コロナ禍で多くの飲食店が苦戦を強いられた2020年。テイクアウトやデリバリーに挑戦し、営業時間の短縮などによって減少した売り上げを補うのに四苦八苦した店舗も多いのではないでしょうか?
そのような中、早期に売り上げ回復をする手段として、Uber EATSなどに複数店舗を出店する手法が話題となっています。
ここでは、実際にバーチャルレストランをオープンした店舗の例をあげながら、売り上げの動きや、注意すべき点を探っていきます。

 

バーチャルレストランは売り上げアップの手軽な手段

2019年から東京中心に増加していたUber EATS。2020年は春先から新型コロナウイルスが広まったこともあり、加速的に参加店舗数が増えています。一時期はUber EATSに申請を出しても、出店まで3~4ヶ月かかるほどでした。

デリバリー代行業者も増えており、以前からあった出前館はLINEと組んで新たな取り組みをはじめていますし、DiDi FoodやMenu、FOOD NEKO、テイクアウトに限ったサービスでは、クリックディッシュやPayPayピックアウトなどが新顔といったところでしょうか。

それでもなお、利用者が多いのはUber EATS。地域によるかと思いますが、東京の都心部などでは、走っている自転車の数を見れば、Uber EATS利用者がいかに多いかがわかります。

しかし、店舗ごとに見てみると、出店する店舗の総数が増えたことで、「思ったほど売れない」と感じているところも多いようです。

そこでいくつかの店舗がはじめているのが複数店舗出店。2店舗目をバーチャル店舗として出店する動きです。1店舗では月に10万円しか売れなくても、単純計算で2店舗なら20万円。4店舗なら40万円の売り上げが確保できます。

デリバリー代行業者側が店舗数を増やそうと躍起になっている背景もあり、出店時に費用がかからないのが基本。タブレット端末のレンタルから、写真撮影まですべて無料で行なってくれるわけですから、チャレンジのひとつとして比較的簡単に取り組める施策だと言えるでしょう。

(本来は多くの代行業者への出店は有料です。今は「コロナサポート」などの名で無料で出店できますが、これからは徐々に費用は必要になると予測されます。実際、Uber EATSなどでは出店自体は無料でできますが、タブレットをレンタルする場合は有料にシフトをはじめました。)

飲食店はバーチャルレストランをはじめるとは?

飲食店がバーチャルレストランをはじめるとは、どのようなイメージでしょうか?

客席を作らず、デリバリー専門店として最初から多店舗出店しているところは以前からありました。すべてがバーチャルレストラン。つまり、仮想専門店の集合体です。これが転じて、飲食店が複数店舗を持つケースが増えてきたわけです。

たとえば居酒屋の場合、店内で人気があるメニューがあっても、デリバリーではあまり注文されないケースが多くありました。外に食べに行くときと、自宅で飲むのではニーズが違うからです。そのような店舗がデリバリーに出店する場合、ニーズのあるメニューに特化して出店するのが成功セオリーのひとつでした。複数店舗のする場合は、さらにメニューを細分化し、ジャンルごとに専門店化。複数店舗に分けるというのが最近取り組まれている方法です。

アジアン料理と大枠で取り扱っていた店舗が、アジア料理の店とアジアンカレーの店というように分けるイメージです。

また、店舗で提供していないメニューをデリバリー専門に提供しているところや、デリバリー専門の副業加盟店としてビジネス展開しているところも出てきており、必ずしも店舗内のメニューで展開するだけではなくなってきています。


お客にとっても専門店化はメリットが多い

利用客にとっても、専門店化することのメリットはあります。目的の商品を見つけやすということです。そして店舗にとっては、お客から見つけてもらいやすいと言うメリットと直結しています。

たとえばUber EATSでとんかつを頼みたいと思ったとき、検索画面に「とんかつ」と入れると、とんかつ専門店がずらりと並びます。メニューの中の一つにとんかつを扱っている店舗はまず出てきません。どんなに人気商品であってもです。これはお客が要望のメニューを見つけやすいための機能ですが、これを活用すると自店が上位に表示されることになります。

この専門店化は、飲食店では最近になってはじめたところが多いのですが、インターネットショップではかなり以前から行われていました。

実店舗であれば、バッグも財布も名刺入れも、何でも揃えているほうが便利ですが、ネットショップでは、専門店の方がイメージの商品にたどり着きやすく重宝されます。そのためバッグ専門店、財布専門店、名刺入れ専門店と分けて出店するわけです。中には店舗名まで変えてしまっていることもあるほど。これと同じことが飲食店でも行われるようになったということです。

複数店舗出店による売り上げの変化

では実際に、売り上げがどのように変化するのかを見ていきましょう。

ここで紹介するのは新宿にある飲食店です。昨年12月から Uber に出店をはじめ、9月に2店舗目と3店舗目をオープン。その後、12月になって新たに1店舗をオープンさせています。

