アメリカの飲食業界でドローンを使ったデリバリーが静かに広がり始めている。中でもノースカロライナ州を拠点に事業を展開するドローンデリバリー企業に注目が集まっている。ドローンデリバリーはアメリカの飲食店と社会にどのような影響を与えるのだろうか。ドローンデリバリーの今後の可能性なども含めて現況をお伝えする。

フライトレックスというスタートアップ企業

フライトレックスのデリバリードローン
フライトレックス社のデリバリードローン

フライトレックス(Flytrex)は、イスラエル・テルアビブに拠点を置く2013年設立のスタートアップ企業だ。同社は飲食業者と小売業者に対し、ドローンを使ったデリバリーサービスを提供している。2017年にアイスランドの首都レイキャビクで飲食店とスーパーマーケットのドローンデリバリーサービスを開始し、2020年にアメリカ連邦航空局(FAA)の飛行許可を取得、ノースカロライナ州の三つの町でドローンデリバリーサービスを開始している。

フライトレックスのドローン「フライトレックスm600」はローター六発式のマルチコプターで、ボックス型のコンテナを上から抱えるような構造になっている。時速32マイル(約時速51.49キロメートル)で飛行し、最大6.6ポンド(約2.99キログラム)を運搬できる。飛行範囲は最大往復5マイル(約8.05キロメートル)だ。無人で自動飛行するが、安全性確保のためにFAAの認定を受けたドローンオペレーターがモニタリングを行っている。

使い方は簡単、専用アプリで注文

フライトレックス社のオーダーアプリ
フライトレックス社のオーダーアプリ

フライトレックスのドローンデリバリーの使い方は簡単だ。専用アプリをスマートフォンにインストールしてドローンの配達場所を登録する。配達場所は通常、戸建て住宅のバックヤードを登録する。そして、アプリを起動すると画面に注文できる料理や品物が表示されるので、好きなものをタップしてオーダーするだけだ。アプリのインターフェースは、ドアダッシュやUber Eatsなどのデリバリーサービスのものとほとんど変わらない。

注文を受け付けると飲食店に情報が通知され、飲食店が料理して料理を容器に入れて専用袋に袋詰めする。ドローンが着陸スペースに到着したら専用袋をドローンのコンテナに入れてハッチを閉める。するとドローンが自動操縦で飛行を開始し、注文者の自宅へデリバリーする。登録された配達場所の上空に到着したら、着陸はせずに高度18フィート(約5.48メートル)の高さでホバリングしてワイヤーで料理が入った専用袋をゆっくりと降ろし、着地したらワイヤーから専用袋を分離する。終わったらそのまま基地へ戻ってゆく。

なお、注文受付からデリバリーまでのドローンの一連の動きはアプリでリアルタイムに確認できる。また注文者はアプリでドローンの到着予定時間なども知ることも可能だ。

大手レストランチェーンもドローンデリバリーサービスを開始

なお、フライトレックスは、大手メキシカンレストランチェーンのエル・ポヨ・ロコと共同でドローンデリバリーサービスのパイロットプログラムをロサンゼルス近郊の街コスタメサで行っている。人気レストランチェーンがドローンデリバリーサービスを開始したというニュースは地元の大きな話題となり、エル・ポヨ・ロコのドローンデリバリーサービスのランディングページにはユーザー登録を求める人のアクセスが殺到して10万人を超える登録申し込みがあったという。

エル・ポヨ・ロコのデジタル担当副社長のアンディ・レブハン氏は、「ドローンが最初のデリバリーを行ったというニュースは非常に多くの人の関心を集め、我々のソーシャルメディアのチャンネルやYouTube動画には100万を超えるアクセスが集まりました」と、ドローンデリバリーサービスの人気の高さを説明している。

ドローンデリバリーのメリットとは?

ドローンデリバリーが人々の関心を集めることはわかったが、そもそも飲食店がドローンデリバリーを行うメリットは何だろうか。

まず考えられるのはドローンデリバリーのスピードだ。Uber Eatsなどの人によるデリバリーの場合、注文してから配達されるのに一定の時間がかかる。一方、ドローンデリバリーであれば、フライトレックスによると、平均5分程度でデリバリーできる。渋滞に巻き込まれるリスクもない。

次に考えられるのはコストの安さだ。一般的なドローンの場合、数千ドル程度で入手できる。また、多くのドローンは無人で自動飛行するため、人件費も削減できる。さらにはガソリン代も必要ない。上述のエル・ポヨ・ロコは、ドローンデリバリーのパイロットプログラムを開始した理由の一つに「コストの安さ」を挙げている。確かに、何万ドルもする車にガソリンを入れて人間にデリバリーをさせるにはそれなりにコストがかかるであろう。

また、過疎地でも展開できるのもメリットだろう。Uber Eatsなどの場合、人口が少ない過疎地ではビジネスとして成立しない。しかし、ドローンであれば、過疎地でも稼働できる。フライトレックスがドローンデリバリーを開始したノースカロライナ州の三つの町は、いずれも人口4万人程度の小さな町だ。フライトレックスも、「ドローンは過疎地と相性がいい」と説明している。

日本での可能性は?

ところで、ドローンデリバリーの日本での状況はどうなっているだろうか。報道によると、2022年9月に新潟市信濃川万代テラスエリアで、株式会社出前館などによるドローンのフードデリバリーのテストマーケティングが行われたという。配送の担い手が不足している地元において、特に飲食店のデリバリー需要が見込まれているという。また、神戸市でも、2022年10月に同様のテストマーケティングが行われたという。

アメリカよりも大分遅れていると勝手に思い込んでいたが、日本でもドローンデリバリーの機運が生じつつあるようだ。特に人口の少ない過疎地においては、ドローンデリバリーの活用ニーズが潜在的に高まっているのかも知れない。

フライトレックスは、ドローンデリバリーサービスを開始したノースカロライナ州以外にも、新たにテキサス州でもサービスを開始している。フライトレックスは、FAAの飛行許可が得られた地域において順次サービスを開始するとしている。一方、現在は実証実験の形でドローンデリバリーが行われている日本だが、ドローンデリバリーが本格的に始まる日はそう遠くないかもしれない。日本のドローンデリバリーの今後にも注目したい。

参照サイト
https://www.flytrex.com/
https://dot.la/el-pollo-loco-drone-delivery-2655918248.html
https://robotstart.info/2022/09/09/drone-demaecan-delivery.html