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中国人訪日客が食べたい日本食ベスト10と飲食店の演出とは?

世界的なパンデミックを経て、日本の街中には再び外国人観光客の活気が戻ってきました。中でも、地理的な近さと巨大な人口を背景に、日本のインバウンド市場において最大のポテンシャルを持つのが「中国人インバウンド(訪日客)」です。

彼らが日本を訪れる理由はさまざまですが、観光庁の消費動向調査や各種アンケートによれば、訪日目的のトップとして君臨し続けているのが「日本食を食べること」です。かつてのような家電やドラッグストア商品を大量に購入する「爆買い」ブームは落ち着きを見せ、現在のトレンドは「コト消費」――つまり、体験価値へとシフトしています。

その体験の中心にあるのが「食」なのです。

最近の中国人訪日客のトレンドを一言で表すなら、「SNS映え × 日本らしさ × 高品質」。単に空腹を満たすだけでなく、その食事が旅の思い出として美しく、日本文化を感じられ、かつクオリティが高いものであることが求められています。

本記事では、なぜ彼らが日本食をこれほどまでに愛するのか、具体的にどのメニューが人気なのか、そして飲食店はどのような対策を講じるべきかを徹底解説します。

なぜ中国人は日本食を好むのか?その背景と心理

そもそも、なぜこれほどまでに中国人観光客は日本食を求めてやってくるのでしょうか。その背景には、中国国内での社会情勢の変化や、食に対する意識の変化が大きく関わっています。

1. 健康志向の高まりと食材への信頼

経済発展に伴い、中国都市部では健康意識が急速に高まっています。油や火を豪快に使う中華料理とは違い、日本食は「低カロリー」「低脂肪」「素材の味を活かす」というイメージが定着しています。

また、食材の安全性や鮮度に対する信頼感も絶大です。「日本で食べるものは健康によい」「日本の野菜や魚介は新鮮で美味しい」というブランド力は、私たちが想像する以上に強力な動機となっています。

2. 中国国内での日本食ブームと「本物」への渇望

現在、上海や北京などの大都市では、寿司、しゃぶしゃぶ、ラーメン店などの日本食レストランが急増しています。日常的に日本食に触れる機会が増えたことで、「いつか本場日本で、本物の味を食べてみたい」という欲求が醸成されています。

国内で食べたラーメンと、日本の行列店で食べるラーメンの違いを確かめたい、という「答え合わせ」のような感覚で訪日する層も少なくありません。

3. 「観光 × 食」のセット体験

中国人観光客にとって食事は、観光のついでではなく、観光そのものです。

北海道に行くならカニと海鮮丼」「大阪ならお好み焼き」「神戸なら神戸牛」といった具合に、人気観光地と人気メニューはセットで記憶されています。その土地ならではの食体験こそが、旅の満足度を決定づける重要な要素となっているのです。

【ランキング】中国人訪日客が食べたい人気メニューベスト10

では具体的に、中国人観光客が好む料理はどのようなものでしょうか。

SNSの口コミや検索トレンドに基づいた、リアルな人気ランキングベスト10をご紹介します。各メニューがなぜ支持されるのか、その理由も深掘りします。

1位:寿司

日本食の代名詞であり、不動の1位はやはり「寿司」です。

特筆すべきは、「回転寿司」がひとつの観光エンターテインメントとして確立している点です。中国国内にある高級寿司店とは異なり、日本の回転寿司は、高品質なネタがリーズナブルに、しかもオートメーション化されたシステムで提供されます。

「高級だと思っていた寿司が、日本ではこんなに手軽に、しかも驚くほど美味しく食べられる」というギャップは、彼らにとって大きな感動体験となります。

もちろん、職人が目の前で握るカウンター寿司への憧れも強く、予算に応じて二極化しているのが現状です。

2位:和牛(焼肉・ステーキ・すき焼き)

「WAGYU」は今や世界共通語。中国人観光客にとっても憧れの食材です。特に「A5ランク」「神戸牛」「松阪牛」といったブランドへの信頼は厚く、高単価でも注文が入ります。

彼らが求めるのは、口に入れた瞬間の「とろける食感」と、サシが入った美しい肉のビジュアルです。焼く前の生肉の状態を写真に撮り、SNSにアップするのが定番の流れ。脂の甘みと柔らかさは、他国の牛肉料理では味わえない日本独自の体験として高く評価されています。

3位:ラーメン

日本の国民食ラーメンは中国人にとっても馴染み深いメニューで、中国国内にも多くの店があります。

中国の麺料理とは異なり、日本のラーメンはスープの多様性(とんこつ、味噌、醤油、塩)や、麺のコシ、チャーシューの作り込みやさまざまな具材との組み合わせなど、独自の進化を遂げています。

特に「一蘭」などのとんこつラーメン店は、味のカスタマイズができる点や、仕切りのある座席システムが面白がられ、観光スポット化しています。「並んででも食べる価値がある」と認識されている代表格です。