では見ていきましょう。

2020年2月2020年11月2020年12月
(20日までの実績。カッコ内は1ヶ月の予測売上)
1店舗目159,550円122,150円90,200円(135,300円)
2店舗目136,300円96,150円(144,225円)
3店舗目106,850円89,400円(134,100円)
4店舗目72,300円(108,450円)
合計159,550円365,300円348,050円(522,075円)

*12月の予測売上については、20日までの売上を1.5倍にしています。

店舗が増える度に着実に売り上げが伸びています。

1店舗目の売り上げが2月よりも11月の方が落ち込んでいるのは、多店舗化によりメニュー数を減らしたことに一因があるのかもしれません。しかし全体を見ると、多店舗化により好ましい結果になっています。

ちなみに、2店舗目と3店舗目を同時に出店したものの、そのうちの1店舗はまったく売上が伸びず、「有料で出店していたら後悔していた」とのこと。しかし、キャンペーンなどを活用しながら徐々に売り上げを伸ばし、現在では、どこも同じくらいの売り上げを確保しています。

世間が批判的という意見は本当か?

一方、今年の秋頃から、「バーチャルレストランやゴースト店舗は信用ならない」という意見がちらほらと聞かれるようになりました。WEB新聞や雑誌などで取り上げられたこともあり、複数店舗の出店に踏み切れない店舗があるかもしれませんので、分析してみます。

このとき紹介された不満の内容としては、大きく2つに区分できます。
「作業場のようなところでデリバリー店を何店舗も運営していて、衛生面が心配だ」
「専門店だと思ったのにそうではなかった。騙された気分だ」

このうち、1つめに関しては、実際に飲食店をしているのであてはまらないでしょう。記事の中には、「マンションの一室で商売をしている」などと書かれているものもありましたが、これは何かの勘違い。実際に出店するには保健所が発行した営業許可書が必要ですし、これをマンションの一室で取得しようとするとかなり大がかりな工事が必要で、現実的ではないからです。

飲食店が該当するとすれば、2つめの不満となります。
「飲食店なのだから、おいしいものを出していればよい」と主張したいところですが、実際にはそうではありません。「専門店」とすることで「品質がよい」と認識させることは、景品表示法に違反する可能性があるからです。しかし、逆の言い方をすれば、専門店だと名乗らなければ問題はありません。

飲食店は客商売ですので、世間の評価に過敏になる傾向があります。ですが今回、複数出店している店舗の店長数名に聞いてみましたが、あまり気にしていないという印象でした。その理由は、「店舗に来店しているお客とUberを利用するお客は同一ではない」こと。そのため、来店しているお客が、Uber EATSに複数店出店していることを知っても、「影響はない」と言っていました。逆に、「がんばってるね。応援しているよ」と好意的な声かけをしてもらえることもあるそうです。

複数店舗出店時に注意すべきポイント

ここからは、実際に複数店舗を出店するにあたり、注意すべき点をあげていきます。

1.すべてのデリバリー代行業者が複数店舗出店を認めているわけではない

Uber EATSでは、2店舗目以降の出店も歓迎していますが、出前館などは基本的に認めていません(2020年9月現在)。これは業者の判断によるところですので、無理強いしても意味がありません。複数店舗を出店したい人は、それが認められている業者を探すようにしてください。

2.ライダーが迷わず商品を受け取れる工夫が必要

複数店舗を運営する場合、目立つ看板がないわけですから、ライダーが店舗を見つけられない可能性があります。それでは商品を届けるのに時間がかかってしまい、温かい商品が冷めたり、冷たい商品が溶けてしまったりするため、店頭にしっかりと表示しておくことが重要です。

中には、複数店舗出店していることをお客に知られたくないという店舗もありますが、前述の通り、Uber EATSでオーダーするお客と実店舗のお客はリンクしていないことが多いので、しっかりと割り切る必要があります。

3.オペレーションが混乱しないメニューの選択

複数店舗出店で一番取り組みやすいのは、既存商品の中のメニューをピックアップし、味のバリエーションを増やして専門店化する手法です。これであれば新しい商品を開発する手間は最小に抑えられつつ、美味しい商品を提供できます。また、厨房設備はそのまま使用できるため、オペレーション上の混乱も起きません。複数店舗になったせいで、イートインのお客にまで影響が出ることがないよう、メニュー対策は慎重に行ってください。

4.スペースの確保

複数店舗を運営する場合、食材・包材のストックスペースが必要になりますし、作業スペースも必要になります。混乱することがないよう、場所はしっかりと確保するようにします。目標はあくまでも売り上げの確保。そのために混乱しまっては意味がありません。

まとめ

デリバリーが一般化した今、その発展形として複数店舗を運営して売り上げを確保する動きが目立ってきました。デリバリーは、売り上げアップのためにできる工夫が少なく、1店舗の売り上げアップを狙うよりも、2店舗目、3店舗目をオープンさせる方が簡単かもしれません。

今はコロナ禍であり、多くのデリバリー業者が出店料無料で出店できるようになっています。この機会を生かし、新しい店舗の出店を目指してみてはいかがでしょうか。

 

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