新型コロナウイルスの感染拡大が収まりつつあるアメリカ(2021年6月時点)。国民へのワクチン接種が進み、一部の州では感染収束のムードが漂い始めている。しかし、コロナの完全収束までにはまだ時間がかかりそうだ。そうした中、コロナで特に大きな打撃を受けたホテル業界で、サービスロボットの需要が拡大している。
アフターコロナ時代を見据えた、アメリカのホテル業界のトレンドをご紹介する。
新型コロナの直撃を受けたアメリカのホテル業界
アメリカのホテル業界専門市場調査会社STRによると、2020年のアメリカの全ホテルの平均客室稼働率は44%で、前年から33.3%の大幅なマイナスとなった。累計売れ残り客室数は10億室で、リーマンショックが発生した2009年の7億8900万室の記録を大幅に塗り替える結果となった。中でもミネソタ州とウィスコンシン州の落ち込みがひどく、平均客室稼働率33.3%で、前年から49.9%のマイナスだった。
全客室の三分の一しか稼働していない、ほとんど「開店休業」と呼ぶに等しい状況だ。新型コロナウィルスがアメリカのホテル業界に与えた影響は、実に計り知れないと言うべきだろう。アメリカのホテル業界関係者にとって、2020年は悪い意味で忘れられない年になったであろう。
新型コロナでサービスロボットの需要が拡大
新型コロナウィルスのパンデミックにより、カタストロフィ(壊滅状態)と呼ぶべき状況に陥ったアメリカのホテル業界だが、実は意外なものの需要が拡大しているという。サービスロボットだ。
サヴィーオーク(Savioke)は2013年設立の、シリコンバレーに拠点を置くサービスロボットのメーカーだ。同社は2014年からデリバリーロボットのRelay(リレー)を、ホテル、飲食店、病院などに提供している。Relayは、映画スターウォーズに登場するロボットのR2D2を細身にしたくらいの大きさで、リアルセンスカメラやLIDAR(レーザーを使ったリモートセンシング機器)を搭載し、完全自立走行できるデリバリーロボットだ。これまでにホリデイイン、マリオットホテル、クラウンプラザなどの大手ホテルチェーンに採用され、ルームサービス業務をこなしている。
サヴィーオークの営業部長、ビル・ブース氏によると、新型コロナウィルスのパンデミックが始まった2020年2月ごろよりアメリカ各地のホテルからRelayに関する問い合わせが急増し、2020年下期の半年で前年一年間の四倍の件数に達したという。
宿泊客は人間よりもロボットを選択
Relayを稼働させているクラウンプラザ・サンノゼの営業マーケティング部長のデービッド・ワング氏は、「(コロナ禍の)お客様にとっては、人間のホテルスタッフに無暗に自室に来てほしくないのです。ルームサービスも同様です。人間同士による接触は少なければ少ないほどベターです。ロボットは咳やくしゃみをすることもありません。」と話し、実際に宿泊客が人間よりもロボットを選択している傾向を説明している。
サンフランシスコ市内でホテル・アクシオムを運営しているサイトライン・ホスピタリティのブライアン・ボルト副社長も、「ロボットを導入する理由は、人間のスタッフをリプレースすることではありません。テクノロジーを活用し、オペレーションを効率化することです。しかし、コロナのパンデミックが続いている現状においては、多くのお客様が人間のスタッフとの接触を出来るだけ避けようとしておられます。そういう状況下では、ロボットに働いてもらうしかありません。」と現状を説明している。
モバイルオーダリングと連携も
ところで、実際にホテルではどのようにRelayが使われているのだろうか。スタンドバイの状態では、Relayは電気チャージステーションで充電・待機している。宿泊客からの注文は、フロントデスクが電話で受け付ける。注文が入るとホテルスタッフが品物を用意してRelayのコンテナボックスへ納め、タッチパネルで部屋番号を入力する。すると後はRelayが自動走行して宿泊客の部屋まで品物を届けるだけだ。エレベーターも自分で操作できるし、障害物も自分で避けられる。
サヴィーオークは、Relayが稼働している世界中のホテルからフィードバックを収集し、Relayの性能向上を続けているそうだ。現時点では、Relayのコンテナボックスの大型化、複数配達機能、夜間の施設内パトロール機能などが検討されているという。また、Relayに品物のピッキング機能が搭載されれば、モバイルオーダーシステムと連携したデリバリーも可能になるだろう。
宿泊客が自分のスマートフォンから注文し、サービスロボットが品物をピッキングしてデリバリーしてくれる。アフターコロナ時代のホテル・旅館における、ひとつのニューノーマルなシーンになるかも知れない。
日本でもRelayが活動中
ところで、このRelayだが、実は日本でもすでに複数のホテルで活動中だ。プリンスホテルズ&リゾーツは2017年10月に品川プリンスホテルNタワーにRelayを導入し、サービスを開始させている。客室に品物を配達する際、「ぼくがデリバリーロボットです。お届け物にまいりました」と完全に日本語で対応するというRelayの、宿泊客の評価も上々のようだ。
2018年9月に開業した東急ホテルズ系の渋谷ストリームエクセルホテル東急にもRelayが導入され、デリバリー業務をこなしている。同ホテルでは、アメニティグッズの配達などに加え、ビール、ワイン、シャンパン、花束などのデリバリーを実現している。クリスマスシーズンには、宿泊客が預けたクリスマスプレゼントを指定の客室へ届けるサンタクロース役もこなしているという。
アメリカと同様、日本のホテル業界もコロナによって大打撃を受けたが、サービスロボットが存在感を示し、実際に多くの業務をこなしているのを見るのは決して偶然ではない。人間同士による接触を出来るだけ避けたいという宿泊客のニーズのみならず、働き方改革やSDGs(持続可能な開発目標)を推進する上でも、サービスロボットが活躍する環境が今までになく整ってきているのだろう。コロナが完全に収束した後も、世界中のホテル業界だけではなく、物流、飲食、医療、介護など様々な現場でサービスロボットの活躍が広がってゆくに違いない。
参考URL
https://www.savioke.com/blog
https://robotstart.info/2021/03/29/delivery-robot-harry-staying-plan.html
飲食業界のロボット関連記事はこちら