内、すべてのジムおよびフィットネス施設、プール、ダンススタジオ、ホテル内ジムとなる。要するに「密」が発生しやすい「屋内」をターゲットにしているのだ。

ルールに反発する飲食店も

なお、今回のルールに早速反発する飲食店も出てきている。ニューヨーク市内でハンバーガーフランチャイズ店を経営するアート・ディポールさんは、このルールが適用されてしまうと、店を辞めてしまう従業員が続出すると訴える。ディポールさんによると、彼の店の従業員の半分以上がまだワクチン接種を受けておらず、ルールが適用されると店の営業が不可能になるという。

コロナの影響でアメリカの飲食店は大打撃を受け、多くは閉店や営業制限を余儀なくされた。営業を再開した今でも飲食店の人手不足は大きな問題になっていて、この状態でルールが適用されればそれにさらに拍車をかけることになりかねない。ディポールさんのような経営者にとっては非常に大きな問題だろう。


海外からの旅行者はどうなる?

ところで、ニューヨーク市民であればワクチン接種記録を持っている人は多いだろうが、ニューヨーク州以外の住民や、あるいは海外からの旅行者の取扱いはどうなるのだろうか。

イギリスからニューヨークへやってきたある女性は、イギリスでアストラゼネカ製ワクチンを接種し、その証明書も持っていた。しかし、イギリス国民保険サービスが発行した証明書はスマホアプリにQRコードを発行する仕組で、ニューヨークの多くの場所で読取り出来なかったという。

さらに、ニューヨークではモデルナ、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソンの三種類のワクチンしか認めておらず、改めて打ち直す必要があると言われたという。モデルナ、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソンの三種類しか認めないとなると、現在世界中で急速に接種が進んでいる中国製ワクチンでは駄目ということになる。

フランスやイタリアでもワクチン接種義務化へ

なお、飲食店の利用客にワクチン接種の義務化を求める動きは、フランスやイタリアでも始まっている。フランス政府は、コロナ対策強化のためとして、飲食店や長距離列車の利用者に対し、ワクチン接種証明書や陰性証明書の提示を義務化している。

イタリア政府も、飲食店の利用客に対し、ワクチン接種を証明する「グリーンパス」の提示を義務化している。「グリーンパス」は、最低一回のワクチン接種や陰性であることを証明するもので、飲食店以外にもテーマパークや美術館などを利用する際にも提示が求められる。また、違反した事業者や国民には罰金が課せられるという。

いずれの国でも早速反対デモが起きて騒ぎになっているようだが、ヨーロッパにおける先行事例として注目すべきだろう。

日本でもワクチンパスポートの申込が殺到

TOKYO ワクション 公式サイト
TOKYO ワクション 公式サイト

いっぽう、ワクチン接種が順調に進んでいる日本でも、ワクチン接種を証明するワクチンパスポートの申し込みが殺到しているという。東京都港区では、ワクチンパスポート発行の申請受付を2021年7月26日から開始したところ、1週間あまりで予約枠の3倍の申し込みがあったという。申込者の多くは、海外渡航先での検査や隔離の免除を求める人が多いと見られたものの、海外の飲食店の入店時に提示するという人も一定数いたという。

東京都でも接種記録を登録して簡易的なワクチンパスポートとして活用できる「TOKYOワクションアプリ」を2021年11月1日から提供開始しており、接種済みの登録者は協賛企業からの特典を受けられるようになっているようだ。

また、これは関係する話題と言っていいと思うが、先日、大手居酒屋チェーンのワタミが、すべての社員にワクチン接種を促し、接種が完了した店舗スタッフの名札に接種済みがわかるマークを付けさせるという報道があった。ワタミは、「従業員の権利や事情を尊重し、接種の義務化や強制はしないが、国の方針通り推奨はしていく」としているものの、多くの店舗スタッフが自発的に接種を受け、名札にマークを付けることになるとのこと。

日本でも、日々の感染者数が減ってきたなか、飲食店の営業再開の最大のキーワードが「ワクチン接種」であったことは間違いないだろう。今ニューヨーク、フランス、イタリアで起きていることは、それを証明する壮大な社会実験であると言えるだろう。日本の飲食店の今後を見通すためにも、注目する必要がある。

参照サイト
https://www.cnbc.com/2021/08/15/new-york-city-vaccine-mandate-presents-new-challenges-for-restaurants.html
https://tokyo-vaction.jp/

 

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