4位:天ぷら

家庭での再現が難しい「天ぷら」も上位にランクインします。

最大の魅力は、揚げたての“サクッ”とした軽い食感。中国の揚げ物は衣が厚いものが多いので、日本の天ぷらの衣の薄さと、素材の水分を閉じ込める技術は驚きを持って迎えられます。

高級店だけでなく、「てんや」などの天丼チェーン店も人気なほか、居酒屋などでオーダーする天ぷらも人気です。「海老天」や「野菜天」など、具材が分かりやすく、外国人でも分かりやすいことが支持されています。

5位:刺身&海鮮丼

「日本=魚が美味しい」というイメージは強固です。特に、刺身や海鮮丼は、素材の鮮度そのものがダイレクトに伝わるため、日本旅行のハイライトになり得ます。

築地場外市場(東京)や黒門市場(大阪)、函館朝市(北海道)など、市場や港近くで食べる海鮮丼は、観光体験と直結しています。「ウニ」「イクラ」「マグロ」が山盛りにされたビジュアルは、豪華さと鮮度を一目で伝えられるため、非常に人気があります

専門店でなくても、「いくら乗せ放題のメニューがある」などを目玉商品として提供するのもよいでしょう。

6位:しゃぶしゃぶ

薄切りの肉を湯にくぐらせて食べるスタイルは、増加傾向にあるヘルシー志向の層に特に人気です。中国には「火鍋」という強力な鍋文化がありますが、日本のしゃぶしゃぶは、出汁の繊細さや、ポン酢・ゴマダレといったつけダレの文化、そして何より高品質な肉の薄切り技術が評価されています。

「自分で肉を湯にくぐらせる」という体験は他ではできず、野菜もたっぷり摂れるため、旅の疲れを癒やす食事としても選ばれています

7位:とんかつ

厚みのある豚肉をサクサクのパン粉で揚げる「とんかつ」は、ガッツリ食べたい層に大人気です。

中国にもポークカツレツのような料理はありますが、日本のとんかつのような「厚切り肉のジューシーさ」と「粗めのパン粉の食感」、そして「甘辛いとんかつソース」の組み合わせは新鮮に映ります。

キャベツの千切りがおかわり自由であるシステムや、すり鉢でゴマをする体験なども、日本独自のサービスとして喜ばれています

8位:お好み焼き・もんじゃ

大阪や東京の下町を訪れる観光客にとって、粉もの料理は外せません。

人気の理由は「体験」と「ライブ感」。目の前の鉄板でジュージューと音を立てて焼かれる様子は動画映え抜群ですし、自分たちで焼くスタイルのお店であれば、仲間とワイワイ楽しめるアクティビティになります

ソースとマヨネーズ、鰹節が踊るビジュアルは食欲をそそるだけでなく、SNSでの拡散力も非常に高いメニューです。

9位:うどん・そば

旅のスケジュールが詰まっている中で、「はやい・やすい・うまい」三拍子揃ったうどん・そばは重宝されます。

日本の出汁文化を最も安価に体験できる料理として知られています。特に、セルフサービスで提供している丸亀製麺などのうどん店は、自分で天ぷらを選んでトッピングする楽しさがあり、言葉がわからなくても指差しで注文できるため、外国人観光客にとって非常に利用しやすい環境と言えます

10位:抹茶スイーツ(和菓子・パフェ)

食事の締めくくりや、観光の合間の休憩として欠かせないのが抹茶スイーツです。

「抹茶(Matcha)」は、今や日本を象徴するフレーバーとして世界中で認知されています。京都や鎌倉などの古都はもちろん、コンビニスイーツに至るまで、抹茶味は若者を中心に絶大な人気を誇ります。鮮やかな緑色は写真映えし、苦味と甘味のバランスが日本らしい繊細さを感じさせます。

中国人が喜ぶ日本食の料理演出・提供方法

メニューを用意するだけでは、競合店の中に埋もれてしまいます。中国人訪日客の心を掴み、SNSで拡散され、行列店となるためには、彼らの文化や嗜好に合わせた「演出」と「提供方法」の工夫が不可欠です。ここでは7つのポイントを紹介します。

① “写真映え”を意識した盛り付け・提供

中国では「小紅書(RED)」「抖音(Douyin)」「WeChat」といったSNSが情報収集のメインツールです。彼らの購買行動は「SNSで写真を見る → 口コミを確認する → 店に行く」という流れが基本です。

つまり、「写真を撮りたくなる料理」でなければ、存在しないも同然と言っても過言ではありません。そこで、次のような演出をしてください。

高さを出す: 海鮮丼や肉の盛り付けは、平面的に盛るのではなく、縦に積み上げて立体感を出します。

シズル感の演出: 鍋からの湯気、肉が焼ける火の演出、チーズが伸びる様子など、動画に収めたくなる瞬間を作ります。

証拠を残す: 料理名や店名が入った皿、箸袋、のれんなどを背景に入れ込みやすくすることで、「日本の○○という店に来た」という証拠写真を撮りやすくします。これが無料の広告塔となります。

