コロナのパンデミック発生から三年目を迎えた2023年、未だに世界中の飲食業界が影響を受けつつある中、いくつかのアメリカの飲食系スタートアップ企業が胎動し始めた。本記事では、現在アメリカで投資家の注目を集めている飲食系スタートアップ企業を紹介するとともに、そのトレンドをお伝えする。

AIが販売数を予測、調理スタッフに助言「プレシテイスト」

プレシテイスト社プランナー・アシスタント
プレシテイスト社プランナー・アシスタント

プレシテイスト(PreciTaste)は、2013年設立のニューヨークに拠点を置くスタートアップ企業だ。同社は飲食店に対してAIを使った各種のアシスタントサービスを提供している。その中でも特に人気なのが「プランナー・アシスタント」(Planner Assistant)だ。

「プランナー・アシスタント」は、飲食店の過去の売上データをもとにAIが各メニューアイテムや材料の需要を予測し、キッチンスタッフに伝えるクラウドベースのモバイルアプリケーションだ。アプリケーションとつながったモバイル端末をキッチンに設置すると、AIが一時間ごとの各メニューアイテムの販売数と材料の必要ストック数を予測し、画面に表示してくれる。

飲食店のオペレーションでは、材料などの欠品が時に大きな痛手となる。オペレーションがストップして売上が逸失してしまうからだ。「プランナー・アシスタント」を導入することで一定の生産効率を確保でき、在庫切れのリスクを低減できる。プレシテイストによると、「プランナー・アシスタント」を導入することで、在庫切れリスクを最大68%削減できるとしている。

音声認識AIが注文を受け付け「コンバースナウ」

コンバースナウ(ConverseNow)は、テキサス州オースティンに拠点を置く音声認識AI開発スタートアップ企業だ。音声認識AIとは、人間に代わってお客と会話し注文を受け付けるAIの一種だ。コンバースナウの音声認識AIは、その性能の高さが評価されていて、コンバースナウにはこれまでにベンチャーキャピタルなどから2880万ドル(約37億4400万円)もの巨額の資金が集まっている。なお、コンバースナウに投資した人の中には、シェイクシャックの創業者ダニエル・メイヤー氏も含まれているという。

コンバースナウの音声認識AIは、これまでにドミノピザのフランチャイズ店を中心に全米1200の飲食店に導入されている。コンバースナウによると、同社の音声認識AIを導入する飲食店は現在急速に増えており、その勢いは止まらないそうだ。

飲食店が音声認識AIを導入する理由はシンプルだ。人間のスタッフをリプレースするためだ。あるコンバースナウの音声認識AIのユーザーは、特に電話注文の対応スタッフを音声認識AIに切り替えたことで、時給15ドル(約1950円)の給与コストを丸々浮かせることができたという。音声認識AIであれば1日24時間365日無休で対応が可能で、時給15ドルも支払う必要がない。さらに、音声認識AIはお客ごとの好みなども熟知していて、「お客様、いつものお気に入りになさいますか?」といった対応をさせることも可能だ。

アメリカの飲食業界ではいまだに人手不足の状態が続いており、飲食店による音声認識AIの活用がさらに進む可能性が高いだろう。

AIが調理工程をモニタリング「AgotAI」

AgotAI(アゴットAI)は、ペンシルバニア州ピッツバーグに拠点を置く、カーネギーメロン大学発のスタートアップ企業だ。同社は、QSR(Quick Service Restaurant)と呼ばれるカテゴリーの飲食店に対して、AIを使ったオペレーションモニタリングシステムを提供している。

アメリカのQSRにはハンバーガーファストフード店、ピザレストラン、メキシカンレストランなどが含まれるが、ほとんどの店の注文が「お客によるカスタマイズオーダー」が可能だ。ピザレストランであればお客が好きなトッピングを選択し、店によってはチーズの種類も選択できる。メキシカンレストランでも、タコやブリトーにハラペーニョを入れないでほしい、オニオンとオリーブを多めにしてほしいといったリクエストが出される場合が少なくない。

人間のスタッフであれば、そうしたお客の注文を時に間違えてしまうこともあるだろう。そこでAgotAIのモニタリングシステムが登場する。AgotAIのモニタリングシステムは、店内に設置されたモニタリングカメラでキッチンスタッフの動きをモニタリングし、注文と違った動作をした場合に警告を発する仕組みだ。モニタリングシステムを導入することでキッチンスタッフの間違いを防止し、作業全体のスループットを上げることができる。

なお、AgotAIのモニタリングシステムは、全世界で5万3000店のQSRを運営しているヤム・ブランズ(Yum! Brands)にも採用されている。

2023年はAIが飲食系スタートアップ企業のキーワードとなるか?

以上、直近のアメリカで注目を集めている飲食系スタートアップ企業3社をご紹介した。いずれもAIを使った各種のサービスを提供している企業だ。現時点では、それぞれが個別に単独でサービスを提供しているが、仮に普及がさらに進んだ場合、お互いに連携してサービスや機能を提供するようになる可能性があるだろう。例えば、プレシテイストの販売数予測の下でコンバースナウの音声認識AIが受けた注文を、AgotAIのモニタリングシステムを使ってキッチンスタッフが調理するといった具合だ。今はまだ実現していないが、今後はそうなる可能性が高いと考える。

筆者が見たところ、AIを使ったサービスやソルーションを飲食店に提供する機運は、今年さらに高まる可能性が高い。特に、コンバースナウの音声認識AIのような、アメリカの飲食店が現在直面している課題を解決するようなサービスやソルーションは、直ちに受け入れられるだろう。アメリカの飲食系スタートアップ企業の動静については、今年もさらんに注目してゆく必要がありそうだ。

関連サイト
https://precitaste.com/how-the-food-tech-startup-precitaste-raised-a-24-million-series-a-to-solve-2-major-pain-points-for-restaurant-owners/
https://voicebot.ai/2022/08/23/restaurant-voice-ai-startup-conversenow-raises-10m/
https://www.marktechpost.com/2022/02/23/this-startup-is-developing-a-restaurant-management-platform-using-machine-learning-and-computer-vision-technology-for-restaurants-to-see-where-food-orders-go-wrong/