ウィンナウ(Winnow)のミッションは「飲食店のキッチンをインテリジェント化し、シェフとスタッフに食べ物の重要性を知らしめること」で、実際に飲食店の食品ロスを削減することだ。そのミッションを実現するべく、同社はAIとクラウドコンピューティングを使ったフードロス管理システムを開発、イギリスやアメリカなどを中心に世界40カ国の飲食店に提供している。

 

ウィンナウというスタートアップ企業

winnowロゴ

イギリス・ロンドンにあるウィンナウ(Winnow)というスタートアップ企業は2013年にケビン・ダフィーとマーク・ゾーンズの二人が設立した会社だ。
ウィンナウによると、全世界の飲食業界では年間に1兆ドル(約108兆円)ものフードロスが生じ、平均的な飲食店は仕入れた食材の20%を食品ロスとして無駄にしているという(なお、イギリスの飲食店の平均利益率は20%)。ウィンナウは、同社のシステムが導入されたことで、これまでの六年間で3300万ドル(約35億6400万円)分の食材仕入れコストが削減され、2320万食分の食事が温存され、4万トン以上の二酸化炭素の排出が抑えられたという。

ウィンナウ・ビジョン動画

ウィンナウが食品ロスを減らす仕組み

では、ウィンナウは実際にどのように食品ロスを削減しているのだろうか。ウィンナウのシステムはスマートスケール、モニタリングカメラ、AIで構成される。システムはインターネットを通じてウィンナウのデータセンターとリンクしている。スマートスケールには専用の大型ゴミ箱が設置される。

winnow-aiキッチンスタッフは、料理の食べ残しや食材の使い残しなどを、スマートスケールに設置された大型ゴミ箱に捨てる。捨てる際にスマートスケールのタッチパネルの、捨てる食材のアイコンをタッチする。スマートスケールが捨てられた食材の重さを計測し、インターネットを通じてウィンナウのデータセンターへデータを送信する。

また、モニタリングカメラが画像をキャプチャーし、ウィンナウのデータセンターに画像を送信する。送られた画像をAIが分析し、捨てられた食材が何であるかを学習する。AIの学習がある程度まで進むと、キッチンスタッフがタッチパネルのアイコンをタッチしなくても、AIが捨てられた食材を自分で認識するようになる。学習が進んだAIがデータを蓄積し、週や月などの期間中に生じた食材ロスをレポートでアウトプットする。シェフや発注担当者が情報を共有し、発注などに反映させ、在庫を最適化する。

ウィンナウによると、ウィンナウのシステムを導入することで、6カ月でフードロスを平均65%、最大70%削減できるという。また、ウィンナウのシステム導入コストは、導入から2カ月で回収できるという。ウィンナウのシステム導入による経済効果は、特に大規模飲食店やチェーンにおいて高く、実際に大型レストランチェーンやホテル、大企業の社員食堂などでの導入が相次いでいる。



シリーズB投資で1200万ドルを調達

そんなウィンナウは、投資家からも高い注目を集めている。同社は最近シリーズB投資で1200万ドル(約12億9600万円)の資金を調達した。投資したのはスウェーデンの家具販売大手IKEA傘下のIngkaグループと、インジニアス・グループ、マスタード・シード、サーキュラトリー・キャピタルなどのベンチャーキャピタルだ。今回の資金調達により、ウィンナウが集めた資金の総額は3160万ドル(約34億1280万円)となった。同社はまた、エクイティファイナンスの他にヨーロッパ投資銀行から800万ドル(約8億6400万円)の資金をローンで調達している。

飲食産業に特化した製品やサービスを提供するスタートアップ企業をフードテック企業と呼ぶが、フードテック企業が3160万ドルもの巨額の資金を調達するのは珍しい。投資家がウィンナウのビジネスモデルと、フードロス削減の経済効果を高く評価していることの証だろう。

 

飲食店の食品ロス対策が必須の時代に

ウィンナウのシステムは日本にはまだ導入されていないが、いずれ導入されるのは間違いないだろう。ウィンナウの台頭は、フードロスを削減する機運の世界的な高まりを如実に現したものだ。クラウドコンピューティングやAIを活用しているところが時代の申し子らしいが、その勢いは当面続くだろう。

日本でも、今年5月に食品ロス削減推進法が施行され、飲食業界にフードロスを削減することが義務付けられた。

 

 

飲食業界は、2030年までにフードロスを2016年度の水準から2割削減することが求められたのだ。

農林水産省は、日本のフードロスを年間643万トンと見積もっているが、国民一人当たり一日茶碗一杯の食べ物が無駄に捨てられ、七人に一人の子供が貧困状態におかれて十分な食事がとれないのは明らかに異常だ。飲食店経営者がフードロス対策を施すことが、法律、倫理、そしてサステナビリティの点から求められる時代に突入したわけだが、ウィンナウのシステムのような仕組みを導入し、他の飲食店に先んじるという戦略も、あながち無意味ではないだろう。

 

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参考URL:
https://thespoon.tech/winnow-raises-12m-series-b-round-to-fight-food-waste-in-commercial-kitchens/


ライタープロフィール:
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。