野球やサッカーに代表される団体スポーツでは、監督が変わったことでチームの成績が驚くほど上がったという例をよく聞きます。これと同じことが、飲食店でも起こっています。
これは、スタッフがほとんど変わらない状況でも起こっている現象。その理由は何で、どのようなきっかけで店舗が劇的に変わるのか?
今回は3つの事例をあげながら、店舗を改善する方法について探って行きます。
売り上げが爆発的に上がった事例2つ
まず、あることを変えたら、売り上げが上がり、損益も上がったという例を2つ紹介します。
チェーン本部の名誉にかけ、売り上げ160%達成
ある焼き鳥専門店チェーンの例です。
ここで紹介する店舗はのれん分けをした店舗でしたが、実質的にはフランチャイズ契約と同様だとイメージしてください。この店舗は売上不振に喘ぎ、オープンから1年を過ぎると、オーナーが「辞めたい」と言い出しました。
ただし場所はよく、本部としては、「オーナーのやり方に問題があることが主な理由であり、それを改善すれば売り上げはあがる」と感じ、オーナーにも伝えていました。しかし、オーナー側は対応せず、「本部の立地選定が悪かった」と言いきっていたそうです。
さらに、事情を知らない加盟店仲間に、「本部に欺された」と言いふらしだします。
そこで、そのオーナーには辞めてもらった上で、本部の実力を示すために、直営店として再出発することを決断します。
新たな店長として、ベテランの人材を配属。「店舗を変えたから売上が上がったと言われたのでは意味がない」と、店の内外装には手を加えませんでした。さらに、アルバイトスタッフもそのまま。足りない人材を増やした程度だったと言います。
そして、直営店となった翌月には、売り上げは30%アップ。その後も順調に高い売上を上げ続け、1年経った時点では、前年対比160%の売り上げを記録するまでになりました。
スタッフ教育に力を入れ、売り上げ対前年比130%
もう1点は、居酒屋の例です。
その居酒屋は十数店舗あり、多くの店は店長だけが同じ店舗で勤務し、副店長以下、正社員は、配属先が1年ほどで変わるシステムにしていました。
ある時、1店舗で売り上げが持ち逃げされる事件が起こります。調べてみると、持ち逃げしたのは社員とアルバイトが結託していたことが判明。最終的には警察が介入します。
動揺したスタッフを鎮めようと本社上層部が店舗に行ってみると、アルバイトの意識が低いこと極まりなく、店長も問題意識を持っていないことが分かりました。
あまりにも悲惨な状態だと認識した本社は、店長の交代を決断。新しい店長は、アルバイト全員と個別ミーティングをした上で、スタッフ教育に本腰を入れ、再建を図ります。
この店舗は、「厳しくなるのは嫌だ」と言ってやめるスタッフが半分ほど出るのですが、意識の高いスタッフだけが残ることとなり、売上は対前年比で130%。さらに人件費と原価率を大幅に落とすことに成功し、営業損益を高めることに成功しています。
店舗を生まれ変えさせた4つの仕掛け
さて、ここで紹介した2つの店舗は、改装や看板の付け替えなど大掛かりな外的変化をさせることなく、大幅に売上を向上させ、営業損益を高めることに成功しています。
この時、店舗に何が起こっていたのでしょうか?
それは店長、つまりリーダーが変わったということです。
なぜリーダーが変わっただけで、店舗自体が大きくかわったのか?
