アメリカでノンアルコールワインやノンアルコールビールなどの「ノンアルコール酒類」の消費が拡大している。ニールセンの調査によると、2020年のアメリカ人の「ノンアルコール酒類」の売上高は、2019年から37%増加したという。また、アルコールが入っていないカクテル「モクテル」の人気も高まっている。アメリカの「ノンアルコール酒類」消費拡大の背景には何があるのか、諸々を考察する。

ノンアルコールワインの消費伸び率が高いアメリカ市場

数あるノンアルコール酒類の中でも消費伸び率が高いのがワインだ。ノンアルコールワインはヨーロッパでブームに火が付き、最近になってアメリカへトレンドが押し寄せて来たとされる。米ビール研究所の調査によると、2020年度のアメリカのノンアルコールワインの消費伸び率は36.8%で、他のノンアルコール酒類カテゴリを大きく上回ったという。

実際に、アメリカ人のノンアルコールワインに対する関心は高く、食品市場調査会社テイストワイズによると、2021年1月の1カ月間の「ノンアルコールワイン」のネット検索回数は、2020年1月の333%に達したという

ノンアルコールビール市場も拡大、1年で38%増加

ノンアルコールワインに加え、ノンアルコールビール市場も拡大している。市場調査会社IRIによると、2020年のアメリカのビール市場は、新型コロナウィルスのパンデミックの影響などにより対前年比で7%程度縮小したが、ノンアルコールビール市場は、逆に売上高ベースで前年比38%も増加したという。

ブルックリン・ブルワリーのノンアルコールビール
ブルックリン・ブルワリーのノンアルコールビール

世界各国のビールメーカーがアメリカ市場へこぞってノンアルコールビールを投入する中、アメリカ各地のクラフトビールメーカーもノンアルコールビールを開発、提供し始めている。ニューヨークの人気クラフトビールブルワリーのブルックリン・ブルワリー(Brooklyn Brewery)は、ノンアルコールビール「ブルックリン・スペシャルエフェクツIPA」「ブルックリン・スペシャルエフェクツ・ホッピーアンバー」の2種類を開発、店頭で販売している

ブルックリン・ブルワリーのノンアルコールビールは味がいいと評判で、店頭以外にもスーパーマーケットなどでも販売を開始するとしている。なお、ブルックリン・ブルワリーは、2020年2月に東京に世界初となる海外一号店「B byブルックリン・ブルワリー」をオープンさせている。

「モクテル」も人気上昇、提供する店が増加

Mocktail
Mocktail

さらに、ノンアルコールカクテル「モクテル」の人気も上昇している。「モクテル」()とは、「ニセの」という意味のMockと、「カクテル」(Cocktail)を掛け合わせた造語だ。アルコールが一切入っていない各種のモクテルが人気で、モクテルを提供する店が増加している。

また、酒類を一切販売しない「モクテルバー」も誕生している。ニューヨーク・マンハッタンにある「リッスン・バー」は、100%アルコールを販売しない「完全ノンアルコールバー」だ。ノンアルコールビールやノンアルコールワインに加え、各種の「モクテル」を提供している。また、珍しいノンアルコールウィスキーなども提供している。

「リッスン・バー」創業者のロリレイ・バンドロヴィッチ氏によると、同氏は「アルコールを超えたナイトライフをリライトする」ことを目的にリッスン・バーを開店し、多くのニューヨーカーたちの賛同を集めているという。店と客が、酒に酔うこと以上の意味を見出すという価値観を共有しているようだ。


「ノンアルコール酒類」消費拡大の理由

では、なぜ現在のアメリカで「ノンアルコール酒類」の消費が拡大しているのだろうか。まず考えられるのがアメリカ人の健康意識の高まりだ。新型コロナウィルスのパンデミックは、アメリカに感染者4540万人、死者73万6千人という未曽有の被害をもたらした。全国民の14.2%が新型コロナウィルスに感染するという異常事態は、アメリカ人にWHOが「有毒性向精神物質」と定義するアルコールという液体を控えさせるに十分だった可能性が高い。

また、コロナとは関係なく、自発的に酒を飲まないトレンドも広がっている。アメリカでは、1月中アルコールを一切飲まない「ドライ・ジャニュアリー」(Dry January)に参加する人が増加している。オンライン調査サイトYouGovによると、2021年のドライ・ジャニュアリーに参加した人の割合はアメリカの成人人口の15%に達していて、2020年から10%増加したという。また、アルコールを定期的に飲んでいるアメリカ人の23%が、来年のドライ・ジャニュアリーに参加する意思があると回答している。アメリカでは、酒に酔っていない状態をソーバー(Sober)と言うが、ソーバーでいる状態がクールであるという一般的な認識が広がっているのかも知れない。

若い世代ほどアルコールを飲まないトレンド

なお、アメリカ人のアルコールを飲まないトレンドは、若い世代ほど顕著であるとされる。カリフォルニア州立大学サンディエゴ校が行った調査によると、ジェネレーションZと呼ばれる若い世代(16歳から24歳)では、アルコールを全く飲まない人の割合が他のどの世代よりも多く、しかも年々その割合が高まってきているという。

また、ジェネレーションZよりひとつ上のミレニアル世代(25歳から40歳)も、アルコールを控える傾向にある。ある調査によると、ミレニアル世代の66%が飲酒の機会を減らす意思があるとしており、47%が健康維持を、27%がダイエットを理由に挙げている。ミレニアル世代においてもジェネレーションZと同様に、「クリーンな生活」を志向する人が多いようだ

日本でも若者が酒を飲まないトレンドが広がる?

ところで、日本の現状はどうなっているのだろうか。株式会社バザールが2019年に行った調査によると、酒をまったく飲まないと答えた人の割合は年代が低いほど高く、20歳代では29%となっている。ほとんど飲まないと答えた人の割合(14.4%)と合わせると、20歳代の43.4%がほとんどか、まったく酒を飲まないことになる。また、毎日酒を飲むと答えた人の割合は10.6%で、60歳以上の28.5%の半分以下となっている。若い世代ほど酒を飲まないトレンドは、日本でも同様のようだ。

海外のノンアルコールワイン
海外のノンアルコールワイン

一方、日本でもアメリカ同様、ノンアルコール酒類市場が拡大している。サントリーが行った調査によると、2020年度の我が国のノンアルコール飲料の販売数は2266万ケース(大瓶換算)で、2010年の1026万ケースの2.2倍となっている。内訳はノンアルコールビール1950万ケース、ノンアルコール酎ハイ・カクテルテイスト飲料316万ケースとなっている。アメリカと販売構成が微妙に違うが、ノンアルコールビールが牽引する形で市場を拡げている。

なお、日本でもモクテルなどを出す店が増えてきているようだが、ノンアルコール酒類が、今後の日本の飲食業界におけるひとつのキーワードになると考える。特にノンアルコールワインなどは市場がほぼなく、ゼロベースの状態だ。筆者は、特に日本のノンアルコールワイン市場の今後の動向に注目している。

参考サイト
https://www.forbes.com/sites/lizthach/2021/04/06/no-low-alcohol-wines-hit-the-us-looking-to-gain-traction/?sh=43c07325257c
https://edition.cnn.com/2020/10/12/health/young-adults-drinking-less-alcohol-us-wellness/index.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000287.000042435.html