ニューヨークに拠点を置くフードテックスタートアップ企業の「クックユナイティー」が、シリーズB投資でベンチャーキャピタルなどから4700万ドル(約51億7000万円)もの巨額の資金調達を成功させ、関係者の注目を集めている。調達した資金をサービス提供エリアの拡大などに投じるとしているクックユナイティーとは、一体どんなビジネスを展開しているのだろうか。日本でのビジネス展開の可能性などと併せて紹介する。

クックユナイティーというスタートアップ企業

クックユナイティー公式サイト

ニューヨークにクックユナイティー(CookUnity)というフードテックスタートアップ企業がある。クックユナイティーは、2015年にアルゼンチン出身のフードアントレプレナーのマテオ・マリエッティ氏が立ち上げた企業だ。クックユナイティーは先日、シリーズB投資で4700万ドルもの巨額の資金調達を成功させて話題となった。出資したのはベンチャーキャピタルのエンデバー・カタリストを筆頭とする投資シンジケートだが、バリュエーション(企業価値評価額)などの出資の詳細は明らかにされていない。

なお、クックユナイティーは2018年にもシリーズA投資で1550万ドル(約17億500万円)の資金を調達している。今回の資金調達により、クックユナイティーが調達した資金の総額は6250万ドル(約68億7500万円)となった。フードテックスタートアップ企業が調達した金額としては異例の額だ。

クックユナイティーのビジネスモデル

クックユナイティーのシェフ

そのクックユナイティーのビジネスモデルだが、至ってシンプルだ。クックユナイティーは、地元ニューヨーク在住のシェフをネットワークしたフードデリバリープラットフォームを運営している。数年前に別の記事で、シェフと家庭をマッチングする「ハングリー」というプラットフォームを紹介したが、ハングリーではユーザーが個別のシェフにそれぞれ料理を注文する一方、クックユナイティーではシェフがあらかじめ調理した料理をユーザーがサブスクリプションで注文する仕組になっている。

つまり、ハングリーではユーザーは個別のシェフ一人にしか注文出来ない一方で、クックユナイティーでは複数のシェフの料理を同時に注文することが出来る。しかもサブスクリプションの範囲であればどのシェフの料理も注文できるので、様々なシェフの料理を楽しむことが出来るのだ。

サブスクリプションで課金、料理は配送センターで在庫

クックユナイティーのパッケージ

上述したようにクックユナイティーではユーザーはサブスクリプションで料理を注文し、毎週課金される。料金は最低週4食53.96ドル(約5,936円)から最大週16食167.84ドル(約18,462円)となっている。注文はクックユナイティーのウェブサイトかスマホアプリから行い、希望する料理と配達日を指定する。支払いはクレジットカードのみで、現金や銀行振込などによる支払いは出来ない。

メニューはクックユナイティーに登録したシェフが週替わりで提供し、実際に調理してクックユナイティーに供給される。料理はリサイクル可能な電子レンジ対応パッケージに1食ずつ納められ、冷蔵コンテナでクックユナイティーの配送センターへ届けられる。なお、調理はシェフたちの職場以外に、クックユナイティーの専用キッチンでも行える。

届けられた料理は配送センターで在庫された後にユーザーの注文に応じてピッキングされ、ユーザーの自宅へ届けられる。後はユーザーが届けられた料理を電子レンジで加熱するなどして食べるだけだ。メニューは豊富で、糖尿病や高脂血症などの基礎疾患に対応したメニューも用意されている。また、料理のパッケージにはシェフの名前と顔写真が掲載されていて、誰が調理したのかがわかるようになっている。

シェフはいくらくらい稼げる?

ところで、クックユナイティーの創業者マリエッティ氏は、クックユナイティーを立ち上げた理由の一つとして、「プロのシェフにレストランの厨房という範囲を超えた新たなビジネスの機会を提供すること」を挙げている。つまり、プロのシェフたちにエクストラの収入をもたらすことを目的にしているのだ。

では実際に、クックユナイティーのシェフたちはいくらくらい稼いでいるのだろうか。ハーバードビジネスレビューによると、クックユナイティーのシェフは平均で毎週70食を調理し、クックユナイティーへ納めているそうだ。クックユナイティーの単価は1食当たり12ドル(約1,320円)程度なので、食材コストをシェフが負担している場合、シェフの受取分は60-70%の7.20ドルから8.4ドル、週当たり504ドル(約55,440円)から588ドル(約64,680円)程度と推測される。プロのシェフとして本業がある人にとっては、悪くない金額だろう。


「本業」のスキマ時間を活用

前掲のハーバードビジネスレビューは、クックユナイティーのシェフたちの多くは、本業の就労時間以外にクックユナイティーの料理を調理していると説明している。例えば、ランチの仕込み前の早朝や、ディナー終了後の深夜などの「スキマ時間」を活用しているという。

現在、ビジネスマンなどを対象にした「副業」マッチングプラットフォームが世界各国で台頭し、その利用が広がりを見せているが、クックユナイティーとは、シェフたちにとっての「副業」マッチングプラットフォームであると言っていいであろう。自分のスキルや時間を切り売りする「ギグエコノミー」が、飲食の世界でも台頭し始めているようだ。

日本でのビジネス展開の可能性は?

クックユナイティーは現在、発祥の地であるニューヨークの他に、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ヒューストンといった都市部を中心に活動エリアを広げている。一定の需要が見込める都市部であれば、同社のビジネスモデルは水平展開が可能のようだ。

そんなクックユナイティーだが、日本でのビジネス展開の可能性はどうだろうか。現在、フードデリバリービジネスが日本でも急拡大しているが、クックユナイティーのビジネスモデルも同様に日本でも通じる可能性が高いだろう。シェフたちのギグエコノミー化は世界的なトレンドであり、日本の飲食業も避けて通れないからだ。

筆者は、クックユナイティーのようなビジネスが、早ければ数年以内にも日本でも始まっていると予想する。クックユナイティーがやらない場合は、他の誰かが始めることになるだろう。

関連サイト
https://www.cookunity.com/
https://thespoon.tech/the-week-in-food-tech-funding-olio-continues-food-wastes-hot-streak/

 

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