アメリカ最大のモバイル決済手段が何であるかご存じだろうか。AppleペイGoogleペイ、そのどちらでもない。アメリカ最大のモバイル決済手段は、なんとコーヒーチェーン大手のスターバックスのモバイルアプリなのだ。

 

Appleペイを超えるアメリカ最大のモバイル決済手段

調査会社のEマーケッターが実施した調査によると、2017年のアメリカのAppleペイのユーザー数は1,970万人で、スターバックスのモバイルアプリのユーザー数2,070万人より100万人下回っているという。今年のユーザー数はAppleペイ2,200万人、スターバックスのモバイルアプリ2,340万人で、差がさらに広がっている。さらにEマーケッターは、2022年には両者の差は230万人まで広がり、スターバックスのモバイルアプリが首位を維持すると予想している。

 

ユーザーのロイヤリティが高いスターバックス

スターポイントアプリ
Starbucks スターポイント

スターバックスのモバイルアプリがユニークなのは、それがモバイル決済手段として機能する以前に、ユーザーのロイヤリティを高めるツールとして機能している点だ。ユーザーはアプリを使うことでロイヤリティポイントやクーポンを獲得できる。具体的には、スターバックスで使う1ドルごとに2スターポイントを獲得できる。たまったスターポイントはドリンクやフードなどと交換可能だ。スターポイントやクーポンを直接ゲットすることができるのがユーザーにとってのモバイルアプリの最大のメリットだ。この仕組みを、スターバックスはStarbucks Rewards™(スターバックスリワード)と呼んでいる。スターバックスリワードでは、集めたスターポイントに応じてeTicketが発行できるなど、ヘビーユーザーにより多くのメリットが与えられるようになっている。

モバイルアプリではモバイルオーダリングも利用できる。ユーザーの多くは、時間を節約するためにモバイルオーダリングを利用しているものと見られる。モバイルオーダリングであらかじめ注文し、決済も素早くモバイルアプリで、キャッシュレスで行うといったイメージだ。スピーディーな注文と決済が可能になるのもモバイルアプリのメリットだ。

また、ユーザーの誕生日にオファーを届けるなど、モバイルアプリはスターバックスのCRM(Customer Relationship Management, 顧客関係管理)ツールとしても機能している。

なお、スターバックスはモバイルアプリを2011年にリリースしたが、その前年の2010年時点でプリペイドカードのスターバックスカードによる売上が15億ドル(約1,650億円)もあったという。スターバックスカードという大きな資産をベースに、スターバックスのモバイルアプリは大きく花開いたといっていいだろう。

 

銀行をしのぐ残高も

ところで、Eマーケッターによると、2016年度第一四半期だけで12億ドル(約1,320億ドル)もの金額がスターバックスカードにチャージまたはプリペイドされたという。これは、カリフォルニア共和銀行やマーカンタイル銀行といったアメリカのメジャーな銀行が保有する預金残高とほぼ同水準だそうだ。スターバックスのユーザーは、「スターバックス銀行」に「預金」して買い物をするという、事実上のデビットカードのような使い方をしているのだ。

StarbucksAppsつまり、スターバックスはモバイルアプリを通じてスターバックスという消費圏を築くことに成功していると同時に、スターバックスという「ミクロ経済圏」を築くことにも成功していることになる。

いうなれば、スターバックスのモバイルアプリはスターバックスでのみ利用可能な「通貨」の管理ソフトでもある。ユーザーを囲い込む仕組みとして、これほど効果的で効率的なものはなかなか見当たらないだろう。

 

ユーザーデータの取得も

当然ながらスターバックスはモバイルアプリを通じてユーザーのデータを取得している。ユーザーの属性データなどに加え、購買履歴やPOSデータなども取得している。ユーザーのデータを分析し、レコメンデーションなどを行う仕組みはマクドナルドなどでも導入済だ。また、ビッグデータを対象にAIがマシンラーニングを行う仕組みが各分野で導入されているが、スターバックスでも導入される可能性は高いだろう。

 

今後の展開はどうなる?

スターバックスのモバイルアプリは、決済手段としての機能よりもマイレージプログラムの機能が先行し、高いユーザーロイヤリティを確保していることを上述した。高いユーザーロイヤリティをベースに決済機能が普及し、さらにスターバックスカードというプリペイドの仕組みが組み合わさることでスターバックス固有の「経済圏」を形成していることも既述した。AppleペイやGoogleペイなどのライバルが持たない固有のポジションを持ったことで、スターバックスのモバイルアプリは結果的にアメリカで最大のモバイル決済方法となった。

そんなスターバックスのモバイルアプリだが、今後の展開はどうなるであろうか。筆者は、可能性のひとつとしてスターバックスのモバイルアプリが、現在のスターバックスの「マクロ経済圏」を越えて外部でも使えるようになると予想する。現在、スターバックスのモバイルアプリはスターバックスの各店舗とスターバックスストアでしか利用できない。外部での利用が可能になれば、スターバックスの経済圏は一気に広がる。モバイル決済をもっと普及させるという戦略に立てば、あながちあり得ない話ではないだろう。

なお、一説によるとリテール大手のウォルマートやマクドナルドもスターバックス式のモバイルアプリ・モバイル決済システムの導入を検討しているという。いずれも保有する店舗数が多く、システム導入の影響は極めて大きいだろう。実際、マクドナルドの一部の店舗ではモバイルアプリによるキャッシュレス決済が可能になっている。

スターバックスのモバイルアプリがアメリカ最大のモバイル決済方法だという現実は、アメリカ固有のもののとして見ないほうがいいかもしれない。飲食業におけるモバイル化・モバイル決済化のトレンドは、今後の日本にも必ず生じるトレンドだからだ。それゆえ、現在のアメリカのスターバックスで起きていることをしっかりと見つめ、深く学んでおく必要があるのだ。

 

 


参照:
https://techcrunch.com/2018/05/22/starbuckss-mobile-payment-service-is-slightly-outpacing-apples/
https://www.zdnet.com/article/why-starbucks-remains-the-mobile-payment-app-leader-ahead-of-apple-google-samsung/
https://www.adweek.com/digital/the-most-popular-mobile-payment-app-isnt-apple-pay-its-starbucks/


ライタープロフィール
前田健二

東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、現在は新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。