② ボリューム感・お得感を見せる

日本料理の基本ともいえる「少量で上品」な盛り付けは、(一部の高級懐石を除き)多くの中国人観光客には「物足りない」「ケチだ」と映るリスクがあります。彼らは「しっかり満足できる量」が提供されることに、店側の誠意を感じます。

視覚的な満腹感: ご飯や麺の大盛り無料サービスや、具材が溢れんばかりの盛り付けは非常に好感度が高いです。

セットメニューの充実: 小鉢や汁物、デザートがついたセットメニューは、一度にいろいろな味を楽しめるため、単品よりも満足度が高まります。写真に収めたときにもテーブルが賑やかになり、「豪華な食事」としてアピールできます。

③ 「本場感」「職人の演出」を見せる

 

中国人インバウンドにとって、「高級=ライブ感・職人技」という認識が強くあります。調理プロセスが見えることは、食材の安全性への証明にもなり、エンターテインメント性も高めます。

オープンキッチン: 寿司を握る手元、ラーメンの湯切り、炭火で焼き鳥を焼く炎など、職人の動きをあえて見せる席への案内は特等席となります。

音と香り: 天ぷらを揚げる音や、うなぎを焼く香ばしい匂いは、言葉の壁を越えて食欲を刺激する最高のプレゼンテーションとなります。

④ サービスは“丁寧かつスピーディー”

中国人観光客は、非常に合理的でスピード感を重視します。特にスマホ決済やデリバリーが発達した中国社会では、待たされることでストレスを感じる傾向にあります。この点は特に注意するべきでしょう。

ファーストオーダーの速さ: 席に着いたらすぐにおしぼりや水を出し、注文を取りに行く姿勢が重要です。

待ち時間の明示: 人気店で行列ができる場合、あと何分くらいで入れるかを明確に伝えると安心します。

準備の可視化: 人気メニューはあらかじめ下準備をしておき、注文後すぐに提供できる体制を整えておくと、「この店は手際が良い」と高評価につながり、リピート率も上がります。

⑤ 辛い・濃い味も選択肢であると喜ばれる

日本食の繊細な出汁文化は素晴らしいものですが、日常的にスパイスや油を使った料理を食べている中国人にとって、日本の味付けは時に「薄すぎる」と感じられることがあります。

味のメリハリ: とんこつラーメンの濃厚さや、焼肉の濃いタレ、天丼の甘辛いタレなどが好まれるのは、味がはっきりしているからです。

カスタマイズ: 「辛くできますか?」「味を濃くできますか?」という要望に応えられる調味料を卓上に用意したり、注文時に選べるようにしたりすると、満足度が格段に上がります。これは「自分の好みに合わせてくれた」という体験にもなります。

⑥ 大皿でシェアできると高評価

中国の食文化は、円卓を囲んで大皿料理をみんなでシェアするのが基本。このため、シェアしやすい提供方法を取り入れると喜ばれます。

取り皿の用意: 料理と一緒に、人数分の取り皿を最初から提供する気遣いは必須です。

アラカルトの推奨: 居酒屋や焼肉店のように、好きなものを少しずつ頼んでシェアするスタイルは、彼らの食習慣に非常にマッチしています。色々な種類を食べたいというニーズも満たせます。

⑦ 中国語メニューは写真付きが最強

インバウンド対策として多言語メニューを用意する店は増えていますが、文字だけの翻訳メニューでは不十分です。最も効果的なのは「写真付きメニュー」です。

指差し注文: 写真があれば、言語の壁はなくなります。「これと同じものをください」と指差しで注文できることは、客と店員双方のストレスをゼロにします。

ランキングとリコメンド: 「人気No.1」「店長のおすすめ(Must-try)」といったポップを中国語で添えるだけで、注文率は跳ね上がります。

アイコン表示で辛さレベル、豚肉・牛肉・海鮮の使用などをアイコンで表示すると、宗教上の理由やアレルギー、好みの判断がしやすくなり、親切です。
多言語対応したモバイルオーダーで注文いただけば、料理の詳細な説明も伝えられ、追加注文も容易にしていただける上に人手不足も回避できるなどいいとこ取りです。

まとめ:インバウンドで飲食店が伸びる時代へ

中国人訪日客が求めているのは、単なる「食事」ではなく、日本でしか味わえない「感動体験」です。ランキングで紹介したような定番メニューであっても、その提供方法一つで価値は大きく変わります。

重要なキーワードは、「わかりやすさ」「体験性」「SNS映え」です。

言葉がわからなくてもメニュー選びができ、目の前で調理される臨場感を楽しみ、その豪華な見た目をSNSでシェアして自慢できる。この一連の流れをデザインできた店こそが、インバウンド需要を確実に取り込み、売上を最大化できるのです。

日本食という世界に誇るコンテンツを持つ私たちは、ほんの少しの工夫と歩み寄りで、彼らのお腹と心を満たすことができます。ぜひ、今日からできる対策を取り入れ、世界中からのお客様を「最高の日本食体験」でおもてなししましょう。