新型コロナウィルスの感染拡大が止まらないアメリカで、ゴーストキッチンが静かに市場を拡げている。既存のレストランが営業停止や営業制限を強いられ、売上を大きく落とす中、ゴーストキッチンはどうビジネスを展開しているのか。ゴーストキッチンの現在と今後を検証する。

 

コロナ禍で成長するゴーストキッチン市場

全米レストラン協会が行った調査によると、アメリカで新型コロナウィルスのパンデミックが始まった今年(2020年)2月からの半年間で、全米で10万の飲食店が閉鎖に追い込まれたという。第三波を迎えるとされる今冬、さらに多くの飲食店が事業を停止すると予想されているが、アメリカの飲食店は、まさにコロナウィルスの直撃弾を受けていると言っても過言ではない。

その一方、ゴーストキッチンが静かに市場を拡げている。ゴーストキッチンはクラウドキッチン、ダークキッチンなどとも称されるが、要するに店舗を持たないデリバリーやテイクアウト専門の「飲食店」のことだ。ゴーストキッチンについては、前にUber創業者のトラビス・カラニック氏が新事業として立ち上げたことや、イギリスで市場が成長していることなどを記事でお伝えしたが、ゴーストキッチンが、業態転換を強いられている飲食業界の新たな成長株として芽を出し始めているのだ。

店内飲食の25%、テイクアウトの50%をゴーストキッチンが代替

市場調査会社ユーロモニターのリサーチャー、マイケル・シェイファー氏によると、飲食業界の「デリバリーへのシフト」は新型コロナウィルスのパンデミック以前からあった世界的なトレンドで、全世界の飲食業界のデリバリー売上は2014年から2019年までに二倍に拡大したという。さらに、新型コロナウィルスのパンデミックの影響により、今後店内飲食の25%、テイクアウトの50%をゴーストキッチンが代替(リプレース)する可能性があるという。

uber eatsシェイファー氏は、ゴーストキッチンを単なる「既存レストランの業態転換先」と見なしておらず、スマートフォンで育ったジェネレーションが進化させる「新たな飲食業の一形態」と見なしている。スマートフォンで注文し、デリバリーに特化した料理が調理され、Uber Eatsドアダッシュなどのデリバリー企業がデリバリーする。オペレーティングコストが総じて低く、価格も相応に安い。シェイファー氏は、全世界のゴーストキッチン市場が2030年までに1兆ドル(約103兆円)規模に成長すると見込んでいる。


営業制限が続くニューヨークでゴーストキッチンへの投資が増加

そんなシェイファー氏の予想を裏付けるように、新型コロナウィルスのパンデミックが収まらないニューヨークでゴーストキッチンへの投資が増加している。Zuulは2018年設立のゴーストキッチンのスタートアップ企業だ。同社は今年7月に900万ドル(約9億4500万円)の資金を調達し、ニューヨーク市内5か所にゴーストキッチンを開設する。Zuulはキッチンオペレーションは行わず、ゴーストキッチンはすべて他社にレンタルで提供される。

Zuulの共同創業者でCEOのコーリー・マニコーン氏は、「今回の資金調達により、Zuulはレストラン業界のデリバリーへのシフトを加速するための中心的な役割を演じることが可能になります。Zuulの物理的インフラとデジタルインフラは、テクノロジーをベースにしたデリバリーの進化をさらに加速させるでしょう。今後もニューヨーク市内にさらに多くのゴーストキッチンを開設し、(シェフやオーナーなどの)パートナーと事業を展開してゆきます」とコメントしている。

大口の資金調達が続くゴーストキッチン企業

ところで、ゴーストキッチンではZuul以外でも大口の資金調達が続いている。Uber創業者トラビス・カラニック氏率いるクラウドキッチンズも、昨年11月にサウジアラビアの公的投資ファンドから4億ドル(約420億円)もの巨額の資金を調達している。カラニック氏は、現在全米41か所で展開しているゴーストキッチンをさらに増やし、一気にIPO(株式上場)を狙うとしている。また、ある関係者によると、カラニック氏はアメリカのみならず、中国とインドでも拠点の開設を計画しているという。

クラウドキッチンズと同様にロサンゼルスに拠点を置くスタートアップ企業のキッチンユナイテッドも、Googleベンチャーズなどからこれまでに5600万ドル(約58億8000万円)の資金を調達している。最初の資金調達の際、同社はベンチャーキャピタルから「時価総額7億5000万ドル(約787億5000万円)、投資額2億5000万ドル(約262億5000万円)」という破格のオファーをされ創業者達らを唖然とさせたという。ビジネスとしてのゴーストキッチンが、投資家からいかに高く評価されているかがわかる逸話だ。

ゴーストキッチンは既存飲食店の助け手となるか?

ところで、アメリカでは、ゴーストキッチンは単なる「新たな飲食業の一形態」としてのみ見られているわけではない。ゴーストキッチンは「新たな飲食業の一形態」であるとともに、不動産ビジネスであり、ITビジネスでもある。例えば、キッチンユナイテッドは出店戦略として、オポチュニティ・ゾーンと呼ばれる低所得層地域を選び、ゴーストキッチンを開設している。クラウドキッチンズも、ほぼ同様の戦略を採用している。アメリカでは、商業用不動産の価格は収益性をもとに決まるケースが多く、低収益物件を高収益物件に転換できれば相応のキャピタルゲインが得られる。それゆえ、特に投資家にとっては、ゴーストキッチンのビジネスはある種の不動産投資ファンド(REIT)として目に映っているのだろう。

ダークキッチンゴーストキッチンはまた、インターネット、モバイルコンピューティング、AI、ビッグデータなどの各種のITを活用するハイテクビジネスでもある。UberやLyftなどと同様、スマートフォンのユーザーインターフェースとユーザービリティが重要で、注文や決済の安全性と信頼性が求められる。SNSなどとの連携も重要で、特に集客やリピートオーダーの獲得には欠かせない。実際に、クラウドキッチンズはFacebookとInstagramとの連携を差別化要素にしている。

では、ゴーストキッチンは既存飲食店の助け手となるだろうか。答はイエスでもありノーでもある。一般的な飲食店にとっては、ゴーストキッチンはデリバリーへの対応手段として機能するだろう。特に、既存のお店を業態転換し、新たにデリバリービジネスを開始するという場合、それを実現するプラットフォームとして機能する。一方、既存のお店を維持したままの場合、ゴーストキッチンは間違いなく競合になる。ゴーストキッチンを機会にするか脅威にするかは、ひとえに経営者の決断次第だと言えるだろう。

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参考URL
https://thespoon.tech/webinar-ghost-kitchens-poised-to-become-a-1t-market-by-2030/
https://www.today.com/food/100-000-restaurants-closed-6-months-pandemic-survey-t191757
https://techcrunch.com/2019/11/19/in-the-ghost-kitchen-race-gv-backed-kitchen-united-aims-to-kill-with-kindness-heres-its-playbook/