近年の飲食店経営の最大の問題は人件費。頭を痛めているオーナーは非常に多く、これまでの常識や努力は全く通じなくなっています。

それもそのはず。全国加重平均、いわゆる最低賃金の全国平均が、ついに1000円を超えたのです。

もちろん 世界に目を向ければ、日本の人件費が高騰しているとは言い難いのかもしれません。ですが、物の値段を上げにくい日本の経営者にとっては死活問題。

そこで今回のテーマは、人件費をいかに削減し、経営を成り立たせていくかという点にフォーカスしたいと思います。

恐るべき人件費の高騰

2022年の最低賃金は961円でしたが、2023年には1004円となり、ついに1000円の壁を超えました。

過去に目を向けてみれば、2013年の最低賃金は764円。わずか10年前のことですが、「こんなにも安かったの?」と驚く人も多いでしょう。実に3割上がっているのです。簡単に言えば、10年前の4人の人件費は、現在の3人分とほぼ同じということです。

直近の6年間を見ていけば、2018年が874円、2019年が901円、2020年が902円、2021年が930円、2022年が961円、2023年が1004円です。2019年から2020年は1円しか上がりませんでしたが、これは 例外中の例外。理由は新型コロナです。

「令和2年度地域別最低賃金額については、新型コロナウイルス感染症拡大による現下の経済・雇用への影響等を踏まえ、引上げ額の目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」(第57回中央最低賃金審議会・答申)ということで、1円上げただけ。

しかし、次年度もコロナ禍でしたが最低時給は着実に上がり、コロナが明けてからは、上げ幅が大きくなりました。この傾向は、今後も変わらないでしょう。むしろ、上げ幅はもっと大きくなると考えます。

人件費高騰が招く悲劇

人件費に悩む代表的な例をあげます。某有名ファミリーレストランの例です。X(旧Twitter)で話題になったので、ご存知の方も多いかもしれません。

レストランに入ると名前を書くボードがありますが、そこに店員からの悲痛なメッセージが書かれていました。

「今日は店員が1人しかいませんので、何もかもが遅れます。お急ぎの方は別の店をご利用ください」

なんと悲壮感漂うメッセージでしょうか。これを見た別のチェーン本部の方が言っていました。
「昔なら、どんな店舗でも多くの人を使っていた。そのため、病欠が1人くらい出ても、がんばれば、お客に迷惑がかかるほどのレベルになることは考えられなかった。それは人件費が安かったからできたこと。むしろオーナーや店長は、今日は人件費を少なく売り上げを上げられた、と喜んだ。ところが今は、そもそもギリギリしか人を入れないから、ひとり休むと回らなくなる」と。

この方の言う「昔」とは、十数年前の話だそうですが、加えて言うならその頃は、「熱が出ても仕事には行く」時代で、スタッフはアルバイトでも簡単には休めない雰囲気がありました。それでも、(今に比べれば)人に余裕を持たせて働かせていたのです。よい時代だったのかもしれません。

とはいえ、過去に戻ることはできませんし、人件費率が下がるほど、売値に転嫁できることも考えにくいでしょう。こうなると、新しい時代の店舗運営を考えなければなりません。

ここからは、人件費を下げる策を考えていきます。

席はお客に選んでもらう

お客が来店後、最初に関わるのはテーブルへ案内する場面です。ピーク時間は、どのお客をどの席に案内するかで売り上げが変わる店舗もあり、「ここはテクニックの見せ所だ」と言う店舗もあるでしょう。ただ、その金額が人件費と比較してどうかという観点で見ると、違った考え方がでてくるかもしれません

ある店舗は、ピーク時の案内に注力していました。
「ピーク時間はお客の案内次第で売り上げが5千円は違ってくる」と言っていました。ちなみに、ランチタイムの1時間あたりの売り上げは2~3万円です。この売り上げで5000円は大きいのは間違いありません。

ところが、アルバイトは1時間だけ働いてくれるわけではありません。最低でも3時間程度は働きたいでしょう。こうなると、昼の5000円のために、3時間分の人件費を使うことになります。

3時間×1000円は3000円

こう考えると、正しい選択かどうかが微妙になってきませんか?