2つの店舗が行ったことを紹介していきます。
リーダーを明確に伝える
2つの店舗に共通していたこと。それは、「私が店長です。副店長は誰々です」と、早い段階で、リーダーを明確に伝えていたことでした。
飲食店に限ったことではありませんが、店長と言う役職の人が来ると、それだけで店長として一目置かれると思っている人も少なくありません。
しかし、飲食店にはアルバイト歴が長い人がいたり、勝手なルールで動くことが自分に許された特権だと思っているスタッフがいたりします。そういった人は自分こそリーダーだと考えているので、「この店舗のリーダーは私です」と明確に伝える効果は意外に高いのです。
また、焼き鳥専門店の例では、副店長という役職の人を配属しています。その人は、入社2年目の社員。彼女にとって以前の店は新卒で入った店でもあり、リーダー格の男性フリーターにいろいろと嫌味を言われ、てこずっていたそうです。それでも不必要な妥協をしなかった負けん気の強さから、次期店長を任せたいと考えての配属でした。
そんな彼女ですが、「副店長だ」と店長が明確に宣言したことで、彼女自身が自覚を持てたことに加え、「彼女の言うことは店長の裏付けがあるものだ」とアルバイトに無意識に感じさせることができ、指示を出しやすくなったそうです。
方向性を明らかにする
どちらの店舗も、ベテランで実績のある人が店長として就任しています。そんな2人が共通して行ったことがあります。それは、方向性を明らかにするということ。「私はこんな店を作っていきたい」と明確に打ち出したそうです。
これについては、居酒屋の店長が興味深い話をしていました。
「10年以上前であれば、『俺はこういう店を作りたいからみんなついてこい』という宣言をしたでしょう。それはアルバイトの中に向上心が強い人がたくさんいたし、レベルが上がれば時給で還元できたからです。
でも今は、最低賃金が上がったために、時給は多少上げることができる程度で、それほど差はありません。意識面でも、『アルバイトはアルバイト』と割り切っている人が増え、アルバイトマネージャーになって負担が増えるなら、そうなる前に勤務先を変えてしまおうという人が増えています。
だから、『私はこういうお店を作りたい。みんな、知っておいてね』といった感じで、強制感のない宣言にしました」
結果的には、「ウケがよかった」そうです。
アルバイト教育を徹底する
どちらの店舗も、スタッフのレベルは決して高いとは言えない状態でした。お客が来ても、「いらっしゃいませ」と言わない。言っても呟いている程度。お客に呼ばれても反応しない。商品についてもあまり美味しいと言えず、注文が入ってから食材が悪くなっていないかを確認していたようです。
そんな状況を変えるには、アルバイト教育を徹底するしかありません。ここでも重要だったことも、2人の店長は共通していました。
それは、できるだけアルバイトがやってきたことを否定しないこと。たとえ間違った行動をしていたとしても、それは店舗側、または前の店長が正しいことを教えていないのが原因だからです。教えられていないことができるはずはありません。
具体的には、「これからはこうしたい」と変化を求めること。その際、「これまでのあなたのやってきたことは間違っている」とは言わないように努めたそうです。
また、焼き鳥専門店の店長が言っていたのは、「アルバイトはアルバイトとして気軽に働いている層が多く、こだわりを持って働いている人は少ないため、変更を伝えれば素直に受け入れる人が多かった」そうです。
ひと昔前の店舗では、アルバイトでも強い思い入れを持って働く人が多くいました。そうなると、変更したいと伝えた時に、「その変更は受け入れられない」「 ずっとこのやり方でやってきた」と対立を生むことになります。
世の中には、思い入れがないアルバイトを残念に思う店長も多いですが、よい面もあるようです。
ダメなことはダメとしっかり言う
店舗のレベルが高くないところに共通しているのは、あらゆることに、なあなあが充満していることです。従業員が楽をすることが優先され、お客さんのことを考えていないのです。これでは、売り上げが落ちるのも当然です。
例えば居酒屋の場合、ちょっとぐらいの遅刻は当たり前。それが重なり、オーブン時間が遅れることが何度もあったそうです。また仕込みも十分に行われておらず、商品切れも度々起こります。誰も在庫を把握しておらず、注文が入ってから食材を探し、10分も経ってから、「今日できないって言ってきて」と言ったこともしょっちゅう。
