飲食店を開業するには資金がかかります。特に新規で飲食店を開業する場合、店舗物件取得費、内外装工事費、什器や設備の取得費等々の、それなりのまとまった資金が必要です。一般的には開業資金を金融機関からの借入で賄うケースが多いですが、その際に求められるのが「創業計画書」。特に初めて飲食店を開業するケースにおいては、どのような「創業計画書」を用意すれば良いのでしょうか。現場に詳しいコンサルタントが解説します。
「相応の費用」がかかる飲食店の開業
どのような形態やスキームで開業するにせよ、飲食店の開業には「相応の費用」がかかります。ゼロベースで飲食店を立ち上げるケースでは、店舗物件取得費をベースに、内外装工事費や各種の設備投資費などが必要になります。「居抜き物件」を活用するケースにおいても、同様に店舗物件取得費用、造作譲渡料、店舗改修費などが必要になります。またゴーストキッチンを間借りして飲食店を開業するケースでも、加盟料や保証金などの初期費用や、什器や設備などの取得費、内外装工事費などが必要になります。
開業する飲食店の規模やタイプ、または運営形態によって金額に違いが出ますが、共通して言えるのは、飲食店は開業にまとまった資金が必要な業種であり、店舗や設備などへの投資や運転資金などに「相応の費用」の負担が求められるということです。そして多くのケースにおいて、「相応の費用」を賄うために借入などで資金調達をすることが求められます。
飲食店の開業に必要な資金の目安
飲食店の形態によって資金は大きく変動します。
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居抜き物件活用:物件取得費+造作譲渡料+店舗改修費
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新築・スケルトン物件:内外装工事費+設備投資費
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ゴーストキッチン開業:加盟料・保証金・最低限の設備費
いずれにしても「飲食店の開業には相応の費用がかかる」という点は共通しています。そのため融資を受ける場合には、資金調達計画と創業計画書の整備が不可欠です。
開業資金をどうやって調達する?
では、飲食店を開業するために必要な「相応の費用」を、どうやって調達すればいいのでしょうか。ここでは例として、新規で飲食店を開業するための開業資金1000万円を調達するケースを考えてみます。開業資金には店舗物件取得費300万円、内外装工事費200万円、什器・設備購入費200万円などとともに、仕入れや人件費などの運転資金300万円程度を含むものとします。
もっともシンプルな調達方法は100%自己資金です。例えば長くサラリーマンを勤めていて、早期退職制度を利用して相応の退職金が手に入ったといったケースなどが考えられます。しかし、これは借入ゼロで開業できるレアケースであり、一般的なスキームであるとは言えないでしょう。
通常は、自己資金以外の多くの部分を金融機関からの借入で調達するケースがほとんどです。しかし、特に初めて飲食店を開業すると言った場合は、金融機関からの借入も相応にハードルが高いのも事実です。そこで新規の借入の場合は、金融機関の中でも公的金融機関の日本政策金融公庫を利用するのが現実的です。実際に多くの飲食店が、日本政策金融公庫から資金を借入れて開業しています。
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」はその名の通り、新規開業・事業のスタートアップに特化した国の制度融資です。飲食業を含む新規開業に利用でき、特に「女性、若者、シニアで創業する人」「廃業歴等があり、創業に再チャレンジする人」「中小企業会計を適用して創業する人」のいずれかに該当する人は通常よりも有利な条件で利用できます。新規開業を後押ししたい国の政策から生まれた制度融資であり、実際に多くの新規開業者が利用しています。
「新規開業・スタートアップ支援資金」の利用に際しては、利用者が「新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方」であることが求められます。事業の実現可能性が求められているわけですが、新規で開業する人においては特にこの点に留意し、事業の実現可能性を合理的・現実的に訴える必要があります。

また、「新規開業・スタートアップ支援資金」の利用に際しては、利用者に「相応の自己資金の用意」が求められます。「相応の自己資金の用意」が具体的にどの程度なのかは利用者それぞれの信用状況、実績、担保や保証人の有無などにより変化しますが、一般的には必要資金全体の二割から三分の一程度の自己資金の負担が求められるようです。上述のケースで考えるに、必要な資金1000万円のうち200万円から330万円程度の自己資金を用意し、残り670万円から800万円程度を政策金融公庫から借入れるかたちです。さらに具体的には、当座の運転資金300万円を自己資金で賄い、残りの700万円を設備投資名目の長期で借入れるイメージです。
なお、開業に必要な資金をすべて政策金融公庫から借入れることは、現実的にはほぼ不可能であると考えておいた方が良いでしょう。
公式参考リンク:
