飲食店の売り上げが下がる理由はいろいろありますが、風評被害は原因が店舗にないからこそ対策が立てにくく、非常に困ったものです。それでも、風評被害や誹謗中傷の被害が発生したら、できるだけ早く回復したいもの。

そこで今回は、風評被害ととるべき対策について、事例を紹介しながら考えていきます。

もくじ

風評被害とは?

まず、風評被害とはどのようなものでしょうか?

最近で言えば、福島県沖での処理水放出問題が挙げられます。

処理水は国際的にも問題ないことが証明され、日本国内では多くの人が安全性を認識していると言われています。ところが海外に目を向けると、韓国や中国では、処理水でなく「汚染水」と呼称し、「日本の海産物は危険である」との認識が広まっています。また、過激な人は、日本国内の官庁や飲食店に嫌がらせの電話をするケースもあり、通常業務に支障が出るケースが発生しています。

福島をはじめとする漁業関係者が恐れているのは、まさにこれ。国際的な機関で安全性が証明されても、感情だけで「危険だ」「口にしてはいけない」と避けられてしまうことに不安を抱えているわけです。

風評被害とは、事実無根の情報が広まることで生じる経済的被害のこと。どんなに安全だとアピールしても、感情的になっている人には届きにくいもの。そして、「安心できない」と避けられてしまうのですから、たまったものではありません。

そして、これがエスカレートすると、誹謗中傷につながるケースもあります。

誹謗中傷とは、根拠のない事を言いふらして、他人の名誉を傷つけることです。ある意味、日本や福島が受けている事象は、誹謗中傷に達しているのかも知れません。風評被害と誹謗中傷は紙一重の部分もあり、重大な被害に至る前に、先手を打つ必要があります。

飲食店における風評被害対策

上記の福島の例は、かなりスケールが大きいものなので、国がとる対策によるしかない部分が多くあります。

しかし飲食店では、上記以外にも、さまざまな風評被害が起こっています。ここからは、飲食店で実際に起こった風評被害の例を挙げながら、対策について考えていきます。

国内編1:ノロウイルスを発生させた店と噂が広まった

都内のオイスターバーでの事例です。ノロウイルスによる食中毒を発生させた上に、保障をせず、複数の人が泣き寝入りをしたと噂になり、売り上げが落ち込みました。

なぜ風評被害に気づいたかと言えば、常連さんがこの噂を教えてくれたからです。実際には、保障がどうこうという前段階のノロウイルスを発生させた実例はなく、保健所などから問い合わせがあったことすらありませんでした。

何とかしなければならないと、この店舗が行ったのは、生牡蠣以外のメニューの強化。これは売上減少により、生牡蠣用として購入したものの鮮度が心配になったため、苦肉の策として取り組みました。

そして、新メニューの情報を、SNSで積極的に発信することにしました。これは、ありもしない噂を信じる既存のお客に戻ってきてもらうのではなく、新規客を呼びこもうという考えによるものです。

「生牡蠣と生食用でない牡蠣の違いは?」など、商品に関する知識を披露することで、店舗に専門的な知識があり、意識が高い店だということをアピールしました

結果的に、客数は順調に回復。わざわざ来てくれるお客は、気軽に寄ってくれる近隣のお客より客単価が高い傾向にあり、売り上げは確実に回復。半年後には、前年をクリアするほどになりました。

国内編2:辞めさせたアルバイトがウソ情報を流した

ある蕎麦屋では、トラブルを起こす中年の女性アルバイトに頭を悩ませていました。不審な行動が多々あり、お客にも迷惑をかけることが多発。決定的なことがあり、本人と話し合いをして、辞めてもらうことになりました。

しかし、本人は納得していなかったようで、「あの店は賞味期限切れの商品を出している」「厨房内はゴキブリとネズミが這い回っている」などの噂を流します。他にも、直接的なトラブルを起こしたため、警察や弁護士を巻き込んだ騒ぎになるのですが、噂として流されたものは打ち消せません。

店主は、「人の噂も七十五日と言うし、真摯に営業を続けるだけだ」と従業員に伝えます。

結果としては、売り上げのダウンは一時的なもので、売り上げは回復します。店主の言ったことは正しかったわけです。アルバイトは全部で6人在籍しているのですが、そのうちのひとりが、次のように話していました。