この対策として、絶対にダメなことはダメだと明確に伝えることが大切だと言います。前段で話した「過去を否定しない」という点と合致しない部分もあると感じるかもしれませんが、最も重要なのはメリハリをつけること。この点は勘違いしてはなりません。
チームワークを強力にする挨拶
飲食店ではよく言われることですが、関係性が良好な店舗では当然のように行われていて、そうでない店舗には欠けていること。それは、挨拶です。
実際、前例の2店舗では、お客に対する「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」などの言葉はもちろん、従業員間の「お疲れ様です」などと言った挨拶もなかったようです。
そこで店長たちは、「挨拶は必ずする」ことを徹底します。
居酒屋の店長はベテランアルバイトに言われたそうです。「外国人が多く、挨拶の言葉がわからない」と。店長はただの反抗だと察しますが、気付かないふりをしつつ、「そうなのか。それじゃあ 日本の挨拶を覚えてもらおう」と言い、その場で挨拶をしない外国人を集めて、「日本での挨拶はこう言うんだよ」と教えたそうです。
こうなると、挨拶をしないのはダメなんだという雰囲気になってきます。最初は恥ずかしそうに小声で挨拶をしていたアルバイトも、自然にできるようになってきたそうです。
スタッフ間の挨拶が一般的となると、一体感が生まれてきます。さらに、今から仕事をするんだ、という 切り替えにもなり、「好循環しかうまない」と語ってくれました。
これも居酒屋の店長が話してくれたのですが、スタッフ間の挨拶に価値を見いだせない人は意外に多く、「挨拶をしたからと言って円満な人間関係が築けるとは考えられない。納得できる理由を説明してくれ」と言われたそうです。
この時の店長の回答が秀逸です。
「それじゃあ、1ヶ月だけ実際にやってくれ。それで効果がなければ、俺が間違ってたということだ。 挨拶はしなくてもよいと全員に撤回して謝罪する」と言い切ったそうです。
もちろん、1ヶ月後には雰囲気が変わり、アルバイトは何も言わなくなったそうです。
リーダは入れ替わらなくても問題ない
ここまで読み、言いたいことは理解したが、店長を替える人材がいないと言う方もいるでしょう。しかし、店長をすげ変える以外にも方法はあります。それは店長自身が変わるということです。
ここでも実例をあげます。
2店舗のレストランを経営していたオーナーは、店長などをおかず、両方の店を自分で見ていました。 1店舗目が売上好調だったため、わずか2年で2店舗目を出していました。ですが、目が行き届かなくなり、2店舗目は好立地に出店したにもかかわらず、思ったように売り上げが伸びず、そのうちに1店舗目も売り上げが落ちてきました。
焦ったオーナーは精神的に余裕がなくなり、常にスタッフを叱り飛ばすようになります。だんだんとエスカレートするようになり、キッチンでの怒鳴り声がホールでも聞こえるようになったそうです。これでは、お客によい環境を提供できているとは言えません。
なぜこのようなことになったかと言えば、オーナー自身が「自分がいない時でも自分の力が及ぶように」と恐怖で支配しようと考えていたからでした。もちろん、そのときはそんな自覚はなかったそうですが・・・。
しかし、あるとき冷静に見てみると、アルバイトは常に戦々恐々。一方、オーナーがいない方の店舗の人はダラダラ。「間違ったことをしていたのでは?」と感じたそうです。
そこでオーナーは考えます。自分が作りたい店はどのようなもので、そのためには何が不足しているのか。以前はどうだったか。そして行きついた答えは、自分自身の意識改革でした。
その後は怒鳴って支配するのではなく、みなに協力を求めながら、よい店を作っていこうとします。協力要請型のリーダーになったわけです。オーナーは、態度を変えることでアルバイトに舐められることまで覚悟したそうですが、アルバイトの多くは協力的で、時間をかけずによい関係を築けたそうです。
まとめ
今回は、「売り上げ倍増も夢じゃない!○○を変えて店を変える」というテーマで進めてきました。「〇〇」に入るのはリーダー、または店長です。
団体スポーツと似たところのある飲食店は、リーダー次第で変化を起こせます。リーダーをすげ変えることは得策ですが、リーダー自身がかわることで変化を起こすことも可能です。人材には限りがあります。それであるなら、リーダーの意識を変えるところからはじめるのも賢い手法ではないでしょうか。