飲食店は外的要因の影響を受けやすい業種です。近年の新型コロナウィルスはもちろん、毎年じわじわと上がる人件費や食材費の高騰に頭を悩ませているオーナーも多いことでしょう。
こうなると、飲食店からの収益だけでなく、何か他の方法で収益が得られないかと考えたくなります。たとえ利益としては少額であっても、収益の柱を複数にしておくことで、万が一のときに耐えることができますし、新しい方向性を探るという面でも有効です。
そこで今回の記事では、飲食店をメインにしながら、新たにはじめられるビジネスを考えていきます。
飲食店の特性を活かした収益を目指す
本題に入る前に、飲食店が副業をすると言っても、主体は飲食店であることに変わりありません。もちろん、まったく違う業種にトライするのも有効かもしれませんが、それはまったく違うノウハウが必要なので、ここでは扱いません。
あくまでも店舗という施設を活かしたり、食品を提供することをベースに考えて行きます。
こう考えると、2つの方法がでてきます。
一つは営業していない時間に場所を貸す方法。もう一つはオリジナルの食材、例えばオリジナルドレッシングやソース、新鮮な野菜などを販売する方法です。
それぞれを深彫りしてみましょう。
店舗という場所を有効に使う
まずは、使っていない時間帯に店舗そのものを貸す方法を紹介します。これには大きく分けて、2つあります。
店舗の特性を活かした場所貸し
まずは、飲食店とは関係のない人たちに貸すことができます。例えば、地下にある飲食店が防音の面で優れていることを生かし、バンド練習用に場所を貸す。近所の団体にカルチャースクールのスペースとして提供するなどが考えられます。
特定の人たちに貸すのであれば、「厨房には入らない」などのルールを確認すればよいでしょう。スマートロックを取り付け、鍵の受け渡しもなくせば、スタッフがいない状況で場所を貸すことができます。
もちろん店内には食材が置かれているわけですから、万が一のことを考える必要はあります。そのため、不特定多数の人に貸すのはおすすめできません。
それでも最近は、場所貸しを斡旋するWEBサイトもあります。工夫をして安全を確保しつつ楽に場所貸しができれば、メリットも多くなります。
特定の団体にだけ貸した例
筆者の知っているカフェでは、近所の団体に限って、休日に場所を貸しているところがあります。もちろん有料です。
その団体は自治体が運営主体となって募集するもので、講師も受講生も近所の方。年齢層は比較的高く、中には参加者のほとんどが高齢者というものもあるそうです。
この団体では複数のレッスンを実施していて、万が一トラブルがあればすべてのレッスンがその場所を使えなくなります。そのため、講師が責任を持って使わせることがルールとなっていて、不安なことはないそうです。
店舗オーナーと講師が個人的な関係があるわけではないですが、根本的には自治体から補助を受けた活動であり、講師も明確。そのため信頼関係に問題はなく、想定外の使われ方はありえません。
レッスンが終われば、ゴミなどもそれぞれが持ち帰るルール。最終的には講師の責任で状態をチェックしてくれるため、「フロアはむしろキレイになった」と感じているそうです。
この例では、店舗が休みの日に貸していますが、受講者が普段も利用してくれるようになったため、売り上げも上がっています。
店舗スタッフが常駐するなら売り上げも見込める
「食材があるので、無人で貸すのは抵抗がある」と考える方は、店舗スタッフが一人常駐するという選択肢もあります。
店舗貸しの費用は安かったとしても、参加者から飲み物をオーダーしてもらえば、それなりの売り上げにつながります。
この例では(コロナ前ではありますが)、スペースは1時間2000円で最大30人まで利用でき、ドリンクのみ注文可としたところがあります。
1時間2000円は担当者の時給と考え、あとは多少でも売り上げがあればよいと考えていたそうですが、蓋を開けてみると、参加者のほとんどの人がドリンク2杯、3杯と注文。数時間で数万円を売り上げることも珍しくなかったと言います。
飲食店開業希望者に「間貸し」する
他に増えているのが、「間貸し」というスタイル。例えば居酒屋であれば夜の時間しか店舗を使いません。つまり、ランチタイムは営業していない状態なので、この時間に特定の人に厨房を含めた店舗を貸し、営業をしてもらうわけです。
実はこの方法はずっと以前からあったのですが、最近ではマッチングサイトなどが出てきたことで、貸す相手を探しやすくなりました。
間借りをするのは飲食店出店希望者や Uber などを利用してゴーストレストランをやりたい人。厨房を使わせるわけですから、単発の時間貸しをするのではなく、平日のランチタイムなど、まとめて営業を任せるのが一般的です。
看板を変えるとまではいきませんが、「ランチタイムは間貸ししている」ことをしっかりと伝えれば、何かあったときも、悪影響は最小限に抑えられます。
もちろん、営業許可は自分の店舗で取得しているので、人選はしっかりとする必要がありますが・・・・・・。
筆者の知っている例では、大きな厨房を持っているアジア料理屋さんが、移動販売で事業展開している若者に場所を貸していました。 また、居酒屋の厨房を借りて、週に2日、カレー専門店を開業して経験を積み、店舗出店にまでたどり着いた女性も知っています。
費用については、双方で決めることになります。水道光熱費は代金に含むのが一般的。前例のカレー屋さんの場合、冷蔵スペースについてはドア1枚分。冷凍スペースについては棚一つを貸し、売り上げに応じた家賃設定をしていました。後者の女性は、定額を納める方式を採用していました。
方法はいろいろありますが、いずれにせよ、労力はあまり使わず、店舗を使っていない時間に利益を受け取れるので、非常に賢いスペースの使い方ではないでしょうか。
食材を売る
もう一つの収益を得る方法として、店舗で使っている野菜やオリジナルソース、ドレッシングなどを物販するという方法があります。
何を売ってよいのかの判断は自治体によって違いがあるのですが、「テイクアウトの延長」として認められる範囲であれば、許可を必要としないケースがほとんどです。
例えば、店舗で使っている産直の野菜は常温保存でもストックできるものも多く、許可は要りません。
また、ドレッシングやソースなど、店で使っているものを個別容器に入れ、販売している店舗もあります。
飲食店がソース作りで考えるべきこと
飲食店がソースなどを販売するには、次のことを考える必要が出てきます。
まずは、家庭では想定外の使われ方をすることを考えなければなりません。店の味を知っている人がソースを買って帰れば、温めてかけるだけで同じ味が再現できると思っています。
しかし、なかなかそうは行きません。パスタソースであれば、「麺と一緒に炒めた方が美味しい」とか、「ニンニクを好みで追加する」など、再現するための方法があるなら、資料として添付するほうが賢明です。
また家庭用冷蔵庫と業務用冷蔵庫は庫内の温度に違いがあります。特に家庭用冷蔵庫のドアポケット付近は温度が変化しやすく、業務用冷蔵庫よりも高い温度で保管されるケースがほとんどです。それを考えた上で賞味期限を設定する必要があります。
そして何よりも重要なのは、在庫過多では却って店の利益を損なうという点です。たくさん売りたい気持ちはわかりますが、余っても店舗で使える量を目安にしてください。
ソース販売に営業許可は必要か?