「うちは、近所の人に来てもらわないと成り立たないお店。店主の話を聞いて、来てくれるお客さんを大切にしようという感覚になったし、知り合いに、『機会があったら食べに来て』と自信を持って言うようになりました」

これが早期の売り上げ回復につながったようです。

風評被害対策のポイント

風評被害や誹謗中傷を受けると、どうしても感情的になりますが、まずは現状を正しく認識し、何をするべきかを冷静に考えることが重要です。

中でも大切なのは、どんなに噂が流れようと、お客との間に信頼関係ができていれば、お客はゼロにはならないという点です。また、どんなに悪評が流れても、そもそも 耳に入ってこない人もいます。

それにも関わらず、噂を信じて来店しなくなった人に注目し、それらの人に戻ってきてもらうことに執着するのは正しいとは言えません。なぜなら、噂を否定するために、わざわざ悪評が立っていることを伝えなければならないからです。

また、正義を振りかざしたり、ときには噂を流した人を非難するケースもでてきます。こうなると、噂をよく知らない人が、「ややこしい店主がいる店だ」と感じ、足を遠のかせてしまいます。

大切なのは、売り上げが下がっている中でも来店してくれるお客を味方につけること。これを徹底して実践したのが、上記の事例2です。

また、この店舗の場合、風評被害に苦しんでいることを知っている人たちが、「店を助けたい」と、会合などの貸し切りなどを積極的に行ってくれたことも功を奏しています。噂が立っていることをわざわざ言わない姿勢が指示され、「そんな店主を助けたい」と思ったわけです

また、風評被害をきっかけに、新規客を増やすことにシフトした事例1も非常に参考になる方法です。

風評被害に苦しんでいることには一切触れず、自分たちの商売に対する考え方や豊富な商品知識をアピールすることで、新しい顧客層に働きかけたわけです。また、この行動は、すでにファンになっている人を、さらに強力に惹きつけることにもつながります。

インバウンドの風評被害実例

インバウンドが増加する中、どうやって海外の顧客にアピールするかは非常に重要です。これに対しては、まず、海外のお客がどのような情報で自分の店を知り、来店につながっているかを知る必要があります。

日本では、旅先でどの飲食店に行こうかと迷った時、雑誌や旅行会社が発信している情報を 重視する傾向があります。

一方海外では、(もちろん 国によりますが)個人が発信するSNSやブログ、または情報サイトへの口コミなどから情報を得るケースが多くなります。そのため、お客に「よい店だった」と発信してもらうことが重要となります。

ここでも実際にあった例を紹介します。

その飲食店は、東京都内にあり、お酒を中心に軽い食事もできるコンセプトバーとして営業していました。

Restaurant Promotionある時期から、急激に特定の国の方が訪れるようになり、その国の言語のメニューを用意するなど、店内でも歓迎ムードとなりました。結果的に、売り上げの半分以上がその国の方となりました。

ところがあるときから、インバウンド向けのサイトに悪評が書かれるようになりました。その後、コロナ禍となったために海外客はこなくなったのですが、最近になって、再びインバウンドが増えてきています。

そして、以前多くの来店者があった国からの旅行者が現れ、会話の中で、インフルエンサーが強力に否定する意見を吹聴していることが分かりました。

もちろん、これだけが理由だとは言い切れませんが、何らかの影響を与えたことは事実だとオーナーは考えています。曰く、「インフルエサーはもう来ないと思うけれど、小さな発信をたくさんしてもらうことを目標にやっていく」とのことでした。また、「特定の国に依存するような売り方はしない」とのことです

海外旅行では、慣れない土地な上に、行き先も限られます。だからこそ失敗はしたくないと考えるわけで、影響力のある個人や口コミサイトの影響はより大きくなります。この対策は計算できるものではないので、真摯に営業を続けるしかありません。

警察や弁護士の協力を仰ぐことも必要

風評被害や誹謗中傷を受けた結果、店を閉めなければならないケースもあります。それを避けるための対策として、警察への通報や、弁護士への相談が考えられます。

この選択をする理由としては、悪質だったり、名誉毀損に値する場合、法的措置をとれる可能性を上げるところが多いようです。ただし、どちらも即効性はなく、本質的な被害回復にはつながりにくい点を理解しておく必要があります。

