世界の国々でコロナ終息宣言が発表される中、ウクライナ情勢や急速な円安を背景に、日本には新たな厳しさが突き付けられています。特に、原材料費と光熱費が上がっており、飲食店経営を圧迫。人件費も上がり続けており、頭を痛めている経営者も多いことでしょう。

この記事では、厳しい環境の中、飲食店が利益を確保するため取り組むべきことのうち、メニュー構成や食材の取り扱いについて考えていきます。

2022年は値上げラッシュ

食材の値上がりに関するニュースが続いています。

2022年に入ってから飲食店チェーンで値上げした分野を見ると、ラーメン、カレー、牛丼、回転寿司など種類が多いことが分かります。

また、値上がりこそしていない、あるいは小幅な値上げ幅に抑えているものの、実際に食べてみると明らかにボリュームダウンしているところもあります。

さらに、値上げしたことが分かりにくい季節限定商品の価格が上がっているなど、どこも苦慮している様子が伝わってきます。

鶏もも肉の仕入れ価格は2年で1.7倍に

今回の売価上昇は食材の仕入れ値が上がったことによる部分が大きくなっています。ここでいくつかの例を挙げましょう。
ひとつ目は、輸入品の冷凍鶏もも肉(2キロ)です。筆者は飲食店経営をしていて、20年近くひとつの業者から仕入れています。

業者の好意もあり、長年、大幅な値上げはありませんでした。さらに、コロナ禍で弁当をはじめたことで仕入れ量が圧倒的に増え、「これだけ仕入れてくれるなら、ちょっとだけど安くするよ」と言われ、値を下げてもらえました。そのときの価格は2キロで630円(税別)でした。

しかし、2年経った現在、1080円(税別)にまで上がっています。実に1.7倍です。

2年前と言えば、テイクアウトの唐揚げ店が続々とオープンした頃。利益が出やすい商材としてからあげが注目されましたが、経営環境はかなり悪化しているはずです。

世間では、「唐揚げブームが去って店舗が減っている」と言われていますが、実情は利益がでにくくなったので減っているのかもしれません。

植物油の仕入れ価格は2倍以上という衝撃!

さらに長いスパンでみれば、植物油の価格上昇は大きな問題です。
筆者の場合、現在の業者と取引をはじめたのは12年前。そのときは一斗缶あたり3000円しなかったと記憶しています(確か、2600円程度)。その後、徐々に値を上げたものの、「仕方がないな…」と思える範囲でした。

しかし、昨年から目に見えて上昇するようになり、2022年になってからは毎月のように値上がりをします。そしてついに、10月には6000円を超えました。衝撃としか言えません。

植物油は理論原価を計算するときに、加味しない店舗が多いはず。一方で、使用量が多く、まるで 痛みの少ないパンチを受け続け、内臓にダメージをためこんでいるボクサーのような状態です。

この状況は、円安が落ち着けば多少は改善されるのかもしれません。しかし、その日がいつ来るのかは分かりませんし、高くした商品の値下げは行われないこともあります。

一方で、経営は待ったなし。今、取り組めることをすぐにはじめなければ、店舗が消えてなくなってしまいます。

利益を確保するための検討ポイント

利益確保をメニュー構成の面から考えれば、原価率を下げ、利益率を上げることに尽きます。

原価率を下げるには、以下の3つの方法があります。

● 価格を上げる
● 使用する食材を減らす
● 安い食材に変更する

「そんなことはわかってるよ」と言われそうですが、実際にこれをどうやって店舗運営に取り入れるのかは非常に難しいはず。なぜなら、あからさま過ぎれば客離れを引き起こし、さらなる売上ダウンが発生するからです。

では、上記の3つを上手に組み合わせながら、客数減を起こさないように実践するにはどうすればよいでしょうか?

価格を上げる

価格を上げるのは難しいものですが、今は価格を見直すところも多く、ある程度、許容されるのかもしれません。一方で、家計の物価も上がっているため、価格上昇は許容しつつも、外食回数を減らすことで対応しようと考えている人が多く、全体としては来店機会は減少するでしょう。

しかし、それはあくまでも全体の話。極端なことを言えば、外食機会が減っても、自店の売上が確保できれば問題はないはずです。

とは言え、価格を上げるのは諸刃の剣であることに間違いありません。
「値上がりした上に量が減った」「価格は上がったが味が落ちた」などと思われたのでは失客につながります。

「価格は上がったが、その分おいしくなった」と感じていただけるよう努めてください。価格とお得感は同一ではありません。ここが大きなポイントです。

また単純に単価を上げるのではなく、客単価を上げることに着眼点を持って行く方法もあります。例えば、セット価格の設定です。

単品だと値上がりしていても、セットにすると以前と同じ価格で注文できるという状況を作ります。こうすれば客単価が上がるので、利益率が下がっても利益額は変わらないことになり、痛手を受けにくくなるはずです。

使用する食材を減らす

ボリュームダウンは「実質的な値上げ」ですが、工夫次第で分かりにくくできるのが飲食店であり、もっとも取り組みやすいものだと言えます。

具体的な方法については後述しますが、実質的にボリュームダウンしていても、盛り付けを変えれば分かりませんし、調理方法によっても分かりにくくなります。

ただしこれも、気を付けなければならない部分があります。
例えばランチの場合、ボリュームがダウンしたせいでお腹がいっぱいにならず、「夕食まで持たない…」と感じられれば、自然と客足は遠のきます。