前述しましたが、飲食店がテイクアウトの範囲でソース類を販売することは新たな許可を必要としないケースがほとんどです。しかし、もっと大々的に販売したい場合は事情がことなり、新たな許可が必要となります。
例えば、ソース類を販売したい場合、2021年6月の食品衛生法改正で、「密封包装食品製造業許可」または「ソース類製造業の届出」のいずれかの手続きを行うことが必要となりました。
この届出をして認められるには、施設基準を満たす必要があります。
では、飲食店はすでに営業許可書が発行されていますが、この施設で複数の許可が下りるのかと言う問題が出てきます。
これについては、2015年7月に厚生労働省から出された通達により、「施設を業種毎に専用のものとしなくてもよく、一つの施設に対して二つ以上の営業を許可することは差し支えない(中略)。既に営業を行っている営業者が追加で別の営業許可を受ける場合も同様」と確認されています。つまり一つの施設で二つ以上の営業許可を出すことが可能ということです(ソース類は届出ですが、制度上は同じです)。
次に設備基準ですが、一般的な厨房は基準を満たしていないことがほとんどで、改装をするか、最初から基準に合致したものを作るしかありません。この点は難しいところであり、最初に調べておくことをお勧めします。
施設基準を満たないならOEMという手もある
施設基準を満たすことが難しいなら、本格的なソース販売はあきらめなければいけないかと言えば、そんなことはありません。なぜなら、OEMという手があるからです。
OEMとは、「Original Equipment Manufacturing」の頭文字をとったもので、許可を取得した業者に受託加工や受託製造を行ってもらうものです。
食品については、小ロットで受託してくれる業者も多くあります。また、こうして製造された商品は、テイクアウトの範疇を超え、他店舗で販売したり、通信販売をしたりすることも可能となります。
OEMがチェーンを救った例
ここで、ソースのOEMで売り上げを確保したほか、チェーンの人気も上がった例を紹介します。
そのチェーン店では、開業当初は料理長がソースを作っていました。その後、店舗数が増えても、しばらくは何人かの職人がソースを作って各店に引き渡すという形で味を均一化していました。しかしその後、店舗数が増えたことでマニュアルを作り、各店舗でソース作りができるように体制を変更します。
しかし店舗に足を運んでみると、味はバラバラ。中には、「これでは商品として成り立っていない」という店舗も出てきました。
一方で、そのソースは様々な料理に汎用できることもあって、一部のお客さんに販売をしていました。それが一定数を超えて販売するようになり、もっと売り上げを伸ばせるのではないかと考えるようになります。
この2つの問題を一気に解決する方法として、OEMを選択します。
ソースを瓶詰めすると、どうしても割高になります。これを店舗でも使っていたのでは割に合わず、また使用量も多いためゴミも多量になります。そのため、お客に販売する文は瓶詰め、一方で店舗で使う分はパウチにすることで両者のニーズを補いました。
これにより、味の均質化に成功しただけでなく、チェーン店として出店スピードを速めることに成功しました。
小規模店舗ではあまり聞かないOEMかもしれませんが、先の展開も見えてきそうです。新たなチャレンジとして試す価値はあるのではないでしょうか?
最後に・・・
今回は飲食店が行える、実現可能な収益獲得策を探ってみました。基本は場所貸しと食材販売。どちらにしても、価格設定が重要となります。
特に食材販売については、店舗での価格設定とかけ離れたのでは売れませんし、かといって製造コストを度外視するわけにはいきません。
そこで重要となるのは、感覚で値付けをするのではなく、データを元にした理論的な値付けをすることです。例えば、飲食店では3~4割が原価となりますが、物販ではもっと高くなります。
最終的には経営者のさじ加減となりますが、そもそものデータの有無は重要となります。
しかし、残念なことに、元となるデータが正しく集約できていないところもあります。不安定なデータから算出した価格設定は、プラスにならないことも多いので注意が必要です。
今はPOSを導入するだけでさまざまなデータを集め、戦略に活かすことができます。税率が違っても、問題なく一緒に会計ができるので安心。まずは汎用性の高いPOSを導入することからはじめ、戦略的な収益確保をスタートさせてください。
多くの方の成功を願っています!