ネット情報なら削除してもらえる可能性

SNSや口コミサイトなどに根拠がない書き込みをされた場合、運営者に誹謗中傷の投稿の削除を依頼できます。

ただし、個人が運営者に連絡しても取り合ってもらえないことが多く、スピード感も遅いです。一方で、弁護士を通じて依頼をすると、意外に早く対応してくれるケースもあるので、費用はかかっても、弁護士を依頼する方がよいと言えるでしょう。

ただし、拡散してしまった情報を、全面的になかったことにすることは困難です。この点は理解しておくべきです

なお、運営サイトに発信者の個人情報の開示を依頼するケースもありますが、ほとんどの場合、開示されることはないと思った方がよいようです。

売り上げの減少は関連が証明できなければ賠償はされない

今回の取材の過程で、「嫌がらせを受けたせいで売り上げが下がったから、裁判を起こしてでも賠償請求をする!とことんまで戦う」と怒っているオーナーさんに出会いました。

ただ、これは茨の道であるのが現状です。

昨年起こった回転寿司店での事件では、飲食チェーン側は、対策にかかった費用と売り上げの減少を損害賠償として請求する姿勢を見せました。このうち、売り上げの減少については、誰の目に見ても事件が原因でしたが、裁判となると立証が難しく、実際に「客の減少は同業他店との競合も考えられる」と反論されました

その後、損害賠償請求を取り下げ、和解が成立。和解金は公表されていませんし、大手の会社と未成年の争いだったことも和解理由のひとつでしょう。ですが筆者は、この調停の中で、売り上げの減少と何らかの事件を関連付けることが難しいことが証明されたと考えています。

もちろん、賠償請求が絶対に無理だとは思いません。ですが、力のある弁護士を頼むには費用もかかりますし、損害賠償が認められても満額ではなく、被害のうちの一部となるケースも多くなります。

そもそも裁判は、費用と時間をかけて、ストレスを抱えることになります。果たしてそこまでするのが賢明かどうかは、感情に流されずに判断する必要があるでしょう。

店舗がやるべき従業員への配慮

風評被害や誹謗中傷が起こったとき、店舗が取り組むべきことに、従業員への配慮があります。

店舗に抗議の電話や嫌がらせを言ってくる人に対応するのは、アルバイトを含む従業員です。前述の蕎麦屋のケースでは、家族に「ゴキブリやネズミのいる店で働いて大丈夫なのか?」と言われたと言います。

長い目で見れば、根拠がないことだからこそ、従業員が疲弊していくのは避けるべきことです。まずは、責任者がスタンスを明確にすることと、どのように対応するべきかを明確にし、従業員は迷わず対応できるようにします。

たとえ店舗が”戦う”という選択をしても、アルバイトに言い訳をさせるべきではありません。すぐに責任者を呼び、対応するようにします。

また、精神的にダメージを受けたスタッフは無理に出勤させず、手厚いサポートをすることも忘れてはいけません。ダメージを受けるスタッフの多くは、店舗を愛してくれているが故に板挟みになっていることが多いので、さらに愛情を深めてもらうような工夫を忘れないでください

SNSでの主張は逆効果

誹謗中傷を受けると、SNSを使って正当性を主張しようとするところがありますが、これは適切ではありません。むしろ、相手の思うツボ。

事態を正しく把握してもらうには、事情を説明する必要がありますが、すべての人が読んでくれるとは限りません。かい摘まんで読み、一部を読んだだけで反論の余地を見つけ、傷口を広げることになりかねません。

また、その反論が広まってしまうと収拾がつかなくなり、思わぬ所から横やりが入り、予想外の大きなダメージにつながる可能性もあります。

中には、SNSに救われた人や、それにより評判を上げた人もいますが、それ以上に炎上につながった人がいることを理解するべきです。怒りに任せての反論は、絶対にするべきではありません。

どうしても反論するのであれば、冷静になり、誹謗中傷をしてきた相手に勝つのではなく、それを読んだ人たちの誤解を解くことに力を注ぐべきです

まとめ

今回は、風評被害や誹謗中傷への対策をまとめました。そもそも店舗側に非がない中起こるこれらの事象。それでも第三者に言うと、「火のない所に煙は立たない」などと言われ、怒りと失望感に苛まれます。

どんなに悪い噂が立っても、店に足を運んでくれるお客はいるはずです。そんなお客を大切にしつつ、新しいお客の獲得に方向を変えることが賢明。間違った反論で、火に油を注ぐことがないようにしてください。ピンチはチャンスです。