飲食店を経営する上で重要な数値に「原価率」があります。
飲食店の業態は、時代の流れにあわせてさまざまに変化していますが、その一方で、「適正原価30%」という数値はあまり変わっていません。飲食店が、安定経営を目指すには、本当に30%を目指すべきなのか?
原価率をどう捉えればよいのか?
現状を紹介しながら、新しい原価率の考え方を探っていきます。

なお、ここで扱う「原価率」とは、飲食店において一般的に考えられているものであり、他業種のものとは異なります。

 

原価と粗利についての基本

まずは、「原価(率)」と「粗利」について復習してみましょう。既にご存知だという方はこの章は読み飛ばしていただいてかまいません。

原価率とは?

原価とは、その商品をつくるのに必要な原材料費のことです。また、これを比率にしたものを原価率と言います。

販売額が1,000円の商品の原材料費が400円であれば、原価は400円。
原価率は、400÷1,000×100=40%となります。
同じく、販売額1,000円の商品の原材料費が200円であれば、原価は200円。
原価率は、200÷1,000×100=20%となります。

また、飲食店では売上から原価を引いたものを「粗利」と言います。
販売額1,000円の商品の原価が400円であれば、粗利は600円。
販売額1,000円の商品の原価が200円であれば、粗利は800円です。

理論原価率とは?

では、「理論原価(率)」とは何でしょうか?
上記で説明した例を参照にするならば、商品開発を行う際に、「販売額1,000円の商品は、400円分の材料でできる」というように計算したものを「理論原価(率)」といいます。これは、商品ひとつひとつに存在するもので、「こうあるべきだ」「こうあるはずだ」という数値です。

実際には、商品の盛りすぎや、賞味期限切れなどによって食材ロスが出てしまうため、理論原価率より実際の原価率の方が高くなります。飲食店においては、理論原価率よりも実際の原価率の方が重要です。そして、この実際の原価率のあるべき値を「適正原価率」と言います。



適正原価率30%は本当か?

一般的に、「飲食店の適正原価率は30%(以下)だ」という考えがあります。この数値は、さまざまな経営数値を考え、一般的なもの(あるいは、理想的なもの)として算出されているのかもしれません。正当性もあるのでしょう。ところが、「原価率30%」を意識しすぎたあまり、経営が厳しくなる飲食店が多くあるのも事実です。また、原価率30%の商品はあまり魅力的とは言えません。

では、なぜ、適正原価は30%と言われるようになったのでしょうか?

原価率が盛んに意識されるようになったのは40年前から

野菜飲食店において、原価率を意識するのは当然のことです。ところが、「それを30%に設定すべき」と盛んに言われるようになったのは、40年ほど前からではないかと思います。この頃は、飲食店がチェーン化しはじめた頃で、各店を客観的に管理するものとして、数字が非常に重要視された時期。その数字が30~35%だったのです。

では、それ以前の飲食店はどうだったのでしょうか?
飲食店がチェーン店化する前は個人店がほとんどであり、どんぶり勘定のところも多く存在しました。また、原価を意識はするものの、その適正値は各店によって異なるものであり、職人の勘に頼っているというところも多かったはずです。それでもよかった時代とも言えます。

さて、飲食店では、非常に重要な数値がもうひとつあります。それは人件費です。
平成元年、東京都の最低時給は525円でした。最も安かった九州や沖縄、東北地方では446円です。その後、最低賃金は大きく上がり、平成30年の東京は985円となりました。全国で一番安い鹿児島でも761円です。

いくら店舗内がシステム化されたと言っても、これだけの上昇率をカバーできるほどのシステム化は考えにくいでしょう。こうなってくると、飲食店における適正原価を以前と同じく「30%を目指すべき」とするのには違和感があります。そこで現在では、適正原価30%という考えから離れ、違った観点で数理管理をしようとする動きがでてきています。

