飲食店にとって「お酒の売上」は収益の柱のひとつです。とくにディナー営業や居酒屋業態では、フードよりもドリンクのほうが粗利率が高く、酒類の提供は利益確保に欠かせない存在といってよいでしょう。
しかし近年、「お酒を飲まない若者」が増加しており、この流れは飲食店の利益構造に大きな影響を及ぼしはじめています。
ここでは、若い世代のアルコール離れの実態や背景を探るとともに、飲食店経営者としてどのような戦略をとることが必要かなど、実践的な対策を考えていきます。
若者のアルコール離れは本当か?
まずは若い世代の飲酒習慣やアルコールの考え方を見ていきましょう。
統計データから見る飲酒率の変化
「若者のアルコール離れ」を肌感覚で感じている人も多いでしょう。これは、単なる印象論ではありません。まずは、厚生労働省が毎年実施している「国民健康・栄養調査」の中から、飲酒習慣を年代別に見てみましょう。

これは「飲酒習慣者(週3回以上、かつ1日1合以上の飲酒者)」の割合をグラフ化したものですが、若い世代ほど少なくなっています。中でも20代が圧倒的に少ないのが衝撃です。
また、20代男性の飲酒習慣者は1996年には約50%、30代男性でも約40%もあったのですから、まさに激減です。これは、飲酒行動の社会的・文化的背景が根本的に変化していることを意味します。
また、マーケティングリサーチ企業である株式会社インテージの調査(2023年)でも、若年層の非飲酒傾向が浮き彫りになっています。2013年から2023年の10年間で、「自宅でお酒を飲まない20代」は7.1ポイント増加し、2023年時点で35.2%に達しています。また、外食シーンでも「飲まない」と答える割合は若年層ほど高く、コロナ禍後の回復傾向が見られないまま停滞しています。
このように、数字の上でもお酒を飲まない若者が増えているという傾向は明らかです。
Z世代・ミレニアル世代の価値観とは
現在の20代~30代、いわゆる「Z世代」「ミレニアル世代」は、お酒に対する価値観が上の世代と大きく違っています。彼らにとって「飲まないこと」は、健康志向やライフスタイルの一環として自然な選択肢。
「酔わないほうが合理的」「お酒は健康に悪影響」「お金がもったいない」といった理由に加え、「(調子に乗ってしまい)SNSに悪影響を残したくない」「運転や翌日のパフォーマンスを優先したい」といった声も多く聞かれます。
中には、「お酒は好きだけど、少しでも酔うことで気分が大きくなってしまい、過剰飲酒につながるから最初から飲まない」という人もいます。
「飲みニケーション」文化の終焉
上記の感覚に加え、職場の人と飲みに行く機会も減っています。かつては職場の人間関係を深めるために「飲みに行く」ことが当たり前でした。「飲ミニケーション」などと言われていた時代もありますが、今はその文化が急速に薄れています。
上司と飲むより自分の時間を大切にしたいと考える若者が増えました。中には、「残業代もでないのに会社や上司に拘束されたくない」とまでいう人もいます。
また、上司が飲み会に誘うときでも、強制感がでると拒否されるからと、下手にでている姿も見かけます。そんなことを繰り返しているうちに「もう誘うのはやめよう」と考える人が増え、必然的に飲む機会が減り、たまの飲み会も小規模になっています。
若者にとっては「お酒を飲まない自由」は、もはや権利のようなもの。それは社会の変化として受け入れるべきなのは分かっていても、飲食店としてはたまったものではありません。
ノンアルが増えたことによる飲食店への影響
では、ノンアルコール飲料(以下ノンアル)を求める感覚や習慣の違いが、飲食店に与える影響を見ていきましょう。
ドリンク売上の減少と粗利への影響
居酒屋やバルといった業態では、ドリンクで利益を出し、フードは客寄せ商品として高原価・低価格に設定することが定番でした。たとえお酒とソフトドリンクの差額が少額であっても、注文数は違います。ビールやチューハイなら5杯以上飲めるという人は珍しくありませんが、ウーロン茶やコーラを同じだけ飲む人はなかなか見かけません。
また、空気を読む日本人としては、仲間が飲んでいるなら気軽に注文できるお酒も、飲まない人が多数になると頼みにくいと考える人もでてきます。
