飲食店のひとつの形態に「小さな店」がありますが、今、儲けを出しやすい環境が整っていることをご存じでしょうか。

なぜ儲けを出しやすいのか?
メリット、デメリットを紹介した後に、小さな飲食店で成功するポイントを紹介します。

小さい飲食店に明確な定義があるわけではありません。ですが一般的に、客席数は多くても十数席。面積は10坪以下をイメージしていただければよいでしょう。カウンター席だけの店舗が多いですが、テーブル席を設けているところもあります。

イメージとしてはカウンターのみのラーメン屋や、ドラマ「相棒」にでてくるような女将さんがひとりでとり仕切る小料理屋のような感じといえば分かりやすいかもしれません。業態はいろいろあり、麺類、カレー屋、カフェ、スイーツ、バー、すし屋など、さまざまあります。

ちなみに、筆者の知っている1番小さな飲食店は、物件規模としては3坪程度。そこに2人掛けのテーブルが2つ、つまり4席しかありませんが、常に行列を作っているカフェを知っています。

また、誰もが知るモスバーガーの1号店は、わずか2.8坪の八百屋の倉庫からスタートしています。14年後には、外食産業としてはじめて47都道府県に出店し、500店舗になったことを思えば、夢が広がります

小さな飲食店のメリット

飲食店と言っても、規模によって利益の出し方は違ってきます。
一般的には、ある程度の規模感がないと利益を出しにくいと言われています。ある意味、それは事実なのですが、ひとりでこなせる小さな店舗となると話は違ってきます。

まずは、小さな飲食店のメリットを見ていきましょう。

最大のメリットは人件費が不要なこと

小さな飲食店で働くのは、基本的にオーナーのみ。これが利益を大きくします。

なぜなら、飲食店で大きなコストとなるのは「FLコスト」です。FはFoodで食材費、LはLaborで人件費のことを指します。

このうち、「L」の人件費は年々上がっていて、多くの飲食店が頭を痛めているところです。最低賃金はこれまでも上がり続けるのは間違いありません。それどころか、大企業が社員の給料を上げている状況を見れば、これからはさらに上がり幅が大きくなることが考えられます。

これをカバーするために、ファミリーレストランなどは配膳ロボットの導入を進めるなど、対策をしています。しかし個人店では、なかなか難しいのが現状です。

ところが、小さな飲食店ではそもそも人件費はかかりません。このメリットは、今後ますます大きくなるでしょう。それほど大きな売り上げを上げなくても利益を確保しやすい理由は、ここにあります。

ランニングコストも安い

ひとりでこなせる店舗ですから、当然、小さな物件を借りることになります。そうなると、家賃が安くなります。

また、飲食店では空調にかかる光熱費が高くなります。これはなかなかコントロールしにくいもの。しかし、店舗が狭ければ熱効率もよく、光熱費が異常に高額になる心配もありません。

そもそも、業務用のエアコンを設置しなくても、10坪程度の店舗ならば一般家庭用のエアコンでまかなえます。このように、さまざまな経費を安く抑えることができます。これも利益確保を容易にしてくれます。

オーナーの個性を店のウリにできる

個人店の強みは個性です。「あの店のマスターはおもしろい人だ」とか、「オーナーと話して元気が出た」など思った経験があるはずです。店が小さければ、お客とのコミュニケーションは自然と密になりますし、それを目当てに通うお客も増えるでしょう。

その意味では、いつ行っても同じ人が対応してくれる安心感は強みになるはずです。そうしてファンづくりをしてゆけば、長く続けられる店づくりができます。

行列を作りやすい

小さい店で人気が出れば、店舗に入りきらないお客は行列を作って待つことになります。不思議なもので、行列ができること自体が評判を呼び、さらにお客を増やすことにつながります。

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ちなみに、最初に書いた4席のカフェは、必ずと言ってよいほど人が並んでいます。一度に店を利用できるのは、1組か2組。店内に入った人も、外に人が並んでいることを知っているので、ゆっくりはできません。しかも、10人も並ぶと、何時間も待たなければ入れないことを知っているのに、「人気の店を利用してみたい」と思わせているのです。