今、必要とされるのはFLコストとFL比率

最近、飲食店を中心によく言われるのが、FLコストやFL比率という言葉です。
FLとは、原価や原材料を指す「FOOD」と、人件費を指す「LABOR」の頭文字を取ったもの。つまり、食材費と人件費を合算したものが「FLコスト」です。そして、売上に占めるFLコストの割合を「FL比率」と言います。

「FL比率が50%以下であれば利益率は高い」とか、「FL比率を60%以下に抑えましょう」など、新たな基準として注目されています。

FL比率が注目される背景には、人件費が高騰する中での利益確保が難しくなったことが上げられます。最近はチェーン店でも、地域によって商品価格に変化を持たせているところも出てきました。人件費が高いところでは、原価率を下げることで調整するのです。これからの原価率は、適正なFL比率を算出するために必要な数値と言えるかもしれません。

原価率を無視して誕生した生まれた飲食店

肉原価率へのこだわりを捨てたことで誕生した、新たな店舗も多く出てきました。例えば、「いきなりステーキ」の原価は、肉だけで見ると70〜80%。サイドメニューや飲み物を加えても60%ほどと言われています。原価率30%とは遠くなっています。これは、立ったままステーキを食べさせることで収容人数を多くし、回転率を上げたことで薄利多売を徹底した例です。

また、どのメニューも原価で提供することを特徴とする店舗も登場しています。これらの店舗では、テーブルチャージのようなスタイルで一定額の「入場料」をもらう代わりに、商品はすべて原価のまま販売します。オーダーすればするほど原価率は上がっていくことになりますが、お客一人からもらえる「入場料=粗利」となっているため、利益が見えやすく、もはや原価率という考えはありません。一方でお客は、他の飲食店よりも安い価格でオーダーできるため、お得感が高く、売上げを上げやすい仕組みとなっています。

重要なのは、原価率より粗利という考え

上記はかなり特殊な業態だと言えますが、一般的な飲食店でも経営を安定させるために、原価率ではなく粗利額に注目しようという考えが出てきています。

例えば、1,500円の手の込んだ肉料理と、380円のフライドポテトがメニューにあったとします。肉料理は、原価が900円かかっており、原価率は60%。一方、フライドポテトの原価は70円であり、原価率は18.4%です。この場合、原価率から見ればフライドポテトの方が圧倒的によい商品となります。

しかし、肉料理は1品出ると600円の粗利が得られますが、ポテトは210円しかありません。お客は「安いものだから大量に頼み、高いものだから品数を少なくオーダーする」というものではなく、注文できるメニュー数は大抵決まっています。そう考えると、安くて原価率が低いものより、原価率が高くても単価が高いものが売れる方が経営的に安定します。このようにして、原価率よりも粗利を重要視する動きが出てきているのです。

では、原価率はどう設定するか?

ここまで、さまざまな例を挙げてきましたが、「だから原価率は無視してよい」というものではありません。要は、どのように設定するのかが大きく変わったというだけで、管理するという本質的な部分が変わっているわけではないのです。

原価率は、ドリンクもフードもあわせ、全体として捉える

まず、原価率は理論原価ではなく、全体を通してみた数値として捉える必要があります。
飲食店にはさまざまなメニューがあり、原価率にもバラツキがあります。その代表例が居酒屋で出しているドリンク類でしょう。サントリーの角は700㎖瓶を1,590円(希望小売価格)で購入することができます。ハイボールに使うウイスキーの量は30㎖ですので、1杯あたり約70円の原価となります。炭酸ガスボンベを使っているのであれば、炭酸の原価はあまり気にしなくてよいため、ハイボール1杯を380円で売れば原価率は18.4%となります。

さらに顕著な例は、お茶類です。店舗で炊き出したウーロン茶の原価は20円程度。これを300円で出しても、原価率は6.7%となります。

一方、フード商品を見てみると、原価率30%でできるものはかなり限られてきます。例えば刺身の場合、販売価格が680円として原価率を30%に抑えようと思うと約200円しかかけられないことになります。ここには、大根のつまや大葉なども含まれますので、結果的にかなり貧相なものとなってしまいます。