こうしてお酒の注文数が減ると、全体の粗利率が低下し、利益確保が難しくなります。
お酒を飲まない層の客離れ
これまでのメニュー設計や接客スタイルは、あくまで「飲む人」を想定したものであり、「飲まない若者」への工夫はしていなかったという店舗が多くありました。ドリンクメニューを見ても、お酒はたくさんの種類があっても、ソフトドリンクは端っこにひっそりとなっているものをよく見かけます。
このような状態では、ノンアルを飲みたい人にとってはまったく魅力的ではありません。最初から来店候補として認めていないというメッセージにすらなっている店舗もあるほどです。
こうしてノンアル派が増えてくると楽しめない人が増え、「楽しめない人がいるからあの店は避けよう)となり、流行らなくなります。
営業時間や客単価の見直しの必要性
飲酒を中心にした夜型営業スタイルは、若者のライフスタイルの変化とミスマッチになりつつあります。深夜営業のニーズは減り、酔っぱらう人が増える飲み放題プランについては敬遠する人もでてきています。
すべての店舗が飲み放題プランをやめるべきとは言いませんが、お客を観察し、ニーズの変化を敏感にキャッチする必要がありそうです。
若者は何を求めているのか?
では、ノンアル派の若者は飲食店に対し、何を求めているのでしょうか。
ノンアル志向と健康志向
アルコールを飲まない理由に、健康や美容、睡眠などをあげる人がいます。つまり、自分の体調を大切にする若者が増えているということです。故に「酔わない」「太らない」「翌日に響かない」ノンアルドリンクへの関心が高まっているのです。
逆に言えば、健康志向のノンアルドリンクがあれば魅力的だということ。例えば、ノンアルの梅酒は、ただの梅ソーダではなく、きちんと梅酒の味がします。気の合う仲間と楽しい時間を過ごすのは特別な時間であることに変わりはありません。そこに普段とは違うドリンクがあればうれしいのです。そこを正しく理解することで、方向性は見えてくると思います。
SNS映え・体験重視型の消費傾向
Z世代は「何を飲んだか」より「どんな体験だったか」を重視する傾向があります。SNSでシェアしたくなるようなメニューや空間づくりは、彼らにとって大きな来店動機になります。
それにはオリジナル商品や珍しい商品が欠かせません。
また、その体験をSNSで広めたいとも考えているですが、残念な写真しか撮れないのでは魅力も半減します。写真はライティングで随分と違って見えるもの。若い人の生の声を聞きながら、店内の明るさやライトの場所などを変えるのもよいでしょう。
居心地のよさと過ごし方の自由度
アルコールを飲まない代わりに、会話や時間そのものを楽しむスタイルが浸透しています。長居できる空間や充電コンセント、Wi-Fi、静かすぎずうるさすぎないBGMなど、飲まなくても満足できる「場」をつくることにエネルギーを注ぐのもよいでしょう。
対策①:ノンアルメニューの拡充
ここから、ノンアル派が魅力的だと感じるドリンクはどのようなものかを具体的に考えて行きます。
売れるノンアルドリンクの特徴とは
ノンアルドリンクは、アルコールがなければよいというものではありませんし、それでは売り上げアップにもつながりません。つまり、どこでも飲めるようなジュースやお茶では意味がないのです。
では、具体的にどのようなものを提供すればよいのでしょうか。それには、2つの方法があります。ひとつは、個性的なドリンクを出すこと。もうひとつは提供方法を工夫することです。
前者の例の代表はオリジナルのモクテル。モクテルとは、ノンアルコールカクテルの新しい呼び名とされているもので、英語の「Mock(似せた、真似た)」と「Cocktail(カクテル)」を組み合わせた造語です。イギリスが発祥とされ、現在では多くの国で親しまれています。新しい情報に詳しい人は知っている呼び方です。
ほかにも、コンブチャ(韓国発のドリンクで紅茶に酵母菌を加え発酵させた微炭酸飲料)や、ハーブやスパイスを使ったドリンク、クラフトコーラ、CBDドリンク(大麻から違法性のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)を取り除いた成分を含む飲料)などがあります。