夜も同じく、「満足感が減った」となるとマイナス。このあたりは非常にシビアに判断されるので、何をどう減らすのかはよく考える必要があります。

安い食材に変更する

食材を変更することで原価を下げる方法もあります。

単純に安い食材に変えただけでは味が落ちますが、食材は調理法によって味を変えること可能です。これは職人の技術によるところが多く、創意工夫ができる人材がいれば味の変化を最小に抑えつつ、原価を下げることができます。また、成功すれば永続的に利益を確保しやすくなり、さらに個性的な調理を加えれば、顧客確保にもつながります。

売り方を買える方法もある

食材を工夫できるほどの職人がいない場合、売り方を変える方法もあります。
持ち帰り専門の唐揚げ店の実例を紹介しましょう。

その店舗はずっと、鶏もも肉と鶏むね肉を選べる弁当が主力商品でした。具体的には、唐揚げを4つ入れた弁当を売っていて、「もも肉だけ」「むね肉だけ」「もも肉とむね肉を2つずつ」の3種から選べたのです。

鶏のもも肉とむね肉は仕入れ価格がまったく違い、もも肉の方が2倍くらいの価格です。しかし、その店舗ではどれを選んでも価格は同じ。その理由は、常連客はもも肉だけのものを買っていくからであり、「むね肉だけの注文が入ったらラッキー」くらいに考えていました。

なぜそうなっていたかと言えば、最初は両方の肉が入っているものを注文し、もも肉の方がジューシーなことが分かると、多くの人がもも肉だけのものに移行したからでした。

そんな中、原材料費が高騰しはじめ、むね肉の唐揚げの比率を上げなければ価格を維持できない状況となります。

そこで売り方を変え、「むね肉の方が脂身が少なくヘルシーである」ということを前面に出すことにします。また、むね肉の弁当の付け合わせを変え、徹底的にヘルシーを売りにしました。もちろん、POPなども作成。

唐揚げはヘルシーさとは真逆と考える方も多いですが、それでも唐揚げファンは多く、「罪悪感が少なくなる」といって売れ出します。そして今では、むね肉のから揚げの方が売れていると言うから驚きです。

ボリュームダウンさせず、25%の原価を下げる

ここからは、使用食材を減らしながら、ボリュームダウンをさせない方法を考えていきます。ここでも人気の唐揚げを例にします(唐揚げばかりで申し訳ありません)。

仮に下準備にちょっとした工夫をすることで、肉の原価を25%減らせるとしたらいかがでしょう?

実際の例を画像付きで紹介します。

画像にある鶏もも肉は、左側が70グラム。右側は92グラムです。原価にするとまさに25%の差となります。

切り分けただけの状態なので、当然ながら大きさに差があります。

しかし、この後、カット方法を工夫することで、変化が出てきます。それが次の画像です。

これも左側が70グラム、右側は92グラムですが、こうなるとどちらが大きいのか分からなくなってきます。

ちなみに揚げた状態の画像は以下です。

いかがでしょうか?

繰り返しとなりますが、左側が70グラム、右側は92グラムです。それほど大きさに変わりはありません。もちろん、じっくりと比較すれば大きさは違うのでしょうが、パッと見た目には変わりはありません。

では、どのような工夫をしたのでしょうか?

肉の厚みのあるところに包丁を入れ、肉を開くようにする。これだけです。時間にして3秒ほど。こうすれば実質的には肉は薄くなりますが、体感するほどのサイズの違いはなくなります。

また、揚げるのに必要な時間も短縮できるというメリットもあり、一石二鳥です。

盛り付けで工夫する

もうひとつ。盛り付けを変えることで、変化をつける方法もあります。
盛り付けには様々なこだわりがあると思いますが、もっとも簡単な方法を紹介します。

まずは、一般的な盛り付け例が以下です。滑り止めとして、から揚げの下にキャベツの千切りをしいています。

次に、皿を変えてみます。
皿の大きさはあまり変わりません。重ねると、四隅が若干出る程度です。

使っている唐揚げは、白い皿の方が約90グラムでしたが、ここからは70グラムのものに変更します。もちろん、前述のカットをほどこしています。

付け合わせの野菜はキャベツから葉物野菜に変更しています。その理由は、滑り止めとして使わないことで、あえて皿いっぱいに広がりをもたせるためです。

いかがでしょうか?
ボリュームアップしたように見えるのではないでしょうか?

さらに、半分にカットしたものが以下。

こちらの方が食べやすく、ボリュームダウンしていることをごまかしやすいかもしれません。

どちらにしても、最初の白い皿から赤い皿に変えることで印象をガラリと変え、肉の原価を約25%ダウンさせるのに成功しています。

いかがでしょうか?
少しの工夫で、原価をコントロールできることがお分かりいただけたと思います。ここに飲食店経営の面白さがあると言えます。

他にもいろいろな方法があると思います。ぜひ試行錯誤を楽しんでください。

まとめ

高騰を続ける原材料費をさまざまな工夫をすることで下げる可能性を探ってみました。腕のよい職人がいなくても選択できる方法はあるはずです。知恵を絞って、客足を減らさずに、食材高騰と戦える方法を探ってください。

なお、シビアな原価管理には正しいデータをとることは欠かせません。
今はPOSレジが進化し、単独店舗でも、複数店舗でも正しい数値を把握することができるようになっています。

どのメニューに手を加えると効果が大きいかだけでなく、その結果、どれくらいの効果があったのかといった効果測定にもデータは重要。シビアな戦いにはデータが欠かせません。もしデータ取りができないのであれば、まずはそこから手を付けるべきかもしれません。