米マクドナルドが3億ドル(約315億円)を投資し、ダイナミック・イールド社を買収したことが話題になっている。ダイナミック・イールドは2011年設立、ニューヨークに拠点を置くテック系スタートアップ企業だ。同社はAIなどのテクノロジーを使い、パーソナライゼーション(個人化)と呼ばれる機能を提供している。

 

マクドナルドが買収したダイナミック・イールド社

ダイナミック・イールド(Dynamic Yield)が提供しているパーソナライゼーションは、ユーザーのプロフィール、購買履歴、嗜好などに合わせてウェブサイトやモバイルデバイスのインターフェースをカスタマイズする機能で、まさにAmazonのようなことを実現する。甘いものが好きな人には購入してくれそうな甘いものを表示したり、購買履歴や他社の行動パターンなどを分析して、購入を促したりする。ダイナミック・イールドによると、同社の顧客にはEコマース運営者、旅行関連企業、ゲーム関連企業、金融業者などが幅広く含まれ、FacebookやGoogleもユーザーだという。

ダイナミック・イールドに投資したことについて、マクドナルドのケビン・オザンCFOは、「テクノロジーは、これまではビジネスをサポートするものとされてきました。しかし、これからのテクノロジーはビジネスを成長させるものになります」とコメントしている。


モバイルアプリの開発企業にも投資

米マクドナルドアプリ
米マクドナルド アプリ

ダイナミック・イールドへの投資とともに、マクドナルドはニュージーランドのモバイルプラットフォーム開発企業プレクシャーにも370万ドル(約3億8850万円)投資している。プレクシャーは、主に小売店や飲食店を対象にモバイルベースのマーケティングプラットフォームを提供している会社だ。ユーザーに合わせ、ピンポイントでクーポンを発行したり、お得な情報を提供して来店を促す仕組みを提供している。

プレクシャーの発行済み株式の10%程度を取得したマクドナルドはプレクシャーの技術を高く評価し、スティーブ・イースターブルックCEOに「この投資は、良好な結果を実現させるプレクシャーの能力を我々が高く評価していることの証です。その技術と才能が、我々のビジネスをさらに成長させることを確信しています」と言わしめている。

 

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ドライブスルーにAIを実装、無人化へ

マクドナルドがダイナミック・イールドとプレクシャーという二つのテック企業に投資した目的は何だろうか。

 

キーワードは「パーソナライゼーション」「モバイル」「無人化」だ。

まずは「パーソナライゼーション」だが、上述した通り、顧客一人ひとりにカスタマイズして対応する機能だ。マクドナルドでは、すでに全米の多くの店舗にキャッシャーキオスクを導入しているが、キャッシャーキオスクをインターフェースにしたカスタマイズ機能を実装してくるのは間違いない。ダイナミック・イールドは、これまでに様々なユーザーに多様なカスタマイゼーションの機能を提供してきており、技術蓄積は相当進んでいると考えられる。マクドナルドが、他社から技術的に差別化するために同社を子会社化したのは間違いないだろう。

次に「モバイル」だが、マクドナルドが今後、店頭での注文からモバイルベースでの注文へと主軸を移して来ることが考えられる。モバイルで来店前に注文し、そのままオンラインで決済して店頭で受け取るというプロセスは、既にスターバックスなどでも行われている。モバイルベースでの販売システムが普及すれば、店舗のスタッフ削減や省力化の余地が大いに広がってくる。

そして「無人化」だ。マクドナルドでは実際、スタッフの数を最小限に削減した新型ドライブスルーの実証実験を開始している。新型ドライブスルーでは、注文はモバイルか車内のスマートデバイスで行う。チャットボットを通じて注文されたデータはリアルタイムで店舗に伝えられ、車の到着予想時間に合わせてスタッフが準備をする。車が到着するとライセンスプレートをAIカメラが識別し、本人確認をする。決済はオンラインで行い、窓口で注文した品物を受け取る。ドライブスルーに並ぶ必要がなくなり、店のオペレーションも簡素化される。

日本にも押し寄せるレストランテックの大波

米マクドナルドでは、ドライブスルーの売上が全体の60%程度を占めるという。AIやビッグデータなどのテクノロジーが実装された新型ドライブスルーが普及することによる、売上へのインパクトは相当に大きい。新型ドライブスルーは、マクドナルドの売上をさらに引き上げる強力なドライバーとなる可能性が高いだろう。

マクドナルドが実践している「パーソナライゼーション」「モバイル」「無人化」というレストランテックのトレンドは、他の飲食店にも大なり小なり影響を与えてくるのは間違いないだろう。特に「モバイル」のトレンドは、キャッシュレス決済のトレンドとも方向を同じくしており、小規模飲食店といえでも対応が必須になるだろう。そして、アメリカで高まってきているこのレストランテックの大波は、いずれ日本にも及んでくることも間違いない。日本の飲食店のオーナー・経営者には、この大波に早めに備えるようアドバイスしたい。

 


参考URL:
https://www.restaurantdive.com/news/why-mcdonalds-is-supersizing-its-tech-spending/552162/


ライタープロフィール:
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。