国連の傘下機関である世界観光機関(UN Tourism)によると、2022年時点においてアメリカはフランス、スペインに次ぐ世界第三位の観光大国だ。コロナのパンデミックによる世界的旅行需要減の影響が未だ残る中で、2022年の一年間でアメリカへは5090万人もの旅行者が世界中から訪れた。ところで、そんな観光大国アメリカでは、いわゆるインバウンド対応はどうなっているのだろうか。アメリカの現状をお伝えする。

 

観光大国アメリカ

アメリカはフランス、スペインに次ぐ世界第三位の観光大国だ。アメリカを訪れた旅行者数では三位だが、旅行者による支出額の総額では、2022年一年間で1352億ドル(約20兆6856億円)と突出しており、圧倒的に世界一だ(なお、二位のスペインは729億ドル(約11兆1537億円))。アメリカが観光でどれだけのお金を稼いでいるかがおわかりいただけるであろう。自由の女神と観光客

なお、観光客の行き先都市別ベスト5では、1位ニューヨーク、2位マイアミ、3位ロサンゼルス、4位オーランド、5位サンフランシスコとなっている。いずれの都市も観光レガシーや各種のテーマパークなどの観光資源が豊富で、毎年多くの観光客を世界中から集めている。特にニューヨークやロサンゼルスなどはそれぞれ近隣にさらに多くの観光資源を抱えており、アメリカ観光のハブ都市として周辺地を含む地域全体に多くのインバウンド客を呼び寄せている。

 

最大の訪問元国は「○○○」と「□□□□」

ところで、アメリカへの旅行者の最大の訪問元国はどこだろうか。言うまでもなくアメリカと地続きの国のカナダとメキシコだ。

2022年一年間で、カナダからは1438万人が、メキシコからは1253万人がそれぞれアメリカを訪れている。いずれも車でアメリカへ入国でき、特にカナダからのインバウンド客などは日帰りでアメリカでショッピングをするなど、簡単にアメリカへ入国している。また、冬の寒さが厳しいカナダでは、マイアミやオーランドなどのリゾート地を「避寒地」とする人が少なくなく、冬になると多くの「避寒客」がフロリダ州へ移動してくるそうだ。

また、一方の隣国メキシコからも年間多くの旅行客がアメリカを訪れている。メキシコはアメリカへ不法移民を大量に送り込む国とされているが、カナダと同様に普通に観光やショッピングなどでアメリカを訪れる人が少なくない。また、ビジネスでアメリカを訪れる人も少なくなく、経済的な繋がりを基盤にした人的交流が盛んであることも背景にある。なお、メキシコは2022年にアメリカ人旅行者が最も多く訪れた国でもある。

 

日本からの観光客は?

では、アメリカと地続きのカナダとメキシコ以外の国で、アメリカへ旅行者を多く送り出している国はどこだろうか。答は、アメリカを産んだ国イギリスで、その数346万6千人となっている(2022年一年間、以下同じ)。イギリスとアメリカは伝統的・歴史的に人的交流が盛んで、毎年コンスタントに一定の旅行者がそれぞれの国を訪れている。

日本&USA

まさに「血は水よりも濃い」ということなのであろう。イギリス以外の国では、ドイツ(148万人)、フランス(131万人)、インド(125万人)、ブラジル(122万人)、コロンビア(94万人)、韓国(91万人)、スペイン(77万人)となっている。

なお、日本からの同年の観光客数は59万7千人で、トップ10位国のランキング外となっている。かつては年間300万人を超える日本人観光客がアメリカを訪れていたが、コロナのパンデミックを機に数を大きく減らしてしまったようだ。

 

アメリカのインバウンド対応は?

ところで、観光大国アメリカでは、インバウンド客に対する特別な対応を何かしているのであろうか。答は、「ほとんどまったく何もしていない」だ。アメリカには溢れんばかりの豊富な観光資源があり、世界中から旅行者がひっきりなしにやってくる。旅行者を受け入れる側のアメリカ人には、そもそも旅行者の都合や実情に合わせようとする発想やインセンティブが乏しく、日本流の「おもてなし」といった風な文化も持ち合わせていない。アメリカに旅行に来るのであれば英語を話して当たり前であり、メニューなども当然英語オンリーが常識だ。

実際のところ、筆者の乏しい経験でも、ニューヨークやロサンゼルスといった大都市の飲食店でも、英語以外のメニューを用意しているところはほとんど存在しないように見受けられる。ハワイのように日本人旅行者が異様に多い土地では、まれに日本語メニューを用意している飲食店を見かけるが、全米レベルではほとんどない。そもそも、アメリカでは日本のような「インバウンド対応」といった発想すら共有されていないのが実情のようだ。

 

日本のインバウンド対応こそがレアケース?

つまり、英語のメニューを用意したり、多言語での注文受付を可能にするなどといった日本流のインバウンド対応は、アメリカを含む世界標準においては「レアケース」であると言わざるを得ないだろう。日本におけるインバウンド対応については、日本の「おもてなし文化」をもってあくまでも日本流で行うべきであり、他国に何と言われようと日本独自に行うべきであろう。

以前の記事で、日本の飲食店や小売店などの接客態度があまりにも良く、多くの外国人旅行者に感銘を与えていると書いたが、それは今や世界的な評価と認識を獲得するフェーズに入りつつあると思われる。外国人旅行者を受け入れる側の日本としては、そうした日本ならではの接客文化を守り、それそのものがひとつの観光資源となるよう努めるべきである。そのように努力する日本人に対し、日本を訪れる旅行者は感謝と畏敬の念を持って接してくれることだろう。

 

【参照】

国連世界観光機関(UN Tourism)

Top 10 Countries Sending Tourists to the United States: 2000 and 2014

National Travel and Tourism Office: International Visitation to and from the United States

The 10 Most Visited Cities in the US by Foreign Travelers