常に行列ができる店となると、ますます利用したい人が増え、ネットでバズり、さらに遠方からもお客が来て・・・と好循環になっています。

方向転換が容易

飲食店に限ったことではありませんが、綿密な計画を立ててからスタートしても、後で、「これは違ったな」とか、「ちょっと方向転換をしたいな」と感じることがでてきます。

その内容はいろいろですが、いずれにせよ、スタッフを雇っていると方向転換がむずかしくなります。

例えば、中華料理を作る職人を雇うと、洋食の方がニーズが高そうだと感じても、「私は中華料理しか作りたくない」と言われてしまうこともあります。また、無理を言えば辞められてしまい、新たな料理人を雇うには時間がかかり、立ち行かなくなることも。

また、こだわりの強い料理人の場合、「冷凍食材は使いたくない」と言うこともあり、そのせいで食材のロスが増えてしまうこともあります。これでは利益は出にくくなって当然です。

その点、1人で営業していればニーズに合わせて、または利益が出やすいように試行錯誤しながら、さまざまなニーズに柔軟に対応できます。身軽に素早く方向転換ができること。これも大きなメリットです

小さな店舗でも売り上げを確保しやすくなっている

さらに、もう一つ。忘れてはならないメリットがあります。
それは、UberEATSなどのデリバリーサービスが普及したことによる恩恵です。

以前、飲食店は客席以上の売り上げを確保することはできないと言われていました。ニーズがあっても、満席になってしまうと、来店を断るしかないと。特に小さな飲食店はキャパシティが小さいために、苦労することが多かったのです。

ダークキッチンしかし、デリバリーが一般化したことで、その上限はあまり気にしなくてもよくなっています。

さらに、デリバリーを活用するお客にとっては、大きい店も小さい店も関係ありません。これを利用し、店舗を開けるのは夕方から夜のみ。昼間はニーズの高い弁当やスイーツを売るなどして、安定的な経営を続けている店舗もあります。

最近では、商品開発力がなくても、手頃な価格でノウハウを教えてくれたり、食材を仕入れられたりするところが増えています。ぜひ、これらも検討してください。

小さな飲食店のデメリット

当然ですが、小さい飲食店にはデメリットもあります。
その中には、工夫次第で回避できるものもあれば、避けられないものもあります。

代表的なものを挙げてみます。

病気やケガをすれば店は休むしかない

店をひとりで運営していると、病気になったりケガをしたりすると、基本的に店を休むしかなくなります。それでも家賃などは必要なので、懐事情は一気に悪化します。

筆者が知っている広島風お好み焼き屋は、基本的にオーナーがひとりで運営していて、月に数回、奥さまが手伝うスタイルでした。ところがオーナーが交通事故にあい、入院することになりました。

その間、少しでも売り上げを確保しようと、奥さんがひとりでドリンクと簡単な料理だけで店を開けたのですが、お客のニーズには応えられず、あっという間に閑古鳥状態。オーナーは病院に懇願して退院し、翌日から店を開けたのですが、しばらくは売り上げが戻らなかったそうです。

また、店を休みたくないために、無理をしてしまう傾向もあるので注意が必要です。健康管理は十分すぎるほどにしなければなりません。

大量仕入れができず、仕入れ費用が割高になる

小さな飲食店では、使用する食材も少なく、仕入れ量も少なくなります。業務用食材は、多く仕入れれば仕入れるほど、安価になるものも多いのですが、そのスケールメリットはいかせません。

ただし、仕入れ価格が高くなれば、メニューに付加価値を付けて値段を上げることでカバーできるかもしれません。食材を安く仕入れる方法を考えるよりも、いかにお得感のある料理を提供し、喜んでいただくか。発想の転換が重要となります。

どんなに売れても、疲弊しては意味がない

飲食店をはじめて、行列ができるほどになると、最初は喜ばしいと感じるでしょう。しかし、それが長く続くと寝不足になったり、足腰に負担がきたり、精神的にキツくなったりとさまざな弊害を感じることもあります。

また、寝ても覚めても店のことばかりで夫婦の不和の原因になったり、子どもとの関係に問題を抱えるケースもあります。

人を雇えばよいのですが、売れれば売れるほど、自分でなくては実現できないと感じることが増え、なかなか一歩が踏み出せないケースもあります。その結果、何かのきっかけで気力を失い、行列ができるほど売れているのに閉店を選択するケースをいくつか見てきました。

最初から休業日を設定したり、営業時間を工夫するなど、ムリしすぎないような営業を目指すことも重要です。

小さい店だからとイメージだけでスタートしない

小さい飲食店といえども立派なビジネスですから、しっかりとした計画と準備が必要となります。ありがちなのは、小さいから(安価にはじめられるから)とイメージだけで進めてしまうパターン。