人件費削減を考えるなら、いっそのこと、「案内はしない」という選択が正しいかもしれません。もちろん、お客が戸惑うようでは、サービス面で劣ってしまいますので、素早い声掛けは必要です。

前出の店舗では、あれこれと考えた結果、お客に席を選んでもらうスタイルに変更しました。「テーブルにメニューが立っている席は空席です。どこでもお好きなお席を自由にご利用ください」と言うようにしたのです。お客的には、「自由に」と言われると、なんだかうれしい気分になります。

ただし、お客の中には、6人掛けの大きなテーブルを2人で使う人もいます。そうなると、テーブル単価が落ち、売り上げがダウンしてしまいます。

その対策として、大きなテーブルには、「こちらのお席は3名様以上でご利用ください」と書かれた札を置くようにしました。その結果、決して「自由に席を選べる」状態ではないのですが、それでもお客は楽しんでいるように見えるそうです。

注文はモバイルオーダーを導入する

席に着いたら、次はオーダーです。これは、文明の利器を活用すれば問題はクリアするでしょう。文明の利器とは、モバイルオーダーです。

モバイルオーダーは、スマートフォンやタブレットから、商品の注文・決済を行えるサービス。もちろん、店舗でタブレットを設置しておくこともできますが、導入にコストがかかり、管理も大変です。それなら、お客の持っているスマホを活用してもらうのが賢明というわけです。

たとえば、テーブルが決まったら、必要な設定が書き込まれたQRコードを渡したり、初めからテーブルに貼り付けるのはどうでしょうか。今どきは、「こちらを読み込めばオーダーできます」などと伝えれば、抵抗なくオーダーをしてくれます。

当然のことながら、「モバイルオーダーがあるから無人でもよい」とはなりませんが、質問がある場合に答えたり、戸惑っているお客のサポートをすればよい程度。スタッフの手をかけなくても問題はありません。

お客としても、注文まで待たされることもなく、逆にゆっくりオーダーを考えたいお客は焦ることがなくなるので歓迎されています。若い人を中心に、「モバイルオーダーがある店を選んでいる」という人もたくさんいます。

また、「高齢者には無理」とひとくくりにして心配する人もいます。高齢者を何歳くらいの設定にしているのかがそもそも疑問ですが、今では70代くらいの方なら、LINEでやりとりをする時代。筆者の近隣のおばあちゃんは90代ですが、「買い物が面倒だから、Amazonとネットスーパーが今の私を支えてくれてるの」とスマホを活用しています。

ファミレスに行けば、普通にタブレットで注文している高齢者のグループも見かけますし、「私が注文してあげる」と得意げにやっているおばあちゃんも多くいます。スーパーに行けばセルフレジの時代です。そろそろ、「高齢者に新しいガジェットは無理」という考え方を改めなくてはいけません。

調理も工夫次第で人件費カットにつながる

オーダーを受ければ、次は料理を作る作業になります。ここはこだわりを見せたいところですが、そうなると料理人が欠かせません。しかし、人件費の面から言えば、費用が高くなる料理人を使わず、最小限の人員で、できればアルバイトでも何とかなる体制を整えたいものです。

飲食業界では有名な話ですが、イタリアンレストランのサイゼリアが低価格を実現できている理由のひとつに、「包丁がない厨房」があると言われています。具体的には、すべてのメニューが下処理済みの材料となっているのです。

キッチンでするのはパスタをゆでたり、グリルで温めたり、下処理済みのサラダを盛り付けたり。調理というより、作業という感じです。動線も考えられた厨房で、キッチン要員は1人や2人で回すことも可能。料理未経験でも短時間の研修で調理スタッフとして働けるのも見習いたいところです。

工夫次第で仕込み時間は短縮できる

サイゼリアが効率化を突き詰められたのは、多大なノウハウの蓄積とセントラルキッチンがあるからですが、これに近い状況は小規模な店舗でも作ることができます。
たとえば、カット野菜の類はスーパーでも一般的に売られています。使用量が少ないのであればスーパーで購入してもよいでしょうし、それなりの量になるなら、業務用食材としてスーパーよりも割安に仕入れることが可能です。

また、食材は厨房でイチから作らなくても、冷凍食品を使う方法があります。市販品をそのまま使うことに抵抗があるなら、ひと手間加えることで個性を出す方法もあります。たとえばソース類をOEMで作ってくれるところも増えています。少ロットでは割高になりますが、人件費負担に比べれば安く、それで個性的なメニューを提供できるなら問題はないでしょう。

さらに、そのソースなどを販売できれば、新たな売り上げ確保にもつながります。

効率的な人材の使い方

「どうしても個性的なメニューにしたい」というなら、仕込み専用のスタッフを雇う手もあります。あるレストランは、店が休みの日に料理が得意な主婦を雇い、厨房で仕込みをして冷凍してもらっています。料理人より人件費が安く、仕込みにかかる時間も短縮。ひとりのパートさんが6時間で3店舗分の仕込みをこなしているようです。メニューの改編もあり、各店舗での仕込みは、生野菜を仕込む程度となったそうです。

