アメリカでフェイクミート(代替肉)市場が低迷している。業界リーダーの一社であるビヨンド・ミートは、2019年5月のIPO以来赤字経営が続き、直近四半期決算では1億1070万ドルの経常赤字を計上、株価は1ドル台へ下落してしまった。往時は投資家の注目を大いに集めたフェイクミートだが、今やブーム終焉の様相を呈している。アメリカでフェイクミート市場が低迷している背景につき、公開データなどをもとに現状をお伝えする。
IPO以来6年連続で経常赤字のビヨンド・ミート
アメリカ現地時間の2025年11月10日、アメリカのフェイクミート製造大手のビヨンド・ミートが、2025年度第三四半期(2025年7月~9月末)決算を発表した。それによると、同社の同期間中の売上高は7020万ドル(約10億8810万円)で、前年同期比で11.3%のマイナスとなった。経常収支は1億1070万ドル(約171億5850万円)の巨額の赤字で、前年同期の2660万ドル(約41億2300万円)の赤字から大幅に悪化した。
発表を受けて、NASDAQで取引されている同社の株は1ドル台に下落、IPO(株式上場)二ケ月後に記録した最高値234.90ドルの、わずか0.48%にまで値下がりしてしまった。往時は投資家の注目を集め、各界のセレブなどがこぞって投資したビヨンド・ミートだが、株価的には「ほぼゼロ」の水準に落ち込んでしまった。
低迷するアメリカのフェイクミート市場
ビヨンド・ミートの低迷は、アメリカのフェイクミート市場全体の低迷をそのまま映している。市場調査会社SPINSによると、アメリカの小売ベースのフェイクミートの2025年4月までの年間販売額は11億3000万ドル(約1751億5000万円)で、前年比で10%のマイナスとなった。製品カテゴリーでは特にハンバーガー用フェイクミートの売上が大きく落ち込み、前年比で26%のマイナスとなっている。
ハンバーガー用フェイクミートの売上減少は、大手ハンバーガーレストランチェーンなどによるフェイクミートを使ったハンバーガー製品の販売中止などによるものだが、特に最大手による販売中止が大きく響いている。最大手による販売中止が、そのまま製造元のビヨンド・ミートの売上を丸ごと消滅させた形だ。事実上アメリカの消費者からNoを突き付けられたわけだが、ビヨンド・ミートに与えた影響は壊滅的だったようだ。
「価格の高さ」が最大の理由
アメリカではフェイクミートの消費者離れが起きているわけだが、その理由は何だろうか。多くの関係者が第一に指摘するのがフェイクミートの「価格の高さ」だ。
フェイクミートを一度でも買われたことがある方はご存じだろうが、一般的にフェイクミートは「本物の肉」よりも価格が高い。例えば、アメリカ人が大好きな牛ひき肉の場合、「本物の牛ひき肉」の販売価格が1ポンド(約453.6g)4ドル(約620円)から7ドル(約1085円)程度である一方、一般的なフェイク牛ひき肉は1ポンド8ドル(約1240円)から12ドル(約1860円)もする。フェイクミートの価格は「普通の肉」の倍するわけで、ビーガンであるなどの相当の合理的な理由がない限り、消費者に選択してもらうことは難しいだろう。
フェイクミートは「美味しくない」?
また、消費者がフェイクミートの味に満足していないことも消費者離れの理由の一つに挙げられる。非営利団体Nectarが実施した消費者調査では、フェイクミートの味が美味しいと感じた消費者は全体の30%に留まった。フェイクミートの質感についても全体の29%しか満足しておらず、「普通の肉」の味に満足している(68%)および「普通の肉」の質感に満足している(67%)を、いずれも大きく下回った。

さらに、フェイクミートの味については、「後味が変」「化学物質のような味がする」「豆っぽい味」という意見も出されるなど、軒並み厳しい評価となっている。とどのつまり、現時点でのフェイクミートは、「普通の肉」よりも価格が高く、味も決して美味しくないという評価が多数になってしまっていて、結果的に消費を手控えさせている状態なのだ。「価格の高さ」と「味」という二つの大きな問題をクリアしない限り、フェイクミートがあらためて消費者の支持を得ることは難しいだろう。
フェイクミートに未来はあるか?
一方、ヨーロッパ・ベジタリアン連合(EVU)が行った調査は、消費者がフェイクミートを完全に見捨てておらず、いくつかの期待を持っていることを示している。
まず、調査対象の83%が「フェイクミートは地球環境にとってより良い」と答えている。価格と味の問題はあるにせよ、一般的な消費者は、フェイクミートがよりエコフレンドリーでサステナブルであることを相応に理解している。また、82%が「フェイクミートは健康にとってより良い」とも答えており、食品として「普通の肉」よりも健康的であるとしている。フェイクミート誕生の前提となった「環境にやさしい」「健康に良い」というファクターが、今でも消費者に理解・認知されていることは間違いないようだ。
ところで、フェイクミート以外でも、アメリカではベジタリアンやビーガンをターゲットにした植物由来食品が売れ始めている。韓国の食品メーカー「プルムウォン豆腐」は米国内に数か所の工場を持ち、アメリカ市場で豆腐を販売している。同社の「プルムウォン豆腐」は、アメリカ人が苦手な豆の生臭さを取り除いた豆腐で、調理せずに食べられる「レディ・トゥ・イートフード」(Ready-to-eat food)として販売されている。手頃で美味しく、すぐ食べられることなどから消費者の大きな支持を集めている。同社は今後、アメリカでの生産能力をさらに拡大してヨーロッパ諸国へも輸出する計画だ。
ビーガンフードというカテゴリーではフェイクミートもプルムウォン豆腐も同じだが、フェイクミートの売上が伸び悩む一方で、手頃で美味しいプルムウォン豆腐が売上を伸ばしている。消費者は、購入を検討するものが本物の肉のような形や味であることを求めているのではなく、あくまでも味、値段、便利さなどを総合的に勘案して購入するか決定している。現在売上が低迷しているフェイクミートは、そのあたりを改めて認識し、復活するための材料とすべきであろう。
大学卒業後渡米し、ロサンゼルスで飲食ビジネスを立ち上げる。帰国後複数の企業の起業や経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。新規事業立上げ、マーケティング、アメリカ市場進出のコンサルティングを行っている。米国のベストセラー『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
(参考サイト)
https://investors.beyondmeat.com/news-releases/news-release-details/beyond-meatr-reports-third-quarter-2025-financial-results/
https://finance.yahoo.com/news/beyond-meat-reports-third-quarter-223800163.html
https://agfundernews.com/plant-based-meat-by-numbers-grim-reading-for-the-us-retail-market-brighter-spots-in-foodservice-and-globally
https://www.forbes.com/sites/claraludmir/2025/03/20/what-beyond-meat-got-wrong-about-the-future-of-plant-based-eating/
https://www.v-label.com/consumer-insights/key-consumer-insights-on-plant-based-meat-in-2022/
https://www.mk.co.kr/jp/business/11463632


