アメリカのトランプ政権が不法移民の摘発を強化している。米大手メディアCBSの報道によると、トランプ大統領の指示を受けたICE(アメリカ合衆国移民・関税執行局)は、これまでに米国内の不法移民を累計で10万人以上逮捕し、一部を強制送還するなどの厳しい措置を講じている。不法移民に労働力を大きく依存するアメリカの飲食業界では業務に影響が出始め、日々の運営が難しくなるところも出始めている。トランプ政権の不法移民摘発強化がアメリカの飲食業界に与える影響についてお伝えする。
不法移民摘発を強化するトランプ政権
不法移民の摘発強化を公約に掲げていたトランプ政権が、公約を実行し始めた。ICE(U.S. Immigration and Customs Enforcement,アメリカ合衆国移民・関税執行局)は全米各地で不法移民の摘発を強化し、これまでに累計で10万人を超える不法移民を逮捕した。アメリカの各メディアは、民家に滞在していた不法移民の若い親子や建設現場で働く不法移民の労働者がICEに逮捕されるシーンなどを連日報道し、不法移民摘発の現状をアメリカ市民に見せつけている。
CBSは、マサチューセッツ州ミルフォード在住のブラジル人青年逮捕のニュースをことさらに大きく報じている。それによると、18歳のマルセロ・ゴメズ君は通っている高校のバレーボール部の練習へ行く途中、待ち伏せていたICEの職員によっていきなり逮捕された。そのまま不法移民収容施設へ送還され拘置されたニュースは地元社会に衝撃を与え、たとえ18歳の青年であろうとも日常の生活の中で逮捕され、収容所に収監されるという現実を突きつけた。
ゴメズ君逮捕のニュースは賛否両論を呼び、今すぐ釈放すべきという声と、ブラジルへ強制送還すべきという声とが激しくぶつかり合っている。トランプ政権による不法移民摘発強化の動きは、アメリカ社会の分断をさらに深化させつつある。
飲食店で働く不法移民も摘発の対象に

ICEは、飲食店で働く不法移民も摘発の対象にしている。CBSは、カリフォルニア州サンディエゴの飲食店従業員が集団で逮捕され、連行される事件も大きく報道している。それによると、サンディエゴの中心部に位置するダイナーレストランの駐車場で待ち伏せていた完全武装したICEの職員が、ディナーシフトに合わせて車で出勤してきたレストラン従業員30名を一斉に逮捕、移送用車両へ詰め込んで収容所送りにしたという。
逮捕の現場にはレストランの古参客を含む地元住民が多数抗議に押し寄せ、ICEの職員と小競り合いになった。インタビューに応じた住民の多くはICEによる行動を激しく非難しており、逮捕されたレストラン従業員の速やかな解放を訴えている。
カリフォルニア州は、地理的要因もあってメキシコからの不法移民が多く、州内の飲食店も労働力の多くを不法移民に依存している。カリフォルニア州の飲食店で働く不法移民の存在は多くの住民にとって「当たり前の存在」となっているが、それが突然ICEの摘発によって否定された形となっている。
アメリカのホスピタリティ産業における不法移民の存在
アメリカ移民研究センターによると、2023年7月時点でアメリカには1170万人の不法移民(不法滞在者)が存在する。直近のアメリカの人口は3億4194万人なので、アメリカ人口の3.42%は不法移民ということになる。不法移民のうち830万人は労働者で、アメリカの労働者人口の4.8%を占めている。
不法移民は、特に建設業、農業、ホスピタリティ産業といった、普通のアメリカ人が労働を忌避する業界・業種で多く働いている。建設業の労働者における不法移民労働者の割合は13.7%、農業12.7%、ホスピタリティ産業7.1%となっている。ホスピタリティ産業では、ホテルの清掃・ベッドメーキングや、飲食店のディッシュウォッシャーやバスボーイ(皿の片づけスタッフ)といった「低賃金」で「不人気」な仕事を多く請け負っている。こうした末端で働く労働者たちをICEが摘発して排除すれば、多くの飲食店のオペレーションが運営不可能となり、業務を停止せざるを得なくなる。
ニューヨーク・ホスピタリティ産業協会のアンドリュー・リギー会長は、「多くの飲食店は日々ぎりぎりの経営を続けており、(ICEによる不法移民の摘発により)不確実性が増してゆけば最悪の状況を迎えるでしょう。アメリカの飲食業において移民の存在は屋台骨であり、経営に欠かせないものです」と本音を吐露している。
「対岸の火事」では済まされない日本の飲食業界

アメリカの飲食業に従事する不法移民の摘発とそれによる経営への影響は、人手不足が深刻化する日本の飲食業界にとっても無視できないものとなっている。日本の飲食業界では、少子高齢化などの影響もあり、特に若年層の労働者不足が深刻になってきている。
人手不足に対応するべく、日本の飲食店の中には外国人労働者を雇用するなどの対策を採り始めるところが出てきている。しかし、日本語ができない外国人労働者とのコミュニケーション上のトラブルが生じたり、勤務態度のばらつきなどから店舗のオペレーションに支障を来たす事象などが少なからず生じているようだ。
日本の場合、アメリカのように完全な不法移民を雇用することはほぼ不可能だが、たとえ合法の外国人労働者を雇用するにしても、指揮系統や意志疎通、さらには低離職率の確保などの経営上のテクニカルな課題を抱えることになる点は変わりがない。日本の飲食業界もアメリカの飲食業界と同様の「外国人労働者との共生」を目指す時代を迎えているのだが、日本ならではの対応で人手不足と言う困難を克服してもらいたいと願うばかりである。アメリカで現在進行中の出来事は、決して「対岸の火事」などではない。
参照サイト
https://www.cbsnews.com/news/ice-arrests-under-trump-100k/
https://www.youtube.com/watch?v=_fF1BIU1q3M
大学卒業後渡米し、ロサンゼルスで飲食ビジネスを立ち上げる。帰国後複数の企業の起業や経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。新規事業立上げ、マーケティング、アメリカ市場進出のコンサルティングを行っている。米国のベストセラー『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
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