「創業計画書」作成のポイント
「新規開業・スタートアップ支援資金」の利用においては、特に「事業の実現可能性」が厳しく検証されます。「事業の実現可能性」を検証するために、政策公庫は申込時に「創業計画書」の提出を求めています。「創業計画書」のフォーマットは、政策金融公庫のホームページからダウンロード可能です。Excel版とPDF版が用意されており、Excel版を使えば直接数字や情報の入力が可能です。
「創業計画書」に記入する情報は多くありますが、特に重要なのが「事業の見通し(月平均)」です。「売上高」「売上原価」「(人件費や家賃などの)経費」「支払利息」「利益」などについて、可能な限り現実的なエビデンスとともに入力する必要があります。お金を貸す側の政策金融公庫としては、利用者が本当に返済できるのか、そのための財源を確保できるのかについて重点的にチェックしてきます。そうした疑問や懸念を払しょくできるような数字を、エビデンスをもって示す必要があります。
創業計画書に盛り込むべき項目
創業計画書は単なる申請書類ではなく、「飲食店を軌道に乗せるための経営戦略書」と位置付けるべきです。特に飲食店の場合、以下の点を丁寧に記載することが重要です。
1. 事業の見通し(月平均)
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売上高(席数・客単価・回転率から算出)
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売上原価(食材費・仕入れコスト)
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経費(人件費・家賃・光熱費など)
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利益と返済可能性
2. 店舗の立地条件
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商圏分析(人通り、競合店数、駅からの距離)
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ターゲット顧客層(ランチ需要、テイクアウト需要など)
3. コンセプトと差別化要素
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他店との差別化(メニュー、価格帯、サービス形態)
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想定顧客のニーズとの一致
4. 自己資金の割合
一般的には開業資金の20〜30%の自己資金が求められます。自己資金の根拠や蓄積過程も説明できると信頼度が高まります。
「創業計画書」作成に際しては事前リサーチを
では、政策金融公庫が納得できるような数字を担保するためのエビデンスを、どのように入手すれば良いのでしょうか。特に、初めて飲食店を開業するケースにおいては、どうすべきでしょうか。それは、創業計画書作成前に事前リサーチを行い、審査担当者がある程度合理的に数字を類推できるような各種のデータを提示することです。
例えば、開業する飲食店に近いロールモデルがある場合、ロールモデルの関係者またはロールモデルに近い業態の店舗関係者などにインタビューして情報を入手することなどが考えられます。最近は専門家のアドバイスや知見などを入手できるサービズ「ナレッジシェアプラットフォーム」(またはスポットコンサル)が台頭しており、そうしたプラットフォームを利用するのも手です。(例:ビザスクlite)
また、エンドユーザーを対象にしたオンライン調査やパネル調査などを行ってシミュレーションのための数字や情報を入手することも有効です。さらに、出店場所の商圏調査や交通量調査、近隣競合店分析といった基本的な調査を行うべきなのは言うまでもありません。
各種のエビデンスによって担保された数字が盛り込まれた創業計画書は、何の根拠もなく単なる思い付きや想像で作成された創業計画書よりも説得力があることは明らかです。政策金融公庫を納得させるという目的のためだけでなく、実際に開業して事業を軌道に乗せるための「本当の事業計画書」を手にするためにも、入念な事前リサーチを行うべきです。
(参考サイト)
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_241127_1.pdf
https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/kaigyou00_190507b.pdf
大学卒業後渡米し、ロサンゼルスで飲食ビジネスを立ち上げる。帰国後複数の企業の起業や経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。新規事業立上げ、マーケティング、アメリカ市場進出のコンサルティングを行っている。米国のベストセラー『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
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