それまで、各店舗ではオープン時間の2時間前にキッチン担当が出勤し、仕込みをするのが定番になっていたそうですが、今では30分前でよくなっています。1.5時間を週に6日。しかも3店舗ですから、6時間のパートを雇うことで、27時間分の人件費をカットできたわけです。

配膳ロボットを導入する

次は、できた料理を運ぶことになります。セルフ方式にして、お客にとりに来てもらう方法もありますが、こぼしたときの対応など、意外と手がかかります。そうなると、配膳ロボットを導入する方が賢明かもしれません。

配膳ロボットは、さまざまなタイプが出ていますが、基本的には店内の経路を覚えさせ、その後は卓番を設定すれば、指定したところに運んでいきます。また、使用後の皿やグラスを運ぶことも可能です。

今ではすかいらーくグループで活躍しているのが有名で、その配膳ロボットはガチャガチャでマスコット化されるほどに人気です。

問題は、決して安くはないという点。当初は1台あたり、200~300万円していましたが、近年では手ごろな価格のものが登場し、100万円を切るものも出てきました。ロボットの導入については補助金があるので、さらに負担は減るはず。また、リースで使用する方法もあります。

配膳ロボットのメリットは、毎日働いてくれますし、何時間働かせても休憩などは不要な点。充電については勝手にするシステムなので、あまり意識する必要はありません。

では、配膳ロボットがどれくらいの時給で働くかを試算してみます。

仮に、店舗の営業が、月に30日、1日あたり12時間だったとします。30日×12時間ですから、月間の”勤務時間”は、360時間となります。仮に「KettyBot(ケティボット)」をリースで利用する場合、保守サポート費込みで月額利用料4万4300円。この額を360時間で割ると時給は123円となります。これは魅力的な数字ではないでしょうか?

お客は意外に抵抗がない自動会計

最後はお会計です。これは、モバイルオーダーのシステムで支払まで完了できるシステムもあります。また、自動精算機を設置する方法もあります。自動精算機は、伝票に印字されたQRコードやバーコードを読み込ませて会計をするものですが、最近はスーパーで普及していることもあり、多くの人が抵抗なく利用しています。

いずれにせよ、ここでも人を介さず、お客にセルフでやってもらうわけです。もちろん、領収書の発行も自動でできます。

会計に関しては、「スタッフが忙しそうで、レジ前で待たされる」という不満が多いところでもあります。もちろん、お客自身ができるからと言って、誰も声もかけずほったらかしでは問題です。「ありがとうございました」という声掛けは、必ずすることを心がけてください。

おいしいものを快適なスペースで提供するのが飲食店

飲食店は、おいしい料理を適切なサービスのもとで提供するのが基本です。たとえば配膳ロボットを導入したことで接客レベルが下がり、お客が不満に思うのであれば、売り上げが下がってしまいます。

しかし、人を削減することで、必ずしも接客サービスレベルが落ちるわけではありません。また、人件費に圧迫され店舗がなくなると、どんなサービスも提供することができなくなります。これでは本末転倒です。

以前は、サービスは人が行うしかありませんでしたが、時代は変わっています。料理を運ぶのが人からロボットに変わったからと言って、「サービスが落ちた」と全員が感じるわけではありません。

むしろ、少ない従業員があわただしく仕事をし、料理が出てこない方が不満になります。ロボットが料理を運んでも、スタッフが手の空いた時にしっかりと声をかけてコミュニケーションがとれれば問題はありません。

また、モバイルオーダーを導入すると、追加オーダーをしてくれないと心配する店もありますが、それも適切に声をかけ、追加を促せば、心配するほど売り上げは落ちません。

ITを導入すると聞くと、なぜか、「人に変わって働いてくれるが、コミュニケーションが取れないから不安だ」と言う人がでてきます。そんな「1」か「0」しかない発想は柔軟性に欠けているのではないでしょうか。

分かりやすい例を出すならば、新人従業員がいた場合、最低限のことをするだけでいっぱいになり、接客にまで手が回りません。そうなれば、周りのスタッフが声掛けなどをしてフォローするはずです。

これと同じこと。機械でもできる部分をIT化し、スタッフは人にしかできない部分に集中させる。これが、新たな快適空間作りに必要なのではないでしょうか?

まとめ

今後、ますます上昇する人件費。これを徹底的に減らす方法を考えてみました。

ここで紹介したすべてのことを導入すれば人件費は大幅にカットできると思いますが、必ずしもすべてを導入する必要はありません。まずはスタートしやすい部分からはじめてみるのはいかがでしょうか?

 

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