アメリカで飲食店や食料品店のフードロス削減を目指すToo Good To Go というアプリの利用が広がっている。特に食料品の物価が高いニューヨークやロサンゼルスなどの都市部において利用者が増加している。飲食店や食料品店の経営者にとっても、通常は捨ててしまう食品や食料品を現金化できるので好意的に評価されている。本記事は、その注目のアプリToo Good To Goをご紹介する。
世界で生産される食糧の三分の一がロスに
国連の世界食糧計画(World Food Programme)によると、現在世界では毎年生産される食糧の三分の一が消費されずに廃棄されるか、死蔵在庫になっているという。いわゆるフードロスと呼ばれるものだが、その重量は年間13億トンで、金額ベースでは1兆ドル(約135兆円)に達するという。仮にそうしたフードロスがなかったとしたら、全世界の飢えに苦しむ20億人を救うことができるという。
フードロス問題において世界最大の問題児なのがアメリカだ。アメリカでは、生産される食糧の40%がフードロスとなっており、毎年2000億ドル(約27兆円)ものお金がそれに費やされている。フードロスは、土地や水などの浪費を呼び、ごみ埋め立て地を満杯にさせ、サプライチェーンにおいて人やエネルギーなどの無駄を生じさせる。フードロスの解消は、今や先進国が取り組まねばならない喫緊の課題だ。
そんなフードロスの問題に応じるべく、ひとつのアプリの利用が欧米諸国で広まっている。Too Good To Goというアプリだ。
Too Good To Goは、2016年にデンマークのコペンハーゲンで設立されたスタートアップ企業だ。社名と同名のアプリのスローガンはシンプルで、「世界中のフードロスを削減すること」だ。アプリの開発は会社設立直後から始まり、2019年までにオーストリア、スペイン、フランスなどの欧州諸国でリリースが始まっている。
Too Good To Goの仕組みもいたってシンプルだ。まず、Too Good To Goに参加を希望する飲食店や食料品店がToo Good To Goに登録する。登録が完了すると飲食店や食料品店は、通常であれば廃棄してしまうが、まだ食べられる食材や料理を専用の「サプライズバッグ」(Surprise Bag)に詰め込んでその数量と値段をアップロードする。アップロードされた情報はユーザーのアプリ画面に表示され、「サプライズバッグ」が入手可能である旨が表示される。「サプライズバッグ」の購入希望者はアプリで直接購入し、登録したクレジットカードで決済する。購入が終了すると、購入者は店頭で「サプライズバッグ」を受け取って取引終了となる。
ところで、「サプライズバッグ」に詰め込まれる食材の内容についてはあらかじめ知ることはできない。基本的には「本来であれば廃棄処分されるものだが、まだ食べられるもの」が詰め込まれている。また、「サプライズバッグ」の値段は、通常購入価格の三分の一程度となっている。「サプライズバッグ」は、店舗の営業終了数時間直前に情報がアップロードされ、営業終了前までに店頭で購入者にピックアップされてゆく。なお、「サプライズバッグ」のデリバリーは行われていない。
サービス開始から三年で2億個以上の「サプライズバッグ」を販売
「世界中のフードロスを削減すること」というスローガンが受けたのか、Too Good To Goの利用者数はサービス開始から三年で7290万人に増加し、登録した飲食店や食料品店の数は18万1138件に達している。そして、これまでに累計で2億個以上の「サプライズバッグ」が販売されている。
Too Good To Goは、これまでに発祥地のデンマークを含むヨーロッパ15カ国で利用されており、アメリカへは2020年に進出している。アメリカでは、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなどを含む13都市で利用可能となっており、利用者数も急増中だ。アメリカにおいては、Too Good To Goは学生や低所得者層などの昨今の物価上昇の影響を受けている層や、フードロス問題に関する意識が高い消費者層などによる利用が広がっているようだ。
Too Good To Goによると、昨年2022年9月時点でアメリカのユーザー数は300万人を突破し、登録した飲食店や食料品店の数は1万1000件に達している。Too Good To Goは、アメリカでは特にベーカリー、ドーナッツショップ、寿司店、中華料理店、アイスクリームパーラー、カフェといった、「余剰食品」(Surplus Food)が日常的に発生する業態の飲食店の登録が進んでいるという。Too Good To Goに登録した飲食店オーナーによる評判も上々で、これまでは普通に廃棄されていた食品を現金化できることと、Too Good To Goが新規客をもたらしてくれることなどが高く評価されている。
フードロス削減のための啓蒙活動も展開
Too Good To Goは、Too Good To Goアプリの提供に加えてフードロス削減のための各種の啓蒙活動も展開している。例えば、 Too Good To Goは小中学校などの教育機関に対し、フードロス削減のための教育プログラムを無償で提供している。
例えば、年齢10歳から13歳までの生徒向けの教育プログラムでは、バナナを主人公にした物語風テキストが用意され、生徒たちがバナナの世界サプライチェーンについての知識を学び、サプライチェーンのどの過程でフードロスが生じるかをわかりすく理解できるようにしている。また、フードロス削減を啓蒙するためのポスターや、フードロスに関するクイズ集、フードロス削減を実践するためのエクササイズなども提供している。
Too Good To Goは、単なるフードロス削減アプリの開発企業というよりも、「世界中のフードロスを削減すること」というスローガンを本気で実践している企業であるというべきだろう。実際、Too Good To Goは、社会や公益のための事業を行っている企業に発行される国際的な民間認証制度であるBコーポレーションの認証を取得している。
2023年現在、アメリカとカナダを含む世界17カ国で事業を展開中のToo Good To Goだが、今後も他国においても事業を展開してゆくだろう。なお、本記事執筆時点では、Too Good To Goが日本市場へ進出するという情報は入手できていない。
関連サイト
https://toogoodtogo.com/
https://www.wfp.org/stories/5-facts-about-food-waste-and-hunger