もうひとつの提供方法の工夫は、ジンジャエールにたくさんのカットレモンを入れたり、フローズンフルーツを個性的なシロップと炭酸で割るなど、今ある素材を工夫して高価格帯商品に変えること。オシャレなグラスを使用すれば、素材はシンプルでも「大人の楽しみ」としての演出できます。
他にも、「機能性」や「ストーリー性」のあるドリンクも人気です。仕入れ先を工夫することで、他店との差別化も図れます。
対策②:新しい客単価アップの工夫
アルコールならお代わりが期待できますが、ノンアルコール飲料は1杯か2杯で満足してしまいます。それでも利益を確保するためにはどうすればよいのでしょうか。ドリンクの価格を上げたのでは、たくさん飲む人が満足できなくなってしまいます。
そこで、フードで単価を上げることを考えます。量より質にこだわった料理、季節限定や地域食材を使ったオリジナルメニューなど、価格に納得感のある内容を考えます。
「おつまみ」から「食事」へのシフト
「ちょい飲み」「一杯だけ」の客層が減ったなら、フルコースやセットメニューを導入し、「食事を楽しめる店」へと軸を移す戦略も有効です。ランチタイムの拡充や、カフェ需要との融合も選択肢となるでしょう。
アルコールではなく、ノンアルドリンクとの「ペアリング提案」をすることも有効です。これにより注文単価を上げつつ、特別な体験を提供できるからです。例えば「いちごのモクテル × チーズリゾット」など、五感に訴える構成が効果的です。
策③:若年層に響くプロモーションとブランディング
若年層にとって、「インスタに載せる価値があるか」は来店判断の一因です。SNSでの投稿・リール動画・ストーリーズで、メニュー開発の裏側や店主のこだわりを伝えることが「共感」のきっかけになります。
そのために、「ノンアル × 音楽」「ノンアル × スイーツ」など、飲まないことを前提としたイベントを企画すれば、ターゲット層の心をつかめます。夜カフェスタイルやワークショップ併設型営業も検討する価値があります。
何より大切なのは「飲まなくても歓迎される」「自分のスタイルで過ごせる」というメッセージを発信すること。たとえば、メニュー表の冒頭に「ノンアルの方も大歓迎」と明記するだけでも印象は大きく変わります。
今後の飲食店経営に求められる視点とは
これからは、「お酒に頼らない魅力」を持つ店づくりが重要となります。「お酒を出すこと」ではなく、「どんな時間と体験を提供するか」が競争力の源泉。お酒があってもなくても楽しめる店が、時代のニーズにマッチします。
そのためには、柔軟な変化対応力とマーケット理解が必要でしょう。
Z世代は変化が早く、好みも多様です。定期的にメニューを見直したり、SNSの反応を観察したりと、経営者にはマーケットセンスと柔軟な調整力が求められます。まずはさまざまな方向にアンテナを張ることが重要です。
もうひとつ忘れてはならないのは、未来の常連客をどう育てるかという観点です。
若者の中には「外食そのものが贅沢」と感じる層もいます。彼らにとっての初めての外食、久々の非日常体験である可能性もあります。一度来たお客をリピーター化する仕掛けと誠意が、未来の経営基盤となるのです。
変化する飲食業界のなかで、若年層の飲酒傾向の変化は大きなチャレンジであると同時に、新しい市場を切り開くチャンスでもあります。「お酒が主役」から「お客様の体験が主役」へ。時代に合った店舗経営を築いていってください。
LINE連携のモバイルオーダーなら「poscube」がおすすめ!
飲食店の運営にあたり、LINE連携でのリピーター獲得、インバウンド対策で多言語対応のモバイルオーダーの導入をご検討なら「poscube」。
また注文・会計・売上分析が一体化しており、通常メニューとモバイルオーダー用のメニューの管理もシンプルで簡単です。
導入後のサポート体制も整ってます、お気軽にお問い合わせください。
ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。
株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。 https://radasono.wixsite.com/portfolio