原価率にこだわるからと言って、すべての商品をその数値にすべきと考えるのではなく、商品構成や出数のバランスを見た上で、それぞれの価格設定を行うべきです。その上で、トータルとして原価率コントロールをしなければなりません。

高すぎる原価率は設定すべきではない

日本には不景気な時代があり、飲食店も大きな打撃を受けました。そのような中で、「メイン商品は原価率が100%、あるいは赤字になってでも強化すべき」と言う考えが横行しました。驚いたことに、それを信じて実行した店舗が多くあったのも事実です。

この考えは、必ずしも間違っているとは言い切れませんが、安定経営を考えれば「売れれば売れるほど赤字が膨らむ」という商品はないほうがよいのです。もしやるのであれば、十分に練られた戦略が必要であり、この部分だけを取り入れてもうまくいくはずがありませんので、注意が必要です。

大型チェーン店の原価率は参考にしない

また、チェーン店は原価率が高くなる傾向があります。あるラーメンチェーンは、理論原価が40%を超えていますが、それでも各店舗の経営が成り立つようになっています。それは、看板でお客を呼べることに加え、商品開発により、商品ロスが非常に少ないことが挙げられます。つまり、実際の原価が理論原価に限りなく近い数値となるわけです。これに適切なノウハウを加えることで人件費が低く抑えられ、FL比率が適正に保たれるために、店舗は安定経営ができるのです。

そのため、この原価率だけを参照し自分の店でも採用すると、たちまち経営は悪化してしまいますので注意が必要です。

ロスのない商品開発もあわせて行うべき

原価率には食材ロスも含めて考えます。そのため、看板商品である刺身の盛り合わせの理論原価を40%と考えていても、商品ロスが多く出てしまえば、原価率は跳ね上がってしまいます。

同じように生鮮食材を使う場合でも、鶏肉であれば正しい管理を行うことで日持ちもしますし、ロスも少なくなります。冷凍品であればさらに長くストックできます。自分の店にとって、どれぐらいの原価が適正なのかを考えるときは、ロスのない商品開発にも配慮すべきです。

高騰する食材仕入れでも飲食店の原価率を上げない方法とは

ストイックな原価管理によって起こるデメリットにも注意

原価管理は非常に重要なことですが、陥りがちな落とし穴がある点にも注意が必要です。経営者や店長が、「原価、原価」と言い過ぎてしまうと、「原価は低いことが素晴らしい」という考えがスタッフの中に根付きます。その結果、本来あるべき盛り付け量よりも少なく盛り付けてしまう結果となります。これでは商品としての価値が低くなり、客離れにつながってしまうので注意が必要です。原価率は低いことがよいのではなく、適正に保たれていることが正しいのです。

また、原価を重要視すると食材ロスが気になってきます。そうなると、多少の調理ミスがあっても商品として使ったり、赤くなった野菜を使ったり、いたみ始めた食材へのロス判断も甘くなりがちとなります。最悪の場合、落下した食材を平気で使うことすらあります。これは、店の信頼につながります。

食材のクオリティ管理と原価管理は、車の両輪のようなもの。両者のバランスを取り、正しく伝えなければ意図しないことが起こりますので注意してください。

まとめ

飲食店にとって重要な原価管理は、適当にやって何とかなるというものではありません。適正原価は30%以下という古い認識に捕らわれる必要はありませんが、原価管理は絶対に必要なもの。原価率は商品開発のときに気にするだけで、実際の原価を意識しない経営者もいますが、そのような状態で「利益が出ない」と嘆いても、打つべき対策は見えてきません。まずは、経営数値を見ながら自店で適切な原価率を導き出し、それに沿った原価管理を行ってください。


 

ライタープロフィール
原田 園子

兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。