イギリスの大手新聞のテレグラフが、イギリス政府がイギリス国内の飲食店のメニューにカロリー表示を義務付ける法律の策定を構想していると報じている。報道によると、小規模飲食店などの例外を認めるものの、大手チェーンなどを含む多くの飲食店が対象になるという。

 

イギリス政府の構想

英国公衆衛生庁のアリソン・テッドストーン氏が、「外食や食品の持ち帰りが一般化し、毎日の生活の一部になりつつある中、メニューがカロリー表示のないフリーゾーンになっているのは問題です」と発言し、問題性を指摘しているという。

テレグラフによると、イギリス政府が構想しているのは、アメリカのニューヨーク州で先行して施行された、飲食店のメニューとパッケージで販売される食品のラベルにカロリー表示を義務付ける法律と同様のものだという。
2017年に施行されたこの法律により、ニューヨーク州内で営業する20店舗規模以上の飲食店は、手書きの立て看板メニューを含むすべてのメニューにカロリーを表示しなければならなくなった。メニューをウェブサイトなどで公開している場合も、同様にカロリーを表示する必要がある。


ファストフード店の広告も規制?

テレグラフはまた、イギリス政府がファストフード店の広告の規制も同時に検討していると報じている。イギリスでは、ロンドン市がすでにファストフード店の地下鉄とバスなどの交通広告掲載を禁止する条例を施行している。また、ファストフード店の広告以外にも、高脂肪・高糖質の食品の広告も掲載できない。コカ・コーラの製品を例にとると、ダイエットコークの広告は掲載できるが、普通のコカ・コーラの広告は掲載できない。また、ビッグマックとコカ・コーラのセットなどの広告も掲載できない。

イギリスがそうした動きをする理由は明確だ。肥満、特に子供の肥満の問題だ。ロンドンのカーン市長によると、イギリスの10歳から11歳の子供の40%が「肥満」または「体重超過」で、ヨーロッパで最悪の状態になっているという。カーン市長は、イギリスの子供の肥満問題は深刻で、今手を打たなければ将来のイギリスの医療システムを崩壊させかねない「時限爆弾」になると訴えている。

タバコによる健康被害を防止するために、これまでにタバコの広告が世界的に禁止されてきている。イギリスが抱える肥満の問題は、少なくともタバコの広告を規制する状況と似たような状況になりつつあるのかもしれない。

欧米に広がる肥満のトレンド

ところで、イギリスと同様にアメリカでも肥満が問題になっている。米国疾病管理センターがまとめたところによると、アメリカ人の肥満率は2016年に39.8%に達し、「体重超過」の人口と合わせると総人口の71%が「肥満」または「体重超過」だという。実にアメリカ人の10人に7人という数字だが、肥満または体重超過でない人口の方が少ないというのは、どう考えても異常だろう。

余談になるが、筆者は先日アメリカのアナハイムに出張した。その際に朝食付きのホテルに宿泊したが、朝食会場に集まるアメリカ人の多くが肥満していることに改めて衝撃を受けた。大人も子供も、男も女も、総じて肥満している。朝食のテーブルに盛られた料理の量も半端なく、大量のパンケーキに大量のホイップクリームをのせて豪快に口に運んでいた。筆者が見たところ、あれで肥満しなければその方が異常だと思わざるを得なかった。

なお、経済開発機構(OECD)がまとめたところによると、世界主要先進国の肥満率のトップはオーストラリアで、イギリスが2位となっている。イギリスのほかにルクセンブルク(3位)、ハンガリー(4位)、スペイン(5位)と続き、どうやら肥満は欧米に広がるトレンドとなってしまっているようだ。

ところで日本の肥満率だが、世界主要国の中では最下位(4.1%)となっている。

日本の飲食店のインバウンド戦略にも影響か?

イギリスやアメリカで進む飲食店のメニューのカロリー表示義務化だが、そのトレンドは今後世界規模に拡大する可能性がある。そして、そのトレンドが、日本の飲食店のインバウンド戦略にも影響を与える可能性がある。

ところで、日本の飲食店のインバウンド戦略として第一に注目されるのがメニューの多言語化だ。特に欧米からの観光客をターゲットにした場合、メニューの英語化は必須だ。メニューを英語化し、ビジュアルなども工夫することに加え、イギリスやアメリカでスタンダード化する可能性が高いメニューのカロリー表示が、同時に求められてくる可能性もある。

現時点でも、欧米からの観光客の集客に成功している飲食店の多くは、メニューの英語化などをぬかりなくやっている。イギリスやアメリカでのメニューのカロリー表示義務化の進捗に合わせ、早期に対策を施すことで、結果的に他店との差別化につながる可能性もあるだろう。

いずれにせよ、カロリーというのは食品についての情報のほんのわずかな一部だ。食品の原材料、原産地、栄養に関する情報、調理方法、アレルギーに関する情報など、消費者に伝えるべき情報はほかにもたくさんある。昨今はタブレットなどを使ったスマートメニューが台頭しつつあるようだが、そのようなものを上手に活用して食品についての情報を充実させることが有効だろう。そうした情報を充実させ、消費者と共有することで様々なメリットが生まれ、結果的に飲食店のインダストリー4.0が進むと筆者はひそかに考えている。


参照:
https://www.thedrinksbusiness.com/2018/06/uk-considers-mandatory-calorie-labelling-on-restaurant-menus/
https://www.theguardian.com/society/2018/may/11/junk-food-ads-to-be-banned-london-tubes-and-buses-sadiq-khan


ライタープロフィール
前田健二

東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、現在は新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。