たとえば、「窓際には花を飾って、おいしいケーキを自分で焼くためのオーブンは○○のを入れて、○○のコーヒーメーカーを入れて、、、」

このように、一部は具体的ではあるものの、ビジネスイメージがざっくりとしたままスタートしようとする人がいます。せっかくのアイデアをコンセプトにまで落とし込めておらず、これでは失敗が目に見えています。

コンセプトとは、どのような飲食店にするかを具体的に決めることであり、そこには来店するお客の民度やニーズも含まれます。そして、どのような商品やサービスを提供すればよいのか、どの価格帯の店にするのかなど、イメージと実際のすり合わせが必要なのです。

正しいコンセプトの決め方

では、どのようにしてコンセプトを決めればよいのでしょうか?

まず最初は、5W1Hを使ってイメージを具体化します。

【5W1Hの例】
何を 手作りケーキと本格コーヒーを提供する
誰に 20代~30代のOLやカップル
どこで カウンター席とテーブル席も欲しい、10坪程度
いつ ランチタイムから19時頃まで
どのように 持ち帰りも可能にする

上記を決めたら、それぞれを深掘りしていきます。

ただし、この段階ではあまり細かく決めすぎる必要はありません。なぜなら、最終的なことは物件が決まってからしか決められないからです。

資金計画を立てる

このタイミングでは、店舗をはじめるまでにどれくらいのコストが必要なのかが分かりません。そこで、ある程度の目安をこの段階で詰めておきます。なぜなら、ここで計画を立てることが、店舗取得、また店舗内装を整えるのにどれぐらいの費用を用意できるのかを明確にするからです。

では、小さな飲食店をはじめるために、どれぐらいの費用が必要だと思いますか?

これは店舗をどうやって作るかによって大きく変わります。
ネットを探せば「坪あたりいくらが標準だ」などと書いているのを見かけますが、筆者は店舗作りの標準金額は存在しないと考えています。

なぜなら、ラグジュアリーな店舗を作れば高額になりますし、低く抑えようと思えば工夫次第で低くできるからです。

ある店舗の例を紹介しましょう。その店舗はカフェなのですが、小料理屋の居抜き物件を活用し、厨房もフロアも基本的にはそのまま使用しています。店舗の広さは約9坪で、客席数は9席(カウンター3席とテーブル席6席)。店舗造作取得費として25万円(厨房とフロア含む)を払っています。

ただし、和テイストの内装はイメージが違うと感じ、雰囲気を変えるために店内の壁を自分でぬったり壁紙をはったりと自分でDIYをしました。メルカリで業務用の食器を揃えるなど徹底してお金をかけなかったため、40万円あまり(店舗取得費除く)で開業しています。

具体的な費用計画

ここでは、開業にかかる費用を種類別に書いておきます。

  1. 物件取得費用(前払い家賃、保証金や敷金・礼金、仲介手数料)家賃の10か月分程度
  2. 内装・外装費用
  3. 厨房内設備費用
  4. 食器や調理道具などの備品
  5. 最低6か月分の運転資金

上記のうち、「運転資金」が必要なコストに入っていない人も多いので注意してください。オープンしてしばらくは売り上げ好調ですが、あっという間に落ち着いてしまいます。そこからはストックしておいた運転資金が重要となります。最低6ヶ月。理想的には1年分あると安心できます。

小さい店だから賢くお金をつかう

小さな店舗は、いかにコストを低く抑えるかがポイントとなります。コストをかけたいことがあっても、すべては利益を確保できるようになってから。これが最大のポイントです。

ただし、何でもかんでもコストカットしてしまうのは危険です。なぜなら、ひとりで営業をするのですから、日々の店舗運営で疲れて、帳簿整理ができない可能性がでてきます。コスト管理をしないのは、目隠しをしながら店舗経営をしているようなもの。非常に危険なことは誰でもお分かりでしょう。

そうならないために、売り上げや経費に直接関係している部分はコストをかけるべきといえます。例えば、売り上げを管理するためのPOSレジを使用すれば、売れ筋商品や時間帯売り上げ、客単価を明確にしてくれますので、「何か対策をしたい」と感じたときの手助けにもなります。

また、経費管理についても、会計ソフトをいれておけば、スマホなどでレシートを読み込むだけで自動的に経費管理ができたり、売り上げはPOSレジから吸い上げたりしてくれます。こうすれば経費管理も簡単になります。

小さなお店だからこそ、賢いコストの使い方が重要なのです。

飲食店開業を小さな店から実現したい方は、ぜひ参考になさってください。